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目下のところ深く突き刺さり。

 まずは冷静に考えよう。

 今目の前にいる男はラーハイトと名乗った。

 現実世界ではその肉体は既に死んでいて、現在は子供の姿と聞いている。

 私は直接その本来の姿を見たことはない、ラクラも同様だ。

 しかしウッカ大司教からの調書などを元にその風貌の情報は聞いている。

 ラクラも当然その話は聞いている、ウッカ大司教に取り入っていると言うことはラクラにも接触していた可能性が高かったからだ。

 その姿は完全に一致、緋色の腕輪も見られる。

 恐らく話に聞いているラーハイトで間違いはない、だが何故この男がこのタイミングでターイズに?


「イリアス、どうかしたのか?」

「あ、いや、てっきり女性が来るものかと」

「なんだよそれ。ああそうか、マーヤ大司教も女性だしな」


 上手いこと誤って解釈してくれていたようだ。

 現段階ではラーハイトの脅威は確認されていない、ここで事を荒立ててはいけない。

 落ち着こう、ここで動揺して彼に警戒されては元もこうもない。


「(うう、私と尚書様の思い出が酷い形で塗りつぶされています……)」


 めそめそと私の中で泣いているラクラ、とりあえず彼女はこの仮想世界にいないと見て良いだろう。

 彼の考え方を真似つつ状況を整理してみよう。

 まずラーハイトの目的は言うまでもなくドコラがこの国に持ち込んだ魔王に関する書物だ。

 本来ならばウッカ大司教を催眠魔法で操り、ラクラを派遣させメジスの暗部を陰で動かしていた。

 しかしラクラはいない、ならば他の人員を使うはずだが……ああそういうことか。

 ラクラならば奪えるとの算段だったが彼女のいないこの世界でのウッカ大司教が選ぶ人材は有能で、つまりは本を奪い難い相手となる。

 だから手っ取り早く自分で足を運んで来たと言うわけだろう。

 この世界に私は存在しない、だが正体不明のガーネ国王がイリアス=ラッツェルの枠に埋まっている以上は誤魔化しが利いている。

 誤魔化すも何も本人なのだしな。

 ラクラと言う存在がないことで歴史は確実に変化している。 

 完全な再現は不可能と見て良いだろう。

 既に彼と陛下は接触、本の知識もそろそろ手に入る時期だ。

 ターイズの知識の大半は手に入っていると見てよい。

 今すべきことはラーハイトと彼が接触したことで彼の身に危険が及ばないように注意を払うだけだ。

 なにせこの先、彼の護衛として任命されるかどうかも怪しいところなのだ。

 私に対する周囲の評価は上がっているが、元から評価をしていてくれていた者に対してはその逆だった。

 ラグドー卿を初めとするラグドー隊の面々、陛下、他にサイラ等もそうだった。

 サイラに関しては有望な新人騎士といった感覚で好感は持たれていたようだが他の者達はやはり共にいた時間の長さの差が大きいのだろう。

 彼と親しいと言う利点があるからこそ今この場にいられるのだ。

 村の巡廻は以前よりも格段に早く何事もなく進んでいく。

 

「(うう、ラーハイトが結界を設置しているのは一緒なのですが……手際が良いです)」


 本が村にある可能性も考慮した上での探知結界設置、ラクラの設置速度の遅さも相まって数日掛かった作業もこの様子では二日もいらないだろう。


「(そうです、夜に私は尚書様に接触し情報を聞き出そうとしたのです! ラーハイトもきっと誘惑魔法を使ってくるに違いありません!)」


 流石に誘惑魔法は使わないだろう、男同士だぞ……まあ、悪くないとは思うかもしれないが。

 ラーハイトの使用していた催眠魔法の方が効果も利便性も高いだろう。

 一日目の作業が終了し、村に宿を借りる。

 私は彼の隣の部屋に陣取り聞き耳を立てて寝ずの番、何かあれば斬り込もう。

 すると彼の部屋に来客者、ラーハイトだ。

 よもやラーハイトもラクラと同じ行動をするとは……これはどちらの評価を上げ下げすべきなのだろうか。


「おや、ラーハイトさん。どうかしましたか?」

「夜更けに申し訳ありません。眠れずに少し歩いていましたら部屋から灯りが見えましたので……ご迷惑でなかったでしょうか?」

「(私と同じ台詞ぅ!?)」

「構いませんよ。今日書き留めた事を資料にしていた所です」

「尚書さんはとても熱心な方なのですね。拝見させてもらってもよろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ。ベッドにでも腰掛けてください」

「(イリアスさん! もう斬り込んでください! これ以上は私の思い出が!)」


 そうは言うが当たり障りのない挨拶の途中に飛び込むわけにも行かないだろう。

 まさか全く同じ会話の再現と言うわけでもないだろうに。

 しばらく会話を聞いていたがこれと言った急展開も無くラーハイトは部屋を去っていく。

 

「(おかしいです、私は誘惑魔法に失敗してここから尚書様の扱いが散々な目になったと言うのに……)」

「そこに疑問を持たれてもな……彼は誘惑魔法が効かない、ならば催眠魔法も同様だった可能性はあるだろう。ラーハイトは気取られずに失敗に気付いて部屋を去った、そうも見られる」

「(うう、ここから先の思い出は守られましたがなんだが釈然としません……)」


 次の日もこれと言った変化も無く村巡りは進んでいく。

 しかしラーハイトが何軒目かの教会に入った時、彼が私に話しかけて来た。


「イリアス、もしかしてラーハイトみたいな男が好みなのか?」

「なっ!? そんなわけが無いだろう!」


 思わず胸倉を掴みそうになったが堪える。

 そういえばこの世界では彼に掴みかかることが無かった。

 関係を保とうと必死になっていたと言うこともあるのだが、二度目なのだ、驚くことが少ないのである。

 

「違うなら良いんだ、どうもイリアスは彼を意識していたようだからな」


 気取られていた、彼は人間関係の距離感に敏感だと言っていたのを思い出す。

 しかしそう思われていたのならばむしろ乗っかっておくべきだったか?

 ……いや、それはない。

 ラーハイトは顔立ちは良いがどうも好きになれない。

 敵だと言う先入観以前に、こう、相性が悪い気がしてならない。

 嘘をついたところで見破られるのは時間の問題だろう

 

「マーヤ大司教の様な厳格な方かと注意していただけだ。どうも違ったようだがな」

「ああ、言われて見れば好意的というよりは警戒していたって感じだったな。硬くなっていたからついな」


 普段から突拍子も無いことを口走っていることが多いと思ったのだが、こうして隠し事を持って接していると彼の鋭さは恐ろしいことこの上ない。

 

「だがラーハイトは妙にきな臭い、気をつけておいて損はないな」

「そ、そうか」


 既にラーハイトにも何かしらの臭いを感じ取っているのだろうか。

 ここは少し尋ねてみるべきか、普段の私なら軽い詮索くらいはしていただろう。


「しかしきな臭いとはどう言った意味だ? これと言って怪しい素振りをしているようには見えなかったが……」

「曖昧な感覚だからなんとも言えないがな、だが多分アイツは悪人だ」

「……」


 思えば彼が出会った相手を明確に悪人呼ばわりするのは初めてかもしれない。

 現実世界でのラーハイトとの接触は既に悪行が露呈した後、言うまでもないだろう。

 しかし彼は出会う人への感想を述べることはあったがここまではっきりと悪人呼ばわりしたことは無かった。


「私はどうすれば良い?」

「下手に警戒してもな、悪さをするにも隠れてこそこそやるだろうからある程度は泳がせて置いた方が良い。戻ってからマリトに相談しておく、今は深く悩まなくても大丈夫だろう」


 そういって彼は村の観察をしていたウルフェの所へ歩いていく。

 ラーハイトの脅威など大したこともないと言わんばかりの余裕っぷりだ。

 話を私に振ったのも私への忠告だったのだろう。


「(何と言うか、いつもより尚書様が頼もしいですね)」


 全くだ、いつもはそういった素振りを全く見せず勝手に……うん?

 そういえば彼の私への反応がどうも違っていないか?

 口調や接し方は近いのだが、どうも優しいと言うか話を振ってきてくれると言うか……。

 そうか、この世界の彼は私をほとんど弄ってきていないのだ。


「そういえば脳筋だの、怪力化物だのと言われた覚えが無いな」

「(言われたいのですか?)」

「そんなわけあるか」

「(でも言われて見れば……別に距離感が遠いと言う感じでもないですし……ああ、そういえばイリアスさんって尚書様に実害与えていませんよね?)」

「いや、現実世界でも別に与えたことは……」

「(胸倉掴んで力いっぱい揺らしたり、袋詰めにして担いで運んだり、鉄の塊である鞘で何度も小突いたり、挙句痣ができるまで絞められたりと聞いていますが)」


 ……そうだな、まあそれくらいは軽い交流のうちだろう。

 しかしこの世界ではそれらは無い、目の前で戦闘を見せたことはあるが。

 それだけの行為の違いでこれだけの変化があるのか、現実世界の彼にはどれだけ私が暴力的に見えているのだろうか……覚えていたらもう少し優しく接するとしよう。

 結局これと言ったでき事も無く村巡りは終了。

 ラーハイトはしばらくマーヤ大司教の元で活動することになる。

 手を出し難い位置に陣取られたものだ、マーヤとの交流がない以上彼も私も迂闊に近寄れない。

 何かしら動くとなれば陛下の力添えが必要になってくるだろう。

 散々通っていた教会がこうも近寄りがたいとは不思議な感覚だ。

 もっと色々と彼と相談したいところだがそうも行かない。

 ラーハイトの目的は本、その本の存在はまだ私は知らないことになっている。

 あくまで怪しい相手、彼が悪人と言ったことを気にしている範囲での行動をとる必要がある。


「なんてまどろっこしい。叩き斬ってしまえれば早い物を」

「(尚書様が温和な分、イリアスさんが物騒になってますね)」


 ラクラがいた場合、メジスの暗部がこの国に送られてくる。

 その暗部がこの国に居るガゼンを殺害してたことでその存在が露になる。

 だがそれらの要素が存在しない以上ラーハイトが確実に黒と判断できる行動を取るまで泳がせるしかないのだ。

 しかしラーハイトが動かないまま緊張の解けない日々が続いていく。

 

「貴公には本日より要人警護の任を与える」


 ついには何事も無いまま陛下に呼び出され、彼の護衛を命じられた。

 懸念事項の一つであった彼の護衛への昇格だがこちらは無事に達成できたようだ。

 彼の命の危険性が脅かされることとなる暗部との戦闘が無ければ難しいと思っていたのだが……。

 これを素直に受けるよりかは浮かび上がる疑問について質問すべきか?

 以前の自分ならどうするかを考えながらの行動は精神的に磨耗が大きい。


「陛下、彼の価値について疑問を抱いているわけではありませんがターイズにおいて彼の素性を知っている者はごく僅かです。護衛を付ければ彼の特異性が浮かび上がるのではないでしょうか?」

「良い質問だ、確かに彼は立場上尚書候補の一人に過ぎない。だがどうもユグラ教の方に芳しくない動きがある」

「……ラーハイトと呼ばれる者のことでしょうか」

「察しが良くて助かる。彼と相談し我が国の暗部にラーハイトを監視させていた。その上でどうも奴には別の目的があるように思われ、場合によっては彼に被害が及ぶ可能性があると判断した」

 

 恐らく聞きだせるのはここまでだろう。

 踏み込むべきか、否か……。


「その詳細についてはお聞かせ願えないのでしょうか」

「知れば貴公とて日常に戻れる保証が無い」

「その程度ならば問題ありません。私は騎士です、友を置いてのうのうと生きる道は選びたくありません」

「……友よ、構わないかい?」

「ああ、大丈夫だ」

「では事情を話そう、貴公が討伐したドコラは覚えているな。あの山賊が所持していた本を我々は手に入れ、解読を行った。そこには死霊術や魔王についての記述が書かれていた」


 陛下は本の内容を大まかに説明してくる。

 本の筆者についての話などは明かさず、魔王が蘇ると言う話までを伝えた。

 驚く振りだけはしておく、一応鏡を見ながら練習はしていたのだ。


「ラーハイトの目的は十中八九本の回収、メジスに保管されていた本であることも確認が取れている。だがターイズ支部の大司教であるマーヤとの連携が皆無で独断での調査が見られる。マーヤとてこの本の存在やドコラが持ち込んだ可能性については知っている筈だが動きが無い」

「……マーヤ大司教への疑惑があるのでしょうか?」

「表向きに協力が行われていない理由はそれで間違いないと見て良いだろう。だがそれだけではない、彼の指示で事前にこの城に入る高官に監視を配備していたところにラーハイトの接触があった。その者を引き続き監視していたところ、宝物庫への侵入があった」


 十中八九催眠魔法だろう、本国を調べるに辺り城の内部へは侵入が難しく探知結界を張るなど以ての他だ。

 そこで城に出入りする者への催眠魔法による傀儡化、調査を始めたと言うことだ。


「その高官、今は?」

「調べて見たが前後の記憶が不鮮明だった。恐らくは催眠魔法を使用したのだろう。ひとまずは泳がせている、だがメジスの国の者がターイズの高官にそういった魔法を使用することは責任問題に発展する危険な行為だ。一司祭の独断で行っているとは思えない」

「メジス内に独断で行動を行っている者がいるか、もしくはラーハイトの陰には別の誰かがいるんじゃないのかと言う結論に至ったわけだ」


 やはりこの二人が揃うと展開が速い。

 確実性は無いにせよ既に魔王の影まで捉えているのではないだろうか。


「催眠魔法で傀儡にされては誰が敵になるかもわからない。だが高い魔力を持ち、事前に備えている者ならば対処は可能だ。彼と親しい仲であれば彼自身もその変化にも気付けるだろう」


 確かに、そういった意味では私は適任、ウルフェも同様の真似はできるが実力不足は否めないだろう。

 こうして私は彼の護衛の立場にまで再現することに成功した。

 

「どうにかここまでこれたな」

「(はい、多々変化はありましたが無事に尚書様の信頼も得られましたね)」


 久しぶりにベッドの上で一息をつく。

 なかなか気苦労が多かったが無事に済んだことで幾分かほっとする。

 関係の初期化と言うものはそう何度も経験したいものではないと言うのが素直な感想だ。

 今回の周回では戦争の準備は何もしていない、宣戦布告後は一方的に滅亡するのを待つか、投了になるだろう。

 だが再び親しくなり現実世界と同じ関係に近い状態の彼から情報を得れば次の周回では無事に――

 無事に……あれ、なんだこれは。

 何かが致命的に間違っている。

 この仮想世界の彼は現実世界と同じ知識と経験を得て、ターイズを滅ぼせるだけの知識がある。

 後はガーネとの戦争が始まってからでも事情を説明し、彼からターイズを滅ぼす方法を聞き出せば良い。

 ここまでは間違いがない筈だ。

 三周目の彼曰く、四周目の彼も同じように協力してくれる可能性は低いだろうとのことだった。

 四周目の彼はターイズで生活をした、それ故に自分が世話になったターイズを裏切る真似はしたくないだろうと。

 だから五周目のターイズへと剣を向けるための方法を聞き出せば良い、裏切られたことについては恨まれるだろうが、説得もそう難しくないと。

 この世界の彼は間違いなく現実世界の彼と同じだけの情報を持っている。

 ほとんど同じ経験を過ごしてきたのだ、それは間違いがない。

 同じ経験……同じ関係……。 


「……ッ!」


 唐突に吐き気が込み上げる、近くにあった掃除用のバケツを掴み嘔吐する。


「(イ、イリアスさん、大丈夫ですか!?)」

「なんてことだ……私は……私は……ほとんど変わりの無いこの世界の彼を裏切らなければならないのか?」


 二周目、三周目の彼はどこかよそよそしかった。

 姿形が同じであれど他人の様な感覚もあった。

 だが四周目の彼は現実世界の彼と同じなのだ。

 共に山賊を倒し、ウルフェの世話を見て、共にここまで過ごしてきた……。

 その彼を裏切り、この世界ごと捨てて次の世界へと旅立つ。

 そんなことをしでかしてしまうのか、私は。

 それは、現実世界の彼を裏切るのと何が違うのだ?

 

「私は彼を守ると誓った……彼のために……彼のためにと……」


 この世界の彼が私に伝えた言葉、見せた表情、向けた想い。

 そのどれもが現実世界の彼と……違いは無い、同じ、同じなのだ。

 いや、これは仮想世界、ここにいる彼は金の魔王の力によって生み出された存在であり――

 堪らず吐く。

 現実世界の彼のために私はこの仮想世界で努力を重ねてきた。

 その結果、彼そのものを裏切ることを行わなければならない。

 現実世界、仮想世界、その名前が違うだけで他は何一つ違わない世界で。

 守ろうと誓った者を、私は……。


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 六周目の結果を見届け戻ってきた。

 ウルフェの方にも動きはあったが、やはり気になるべきはイリアスか。


「二周続けて即座の投了、サブローなる御主にしてやられたようじゃの」

「イリアスの生真面目だ、こうなるとは思ったがな」


 三郎の狙い、それはイリアスの心を折ることだ。

 現実世界のために戦っているイリアスに、現実世界と同じ環境を再現させその全てを裏切らせた。

 イリアスは物語を紡ぐようなゲームをやったことなどない。

 ゲームの世界の命はゲームの中にあるに過ぎないと言った認識が持てないのだ。

 ましてや、現代のゲームすら遥かに凌駕するあらゆる物が本物と何一つ変わらない世界なのだ。

 四周目の開戦時、イリアスは四周目の『俺』四郎に事情を明かしてしまった。

 全てを話し、謝罪した上で五周目で全てを終らせようとしたのだ。

 その結果、イリアスは()()()()()()()

 イリアスの実力ならば非力な異世界人など返り討ちだったろうに、余程辛い言葉を浴びせられたのだろう。

 そりゃあ今の『俺』が四郎にしたことを同じようにされてみろ、敵認定どころの話ではない。

 許すとか許さないで済む話ではないのだ。

 三郎は四郎とオリジナルを利用してイリアスの心を見事にへし折ってみせたのだ。

 騎士として守ると誓った相手を裏切ることになったのだ、騎士道を重んじるイリアスのプライドは完全に瓦解していた。

 次の周回に入る時に経験した記憶は結果へと圧縮される。

 だから四郎に殺されたと言う結果こそ引き継ぐがその時に味わった苦痛などは本来残らない筈なのだ。

 だが三郎はその枠も超える方法を提示していた。

 そう、情報を祝日や祭の名前にして記録させる手段だ。

 四周目のイリアスはガーネが滅ぶ前に次の周回の自分へ戒めとしてありったけの想いを文章に綴り、次の周回に託したのだ。

 その効果は絶大、五周目のイリアスは開始早々に心が折られた。

 四郎に浴びせられた言葉の内容もご丁寧に引き継いじゃってくれているのだ。

 一年先に千近い祝日を入れるもんじゃないですよ、ほんと。

 そして六周目も即座にリザイン、現在は七周目だ。

 

「それで、御主の言った通りになったが……良いのじゃな?」

「イリアス組は負けで良い。引き上げてやってくれ」


 ――ああ、本当に胸糞悪い。

 この気持ち悪さを味わわせること、それが三郎からこちらへの素敵過ぎる嫌がらせであったのだ。


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[気になる点] この時、主人公が口を挟めてたら、四郎vs主人公を見れたかも知れない… 四郎をやり込めてみて欲しかった。
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