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まず第一問。

「久しぶりだな、元気そうで何よりだ」

「あ、どうも法王様」


 ターイズ城前にてメジスからの応援を出迎えて真っ先に視線が向かったのはやはりユグラ教のトップ、エウパロ法王だろう。

 なんで来てんだあんた。

 傍らにはリリサさんや聖騎士団団長であるヨクスの姿も見える。

 ウッカ大司教は……いないようだ。


「ウッカを探しておるのかね? 彼はメジスの留守を任せておる。元々彼は対悪魔における実績は目立っておらんのでな」

「さようで、ところで法王様がいらっしゃったということはラクラをそろそろ引き取ってくれると言うことでしょうか」

「はっはっはっはっ、冗談が上手いな」


 この爺さん……。

 とりあえずエウパロ法王、リリサさん、ヨクスを連れてマリトのいる応接間へと向かう。

 現在部屋にいるのはマリト、ミクス、ラグドー卿だけだ。

 そこに護衛のエクドイクが加わると言った形だ。


「以前とは違って見ない顔が二人おるな、自己紹介が必要かね?」

「いえ、皆さんのお名前は聞き及んでおります。私の名はミクス=ターイズ、ターイズ王の親族です」

「ミクス……冒険者にその名を聞いたことがあるな」


 名前に反応したのはヨクス、そういえばミクスは冒険者としては知名度が高いんだったな。


「今は本国で色々と勉強させて頂いております」

「それでそっちの男は――」

「エクドイクだ」

「……その名、裏の住人の名にあったな」

「ああ、以前ラーハイトがパーシュロと共に寄越した冒険者崩れの一人だ。今はこの同胞の護衛をしている」

「随分と奇特な関係じゃな、ターイズ王が黙認しているのならばこちらから言うことはあるまい」

 

 警戒心を見せたヨクスを笑い声一つで諌めるエウパロ法王。

 そういえばパーシュロは身代交換としてエウパロ法王の身柄を寄越せとか言っていたんだったな。

 ともかくマリトは現状の話を進めていく、エウパロ法王達はところどころに驚きの表情を見せつつも静かに聴いていた。


「以上が今のところの展開だ。大きな成果としては大悪魔を2体討伐している」

「君は随分と魔王に好まれる体質のようだ、苦労しているのう」

「いやぁ……」

「――我々が来た以上は迅速な解決を目指すべきです。紫の魔王の拠点も判明しているのならば今日明日にでも仕掛けましょう」

「落ち着かんかヨクス、ここは余所の国だ。我が国ならば必要な犠牲とて甘受せねばならぬ時もあるだろう。それとも一切の犠牲を出さずに魔王とその配下である大悪魔、無数の悪魔を処理する方法があるというのか?」

「それは……」

「正義の為とターイズの国民を犠牲にする決断が許されるのはターイズ王だけだ。我等がそれを強要するのは民を虐殺する行為と変わりない」


 ヨクスの意見も正しい、魔王がのうのうと国に居座っているのならば今が叩く好機であることには違いない。

 だがエウパロ法王もまた国を治める者としての目線を持っている。

 

「彼が紫の魔王との勝負に勝っているうちはユニークである大悪魔を確実に仕留められる良い機会なのだ。現在メジス魔界に存在する魔物の総数が驚くほどに減少している。恐らくは紫の魔王がこの国に集めているのだろう。奴の提案でそれらを掃除できる機会を与えてくれるのならばここは勇敢に受けようではないか」

「……はい、申しわけありませんでした」

「我等ユグラ教は後方支援を手伝おう。一騎打ちで討ち漏らした大悪魔がいればその逃走後を狙う準備もするとしよう」

「そうしていただけると助かります」


 一騎打ちで勝利してしまった大悪魔は自由となる、それはそのままターイズ国へ振り注ぐ災厄になる可能性だってあるのだ。

 ターイズでは一騎打ちの始まる時刻には各騎士隊に出動準備を行わせているがメジスの精鋭が加わるのならばありがたいことこの上ない。


「ユグラの星の民よ、可能ならば次の大悪魔との一騎打ち、私に一任してもらえないだろうか」


 とヨクスが名乗りを上げた、肩書きとしては申し分ないだろうがその実力の程が分からない。

 一応立場としてはラクラよりも遥かに上で実戦派なんだよな。


「わかりました、ですがこちらは小心者です。少しでも危険だと判断したらこちらの意思で投了します。不利な条件で一騎打ちをさせるくらいなら一度自由にしてでも数で対抗します」

「それで構わない、圧倒できれば良いのだろう?」

「はい、では後日の勝負に勝った際にはお願いしますヨクスさん」

「ヨクスで良い、口調も砕いて貰って構わない。君の年齢は聞いている。その見た目で私と大差ないと言うのは驚きだが」

「……三十代と見てたんだが」

「もう少し若い、老け顔なんだ」


 マジですか、こちらやラクラ、マリトに近い年齢なのか。

 だがそれで聖騎士団団長、なるほど実力の高さが急に滲み出てきている。

 そしてラクラよ……。


「以前言いそびれたがリリサの件では助かった、礼を言わせてほしい」

「いや、もう法王様から礼を言われたし十分だ」

「……いや、個人的な関係がある身としては言っておかねばと」


 そういう関係ですか、よく見ればリリサさんが頬を赤らめて頷いている。

 え、惚気られてるの? なんかムカつく。

 この空気どうしてくれよう。


「なーんじゃ、妙な気配を感じるのう! 愚賢王よ、妾が遊びに来たぞ! さっさと茶でも用意せぬか!」


 ターイズ国に存在する人物でこの場に来てはいけない奴第二位が姿を現した。

 マリトが珍しく本気で溜息を吐いている。

 

「おや、やはり御主もおったの。うん? 見ない顔がおるようじゃが?」

「……ターイズ王、以前報告にあった人物と類似しているようだが」

「あー、報告していた金の魔王だ」


 瞬間ヨクスが剣を構え前に出る。

 リリサさんは驚いた顔、エウパロ法王は『どうすっかなー』と言いたげな顔だ。


「なんじゃ物騒な奴じゃの。その格好からしてメジスの聖騎士かの?」

「――メジス聖騎士団団長、ヨクスだ。魔王が一体何のようだ」

「遊びに来ただけじゃが?」


 ぴょこんと人の膝の上に飛び乗る、尻尾をわさわさと動かし撫でろと要求される。

 冷静に考えると三国のトップがこの一室に揃っている状態、凄いな。


「あー一応無害な魔王なんでここは剣を仕舞ってくれないか?」

「魔王に無害も有害もないだろう!? 魔王は敵だ!」

「……こういう言い方はずるいから言いたくないんだが……魔王は湯倉成也が作り出した存在だ。湯倉成也の定めた教えに妄信して魔王を悪と断罪すると言うのは滑稽なだけじゃないか?」

「――ッ!」

「金の魔王が行った行為からは実害は何も生まれていない。それどころか国一つを大きく発展させている。これを絶対悪だと断じるのなら正義の定義が崩れるぞ」

「ヨクス、剣を下げよ」

「しかし――」

「彼の言う通り、と受け入れる必要は無い。だがこの場で剣を振るえば私はお前を傍に置けなくなる」

「……」


 ヨクスはエウパロ法王の言葉に従い剣を仕舞った。


「しかし金の魔王よ、ユグラ教の我等の前に姿を現すというのは挑発行為にも程があると思うがね」

「ユグラの教えなんぞ知ったことではないわ、事実を知ってなお先入観の抜けぬ者達の機嫌取りをするつもりもないからの」

「背景がどうあれど、魔王が人間に害を与え歴史に残る傷痕を残したことは変わらんよ。ユグラがたとえ罪人であれど語った言葉が全て偽りと言うわけでもあるまい?」

「そうじゃな、亜人と言うだけで差別し迫害していた頃となんら変わっておらぬな」

「多少は変わっているとも、しかし人間とは大きな変化は受け入れがたい生き物だ。それを理解せずに掻き回すのは身勝手だと思うがね」 

「そうだぞ、お前だってこの場に湯倉成也がお茶しに来たらどう思う?」

「ぬ、それは……そうじゃな。妾の方が大人げ無かったと言うことにしておくかの」


 すんなりと非を認める金の魔王、湯倉成也どんだけ嫌われてるんだ。

 

「人の信仰相手を出汁にするのは感心せんが、諌めてもらったことは感謝しよう」

「いえ、ですがユグラ教としては湯倉成也のことについてどういう方針を取るつもりなのですか?」

「大司教達には既に事情を説明しておる、しかし意見がわかれておってな。嘘偽りだと聞かぬ者もおる」


 そりゃキリスト教でキリストが悪魔を作り出していたとか言い出すようなもんだしな、歴史が短いとは言え安寧をもたらした宗教であることには違いない。

 

「その割にはこうやって魔王が現れたことに関して派兵できたんですね」

「魔王に関しては信憑性が問われているが多くの悪魔の移動に関しては観測されておる。原因を解明する必要はあるのでな」

「実際に魔王が復活したことを証明したとしても湯倉成也が関与したと言う話を信じない人もいるでしょうし、大変ですね」

「全くだ、今からでも魔王達の嘘だと言ってくれれば気が楽になるがね」

「アレの為に嘘をつくなら口を噤むわ」

「なんにせよ、教え自体は人道に基づく大切な礎であることには違いない。当面は大きな動きはないだろう」

「魔王を絶対悪と断じている点以外は真っ当な所の寄せ集めですからね」


 湯倉成也の残した教えはキリスト教や仏教で人々が受け入れやすい所を上手く抜き取って人道に満ちた物としている。

 そしてその中に自分がやらかした黒歴史を壮大な伝記として仕立て上げているのだ。

 根付いてしまった以上はそれらを完全に否定するわけにも行かないだろう。


「魔王が復活していると言う現状に関しては受け入れざるを得ない状況だ。世界に害を成す可能性がある限りはこれらの対処が先決だろう」

「人間に対して侵攻を企てているのは紫の魔王と『緋の魔王』。でも紫の魔王は敵意があるわけではないようです」

「敵意が無くとも被害が生まれる以上は対処せざるを得ないな」

「――まあそうですね。ただ現状彼女は大悪魔を始めとした多くの魔物を利用しての勝負を行っています。人間の視点としても犠牲を出さずに多くの障害を取り除けるでしょう」

「うむ、よって我々はしばらくはターイズ王の動きに合わせるつもりだ」

「仮に全勝して、紫の魔王の持つ悪魔達がいなくなった後はどうするつもりですか?」

「ユグラが滅ぼしてもなお復活する存在だ、殺害するよりは封じる術を模索するだろうな」

「……こちらが交渉して危害を加えさせないようにしてもですか」

「君が魔王に気に入られ、正当な交渉を経てそのような結果に持ち込んだとしよう。現在の金の魔王と同じように無害化に成功したとしてそれはいつまで続くと思う?」

「それは――」

「君の死後、魔王達が再び人間に憎しみや敵意を持たないとは限らない」

「ふん、それを言い出せば人間とて同じであろう」

「そうだ、だが人間は人間を裁く法がある。だが君達魔王は人間の法に従順でいられるわけではないだろう。魔王とは人災ではなく天災だ、だからこそ未然の内から手を打つ必要がある」


 金の魔王も口を噤む、彼女だけならばまだしも他の魔王の危険性を完全に取り払うことなど不可能に近い。

 エウパロ法王は魔王を憎んではいない、ただ冷静に危険であり対処すべき存在であると諭しているのだ。

 とは言え、当事者としてはあまり良い気分ではない。


「ではその方法が見つかるまでの間はこちらに任せてもらっても構いませんね?」

「それが最善であると判断できる間はだな。君を信用できなくなれば現在の勝負でさえ無視して我々は動くだろう」

「善処しますよ、『俺』だって徒に犠牲者を出すことは嫌ですからね」

「ああ、知っているとも」


 舌戦になると恐らく勝ち目はない、これ以上の対話は無意味だ。

 と言うよりこれはこちらがヨクスに言った言葉に対する反論も込めているのだろう。

 言われっぱなしでは向こうの立場も悪くなる、ここは見苦しく足掻くよりも素直に言い負かされておくとしよう。

  

「辛気臭い話はこの辺にしよう、遊びに来たというのならば少しばかり訊ねたい話もある」

「散々妾達の始末について述べておいてよくも言えたものじゃな」

「人間としての見解を述べただけに過ぎんよ、友好的に接してくる間は友好的に接するとも。いずれは封印すると言っても今すぐ君を封印すればガーネが大混乱となるだろう? 人質が多すぎるうちは下手には動けぬよ、目に余るようになれば――と言ったところか」

「んっふっふっふっ、妾の統治が早々に崩れるとは思わぬことじゃな。先に文明的に押し殺してやるわ」

「お手柔らかに頼みたいものだ、それで聞きたい事と言えばやはりユグラのことだな。魔王から見た勇者の話は与太話としては最大級であろう?」

「与太ではないがの、そうじゃなまずは風呂にほとんど入らん奴じゃったの。いつも髪はボサボサ、目にクマを作っておったわ」

 

 金の魔王は昔を懐かしむように勇者の悪い面を語っていく、ヨクスやリリサさんは複雑な表情だったがエウパロ法王は笑いながら聞いていた。

 やはりこのメジスのトップは敵に回したくないものだ。


 勝負の日、朝日が昇る前に起床し身支度を済ませ出発する。

 家の扉を開けると目の前にいたのはエクドイク、こいつ国外の洞窟に住んでるはずなのだがどんな生活習慣をしているのかが気になる。


「他の者達はまだ寝ているのか」

「日が昇っていないしな」


 イリアスとウルフェはそれぞれ特訓中の疲労があるだろう、ラクラは仕事の与えられていない日は昼前まで寝る。

 金の魔王はマイペースといったところだろう。

 勝負開始の場所となる広場を目指す。

 最初のヒントはここに置かれているとのことだ。

 広場では既にデュヴレオリが待機しておりこちらの到着を待っていたようだ。


「まもなく日の出、ルールの確認はよろしいですか?」

「日の入りまでに紫の魔王を見つけろ、街に設置してある謎を解けば辿り着けるんだろ?」

「はい、主様の考えた謎です、是非吟味して解いてください……時間ですね」


 城壁に囲まれている為ターイズに朝日が差し込むのはもう少し先だが空が明るくなった。

 城壁の上から見れば朝日も見られるのだろう。

 城壁がある以上日没前後の正確なリミットはわかりづらい、気をつけるとしよう。


「ではこちらが最初の謎です。それでは」


 デュヴレオリが一枚の羊皮紙を渡し、姿を消した。

 早速広げてみる。


 悪魔は静寂を嫌い、均衡をさらに嫌う。

 悪魔は金貨10枚に値する宝石を持つ。

 されど悪魔の命は金貨1枚の価値しかない。 

 価値を測る天秤の西には林檎、東には剣。

 林檎には金貨1枚の価値があり、剣には金貨10枚の価値がある。

 全てを捧げ死に絶える悪魔は進むべき道を天秤の傾きに委ねた。


「なるほど、こっちに進めってことか」

「何だもう分かったのか」

「わからん方がどうかしている、速度の差はあれど文字が読めれば解ける問題だ」


 答えが指し示す方角へと進む、エクドイクは謎としばらく向かいながらついてくる。

 気がかりがあるとすれば右か左かみたいなざっくりとした道案内で次のヒントが見つかるのかと言うことだがその心配は無かった。

 しばらく道なりに進むと実に分かりやすい目印があった。

 

「――これ、事後処理大丈夫か」

「わからん」


 道の真ん中に石碑を持った悪魔の像が堂々と配置されていた。


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