目下のところ一息いれましょう。
仮想世界内にあるガーネ魔界へと足を運び魔物が集合している箇所に向かった。
一般世界と魔界との境界線はパッと見では判断が付かない。
一応人間サイドが簡易的な杭とロープで境界線を作っている。
年々聖職者達などによる縮小活動もあり縮まっていく魔界に対して堤防などを作るメリットは薄い。
仮に作っておいたとしても魔界からはみ出してくる魔物によって破壊されてしまうのだ。
なので最前線となるこの場所には組み立て小屋の様な兵士駐屯所とターイズでも見られた物見櫓が見られる。
元々ガーネに現れる魔物は地を歩く獣人系の魔物が多いのだが鳥や竜を模した人型の魔物も目撃されている。
ターイズに出現するワイバーン系と比べれば脅威が低いが空から現れることも時折あるとか。
草原が荒野に切り替わっているあたり境界線としては分かりやすい。
浄化されてすぐに草が生える辺り植物の生命力は見事な物である。
逆を言えば魔界の魔力は自然に生える草木にも影響を与えると言うことでもある。
入った時に何かが違うと言う感触があったが個人的には大した変化は無かった。
しかしイリアスやミクスからすると肌がチリ付くような感覚があるらしい。
このガーネ城も魔界となっているために同様の違和感を覚えていたらしいのだが、野ざらしの魔界はそれがさらに顕著なのだとか。
生態系と言うよりかはそれらが持つ魔力に干渉していると見るべきか。
それならば地球の植物ならば普通に育成できるのではないだろうか。
暇があれば検証を行いたい。
荒野と言う時点で土地に栄養があるか悩ましいが……日光と水はあるんだよ。
魔界での移動を行うのだが、魔界には一般的な動物は近寄りたがらない。
ガーネで訓練された馬では魔界に入ることができずに徒歩となる。
半日ほど進んでいくと視界の先に黒い物体が見える、そこにあったのは魔物の群れが静かに佇んでいる異様な光景だ。
やはり写真と実物とでは感じる物が違う、あの時スライムに襲われた時の未知への恐怖が生存本能への警戒と合わさり寒気が止まらない。
魔物達はこちらを視認できる距離にいるはずなのだが反応がない。
金の魔王曰く、仮想世界ではこちら側から接触を行わない限りは動かないとのこと。
ぐるりと周囲を回り観察をしていく。
ファンタジーというよりはホラーに出てきそうな面々である。
一通り観察が済んだらイリアスに攻撃を行わせる。
攻撃を入れた瞬間に命を吹き込まれたかのように動き出し、周囲の魔物達も合わせて周囲にいる人間全員に攻撃を開始した。
こちらはさっさと仮想世界から引き上げてもらい観戦モードへ。
イリアスとミクスはしばらく戦闘を行ったがそう長くは続かなかった。
魔物単体でならばミクスは善戦でき、イリアスは無双できる程度の強さだ。
しかし数が異常だ、そして魔物達はお互いに遠慮をしあうと言う行動が見られない。
これが人ならば戦場で混戦になった時、味方の兵士をわざわざ巻き込むような真似は控えてしまう。
切羽詰まっていれば巻き込むこともあるだろうが感情のブレーキと言う物は存在するのだ。
だが魔物達は攻撃範囲に対象がいる場合は周囲への被害を考慮せずに突撃し、暴れ回るのだ。
ラクラが中央で結界を維持するだけで相当な数が同士討ちで死に絶えるだろう。
もっともこの数全てを同士討ちさせていては結界を維持する魔力が尽きて押しつぶされるのが関の山だろうと言うのが全員の見解だった。
ウルフェが同等の結界を使えればとも思うがやはり不確定なギャンブルはすべきではない。
検証を終え、仮想世界から現実世界へと戻ってくる。
仰向けの状態で目覚め、天井を眺めながら記憶を反芻する。
遊戯の時とは違い、現実世界でも同様の時間の流れを追従させることで負担を減らしている。
現在は昼過ぎ、およそ6時間分の記憶を保有して帰ってきている。
移動中の記憶は消してもらったが観察した記憶ははっきりと残っている。
実に便利な機能だ、金の魔王が付随していれば多少の過去にも遡り死者とも会話ができるのだ。
「さて、敵の脅威度は大よそ知れたが……どうしたものか」
絶望的な脅威とは言えないが脅威は脅威である。
今から防衛に力を入れたとしてあの無秩序な魔物の軍勢を防ぎきる手段はない。
ガーネはそもそも平野で高い城壁もないのだ。
ターイズ本国の様な厚く高い城壁があるならばやりようもあるのだが……。
ターイズを相手にするよりかはどうにかなるが犠牲を抑えなければならないと言う縛りが難易度を上げている。
さらに言えばその数は進行形で増殖しているとのこと、仮想世界ではそれ等を呼び集める魔王の存在が無いことから数は未来に進めても増えない。
しかし現実世界では着々と数を増しているのだ。
一ヶ月前と本日を起点としての仮想世界での比較から、今の段階ではまだガーネの数が勝っているだろうが半年もしないうちにその差は逆転するだろう。
「難しいじゃろ? この問題を解決する参考にでもなるまいかと御主等にはターイズを滅ぼさせる遊戯を行わせたと言う目論見もあったのじゃ」
「参考にもならんかったろうな」
「全くじゃ」
「おい、何をしている」
金の魔王の首筋に光る剣とイリアスのドスの利いた怖い声、起床してから迷いのない早業である。
ちなみにどういう状況かと言うとイリアスとミクスは卓の上に突っ伏していた。
こちらは事前に用意されたベッドの上、隣には人の腕を枕にしている金の魔王がいる。
数時間もこの体勢だったのだろう、腕が痺れていて辛い。
この金の魔王、恐らく三人を仮想世界に飛ばしてからこっそりと場所を移動したな?
油断も隙もない、ともかく起き上がり体調を確認する。
横になっていただけあって体の調子は良い、だが腕の痺れと集中力の欠如が目立つ。
魔物の軍勢を間近で観察したことの負荷もわりと馬鹿にならないようで、今度は普通に寝る必要がありそうだ。
「ミクス、通信の道具は持ってきているか?」
「はい、いつでも用意できますよ!」
マリトはメジスのエウパロ法王から通信用の水晶を二つ貰っていた。
詫びの品として秘術を渡すのはどうかとも思ったがターイズで再現するのはほぼ無理とのこと。
そもそもこの水晶がメジスにある鉱山でしか取れない貴重品なのだとか。
ともかくその片方をターイズを出る際にミクスが受け取っていたのである。
使用できるのはラクラとその方法を教わったミクスのみ。
イリアスも覚えようとしたのだが、ウルフェが無言でエクドイクに貰った鎖を見せてきたことが原因でイリアスには自重してもらった。
流石に替えのきかないものを破壊されては困るからね。
「ほう、面白い物をもっておるの。確かユグラ教に伝わる通信魔法の触媒となる水晶じゃな」
「今からターイズ国王のマリトに事情を説明する、金の魔王も傍で話に参加してもらえれば話が早いだろう」
「うむ、構わぬぞ」
ミクスが枕を拝借し水晶をセッティングして通信を開始する。
「む、水晶が光っているな。ミクスか?」
水晶から響くのは聞きなれたマリトの声、その声を聞いたミクスの表情がとたんに硬くなる。
そうそう、忘れていたがミクスは兄であるマリトを非常に敬愛している。
ただそれを拗らせていて本人の前では誰だお前と言わんばかりのあがり症を発症してしまうのだ。
「あ、兄様、えと、そ、そそのですね」
「落ち着け、――友は近くにいるのか?」
「は、はははい! い、いままままおうの」
これでは埒が明かないので割り込むことにしよう。
ひとまずこれまでの経緯を話す。
そしてガーネを狙おうとしている魔王の存在についてまで話を進める。
「ガーネ滞在二日目だと言うのに、どれだけ話を進めてくれたんだい君は。せめて一週間くらいに引き伸ばしてから小分けで情報を出してくれないかな?」
「それについては同意する」
ガーネに来て次の日に王様に呼ばれたと思ったら魔王で、勝負を挑まれそれに勝ったら衝撃の事実を聞かされ、現在はその魔王を狙う魔王についての対策を考えているという状況だ。
一晩で急展開にも程がある、これを小説にしたら一冊のほとんど行くんじゃないのか。
何か妙な電波が湧いて来たが魔物を見すぎたファンタジー脳の弊害だろう。
「しかし金の魔王の能力を知れて納得できたよ。近年ガーネの統治で取られる政策には前例のないリスクが高い手法を躊躇無く取り入れる傾向があった。仮想世界で事前に試行錯誤を行えていたのであれば自信を持って実行できたのは自然な流れだからね」
良く分からない次元の話だと言うのに、マリトの理解力はファンタジーに適応している現代日本人にも匹敵するほどに高い。
「大よその話は分かった、君がガーネ国王――いや金の魔王に協力したいというのならば止めはしない。だが君の身の安全を第一に立ち回ると言う約束だけは守ってもらいたい」
「それについては約束するし第一ミクスがいるだろう。きちんとこちらの護衛を第一に考えて行動していて頼りになっているぞ」
「そうか、良くやっているなミクス」
「いや、あの、そそその、はいっ!」
突如話題を振るのは程ほどにしておくべきだろう、しかし褒められて喜んでいるのは分かるので意地悪はしたくない。
声だけだと言うのにマリト本人を前にするとここまで緊張するミクスではあるがマリトへの恋愛感情はないらしい。
事実マリトにルコを紹介したことは既に知られているのだが、ミクスからは感謝されるわ、先走って花嫁衣裳を手配しようとするわで大変ではあった。
嫉妬なども感じないが……果たして女心と言う物は複雑で読みきれるものではない、その辺は追々丁寧に理解していくことに務めよう。
そもそもマリトに対する他者の反応がどれも過剰なのだ、ひょっとして常時魅了魔法でもばら撒いているのかねアイツ。
「それと、金の魔王の策略である可能性も捨てずに行動することだ。相手は魔王、しかも男を惑わす女狐だ。油断はしないようにね」
「横から聞いておれば酷い言い草じゃな、賢王と聞いていたが存外に器の小さい男じゃのう。狐なのは否定せんがの」
まあ、狐の亜人ですからね。
過去話とか容姿については説明していないのに良く言い当てられたものだ。
「貴様が他国へ配慮しない考え無しの政策を行ったおかげで、我が国には山賊共が流れ込み非常に迷惑を被った。能力に頼った統治しか行えぬ王を信用しろと言うのは難しい相談だ」
「山賊の討伐程度さっさとこなせぬ御主の国が臨機応変さに欠けておるだけではないかの? んっふっふっ」
「――ほう、良く吼えたな『黄の魔王』」
「そちらこそ、余程妾を敵に回したいようじゃな小僧」
お互い売り言葉に買い言葉な喧嘩腰である。
イリアスとミクスも金の魔王の物言いには怒りを見せているがそれ以上にマリトのイラつきに萎縮している模様。
そういえばマリトが怒っているシーンなどイリアスが誰かさんの護衛を失敗した時くらいなものだ、普段怒らない者の苛立つ姿というものは割り増しで怖く感じるのだろう。
さて、このまま二人に会話させていては表に出ろの流れから戦争が始まりそうなのでさっさと話を進めよう。
「マリト、こっちはこっちで巧く立ち回るがそっちはターイズ魔界の様子にも注意してくれ。序列は金の魔王よりも下だが実力は最強の『黒の魔王』に喧嘩を売るくらいに危険な『碧の魔王』がいるんだ。干渉をしなければひとまずは安全らしいが既に復活していることには変わりない」
「ああ、メジスのエウパロ法王にも情報を共有して、するべきことをしておくよ。……くれぐれも気をつけるんだよ、帰ったら美味い酒でも――」
「そういう話はやめろ、縁起が悪い。いつも通りに戻ってくる、それだけだ」
「あ、うん」
しれっと旗を立てようとしやがって、この世界には死亡フラグなる概念は存在しないから仕方ないとは言え不安になるじゃないか。
こうして通信は終了、マリトの過保護っぷりならばガーネにラーハイトに関する情報がない以上さっさと戻って来いと言われる可能性も考慮していたが……どうやらある程度は自由に行動させてくれるらしい。
「なんじゃあの小僧は! いけすかんの!」
「仮想世界でやらせたことを思い出そうな?」
世界の怨敵である魔王から『ちょっとお前の国を想定で滅ぼす遊びをしてたんだよ』と言われて仲良くする王様がいるものか。
金の魔王も仮想世界のシミュレーションで散々煮え湯を飲まされた相手だ、互いにヘイトの初期値が高すぎる。
隣国同士仲良くしてもらわねば困るのだが、やはり隣国は仮想敵国として認識し合うのが世の常なのだろうか……。
割と共通の趣味とかで盛り上がりそうな二人に見えるんだがな、流石にくっつけるのは無理だろうけど。
――切り替えるとしよう、マリトに許可を貰えた以上こちらも行動範囲が広がる。
他の魔王と直接対話ができれば探ることも可能ではあるが現実的ではない。
金の魔王でさえ月一の定例会で言葉を交わし合える程度、他の魔王の居場所なんざ然う然う分かるものではない。
姿も正体も分からない敵さんだが、情報はある程度取り込めたつもりだ。
金の魔王の仮想世界で魔物達の姿を直接目撃できたのが何よりも大きい収穫だった。
魔物は今までスライムしか見たことが無かった、それ故に気付かなかったことがあったのだ。
調子の良い段階でそのことを吟味できたのはでかい。
「よし、寝る。流石に心を休めたい」
「そうか、このままここで寝ても良いぞ」
ポンポンと出しっぱなしのベッドを叩く金の魔王、ベッドの質は良いが副産物があるのでは睡眠妨害もいいところだ。
「イリアス達みたいに魔界の影響を受けない身としては人の少ないこの城は寝床として悪くないんだが、そうなると護衛の二人が休められない。それに寝る時は一人じゃないと熟睡できないんでな」
「つれないのう、子守唄を謡ってやっても良いのに。妾の唄なんて滅多に聞けぬのじゃぞ?」
「成功報酬にでも貰うとするさ、じゃあまたな」
金の魔王と別れ、屋敷へと戻った。
ウルフェは既に起床しており、玄関先の庭で一人エクドイク製の鎖で特訓していた。
ラクラは未だ熟睡とのこと、イリアスとラクラは記憶すら残っていないから心身共々ほとんど疲労が無いはずなんだがな……。
ふとウルフェの操る鎖を見るとその動きが異様に活発であることに気付く。
昨日も同じ光景を見たが一日でここまで変化するものだろうか。
興味深そうに見ているとやりにくいのかウルフェがこちらに言葉を投げかけてくる。
「ししょー、どうかしましたか?」
「いや、昨日よりも随分と鎖のコントロールが上手くなったなと思ってな」
「言われて見れば……」
「きんのまおーのかそーせかいで、どういうとっくんがいいのかしらべました!」
「はい、ウルフェちゃんはずっと修行していましたからね!」
「ああ、なるほど」
勝負に使われていた仮想世界の経験は初期化されてしまう。
半年近く肉体の鍛錬と模擬戦闘を経験していた本人がその初期化の虚しさを実感しているのだから間違いない。
だが初期化されてしまうだけで検証などは可能なのだ。
ウルフェは仮想世界でほぼ人生を一周できるだけの時間を過ごしその大半を鍛錬に費やしていた。
身体や精神に得られる経験値はゼロ、無駄な行為にも見えるがどういった成長をするのかと言う結果は知ることができたのだ。
仮想世界でも鎖を使用した特訓をかなりやったのだろう、どういった訓練が自分に最適かを見出し、その結果だけを持ち帰った。
そして今のように最も効率の良い方法を現実世界で実行できると言うわけだ。
このことだけでもウルフェにとって非常に価値が高いことだろう。
「一番の勝者はウルフェなのかもしれないな」
「どういうことですか?」
「こっちは仮想世界での経験をたった一回で終わらせてしまったからな。得られるものなんて後味の悪いものだけだった」
「うむ……私に至っては負けたと言う結果しか残っていないな」
「そうですな、得るもので言えばウルフェちゃんが一番でしょう」
強いて言うならば金の魔王と一対一で話す機会が持てたこと、イリアス達をゲーム終了前に助け出せるよう立ち回れたことが得られたメリットか。
後者は必要だが利益は無く、前者は得る物は多いが後でも得られる物だ。
もう何周か周回していれば色々試せたのだろうが……そうだ、仮想世界で魔法を学べば良かったんじゃないか。
今さらに気付く、才能がないとは言え魔法を使う術を研究すれば何かしらの切っ掛けは掴めただろうに!
異世界での魔法使いデビューはまだまだ先になりそうである、マリトにも一応お願いしているんだけどな……。
「ししょー、なにかつらいことでもありましたか?」
「いや、結局自分も勝敗に囚われていたんだなって反省しているところだ」
「?」
やはり遊戯は楽しんでこそだ、ウルフェに教えられることになるとは師匠失格である。
とりあえず笑いながらウルフェの頭を撫でて誤魔化す。
そんなウルフェだが修行の末にパーシュロを倒すことはできなかった。
十年先、二十年先のパーシュロも同様に強さを磨いてはいただろうがウルフェの才能が最後まで通じなかったのだ。
我流ではウルフェのこの才能は活かしきれない、イリアスやラグドー隊の面々を相手としての実戦も効果は高いのだろうがウルフェには合っていないのかもしれない。
ウルフェが強さを求めている以上は何かしらの手助けはしてやりたいところだが……。
やはりエクドイク辺りに相談してみるのが良いだろう、アイツはウルフェの才能を勿体無いと感じている者の筆頭だ。
今回の件も魔界で育ったとだけあって何かしらの事情通として知恵を貸してくれるかもしれない、……いっそ呼び出してしまおうか。
あ、そういえばアイツもいたな。
――色々と考えが湧いてくるがひとまずは寝るとしよう。
「それじゃあ一度寝るから夕飯にでも起こしてくれ」
「はい、おやすみなさいししょー」
「私達は交互に休むとしましょうかラッツェル卿」
「そうですね、では私が先に番をしますので」
「いえいえ、私はまだ眠くならないのでラッツェル卿から」
「いやしかし、ミクス様の方が――」
マリトと会話したことで未だに熱が残っているミクスと上司の妹君相手よりも先に寝にくいイリアスの不毛な譲り合いを後にして屋敷で用意された一人部屋に向かい、部屋に入るや真っ先にベッドに倒れこみ息を吐く。
金の魔王の用意したベッドに比べれば質は落ちるがそれでもイリアス家よりも何倍も豪華だ。
旅行先でちょっと奮発したホテルにも負けない寝床、ケチをつけていてはこの世界に来て間もない自分に怒られる。
こう言ったときは木刀を眺め、野宿生活を思い出す。
うん、今の環境は至って高水準で恵まれている。
さっさと寝てしまおう、時間が経てばウルフェが起こしに来るしその前にラクラが問題を起こさないとも限らない。
眠ろうと思えば眠れるが体力はほぼ満タンなのが邪魔をしている、羊でも数える要領で事務的に考えながら寝るとしよう。
現在復活している魔王は金の魔王を含めて六人、いずれかがガーネ魔界にてクリーチャー形の魔物を作り出しガーネ侵攻を企てている。
目下のところ、金の魔王の自作自演は排除できる。
残り五名の魔王……一人は除去できるとして残り四名……。
性格を想定したとして……残り三名……。
立場を考慮して……残り二名……、どちらか……いやどちらでも……。
「……眠れん、ラクラの立場向上計画に切り替えよう」
およそ十数秒後、脳内の自分が匙を投げる光景と共に安らかに意識は眠りに落ちた。