目下のところ一件落着。
そこは勇者ユグラの指示により黒の魔王が生み出した空間、現存する魔王達が満月の夜ごとに精神を運ばれ互いに情報交換を行わせる場である。
巨大な円卓には八色の水晶、金色、碧色、蒼色、緋色、紫色、無色が輝き黒色と白色は暗いままだ。
「んっふっふっ、今宵もまたこの日が来たのう」
最初に音を出したのは金、ガーネ国を統治する国王にして魔王である金の魔王だ。
「あら、今日はいつに無く元気ね? 何かいいことでもあったのかしら?」
「私はいつも変わらない……羨ましい……死にたい……」
「まあの、先に報告を行いたいものはおるか? 今回は少しばかり妾から御主等に話があるのでな、先に済ませられる話があるならば済ませてもらえぬかの」
「こちらからは何も無い」
「私もないわね」
「同じく……」
言葉を発したのは緋色、紫色、蒼色の三色、他は沈黙を保っている。
「『碧』と『色無し』は言うまでも無さそうじゃの、それでは話すとしようかの。――コホン、先々月にも言うたが妾が治めておるガーネに隣するガーネ魔界にて、どの魔王の物とも区別の付かぬ魔物の群れが目撃された。覚えておるな?」
「ああ、だがこちらとは関係の無いことだとも言った」
「そうねぇ、身に覚えがないわ?」
「同じく……」
「無論今問うたからと言って御主等が素直に白状するものとは思っておらぬよ。じゃがそろそろその規模がこちらの兵力に並びそうなのじゃ、故に対策を取らせて貰おうかと思っての」
「勝手にすれば良いだろう、わざわざこちらに確認するまでも無いことだ」
「御主等にも確認を取る必要はある、何せ『序列の呪い』を使わせてもらうやもしれんからの?」
暫しの沈黙、金の魔王は『序列の呪い』を使うと宣言した。
ユグラが話し合いの場において円満に進行させるためだけに魔王達に埋め込んだ呪い、その呪いはユグラ無き場では互いに使うまいとの暗黙の了解がある。
もしも金の魔王が序列の立場を利用した要望を提案した場合、それに拒否をした魔王は酷く不快な思いを植えつけられることになっている。
それは魔王達にとって明確な敵対行為、殺意の対象ともなりうる。
「血迷ったか『金』、ここにいる全員を敵に回すつもりか」
「それは……止めて欲しい……死にたくなる……」
「知恵の回る『金』の言葉には思えないわね?」
「んっふっふっ、別に今すぐ使うわけではない。今から問題を起こした者の正体を暴き、交渉を行うだけじゃ。関係のない御主等はその話を聞いた上で判断すればよかろう」
「ほう、その様子では特定を済ませているようだな」
こうなると先の発言の意味合いが変わってくる。
正体不明の相手に狙われているからと『序列の呪い』を利用すればそれは全魔王を巻き込む行為、金の魔王は全ての魔王から恨まれるだろう。
だがその相手を特定することができた上で『序列の呪い』を使うと言うのであればそれはその問題を起こした相手にも恨みが向けられる。
否、問題を起こした相手にこそ全員の恨みが向けられると言っても良いだろう。
「大きく出たわね? この中の誰がやったにせよ、それを当人が、他の魔王が認めるような推理を聞かせてもらえるのかしら?」
「それはやってみんとわからんがの」
「それじゃあ早速聞かせて貰えるかしら? 一体だれがこんな迷惑なことをしでかしたのかをね?」
「――それを御主が言うか『紫』、豪胆な奴じゃの」
「あらあら? ……それは私が犯人と言いたいのかしら?」
「うむ、御主じゃよ『紫』。妾は御主が犯人だと断言する」
金の魔王は愉快そうに言葉を紡ぐ、しかしそこには空間を隔ててもなお緊張感が漂っている。
「そう、随分と強気なのね? それじゃあ証明してもらおうかしら?」
「良いぞ、では何から聞きたいかの?」
「色々聞きたいところだけど……まずは理由が知りたいわね? 私が貴方の統治している国を襲う理由は何かしら?」
「まずはまともな理由からじゃの、攻められるのが妾の統治するガーネしか場所がないからじゃ。ユグラに滅ぼされ二度目の復活を遂げた妾達じゃが滅ぼされたことを気にしてか皆が慎重になっておる。故にお互いに居場所を知らぬであろう? 堂々と居場所を吐いておるのは妾と『碧』だけじゃ」
「ガーネ魔界からターイズ魔界への侵攻だって可能よね?」
「侵攻するだけならばな、じゃがここにいる者達では『碧』を不愉快にさせる程度で大した被害も与えられぬじゃろ。魔物共の規模も計測しておるがターイズ魔界を攻めるにはちと規模が小さすぎるからの?」
クリーチャー系の魔物は対人間ならば十分な脅威となる。
しかしターイズ魔界に存在するドラゴンと言った怪物を相手にするには烏合の衆でしかない。
侵攻が確認された時点で先手の迎撃を受けて半壊、その後は一方的な殺戮となるだろう。
「……まあそうよね? いずれかの魔王を攻撃したいと思っても現段階で攻められる場所は確かに『金』だけよね? そこは誰もが納得できるわね? でも攻められる理由はあっても攻める理由は何かしら?」
「それは妾に『序列の呪い』を使わせることじゃよ、正確に言えば他の者を『序列の呪い』で苦しめたいと言ったところかの」
「……なにそれ?」
「わざわざガーネ魔界の中央にこれ見よがしに魔物を集めた理由は発見される為じゃ。そうすれば当然妾が気付く、そしてその数を増していけば当然対処せざるを得ない。魔物を統べる力は魔族にもあるが魔物を生み出せる魔界を作れるのは魔王だけじゃからな、この中の誰かが犯人じゃと思わせられる。しかしその誰かが分からぬように魔界を弄り魔物の種類での特定を困難にしてみせた。コレにより妾は最終的に『序列の呪い』を使用してでも止めざるを得なくなる」
「そうね? せっかく育てた国を争わせて消費するのは避けたいものね? でも『金』が『序列の呪い』を使えば私も苦しむのよ?」
「――御主は苦しまん、むしろ悦ぶのじゃろ?」
「……はい?」
「自分が不快な思いをしてまで他者を不快にさせる利点は薄い、じゃが御主にとってそれが快楽ならば自分は得をして、相手には損をさせられる。良いこと尽くめじゃろ?」
「私がそういった性的嗜好を持っていると言いたいの?」
「うむ、最初は自らの屈辱よりも優先して苦痛を与えたい魔王がおるのかとも思ったのじゃが、何せ件の魔物はそういった歪んだ気持ちで生み出されておったからの」
「『金』、それはどういうことだ?」
ここに来て反応したのは緋の魔王。
「魔界と言うのは妾達の魔力が浸透した地域のことを指す。そして妾達の魔力にちなんだ姿の魔物が生まれる。ここまでは皆がユグラから教わった話、詳しく語るまでもないじゃろ。しかしの、御主等とて常に同じ気持ちで魔界を広げていったと言う訳ではあるまい? 魔力に込められた思いもまた生まれる魔物の性質を左右する要素なのじゃよ」
「……ふむ」
「『緋』の魔界には獣人を象る魔物が多いがの、御主自身の戦闘意欲や気分に応じてその魔力は性質を僅かながらに変化させておる。例えば好戦的な魔物は御主が昂ぶった時の魔力が起因していると思うがの」
「随分と詳しく調べたのね?」
「件の魔物は魔王本人の基本的な特質を薄め、特定の感情を昂ぶらせて生み出されておった。先も言ったが特定は困難じゃったが、不可能ではなかった。ついでに言うならばそこから動機もしっかりと漏れておったわ。他者を苦しめたいと言う、そして自らに降り注ぐであろう不条理への渇望がの」
「仮にそうだとして? それが私だと断言できるのかしら? 他の魔王だってひょっとすればそういう性格かもしれないでしょ?」
「特定できたと言うたじゃろ、メジスに生まれた下位悪魔と件の魔物には共通点があった。既に何名かには見分けが付く指標すら発見しておる」
「それをどうやって証明するのかしら? 貴方が見つけただけの根拠なんてはったりも同然じゃない?」
「どうしても全員が納得できるようにしたいのかの? まあ簡単じゃよ、その魔物達はガーネ魔界の近隣に用意されておった専用の魔界から生まれておる。既にその場所は複数発見済み、そこに御主が立てば良い、他者の魔界ならば御主にとっては毒なのじゃからな。身を挺すれば無実を証明することは簡単じゃぞ?」
「……そんな証明に私が付き合うとでも?」
「拒否しても構わん、その場合妾は『序列の呪い』を使い序列が上の順からその場に他の魔王を向かわせるだけじゃ。御主の序列は最後から二番目じゃが、そこまでさせたときに御主の立場はどうなるかの?」
「他の魔王が素直に言うことを聞くとでも――」
「俺は構わん」
突如声を放ったのは碧の魔王、序列三位の魔王である。
「だが俺にこの城を出ろと命じさせる以上は俺も貴様等に同様の命を下す」
「……こちらも異存は無い」
「私も無いわ……」
『序列の呪い』が使えるのは金の魔王だけではない。
序列が下の者がいるならば誰でも使えるのだ。
碧の魔王が『序列の呪い』を使うと宣言する以上、拒否を示す他の魔王は少なくとも二重の呪いを受ける事になる。
金の魔王以外は皆過去に『序列の呪い』をその身に受けたことがある。
不快な思いを嫌がる真っ当な性格ならば、それを二重に受けようとは思わないだろう。
「『碧』が乗ってくるとはの、妾の立場を哀れむ優しさがあったとは驚きじゃ」
「自惚れるな、感情の揺らぎが魔物の生態に関係する話に合点がいっただけのことだ。その上でそこの女が見苦しく足掻くからその退路を断ったまでだ」
「御主らしいのぅ……それで『紫』よ、妾に『序列の呪い』を使わせるかの? 正体がバレぬ以上は御主は単純に愉しめたじゃろうが、もしも御主が仕組んだことと全員が確信を持てば肩身は急激に狭くなると思うがの。ああ、御主には使わぬと約束しよう。妾も御主を悦ばせたいわけではないからの」
「ふふ、ふふふ、あっははははははっ! 思ったより簡単にバレちゃったわね?」
紫の水晶からノイズ混じりの笑い声が流れる。
それが魔力の昂ぶりによる通信障害を起こしたものであり、今紫の魔王の感情のゆれ幅を如実に示している。
「自白と見て良いのじゃな?」
「……ふふふ、これ以上は誤魔化しようがないということね? 認めるわ、そうよ私が仕組んだことよ?」
紫の魔王は愉快そうに認める、自分が魔物を用意しガーネに攻め入る用意をしていると。
「素直なのは良いことじゃな、ついでに大人しく魔物を下げてもらえるとありがたいのじゃがの?」
「それは残念ね? 私は認めた、だけど魔物を引き下げる必要はないわよね? 貴方は犯人を特定するために『序列の呪い』を使うと他の魔王を巻き込んだけど私は自白したわ? 当初の目的はご破談だけどそれなら貴方に純粋な勝負を持ちかければ良いだけの話よね?」
金の魔王による『序列の呪い』を使用させるという目的は破綻した、しかし物理的な障害は何一つ改善されていないのだ。
ガーネ魔界にはガーネに攻め入れるだけの魔物が今もなお鎮座している。
「確かにその展開に持ち込まれたとすると面倒じゃの。妾が『序列の呪い』で他の魔王に協力を求めることは妾の不甲斐無さ故になり、妾の身勝手ともなりうる」
「ええ、私が黙っていたなら巻き込むのは私のせいになるかもしれないけど私はもう自白したのよ? この先は巻き込むのは貴方の勝手になるわよね? それで貴方は私をどうやって止めるのかしら? 私に『序列の呪い』を使ってくれるのかしら? 他の魔王達にもそうしろと懇願しても良いわよ? どれくらい屈辱的な気持ちになれるのかしら? うふふ、ふふふふっ!」
紫の魔王の狙いは暴露された、しかし未だに紫の魔王の優位は変わらない。
彼女の狙いは『序列の呪い』を受ける愉しみを得ること。
そして他の魔王を苦しませることだ。
マゾヒストでありながらサディストでもある紫の魔王にとってせっかく用意した駒を利用しない手は無い。
「先も言うたが御主に『序列の呪い』は使わぬ、悦ばせたくはないからの。しかし他の魔王に使えばそれでも御主は悦ぶのじゃったな。いやはやロクでもない奴じゃの」
「ええそうね? でも私から言わせれば貴方達の方が不思議だわ? 不死の魔王となったと言うのにユグラによって屈辱的な呪いを与えられた……そのことに昂ぶらないなんて、勿体無いと思わない?」
「物は言い様だな。それで『金』よ、お前はどうするつもりだ」
「『序列の呪い』を誰に使おうとも『紫』の得じゃからのー、とは言えこのまま放置してはやがては侵攻され妾の国が痛手を被る。『緋』や、御主の作った魔界に好き勝手しておる『紫』を放置するのかの?」
「こちらは既にガーネ魔界を手放している、現段階では我が領地としてみるつもりは無い」
「つれないのう、『碧』と『蒼』には頼んだところで無理じゃろうし……どう落とし前を付けるべきかの?」
「お好きにどうぞ? でももうすぐそっちの兵力を超えちゃうから……早くしないと私から動くことになるわね?」
「うむ、そうじゃな。では交渉するかの」
「あら、話し合いで解決する気なのかしら? 私にとっては貴方の苦悩も悦ばしいことなのに、それを上回る交渉材料があるのかしら?」
「御主が退かぬのであれば、御主の居場所をこの場にいる全員に公開する。どうじゃ?」
「……何を言っているの?」
紫の魔王の声に僅かながら動揺が混ざる。
魔王の居場所、それは彼等にとっての弱点ともなりうる情報だ。
魔王達はそれぞれが勇者ユグラによって一度滅ぼされている、それは自らの居場所が露呈されていたが故に滞ることなく行われた。
その反省から蘇生後は自らの居場所を隠す魔王の方が多い。
例外は人間界に有益な存在として君臨している金の魔王と、人間の踏み入れぬ辺境に引き篭もるだけの碧の魔王だけだ。
緋の魔王と紫の魔王に至っては新たな人間界への侵攻に備えての潜伏期間中である。
それが漏れると言うのは避けるべきことである。
居場所が漏れれば人間達の襲撃の危険性が生まれる。
些細なことで激怒し、魔王であろうと容赦なく殺しに掛かる碧の魔王の視界内に捉えられる。
今はいないがあのユグラが再び現れる可能性もあるのだ。
闘争を歓迎する緋の魔王ならば開き直ることもできる、だが直接戦闘を望まない紫と蒼の魔王にとっては致命的ともなりうる。
「御主は自らの正体を隠して行動をした、それは即ち妾を敵に回しても他の魔王を敵に回したくないということの証明じゃ。屈辱に悦ぶ変態であれど他の魔王全てに背後を取られたくはないのじゃろう?」
「――私の居場所を貴方が知っているとは思わないわね?」
「御主は『籠絡の紫』、他者を拐かすことに長けておる。それ故に親しい関係になりうる魔族を生み出しておらぬ。それだけ分かっておれば御主の居場所を特定することは簡単じゃよ、生み出した魔物に思念を飛ばして集めておるのは御主自身じゃ。流石に小まめに集め過ぎじゃ、そこから探知されるとは思わなかったのかの?」
「……ハッタリね、貴方にそんな力は無――」
「クアマじゃろ、御主の居場所は」
「――ッ!?」
「これ以上細かく言うと他の魔王も愚かではないからの、交渉を前にして御主を窮地に立たせるのは忍びない……それで、どうするかの?」
「『紫』……私の創った魔界の傍にいるの? ……嗚呼、死にたい」
「――分かったわ、魔物は退かせるわ? でもどこに引かせれば良いかしらね? 北にあるクアマまで運んでしまえば人間達の目にもつくわよね?」
ガーネ魔界が隣しているのはターイズ魔界、メジス魔界である。
クアマへの移動ルートは魔界から出る必要があり、そうなれば人間達に目撃されその居場所が特定される恐れがある。
「『碧』の魔物達の餌にすれば良かろう? 『碧』も自分の魔物の食料になりに来るだけならとやかく言うまい?」
「……それで良いかしら『碧』」
「良い、入り口に集めておけ。供物を捧げる権利をやる」
「ついでに新たに生み出した魔界も無力化してもらおうかの、翌月までに残っていた場合は交渉決裂とする」
「……わかったわ」
こうしてガーネ魔界に集められた紫の魔王の魔物達はターイズ魔界付近にて碧の魔王が率いる魔物達に蹂躙されて壊滅することになる。
クリーチャー系の魔物が生まれる魔界も同様にその影響力を失いもとのガーネ魔界に飲まれていった。
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無事ガーネ魔界に存在していた魔物の群れの消滅を確認後の後日談。
言うまでも無く金の魔王に入れ知恵をしたのは異世界人の誰かさんです。
魔物を見て気付いたこと、それは絵画などのアートを見た時に感じられる僅かな感情の痕跡だ。
つまりは魔物には魔王の意思や想いが反映されていると気付いたわけですね、はい。
変態的なマゾヒスティックとサディスティックな意図が込められているまでは理解できたが、どの魔王の魔物が生み出した物であるかと言った確信は得られなかった。
しかし意図が見えたことで時間に余裕があるだろうという確信は得られた。
そこで素性が知られている魔物をエクドイクに捕獲してもらい、その作品の違いを観察して回ったわけだ。
全てが不発なら魔物の詳細が不明の『色無しの魔王』も候補に挙がってきて面倒なことになると思っていたのだが運よく共通する感覚を見つけることができた。
その後エクドイクにメジス産である他の種類の魔物を捕獲してもらい同様に確認を行って自信を持ったというわけだ。
準備を万端にし、金の魔王に演技指導をしたうえで定例会に参加させたのが大よその流れである。
証明するだけならば該当する魔界に魔王を一人ずつ立たせれば早い話ではあったが、それを他の魔王全員に了承させるには紫の魔王が犯人であると思わせる必要があった。
最初にこの提案をしようものならば『碧の魔王』あたりがきっと何故俺がと怒ってしまうだろう。
だが事前に紫の魔王を責めた上での証明話ともなれば最初に拒否をするのは紫の魔王だ。
他の魔王には見苦しい言い訳に見える、そうすれば他の魔王も証明に協力するだろうという打算があった。
「そこまでは良いにしても、『紫』の居場所を良く掴んだものじゃな」
「いや、紫の魔王の居場所についてはハッタリだったんだがな」
「なん……じゃと?」
「一応根拠はあるにはあったがな、ガーネ魔界の近くにいるのは分かっていた。ああ言う変質者ってのは場所に拘るもんだ。とは言えガーネ領土は平野、金の魔王の目を避けて堂々と隠れることは難しい。過去に『碧の魔王』に半殺しにあったことからターイズ周辺には近寄れない。メジスも自分を滅ぼしたユグラの聖地だ、過去自分が用意したメジス魔界にいる可能性はあるがメジス魔界に拠点を構えていれば元々の魔界の主の帰還と言うことになる。エクドイクの親である大悪魔も相応の対応は見せていていただろう。そうなるとかつて利用できていた蒼の魔王の創ったクアマ魔界あたりが無難な選択になる。とは言えクアマかクアマ魔界かは定かではなかったんだけどな」
無論、詳細を求められればそこでハッタリはばれる。
だが詳細が正解してしまえばそれは紫の魔王の自滅となる、そこを深く追求される可能性は無かっただろう。
他の者でも魔物の見分けが付く指標を見つけたという話もハッタリである、こちとら長時間粘ってやっとこさ感覚で掴んだレベルだ。
グラドナレベルの達人ならできる可能性は高いが簡単にはできないだろう。
ハッタリを通す方法は様々、例えば真実と組み合わせ理論が通るようにすれば良い。
誰もが理解できる真実に付随すればハッタリも信憑性を得るのだ。
次に不明瞭な点については多くを語らない、重要なポイントは端的に語れば良いのだ。
右か左と言った大よそな見当をつけて堂々と宣言する、それが一致すれば相手からは全てお見通しのように見えるだろう。
ちなみに外れた場合はカマをかけたことにすれば良い、金の魔王の胡散臭い喋り方ならばそれでも十分効果的だし取り返せる。
最後に大胆であることだ。
蒼の魔王についてはユグラの残した本から今回の様な手段を取らないと判断していた。
ラーハイトを使って暗躍していた緋の魔王もドコラの情報と含めると可能性は低い。
碧の魔王に至っては性格的に無理がある。
自然と紫の魔王と色無しの魔王の二択に絞られていた、これらの推理が外れていれば残る犯人は色無しに絞られる。
そう、そもそも金の魔王の推理自体がハッタリだったのである。