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まず好調。

 並べられたカード、残り枚数は9枚。

 無造作に一枚を選び文字を読み上げる。


「――『隠れ鬼』、今度は大悪魔に潜伏でもさせるつもりか?」

「いえ、これは私が隠れるのよ? ルールはシンプル朝日が昇ってから沈むまでにこの国のどこかに隠れている私を見つければ良いわ?」

「かなり広いんだがな、この国も」


 建物限定ならばさておき、国全域ともなるとしらみ潰しに探していてはとてもじゃないが一日で見つけられるとは思えない。

 普通なら無理な勝負内容だが紫の魔王のことだ、何かしらの措置はあるのだろう。

 

「ええ、だから朝日が昇ったと同時に街中には私の居場所を示すヒントが見つかるようにするわ?」

「ヒントありきということは移動はしないんだな」


 かくれんぼと言うよりかは宝探しに近い感じだな、それならば何とかなるだろう。

 朝日が昇ったときがスタートと言うことはそれよりも早く起床する必要があるという点には少々大変さを感じるが自分の身を賭けた勝負だ、四の五の言っている場合では無い。

 そういったわけで拒否権は使わずに勝負を了承し、解散となった。


 ラクラには小遣いを渡して金の魔王と共に『犬の骨』へと向かわせエクドイクと一緒にマリトの元へ向かう。

 現状の説明を行おうと思ったのだがどうやらミクスがこっそりと監視していたようで既に内容は伝わっていた。

 マリトを前にするとあがり症になるミクスでは報告するだけでも大変だったろうに、一体どうやったのかと気になっていたところきれいな字で書かれた報告書がちらりと視界に入る。

 ほっこりしつつ、マリトと話す。


「今のところ無難に二体の大悪魔を打ち倒した、とは言え残りの数を数えるとまだまだ先は長いな」

「そうだね、大悪魔達も今は従っているけど同じ格の者達が次々と一騎打ちで敗北していけばそのうち何らかの手立てを打ってくるだろう。勝負の最中以外でも油断は禁物だよ」

「そこはエクドイクがしっかりしてくれているさ。むしろ注意すべきは勝負の最中だろうな」


 紫の魔王との勝負の際には他者の助力を得てはいけない、何かしらが起きるとすればやはりそこだろう。

 彼女を信用していないと言うわけではないのだが、勝負である以上なんらかの布石を打っている可能性はある。

 今のところ勝負の内容も簡易的なものばかり、これ等がこちらの気を緩めるための罠かもしれない。

 

「明日の夕方にはメジスからの応援も到着する頃だね」

「でも勝負を始めている以上出番は無さそうな気もするがな」

「腕利きがいるなら大悪魔との一騎打ちに力を貸してもらえるかもしれないじゃないか」


 一戦目、二戦目とこちらは危なげなく勝利できている。

 エクドイクとラクラに任せれば良いかもしれないのだが『駒の仮面』の特性を考えると少々不吉な予感がしている。

 ググゲグデレスタフの様子を見るからに奴は紫の魔王への忠誠はほとんどない、命を脅かされたうえでの止む無しの服従だろう。

 フォークドゥレクラは一見忠実そうには見えたのだがやはり内心思うところがあるようにも感じた。

 紫の魔王への忠誠心があるのであればもっと本気で演技していただろう。

 恐らく紫の魔王が選ぶ大悪魔とは忠誠心の低い順番とみて間違いない。

 そうなると『駒の仮面』の影響も徐々に強力になる、つまるところ敵は強くなる一方なのだ。

 人間の姿へと変身したフォークドゥレクラの脆さは仕方ないにしても、ググゲグデレスタフの破壊にはそれなりの労力が必要だった。

 これからは変身能力ではなく大悪魔としてのフルスペックをぶつけてくる、油断はできない。


「優秀な人材が来てくれりゃ良いんだけどな……ところでこの国で件の大悪魔達に匹敵できそうな人員は他にいるのか?」

「うーん、ラグドー隊の面々にもなれば十分戦えるだろうね。あとは他の隊長くらいかな、騎士達は対人スキルは確かだけど魔物に対しては複数人での処理を前提とした訓練を行っているからね」


 ターイズに現れるのはターイズ魔界の魔物が多い、それらはワイバーンを始めとした大型の魔物だ。

 騎士達の訓練もそれらを想定して行っているのだろう。

 カラ爺やボル爺を思い浮かべる、確かに彼等の熟練の技ならば拮抗できるかもしれないが『駒の仮面』によって強化された大悪魔のスペックを考えるとやや不安も残る。

 次の勝負の際にはカラ爺に同行してもらって見極めてもらうのも良いかもしれない。

 

「実力で言えばミクスも可能性はあるが、どうだミクス」

「えっ、あ、は、ははひ、も、問題なないとおもわれまゆっ!」

「問題にしか見えないが、ちょっとこっち向いて喋ってくれ」


 体の向きを変えてもらいマリトが視界に入らないようにしてもらう。


「そうですな、二体目の大悪魔に関しましては多少厄介に感じましたが一体目の方ならば対処はできると思いますぞ。ただ私のやり方は初見の相手に有利と言うだけでそう何度も使える戦い方ではありませんから連戦を所望されるのであらば事前に準備をさせていただきたいですな」

「なるほど、そういった感じの戦い方か」


 この口調の変わりよう、マリトとの格差が少しばかり悲しくなる。

 ミクスの言葉から察するに彼女の戦い方は虚を突く戦法とみて間違いない。

 搦め手よりもさらに確実性を上げているがその反面知られていては対処されやすいと言った所か。

 姿形、使える技が真似されるフォークドゥレクラは手の内が読まれる天敵だったろう。

 となるとミクスも使えて二回といったところ。

 しかしユニークである大悪魔がさらに強化されていると言うなかなか酷い話なのに動じない奴が多すぎて辛い。

 こちとら下級悪魔の二段階下の獣にすら怯えているんですよ、奥さん。


「とりあえず次の勝負の際にはカラ爺にも観戦を頼みたい。エクドイクはミクスに知っている範囲の大悪魔の知識を与えておいてもらえるか?」

「ああ、分かった」

「そうしていただけると助かりますぞ!」


 後気になることと言えばイリアスのことだ、最近空気でちらほらとしか姿を見ていないんだがいつも疲労を感じているように見える。

 紫の魔王との勝負が始まってからと言うもの、ラグドー卿の指導が苛烈になっているようだ。


「ラグドー卿からイリアスについて何か聞かされていたりするか?」

「久々に本気で指導しても壊れない人材を鍛え上げるのは心が躍ると聞いたね」

「そりゃイリアスも苦労してそうだな」

「グラドナに負けたくないともね」


 本当に苦労してそうだ。

 ウルフェの方もグラドナの指導を受けていてすれ違う機会が多くなっているのだがそこまで疲労が溜まっているようには思えない。

 一戦目には一度大悪魔の様子を見せるために呼んでおいたがそれが原因でやる気を出したようだ。

 

「心配されていないことが気がかりかい?」

「いや、多少は心配してもらえているだろうからな。エクドイクやラクラを信用しているんだろう」

「多少どころじゃないとは思うけどね」


 

 その後日、いつものように紫の魔王との付き合いがあると思ったが、デュヴレオリからの伝言でこの準備期間中は紫の魔王もヒントとなる謎を考えるのに忙しいので会えないと言われた。

 拍子抜けしたがそういうことならばと魔法研究所へと向かう。

 最近はルコやノラにまかせっきりだったので顔を出しておかねばと言った具合だ。

 何故かついてきた金の魔王、一応国の重要機密ではあるのだが『ガーネの内情を全て見せたというのにこの国の賢王は見学すら許さんのかの? 小さい器じゃな』と言った煽りによって特例で見学する自由が与えられていた。


「お、にーちゃんにエクドにーちゃんなのだ、あとは……きんぴかねーちゃんなのだ。誰なのだ?」

「ガーネ国王だ」


 当然ながらルコやノラにはこれが魔王ですとは言えない、とは言えボロが出ても困るのでこのへんで妥協しておくことにした。


「ガ、ガーネ国王なのか!?」

「んっふっふっふっ、その通り妾こそが大国ガーネを統べる王であるぞ!」

「凄い尻尾なのだ、えい」

「ひょぅわっ!?」

 

 尻尾の付け根を鷲掴みにされて飛び上がる金の魔王、子供の容赦のなさとは恐ろしい。


「止めんか! 根元は敏感なのじゃ! 撫でるなら真ん中付近にせい!」

「ご、ごめんなさいなのだ……おお、モフいのだ!」

「ノ、ノラちゃん、国王様にそんなことしちゃダメですよ!?」

「構わぬ、子供の探究心とは満たされて初めて次の探究心へと向き合う強さを得るのじゃ」

「ちょっとこの毛が欲しいのだ、千切っても良いのだ?」

「それは止めい。この者がノラで、そちらの名は?」

「ルコ様なのだ」

「ほう、ルコ様と」

「あ、いえ、ルコでお願いします!」

 

 流石に国王から様付けされてはメイドとして胃に穴が空きかねない。

 しかし思った以上に打ち解けるのが早い、狐耳にモフモフ尻尾と言うのは外交にも役立つのか。

 談笑しながらルコもしっかり尻尾に触らせてもらっている。


「ノラ、以前作った温度調節用の容器を使いたいんだが」

「それならルコ様が場所を知っているのだ、色々料理に使っているのだ」

「あはは、お手軽に火力が調整できるのでつい……」

「元々は加工品や調理に使う機械の応用だからな、別に咎める気はないさ。以前作ったバターをもう一度作ろうと思ってな。これヤギの乳だ」

「それだったら私が作り方を覚えていますから今から支度しますね。お兄さんはノラちゃんの成果報告の確認をお願いします」


 道具をルコに預け、渡された資料に目を通す。

 簡易的な原理に関しては随分と再現が完了しているようだ。

 これらを組み合わせる機材を用意して実験を行えば色々な発明として使用できるだろう。

 化学薬品や電気部品に可能な処理を一つ一つ魔法として再現させ組み合わせるといったハリボテの様な仕組みだが仕組みさえ分かっていれば色々できると言うのが大きい。

 

「良い感じじゃないか、流石を通り越しているぞ」

「えっへっへー! それでこれが試作機なのだ!」


 そういってやや大きめの箱を渡される、ごてごてした感じだが確かにこちらの要求した仕組みを再現しているようだ。

 ……魔が差したのでつい試しに金の魔王に向けてみる。


「お、御主、それはなんじゃ? その不気味な表情を止めよ!? ちょ、ちょっ、ぬわーっ!?」

 

 実験結果を確認、見事に地球文明の発明を再現できている。

 問題があるとすれば初めてこれに遭遇する人間は驚く事が多いと言う点か。

 さっきから怒りの尻尾を延々と叩きつけられながらも感慨深さを感じている。

 色々忙しい中でもこうして前進している事柄があるというのは実によろしいことだ。


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 デュヴレオリを除く自分を含めた大悪魔達は一室の影に潜み主である紫の魔王の命令を待ち続ける。

 『駒の仮面』という強大な力こそ与えられたがその扱いを快く感じているのはデュヴレオリ一人といったところだ。

 明らかに反感の意思を見せていたググゲグデレスタフは真っ先に死んだ。

 力を得ることだけに喜んでいたフォークドゥレクラも無残に散っていった。

 ここから先は主への忠誠心の浅い者から順に処刑台へと送られていくのだろう。

 大悪魔から見てこの勝負は例の人間に圧倒的に有利になっている。

 何かしらの番狂わせが起きぬ限り一騎打ちを行わせられることは避けられないだろう。

 『駒の仮面』を手に入れた当初は喜び、児戯にすら付き合っても良いと感じていたが蓋を開けてみれば全てが覆った。

 エクドと名乗った男の強さ、あれは『駒の仮面』が無ければどの大悪魔をも凌駕する次元だった。

 あのベグラギュドが作った最高傑作とは偽りでは無かったようだ。

 そしてラクラ=サルフ、ベグラギュドを葬った聖職者。

 無名の存在と侮っていたがフォークドゥレクラの死を目撃して大悪魔の全員が『あの女は危険だ』と悟った。

 あの二人が続投される可能性は高い、大悪魔としても後数度の戦いを分析できれば活路は見出せるやもしれないがその数度の中に自分が含まれてしまっては意味が無い。

 デュヴレオリ以外の大悪魔は皆紫の魔王の支配から逃れ、自らの王国を再建したいと目論む悪魔の王なのだ。

 

「ハッシャリュクデヒト、次は貴方の番よ?」


 闇の中に響く声、息を呑み覚悟を決めて主の下へと姿を現す。


「『繋ぐ右腕』のハッシャリュクデヒト……主の命、承りました」

「今回貴方には出番はない、一騎打ちの用意だけしていなさい?」


 紫の魔王は自分にそういい放ち部屋へと戻っていく。

 その眼には僅かな感情すら篭っていない、流れ行く川に流れよと命じることと変わりが無い。

 それを見届けた後、堪らず影となり屋敷の屋上へと移動する。

 星を見上げる、視界に映る星はメジス魔界のそれよりもいくらか少なく感じる。

 人間の営みによって生まれる光が空の星の数を減らしているのだ。

 

「我が人生とはここまでのものだったか……」


 現時点であの人間が用意してくる相手への勝機が不明、既存の二名だろうと勝てる確信がない。

 たとえ激戦の末に勝利した所で深手を負うことになるだろう。

 そんな状態で自由になったとして、自分が生きていけるだろうか。

 箱庭の王として君臨しているだけで十分だった、知性の感じられぬ悪魔達を見下しているだけで自尊心は保たれていた。

 それで満足していたと言うのに、あの女は躊躇無く全てを奪った。

 逆らうこともできない、『駒の仮面』を賜った時点で力は得た。

 しかし反旗を翻せば『駒の仮面』の恩恵を最大限に受けているデュヴレオリに確実に殺されてしまうだろう。

 

「ハッシャリュクデヒト、死が恐ろしいか?」

「――フェイビュスハスか」

 

 近くに現れたもう一体の大悪魔、『迷う腹』フェイビュスハスが現れた。

 フェイビュスハスとは隣接する土地を支配していた関係、互いの実力を認めていたからこそ争うことなく互いの箱庭での生を満喫していた。


「気持ちは分かるがな、お前が死ねば次は我輩の番だろう」

「であろうな。我とお前は似た境遇……あの女は勝負に勝つつもりが無いように見える」


 相手は只一人の人間、公平な勝負を行うにしてもその内容が陳腐すぎる。

 次の勝負もあの人間に有利になるように立ち回るのだろう。


「いつかは裏をかき、勝ちに動くやもしれんがそれはお前や我輩の時ではないだろうな」

「ああ……我等は只の駒ですらない、捨て駒だ」


 『駒の仮面』を付けられた上級悪魔に敗北し連れて来られたあの日から既に我々の命運は決まっている。

 あの冷酷な魔王の余興の道具として磨耗し、価値も無く消えていくだけの結末。


「ハッシャリュクデヒト、我輩の知略に乗る気はないか? 上手く行けば生き残れるやもしれんぞ」

「……どういうことだ」

「それだけではない、我輩達を侮辱したあの魔王にも煮え湯を飲ませられるやもしれん。だがお前にその覚悟があるかどうか……」

「聞かせろ、どうせ間もなく散る命だ。今の現状に抗えるのならば耳に入れたい」

「デュヴレオリがいる以上我輩達ではもはや歯が立たぬ、魔王への直接的な謀反は無意味だろう。だがな、幸か不幸かあの魔王は非常に脆い宝石を寵愛しているではないか」

「要点をまとめろ」

「我輩があの人間を喰らう、お前はその手伝いをせよ」


 フェイビュスハスはにんまりと嗤った。


余談ですが作者は悪魔の名前をベグラギュドとデュヴレオリしか覚えていません。

なので皆さんも最初の数文字だけ意識して「そんな奴いたな」くらいで大丈夫です。


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