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まず看破。

 三日間の準備期間が始まった。フォークドゥレクラは今も誰かと入れ替わるべく観察行為でも行っているのだろうか。

 イリアスやラグドー卿にも事情は説明している、うっかり返り討ちと言うことは無いだろうがあまり良い気分ではないだろう。

 日中は紫の魔王と一度は顔を合わせる約束なのでバンさんの屋敷へ向かったのだが――


「どうして貴方がこの場所にいるのかしら?」

「妾がどこにいようと妾の勝手であろう?」


 護衛のエクドイク、デュヴレオリ以外にもう一人の同伴者となったのは金の魔王である。

 お互いのムードは非常に険悪、片や攻め込もうとした犯人でありもう片方もそれを防ぐために脅しを行い長い期間掛けて用意した駒を魔物の餌にさせた者である。


「今は私と彼の二人きりの時間なのだけれどね? 関係の無い狐女は引っ込んでいてもらえないかしら?」

「確かに妾には何の関係も無いことじゃ、つまりは知ったことではないの」

「そう死にたいのね?」

「ほう、関係の無い第三者を殺めるのかの、つまりはこの勝負を捨てると言うわけじゃな」

「はいはい、そこまで。顔合わせ程度なら黙ってみておいてやるが喧嘩するなら割り込むぞ、一瞬で死ぬから覚悟してろよ」

「どうしてこんなのを連れて来たの?」

「連れて来ちゃいない、人の家に居座った挙句人の外出にもついてきただけだ」

「家主の許可と部屋主の許可は取っておるからの」


 ウルフェはさておきイリアスが許可したと言うのは実に驚きだった。尻尾の魔力や恐るべしだ。

 

「彼の家にですって……そんな……なんて卑しい獣なのかしら?」

「妾だけではないぞ、既に三人の女がこの者と同じ屋根の下に住んでおるのだからな」

「一人は家主で、一人は保護、一人は――こいつと同じだけどな」

「広い寝床なら私がすぐに用意してあげるわよ?」

「静かでベッドがあって一人で眠れるなら狭くても平気だからなぁ」

「せっかくじゃからの『紫』、そちがこの勝負でイカサマをせぬか見張ってやろうではないか」

「私がそんなことをするとでも? そんな方法で彼を得ることを許容するとでも?」

「どうじゃろうなぁ、いくらやっても勝てぬ、手に入らぬとなれば弱い心を持った者ではついつい魔が差すやもしれんからの? それで今回の勝負はどういったものじゃったかの?」


 どうしてこう喧嘩腰なのだろうかこの金の魔王、しかし魔王が見張りとして協力してくれる分にはありがたいことではある。

 金の魔王に今回の勝負内容を説明する。

 

「ふむふむ、なるほどの。ひとまずは公平、どちらかと言えば御主に有利じゃな」

「あら、それはどうかしら? フォークドゥレクラの変身は容易く見破れるものではないのよ? 魔力の最大量こそ増やせない欠点はあるのだけれど彼にはそういった感覚がないことは知っているわ?」

「それどころか基本能力が最弱の妾でも問題なく殺せる程度じゃからの、『紫』もよくこんな小枝の様な男を欲しがったものよな」

「あら、彼を小枝と例えるなんて貴方こそ彼を理解していないわね『金』?」

「ぬかせ、妾とて既にこの者にはユグラの力を使った上で敗北しておる。『紫』の用意した趣味の悪い魔物とてその因子を見出したのもこやつじゃ」

「あら、やっぱりそうだったのね? 貴方程度の頭では無理だと思っていたのよね?」

「人を褒めてくれるのはありがたいがそこから喧嘩に派生しないでくれ」


 結局何かあるごとにすぐに口論になり、こちらが諌めるの繰り返しで機嫌を悪くした紫は早々に立ち去っていく。

 何故か勝ち誇る金の魔王、なんなんだろうかこいつは。


「しかし御主よ、『紫』とて負けるためだけに勝負をするわけでも無かろう。有利な勝負の中にも一滴の毒を潜ませるのが『紫』じゃ、油断するでないぞ?」

「なんだ、心配してくれるのか」

「当たり前であろ? 妾の物にならん御主が『紫』の物になってみよ、妾の立場が無いではないか」

「確かにな、負けるつもりは無いさ」

「良い心構えじゃ、それではこの街を案内せい、逢引といこうではないか」

「あのなぁ……長期滞在ってガーネの執務はどうする気なんだ」

「そこは抜かりない、ほれこれを使っておる」


 そういって小さな金の魔王を手の平に出現させる。

 金の魔王の力である『統治』の力、シミュレーションを行える仮想世界、そのナビゲートや補助機能として使われている物である。

 

「これをこうしての」

  

 金の魔王の手の上から小さな金の魔王が回転しながら飛び降りたと思いきや、着地したのは寸分違わぬ大きさの金の魔王である。

 こいつ、等身大コピーを作りやがったな。

 身代わりの術よろしくガーネ城に分身を置いてきたのだろう。


「向こうとはいつでも連絡がとれるし指示も出せるからの。旅行しながらでも統治はできるのじゃぞ?」


 統治に特化している魔王なだけはあると言うべきか、マリトが欲しがりそうな魔法だ。

 試しに尻尾を触ってみるが……やや感触が違うか?

 リアクションが薄い分の差だろう。


「妾に劣情をぶつけるのが恥ずかしいと言うのであれば夜に一体貸し出しても良いぞ、できれば妾本体が一番良いのじゃが」

「そうだな、一度この尻尾の毛を全部引きちぎってみたかった所だ、今夜本数を数えてみるか」

「や、止めよっ!?」


 結局分身体はラクラの抱き枕となった。

 翌朝のラクラの爽やかな顔がその抱き心地を語っていましたとさ。


 そして三日後、結局金の魔王の妨害もあって紫の魔王とのやりとりはさして進展も無く勝負当日である。

 時刻は正午前、再び城壁外の一画を借りての勝負となる。

 前回は豪勢な調理場が用意されていたが今回は椅子が一つだけである。

 今回のギャラリーは金の魔王のみ、互いの護衛とフォークドゥレクラくらいである。


「今から貴方には目隠しをしてもらうわね? 正午になったら目隠しを外させてもらうわ?」

「その時にはもう知人の誰かがフォークドゥレクラに入れ替わっているというわけか」

「貴方が訪れるまでその人物が普段いる場所に留まるようにはしているわ? 勝負は日が沈むまで、移動手段に他人の手を借りることは許可するわよ?」

「それはありがたい、国中を移動して回るだけでも疲労が半端無いからな」


 そして椅子に座り目隠しをする。

 と、何故か急に膝の上に誰かが座った。

 

「何してるんだ金の魔王」

「なんと、妾とすぐ分かったのか、愛の力じゃな」

「尻尾」

「んっふっふっ、妾なりの気遣いじゃよ。この勝負、フォークドゥレクラが御主に成り代わってしまえば終わりじゃからの」

「――それは無いと思うけどな」


 そう、この勝負においてフォークドゥレクラの必勝法はこちらと入れ替わることだ。

 偽者の勝負者として国内を走り回り、敗北を皆の前で告知する。

 とは言えこれでは勝負にならない、ズルの範囲でしかない。


「そんなことはしないわよ? だからさっさと彼の膝上から消し飛びなさい?」

「ここは妾の特等席じゃ、正午まで退屈じゃろうから妾の耳と尻尾を撫でる栄誉を与えようではないか、んっふっふっ」

「……へいへい」

 

 とは言え目隠しで撫でるのは難しい、耳ってこの辺かよいしょっと。


「ぬわーっ!? め、めがぁっ!?」

「あ、すまん」


 掴もうとしたら顔面、眼球近くを握ってしまったらしい。

 仕返しとばかりに顔面に尻尾が叩きつけられる、モフい。


「そのまま抉っても良いのよ? と言うよりなんで貴方『金』の結界を素通りできるのかしら?」

「……なんかできたんだ」


 しばらくして目隠しが解かれる、解いてくれたのは金の魔王だ。

 何故か片目が赤い、気にしないでおこう。


「ほれ、終わったようじゃな」

 

 周囲を見るがフォークドゥレクラが消えただけで変化は無い。

 エクドイクに成り代わっている可能性を考えたがそうなると本人はどこに消えたのかと言う話だ。


「ちなみに成り代わられた本人はどうなったんだ?」

「もちろん無事よ? ただこの勝負の間は貴方の視界に入らないように隔離させてもらっているわ?」


 ……さて、どう行動したものか。

 一応試してみるか。


「エクド、お前の野望はなんだ」

「ラクラ=サルフの地位向上だ」

「ラクラをどう思っている」

「世界が俺に与えた最大の試練」

「本物だな」

「えらい酷い話じゃの」

「金の魔王、お前が本物なら耳の毛を引きちぎられると悦ぶはずだ、引きちぎらせろ」

「そんなわけなかろうっ!?」

「本物だな」

「誰でもそう思うわ!」

「フォークドゥレクラはどうやって消えたか見たか?」

「特に変哲もなく自分の影に溶け込み、影ごと地面の中に消えていったの。既にターイズの中に居ると見て良いじゃろう」

「さあ、勝負はもう始まっているわよ? 急がなくても良いのかしら?」


 ……罠、と言うわけでもないよな。


「恐らくフォークドゥレクラが仕掛けようとしていた罠は記憶の写し取りだ。エクドから聞いた大悪魔の情報では大悪魔の中に記憶を読み取る『迷う腹』の二つ名の大悪魔がいるそうだな。そいつが影で協力することで過去の記憶や行動基準を本物とたがわぬように行動してみせる。こちらはその判断ができずに詰む、と言った内容だ」

「確かにその手段を使えばより高度な変装が可能となるな、だがそうなると暴く術が無いのではないか?」

「だから仕掛けようとしていた、って言っただろ。恐らくは紫の魔王がその方法を禁止していると見て良い」

「――ええ、そうよ? 流石貴方ね? フォークドゥレクラはその提案をしてきたのだけれどそれではフェアではないと私が禁止させたわ?」

「別に禁止させなくても良かったんだけどな、フォークドゥレクラの変身には致命的な欠陥があるわけだし」

「あらそうなの? 私から見てもフォークドゥレクラの変身は完璧だと思うのだけれど?」

「いや、そこが欠陥なんだよ()()()()()()()()()


 そういって紫の魔王の姿をしたフォークドゥレクラを見つめる。


「――何を言っているのかしら?」

「お前がフォークドゥレクラだ、紫の魔王の姿に変身しているんだろう?」

「なんと、しかしフォークドゥレクラはこの場では背中を見せておらんかったぞ?」

「『金』の言う通りよ?」 

「そんなもん()()()()入れ替わってたに決まってるだろう。俺達に合流する前からフォークドゥレクラは紫の魔王に変身、さっきまでいたフォークドゥレクラは何らかの分身か変わり身と言ったところだろう。そら、回答権を使ったんだから成否判定を寄越せよフォークドゥレクラ」

「だから私は――」

「ああ、もう良い分かった。紫の魔王の思惑通りに行動するとしよう。行くぞエクド」

「どこに行くつもりだ?」

「手っ取り早い答え合わせだ」


 話を切り上げて移動する、移動した先は紫の魔王が居住している屋敷だ。

 空き家だったのをトルトさん、いや紫の魔王が借家として借り出し拠点としている場所だ。

 中に入ると紫の魔王が出迎えてくれた。


「私の作戦はおろか、思惑まで読み取っていたなんて流石ね?」

「『自分に姿を変えさせ、その証明として自分の住まいに来させる』、フォークドゥレクラには認めさせないように命令していたと言った所か」

「……何故分かった、我が力は寸分違わず主様になりきっていたというのに!」


 フォークドゥレクラが変身を解き悪魔の姿となる。

 

「簡単だ、言葉に込められた感情がちぐはぐだった」

「感情……だと?」

「人との距離感を把握するのが得意でな、お前がこっちに掛けた言葉と金の魔王に向けた言葉に込められた感情があまりにも弱かった。人間に対してもっと好意的に声を掛けろと言うのも難しいだろうし他の魔王に対しても強い敵意を向けることに気が引けたんだろう」


 最初の違和感は紫の魔王のこちらに掛けた言葉、妙な乾燥感を覚えた。

 次に金の魔王に対する言葉、棘のある感じではあったが敵意があまり込められていなかった。

 これらからひょっとしてと推測した。


「ついでに言うならフォークドゥレクラの評価に対する信頼感やこちらが欠陥があると言った際の返事には微かな苛立ちもあった。紫の魔王はこっちに対して過去一度も苛立ちを感じたことはない」

「そんな……目に見えぬことから我の力を見破ったと言うことか……、そんなことがあるわけが――」

「そういえば同胞は他者の肉体に乗り移っていたラーハイトを初見で見破っていたな」


 そうなのである、初対面の人間の体に乗り移っていた奴にも気づけるのに、ある程度知った仲の相手に変身するなどわからない筈がない。


「フォークドゥレクラ、お前の力の欠陥は中身まで変身できないことだ。中身まで完全に紫の魔王になりきらなきゃ、『俺』は騙せないぞ」

「ふ、ふざけるな、そんなことをすれば自我すら変わってしまうだろうが!?」

「いいや、()()はいるけど案外戻ってこれるもんさ」

「――ッ! その目……なんだその目は……っ!?」

「む、変わってたか、意図的じゃなくても出るもんだな。イリアス達には内緒な」


 いかんいかん、下手な演技を見ていてつい『俺』としての立ち位置がぶれ始めた、落ち着くとしよう。


※2018/1/8 現在追記

読者様の意見により発覚したことですが、87話にて主人公が『暴露する脳髄』という二つ名の名前を知っていたとのことでしたが実際には『迷う腹』のことでした。

脳髄から腹に部位を変更した際に修正を入れるのを忘れたまま使用していたことをここに謝罪させていただきます。

該当部分は修正させていただきました。

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― 新着の感想 ―
自我だけ成り切るのと、見た目・記憶もコピーした上で自我も成り切るのじゃ、流石に戻れなくなりそう
フォーク氏 役者には向いていなかった。 主人公 悪魔までビビらせるんじゃない、 かわいそうじゃないかw
[良い点] 悪魔すら怖がる能力「理解」、恐ろしいな。
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