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まず始めまして。

 ステルス機能を備えているであろうローブを身に纏い、両手と顔だけが宙に浮いて見える男が最初からそこにいたかのように深々と体をソファに沈めくつろいでいる。

 間違いなくあの時の男、無色の魔王だ。


「良かった、これでダメならどうするかなと思っていたところだ」

「初回が雑魚で二回目が実験相手じゃ悲しいだろ。ユグラの子孫さんよ、悪いがその男の仕入れた情報を消してもらえるか?」

「――音を遮断していたはずなのですがね、構いませんか陛下」

「ああ、正直忘れてしまいたい知識だ。未練はない」


 マリトの頭付近でぼんやりと光が浮かび上がる。

 しばらくするとマリトが一瞬ふらつくがすぐに持ち直す。


「……目の前にいるのは、そうか記憶を消したのか、意外ときついな」

「ですからそういったでしょうに」

「だが会うことができたようだな無色の魔王」

「どうやら自己紹介は不要なようだな。それにしても一国の王様がよくもまあ不確定な情報から無茶をしたもんだ、適当な罪人でも利用すりゃ良かったろうに」

「それで来てくれるのならば次からはそうしよう」

「いや、来ねぇけど。そいつがさらに知識を伝播しようとしたらヘッドショットでキメてサヨナラさ」


 何と言うか俗物感がヒシヒシと伝わってくるな、この魔王。


「さて、長文を喋るのは嫌いなんでな。オタクらが知りたいことをざっくり解説してやろう。まずはそこの『地球人』様が言った通り、俺はユグラが用意した抑止力だ。俺がいるから禁忌に手を出した野郎はユグラだけで済んでいるんだ、感謝しな」

「禁忌と言うと蘇生魔法か」

「それだけじゃねぇけどな、せっかくだから解説してやろう。禁忌魔法と言う枠組みを作ったのはユグラだ、禁忌となる理由は目を付けられるからだ」

「誰にだよ」

「そりゃ神様さ」


 えらい斜め上の存在が出てきた。


「正気か?」

「なんだ、魔王や勇者がいるってのに神様を信じないのか? まあユグラって奴が神様について調べる事を是としなかったから仕方ないっちゃぁ仕方ないな。禁忌魔法についてはどれくらい知っている?」

「蘇生させることで魔王を生み出す蘇生魔法、後は死霊術とかか?」

「死霊術は禁忌じゃねぇんだよなぁ、外道だから一緒に禁忌としてユグラ教がまとめちまったもんだ。ユグラが定義した禁忌魔法は三つ、蘇生魔法、次元魔法、時空魔法だ」


 知らない魔法が一気に増えた、しかし二つ目の次元魔法と言うのはなんとなく分かる。

 恐らくはこちらがこの世界に来た要因となった魔法なのだろう。


「蘇生魔法は魂に干渉し、次元魔法は異世界に干渉し、時空魔法は時間に干渉する。これらは神様の管轄だ、そりゃあ第三者が魔法で介入すれば目を付けられるのは当然だろう?」

「時間に干渉する時空魔法と言ったな、金の魔王の『統治』の力はどうなんだ?」

「自分の作った箱庭の時間程度なら許されるだろうよ、アンタは手書きの物語で過去に戻って神様に怒られるとでも思うのか?」

「分かりやすいような分かり難い説明をどうも」

「これらの禁忌に迫るには異世界とこの世界の差異を知る必要がある。だからユグラはこれらに手を伸ばす者への対策を施したってわけだ。言語へのフィルターを設け、万が一に備えて抑止力となる俺を残した」

「それで件の大悪魔が一気に知識を得たという理由で姿を現したと」

「そのとーりでござい、初めのお使いにしちゃ格好良く現れただろ?」


 随分とフランク、いやユグラの関係者だしな、暗部君といい当人と言いまともな性格じゃないのは確かだ。

 噛み砕いて理解しているとマリトが挙手する。 


「こちらからも質問を良いだろうか?」

「美味い菓子を出してくれるってんなら聞いてやるぜ?」

「……」


 マリトは静かに立ち上がり棚の一つから袋を取り出して無色の魔王に渡す。

 無色の魔王は中身を開けて感嘆の声をこぼす。


「お、こりゃ美味そうな菓子だ、国王の隠していた物ともなりゃ格別だな」

「こちらからの質問はお前が人間に害なす魔王の一人なのかと言うことだ」

「そりゃないな、そもそも魔王じゃねーし」

「どういうことだ?」

「立場としては『無色の魔王』と言う肩書きでやってるけどな、俺は蘇生魔法の効果を受けちゃいない。なんと不老不死じゃないのさ、不老ではあるがな」

「詐欺も良い所だな」

「分類するなら俺は魔族だ」


 そういって無色の魔王はローブのフードを外す。

 黒い髪、黒い瞳、やや地黒な肌、普通の人間に見えるがこの世界では鏡以外で見たことのない姿だ。


「ひょっとして地球人なのか?」

「いーや、俺は立派なこの世界出身の人間だったよ。高位の魔族になると体内の色素が濃くなっちまうんだ。元は金髪だったんだがなー」

「魔族と言ったな、つまりはいずれかの魔王によって創りかえられた存在と言うことで間違いないのか?」

「ああ、俺は『白の魔王』によって生み出された魔族だ。『無情の白』、別名勇者ユグラによってな」

「……ちょっと待て、受け入れる時間をくれ」


 マリトが頭を抱える、こちらも同じだ。

 ユグラの存在の出鱈目さは理解していたがよもや魔王も兼用だったとは、欲張り過ぎじゃありませんかね? 


「おいおい、そんなに悩むことじゃないだろ。むしろ既存の奴が新規ポジションを埋めてくれたんだから許容量には余裕出るだろう?」

「もう少し段階的な説明が欲しいな」

「贅沢な奴だな」


 無色の魔王、彼は嘗てこの異世界に現れたユグラと出会った。

 ちょうど誰かさんとイリアスの様な関係でユグラは無色の魔王に保護された。

 ユグラは地球とこの世界の差異からあらゆる魔法を構築し、そして禁忌である蘇生魔法を生み出した。

 しかし蘇生魔法は未完成であり、副産物として蘇った者は魔王となった。

 研究の為次々と蘇生魔法を使用し魔王を生み出していったユグラだったが黒の魔王の侵攻を皮切りに魔王達が暴れ始めた。

 ユグラは研究を一旦中断、自らを魔王と化して事態の収拾を行った。

 この時、無色の魔王も魔族となった。

 ユグラは姿を隠し魔法の研究を再開することにしたが一つの懸念事項が発生していた。

 ユグラの叡智の大半を与えたとされる黒の魔王である。

 黒の魔王は蘇生魔法の一歩手前まで近寄っていた。

 今後も地球人がこの世界に現れた場合、その知識を得た者が蘇生魔法に近寄るかもしれないと思ったユグラは次元魔法を生み出し異世界の叡智をこの世界の者達が安易に取得できないようにした。

 禁忌魔法としての区分を設け、それらに近寄った者への排除を行うシステムを構築し無色の魔王にその役割を与えた。


「禁忌に触れなくても一定以上の危険要素が含まれてりゃ俺の出番になるんだがな、ほらこれがリストな。そのリストに抵触しないうちは俺はでしゃばらない、異世界生活を満喫したいなら節度を守ってくれよな」


 そういってどこからか出した羊皮紙を渡してきた。

 それは日本語で書かれたリスト、ざっと眺めると幾つか知りえている情報もある。

 核に関する情報も書かれているが湯倉成也は100年前である大正時代くらいの人間の筈、それに対し地球での核の研究は1930年代のマンハッタン計画が切っ掛けで進んだ物だ。

 湯倉成也は何らかの方法で地球の情報を得ているのだろうか。

 しかしこの話を聞いて真っ先に思ったことは――


「ユグラ教からすると扱いの難しい奴だよな、お前」

「自分でもそう思うわ」


 教えを残した勇者ユグラの生み出した魔族、蘇生魔法と言った禁忌の伝播を防ぐ役割を果たしている存在。

 しかし魔王だ。

 

「普段は自分で作った空間に引き篭もっているから気にしないで良いぞ、たまに買い物に出かけるがな」

「それにしても随分と色々話してくれるんだな」

「敵対する気が無いからな、話せることはさっさと話した方が何度も呼び出されねぇだろうし。ユグラに比べてアンタはとてもまともっぽいしな」


 どいつもこいつもユグラをロクでもない奴のように言っているが本当に会いたくなくなるな。


「無色の魔王、私からも質問してもよろしいでしょうか?」


 と割り込んできたのは暗部君。

 

「構わないぞ」

「貴方はユグラの居場所をご存知でしょうか」


 ああ、それは知りたい。

 そしてできればそこに近寄りたくない。


「今は復活待ちだ」

「それは……一度死んだということでしょうか」

「ああ、神様に怒られて一回休みだ。言っただろう禁忌魔法を使うと神様に目を付けられるって。あいつはこりもせずに時空魔法に手を出して神様の怒りを買って殺された。蘇生魔法の効果は見られるからそう遠くないうちに復活はするだろうがな」


 金の魔王や紫の魔王が生きているであろうと思っていた湯倉成也が既に死んでいた。

 これは意外だったが、相手が神様と言う時点でスケールが大きすぎてピンとこない。


「そうですか……ありがとうございます」

「復活の目安は魔王達の定例会の際に白の水晶が輝くことなんだが、ただあいつは自分の意思で隠れる事も可能だろうからなんとも言えないがな」


 他に何か気になることがあれば聞いておきたいが……こちらも紫の魔王で手一杯なのだ。

 彼が目下の所敵にならないという情報が聞ければほとんど満足である。

 あ、でも幾つか気になることもあったな。


「魔王達から蘇生魔法の対価に名前が必要だと聞いたんだが、湯倉成也は普通に名前が残っているよな?」

「名前を対価に設定したのはユグラ本人だ。ユグラは別の対価を支払っている」

「ああ、そういうことか。それと同じ地球人なのに魔力とかえらい差がある理由を知りたい」

「あー、ユグラも最初は雑魚だったんだがな……ちょっと問診するか」


 無色の魔王はのっそりと立ち上がりこちらへと歩み寄る。

 側頭部に手を当てられ、瞳を覗き込まれる。


「なるほどなるほど、アンタすっげぇ雑魚いのな!」

「この野郎、……それで、原因は分かったのか」

「ああ、簡単だ。ユグラも同じだったからな」

「そうなのか」

「アンタ、『地球』に未練があるんだろう?」

「そりゃあ……帰る方法を模索するくらいにはあるな」

「原因はそこだ、別の世界の人間はこの世界に適応することが難しい。この世界に完全に順応するには前にいた世界への未練を捨てこの世界の人間として生きる必要がある。ユグラは早い段階で帰る選択肢を捨てていた、その辺りから魔力が生じるようになっていたぞ」


 そんな精神面的な問題だったとは、拍子抜けこそしたが冷静に考えるとあまり芳しい事でもない。

 地球に帰る方法を模索しているうちはこの世界に順応できないということだ。

 これはなかなか難しい課題だ。

 

「一度は諦める必要があるってことか」

「そう簡単な話でもない、こっちの世界に順応できれば体内に魔力を生み出すことが可能だがそれは言い換えれば元の世界への順応を捨てることになる。魔力の枯渇した世界に魔力を持つものが行けばあっという間に不適合症状を起こして死ぬ可能性があるとユグラは言っていた」


 ファンタジー世界の住人として生きていくのならば地球での生存権を捨てろというわけだ。

 世の中甘くないものだ。


「無理に未練を捨てる必要は無いさ、魔力を生み出せるようにはなるが人並みだ。ユグラのようになるにはさらに人間を止める必要もある。そんなに人生を投げ出すほど切羽詰っちゃいないんだろ?」

「まあな。後気になることは……ああ、何で地球からこっちに飛ばされたんだ?」

「それは分からん、次元魔法が関与している可能性は高いんだがな。新たに次元魔法を取得した存在はいない筈だ」


 結局異世界転移の謎は謎のままか。

 色々と推察はあるが今ここで話し合う場合でもないだろう。

 

「顔見せとして十分情報を与えただろう。俺としては人間達と魔王の厄介ごとに介入する気はない。俺に関する情報の共有も好きにしてくれ、ユグラ教の連中は頭を抱えるかもしれんがな」

「お前が説明してくれりゃ話が早いんだが」

「めんどい、止むを得ない場合は名乗ってやっても良いが人間の問題は人間で解決してくれ。そうだこう言った呼び出し方は止めて欲しいから呼び出す方法を与えてやろう」


 そういって無色の魔王はクイズ番組に使われそうなボタンを取り出した。


「一ヶ月に一回だけ有効だ、大事に使え。ちなみに対価として美味い茶菓子を用意することを忘れるな」


 そういってこちらの手元にボタンを置いたと思った瞬間、奴は最初から居なかったかのように消えた。


「……なんだったんだ、あいつは」

「さぁ……」


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