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さしあたって次の一手を。

 数日後、いつもの三人を連れて山賊拠点跡地の一つを訪れる。ターイズ本国から少しばかり距離のある場所ではあるものの、討伐後の捜索を済ませた場所で最も物資が残されている。こっそりと住み着くにはベストな場所だ。そこに先日の襲撃者、エクドイクは潜伏していた。


「来たか、ラクラ=サルフ!」

「その出遭う度に親の仇みたいな感じで叫ぶの止めにしません?」

「親の仇だろうが!」

「実感がないんですよねぇ。今度似顔絵か何か描いて頂けませんか? そうすればこうもうちょっと感情移入ができると言うか……」

「……良いだろう!」

「良いのか」


 嫌悪感こそあれど、既に殺気をまるで纏っていないエクドイクに毒気を抜かれるイリアス。まあそもそもラクラへの殺意って時点で長続きはしないものだよ。

 取り敢えず持ってきた食料を渡しつつ、周囲に視線を向ける。何と言うか色々と鎖があちこちに掛けられている。罠なのか、インテリアなのか判断に困る。


「エクドイク、ラクラに関してはエウパロ法王から面倒を見るように託される形になった。お前にとっては吉報だろう」

「ほう、つまりお前の采配でこいつの知名度を上げられるというわけか!」

「とは言え、今すぐに戦場に繰り出すようなことはしないがな」

「わぁぃ、流石尚書様っ!」

「む……それでは我が目的が果たされぬではないか!」

「まあ落ち着け、ラーハイトの刺客だったなら分かるだろう。ラーハイトがさらに続けて刺客を送ってくる可能性もあるんだ。パーシュロ以上の猛者をな」

「たしかに。お前の周囲にいた方が大物が引っかかる可能性は高そうだな」

「そもそもラーハイトの陰には魔王の姿もある。それ以上の大物はいないだろうに」

「そうなのか!?」


 驚きを隠せないエクドイク。こちらが地球人と言うことは知っていたのにラーハイトの素性はほとんど知らなかった模様。ひとまずは互いの情報を照らし合わせ現状の把握を行うことにした。

 エクドイクはメジス領土に接している過去の魔王の傷痕、魔界と呼ばれる侵食地帯を拠点とする悪魔の下で育てられていた。魔界と呼ばれる地域は複数あり、メジス領土に接している魔界は人間の間では『メジス魔界』とそのままの名前にて呼称されている。

 悪魔、元々人から転じた魔族とは違い、純粋に魔界で生まれた生物の中で高い知能を保有する種族。魔族から伝播したであろう人類の共通言語を学習しており、人間への警戒心も強い。悪魔と言うニュアンスが物騒ではあるが、実際の所彼らが純粋な魔族と言うべきではないだろうか。

 特徴として長寿であり交配を行う必要がない。それ故に個としての強さを自負している者が多い。生まれたての悪魔は自らの力や地位を高めることを好み、戦いに明け暮れるのだが一定以上の格になると自分の縄張りで落ち着き始め、優雅な人生を送るそうだ。

 そしてその縄張りの広さが一定以上になると他の下位悪魔を支配下に置くようになる。従える下位悪魔の数が一定数を超えると大悪魔と呼称されるようになる。

 昔は大悪魔と呼ばれる存在は少なかった。その理由は魔界を生み出していた魔王の存在に関係する。魔王がいることで生まれる世界を支配するのは魔王本人に他ならないからだ。

 魔界によってはその配下の魔族が支配する地域もあるのだが、メジス魔界を生み出した魔王は勇者ユグラによって早々に退治され、配下の魔族も同様に消息を絶っている。

 エクドイクの父親はメジス魔界の領域三割を支配していた大悪魔ベグラギュド。残忍で強大な力を持ち、多くの有力な悪魔を従えていた。また人間への興味も強く、過去人間の集落を襲い多くの被害を生み出している。


「退治されて当然ですね」

「――そのことに関しては否定しない。愉悦のために人間達を襲い、差し出された生贄を育て襲わせようとしていた程だ。だが保身のために赤子を差し出すような人間相手に同情などせん」

「そもそもその脅威がなければ貴方は平穏に生きていたのではないのですか?」

「そういったもしかしたらの話は止めておけ。どっちとも疲れるだけだぞ」


 そんなわけでエクドイクは悪魔の襲撃に怯えた村が供物として捧げた赤子が成長した姿である。ベグラギュドはそれを食べることはせず、戦力として育てると言う娯楽を試みた。まさに悪魔の気まぐれである。

 エクドイクは歪みながらも着々と成長し、いよいよ自分を差し出した村への復讐を果たそうとしていた。そんな中、メジスから派遣された聖職者達が異様な快進撃で攻めてきた。言うまでもなくラクラを含めた聖職者パーティである。

 本来ならば人間界と魔界の境界付近での魔族退治が目的だったそうな。しかしその際にベグラギュドの配下である悪魔と接触及び戦闘、半殺しにあった悪魔は逃走した。それを追跡したことで悪魔の巣窟へと辿り付いてしまったのだ。

 本来ならば迂闊な立ち回りとしか言えないのだが相手が悪かった。ラクラはそこで大量の悪魔を滅ぼした。その中についでとばかりにベグラギュドが巻き込まれていたのだ。


「なんかこう、違いとかなかったのか?」

「そういわれましても、悪魔特有の高い魔力で微かな人型の異形の集団でしたから……」

「エクドイク、ベグラギュドには身体的な特徴とか無かったのか?」

「……」


 そりゃあ人間とは違った種族だ。人間よろしく服装とかの違いはあるまい。生き残ったのは他の拠点にいた悪魔達とエクドイクだ。

 ベグラギュドの支配していた領地は無法地帯へと逆戻りし、今でも多くの悪魔が領土争いに明け暮れているとのこと。間接的とは言え、ラクラの悪魔キル数は進行形で増えつつあるようだ。

 ここで本来ならばラクラへの評価は大悪魔ベグラギュドを打ち滅ぼした恐ろしい存在と悪魔内で広がる筈であった。しかしラクラのことを調べようと人間界に忍び込んでいた悪魔の証言によって話はややこしくなる。

 ラクラの普段のダメさや人間界での評価が明るみになったのだ。それを知った悪魔達は『そんなマヌケに瞬殺された大悪魔ベグラギュドって大したことなかったんじゃね?』と思い始め、他の大悪魔達もベグラギュドを無様だと惨めだの言い出したのだ。

 結果エクドイクは居場所を失い、人の姿であることを活かし冒険者として人間界へと住まいを移すことになっていた。


「どんだけ問題児だったんだお前は」

「普通にやっていただけなのですが……」

「接点の少ないはずのエウパロ法王が知ってる時点で相当だぞ」

「法王様の前でやらかしたことは……ちょっとした手違いで式典中に大聖堂の結界を壊してしまったことくらいですかね」

「よく分からないが酷いミスだというのは理解した」


 ターイズの式典で手違いを起こして城壁が崩落したらそりゃマリトでも目を覆いたくなる。むしろそれだけのことをしでかして司祭の立場でいられることが不思議だ。

 話を戻そう。人外の技を巧みに操るエクドイクはすぐさま冒険者でも有数の実力者となる。だが人との接触を嫌っていたエクドイクが関わる相手と言えば闇に生きる者達くらいであった。そういった付き合いを続けていたところにラーハイトと接触したのである。

 ラーハイトはエクドイクの戦闘技術が悪魔から教わったことに気付いており、接触してからそう遠くないうちに大悪魔ベグラギュドに育てられた事実さえ調べ上げたそうだ。


「可能性としてはメジス魔界の悪魔に顔見知りでもいると言ったところか」

「そうだろうな。アレは得体の知れない存在だ。様々な所で暗躍していると見ていいだろう」


 エクドイクが知るラーハイトの情報についてはそこまでの収穫はなかった。こちらが禁忌を生み出したとされる地球人であるからと警告は貰ったそうだがその程度らしい。

 新しい情報と言えば今は少年の姿で行動しているとのこと。不便な体ではすぐに乗り換える可能性もあるのでそこまで有益と言うわけでもないだろう。今更感はあるのでラーハイトに関する情報を共有する。


「魔王の存在は悪魔内でも有名だ。だがその復活が囁かれてると言った話は聞いていない。大悪魔クラスならばそういった秘密を抱えているかもしれないが……」

「大悪魔ベグラギュドから育ててもらったという割りには聞かされていなかったのですね?」

「お前のせいで死んだからな!」

「しかしラーハイトがどの魔王と繋がっているのかそういった情報はほとんど不鮮明だな。イリアス、メジス魔界を生み出した魔王はどういった存在なんだ?」

「世界で最も広大な爪痕であるメジス魔界を生み出し、勇者ユグラに最初に倒された魔王、『(むらさき)の魔王』だな」

「新しく聞く魔王だな。ターイズの山の先にある『黒魔王殺しの山』の先にある魔界を生み出したのは『(くろ)の魔王』なのか?」

「いや、ターイズ魔界と呼ばれる魔界を生み出したのは『(みどり)の魔王』だ」

「なんで黒の魔王はあそこで死んだんだよ」

「それは分からん。黒の魔王は最強と謡われていたがその素性は謎ばかりなのだ」


 しかしメジスで紫、ターイズで碧か……となればガーネは赤色なのか?

 アメジスト、ターコイズ、ガーネットと宝石色を連想させる国ばかりだ。

 事実ターイズは青緑、碧と呼べる色をモチーフとしている。ユグラ教の服も紫を取り込んだ色だ。国の創立にそういった知識が混ざっている可能性は否定できないな。いや、待てよ?


「エクドイク、最近接触してきたラーハイトの姿について聞きたい」

「少年の姿だったと言ったはずだが」

「外見じゃない、装飾品や服の色を知りたい」

「清潔感のある白い服だ、装飾品は……()()の首飾りを身につけていたな」


 ウッカ大司教にも確かめて見る価値はありそうだな。それはそうともう一人のならず者はどこに行ったのやら。


「そういえばギリスタはどうしたんだ?」

「ギリスタは腕の治療を終えた後ガーネへと向かった。ターイズ本国では顔が知られてしまった上に、他の村々は田舎過ぎて居心地が悪いと言っていたからな」


 表向きとして二人はターイズ本国で暴れ、要人誘拐、殺害未遂とそれなりの悪行だ。冒険者としても危険視されていたが国で堂々と暴れれば指名手配もされると言うもの。

 しかしターイズは田舎か、確かに森山に囲まれている村ばかりだったしな。ターイズ本国はそこそこ発展している気がするが、他の国も一度は見に行きたいところ。


「再び戦えるようになったら俺の前に現れると言い残していた。伝言としてはそのくらいだ」

「そうか、それまでに何かしらの用意は必要そうだな」


 ふと、エクドイクの視線がウルフェに向いていることに気付く。ちなみにウルフェは常に警戒の視線をエクドイクに向けている。


「どうした、ウルフェの視線が気になるのか?」

「――視線と言うよりは内在魔力の量に物珍しさを感じている。亜人は他国で何度か見たがさほど珍しいとは思わない。だがこの魔力量は初めて見る」

「そりゃ悪魔とかが日常にいればそうだろうな。やっぱり凄いものなのか」

「鍛錬で増やした魔力と生まれ持つ魔力には違いがある。イリアス=ラッツェルの魔力も桁外れではあるがそこには途方のない鍛錬の痕跡が見て取れる。だがそちらのウルフェと言ったか、同等の量を保有してありながらまるで魔力が鍛えられていない」


 鍛えた魔力ってなんだろう、筋肉みたいに見えるのだろうか。そんなもの見えたらイリアスが余計ゴリラに見えてしまうだろうからご遠慮願いたいものだ。


「ウルフェは普段から魔力が外に溢れるくらい内在魔力が強いらしいからな。わざわざ魔力を増やすような訓練はしていない」

「だろうな。だがそれだけの魔力がありながら本格的に鍛えていないと言うのは勿体なくないか?」

「魔力放出や魔力強化は教わっていると思うのだが」

「そうなのか?体捌き以外は何の錬度も感じなかったが」


 そういってエクドイクは自分の鎖を1メートル程伸ばし切断する。それをウルフェに放る。ウルフェはそれを回避した。


「……いや、攻撃じゃないから安心しろ。これをやってみろ」


 エクドイクは残った鎖に魔力を通して蛇のように蠢かせる。ウルフェは訝しげに落ちた鎖を眺めていたが指でつんつんと感触を確かめる。そして言われたとおりに魔力を通してみる。すると鎖は左右にビッタンビッタンと激しく触れ出した。まるで親の仇のように叩きつけている。


「誰だこいつに魔力操作を教えている奴は」

「私だが?」


 ずいと名乗り出すイリアス。いや、そこは誇らしげに出てくる場面じゃないと思いますけどね。


「極端にも程があるだろう……悪魔でももっと繊細に扱うぞ……」

「ウルフェには基礎から教えるつもりだ。ならばまずは力み方からだろう?」

「……その鎖をやるから鍛錬に使え。俺の魔力を編みこんだ特別製だ。魔力の込め方を工夫することで色々できる」


 エクドイクは同じ長さの鎖を自在に動かす。輪の大きさや長さ、果ては体積までを増やしたり、減らしたり。色を七色に変えたり炎を纏わせ、水を滴らせ、電気を帯びさせた。その様子を見てウルフェは真剣な表情で見入っている。尻尾をパタパタと動かしている辺り興奮して見ているのだろう。


「むう、器用なものだな」

「それだけ色々できるのにラクラとの戦いでは使わなかったんだな」

「硬度を最高に保ち、触れた相手の肉と骨を溶かし、体内に猛毒と呪いを嫌と言うほど流し込む最大の攻撃だったんだがな……」

「なんか凄い物騒でしたっ!?」

「複雑な属性を組み込む必要はないが、手足のように魔力を制御できれば使える幅も増えるだろう。指導してやっても良いが指名手配中の身だからな」

「……エクドイク、ありがとう」


 おお、ウルフェがお礼を言った。カラ爺よりかは打ち解けるのが早かったようだ。むしろカラ爺はお礼を未だに言われていない気がする。抜かれたと見るべきか。


「礼を言う必要はない。そいつが俺を生かしたから今があるだけのことだ」

「それでも、おれいはおれい」

「……そうか、では受け取っておこう」

「私もエクドイクさんが死なないように頑張ったのですけどね?」

「うるさい、お前は敵だ」

「酷いっ!」


 ウルフェに指導したがる者は多い。ラグドー隊の面々を初めとして、イリアスを女だからと差別している他の騎士団の者達ですらその傾向がある。やはり目に見えて分かる才能が埋もれているのは誰の目にも勿体ないと思えるのだろう。

 その帰り道、ウルフェはエクドイクから貰った鎖で早速色々試していた。最初は右往左往全力疾走といった感じだったのだが、しばらくすると瀕死の蛇のように動き出していた。早くも加減して操作することを覚えたようだ。


「むずかしいです……」

「そりゃあ一日そこらで何でもかんでもできるようになったら世も末だ。努力が必ず実るとは限らないが積み重ねたものは残る。気負わずにがんばれ」

「はいっ!」

「ところでウルフェちゃん、私もそれやって見ていいですか?」

「うん、どうぞ」


 ラクラが鎖を手に取る。すると鎖はふにゃふにゃと動き出し、やがてラクラの意思通りに動き出す。さらには徐々にだが鎖の輪の形も変異させ始めた。


「結構コツがいりますけど練習には良さそうですね」

「おおー、ラクラ、すごい」


 ウルフェのラクラへの評価が上がったようだ。ラクラは魔法の扱いに関しては才能豊かなエキスパートだ。こう言った訓練もお手の物なのだろう。それに触発されたのはイリアスさん。


「私も良いか?」

「うん」


 イリアスが鎖を手に取り、魔力を込める。最初のウルフェと同じように鎖は極端な動きを見せる。


「む、扱いが難しいな……だがこうすれば……ふんっ」


 すると鎖は一瞬で膨張し、奇妙な叫び声を上げ弾けて砕けた。空気が凍る。ウルフェがぷるぷると震えている。


「……イリアス、もう一本貰って来い!」

「す、すまない!」


 イリアスは即座に引き返し、予備を含めて十本程持ち帰ってくるのであった。エクドイクという師匠を付けることは案外ありなのではないでしょうか。高レベルの魔力強化などはイリアスでも良いのだが、加減と言う概念を教えられるのかが本当に心配になりました。

 ちなみに異世界人は鎖を操作してみようと奮闘しましたがピクリとも動きませんでした、悲しい。


 数日後エウパロ法王達はメジスへと戻って行った。本来ならば収穫祭が終わった後、すぐに帰る予定だったのだがどうも気に入った食事処を見つけ未練がましく残っていたとのこと。

 ラクラの紹介した店と言う時点で大よそ想像はつく。ゴッズもまさか法王が常連になりかけるとは思いもしなかっただろうな。

 エクドイクは当面ターイズに潜伏しラクラの監視をするとのこと。本国には入れないのでターイズの森山でサバイバル生活を送っている。暇にさせるのも悪いのでドコラの地図を与えて資源の捜索依頼を頼むことになった。報酬として食料や日用品の提供を行っている。野生動物どころか並大抵の悪党では手に負えない冒険者だ。十分適任だろう。

 残す問題はラーハイトについてだ。エウパロ法王が本を持ち帰ったことでメジス側に手を出すかもしれないし、再びこちらを狙ってくるかもしれない。

 ラーハイトに対して持ちえている情報アドバンテージは魔王が復活することを知っていると言うこと。そして魔王を生み出したのが勇者ユグラに関係するものであることだ。

 正直武器としては弱い。そもそもラーハイトを追い詰めるためにはほとんど役立たない。だがウッカ大司教の話を聞いたことである程度の推測が立った。いつまでも後手で動いていては平穏な日常などは迎えられないだろう。今度はこちらから動く必要がある。


「そういう訳でガーネに向かいたい」

「もう少し丁寧に説明して欲しいのだけどね?」


 突如切り出した話題にマリトは冷静に応える。イリアスとは大違いだ。


「ウッカ大司教の記憶にあったラーハイトの装飾品には緋色の腕輪があったとのことだ。その後ラーハイトは少年の姿でパーシュロ達と接触している。その際には緋色の首飾りをつけていた。ラーハイトが魔王信仰者ならばその魔王の名前の由来になる色を身に着けている可能性はないだろうか? という推測だ」

「つまり、ラーハイトの背後にいるのは『緋の魔王』ではないかと推測したわけだ。そして過去に緋の魔王が現れたガーネを調べてみたいと」


 緋の魔王、ガーネに現れ黒の魔王に次ぐ強さを誇ったとされる魔王の一人。勇者ユグラと激戦を広げ、僅差で敗北したとされている。


「調べるといってもどこから調べるべきか悩んでいるがな」

「ラーハイトが緋色を好んでいるだけと言う可能性もあるだろう? もしくは件の魂の移動に必要な魔石だったりとかね」

「後者は否定できないが前者はない。ああいうタイプは派手な赤色は好まない」


 ラーハイトが使用していた魔法も透明な水晶を構築すると言うものだ。身に付けるほど赤が好きならば魔法の好みにも出てくる可能性は高い。奴を意識して抱く色はない。無色こそ奴には似つかわしい。


「ふむ、では先にこちらの暗部を送ってみよう。何かしらの異変を感じ取れるようなら正式に君をガーネへの来客として受け入れてもらえるように手筈を整える。それでどうだい?」

「回りくどい気もするが、下調べを代わりにやってくれるのならば文句も言えないな。それで手を打とう」


 ガーネで色々調査するにはガーネの協力を得ることが必然となるだろう。その際に隣国のターイズ国王からの推薦があれば活動範囲も広くなる。もちろんガーネの上層部にラーハイトが噛んでいるのならば気取られる危険性もあるのだろうが、それはそれで読みやすい。


「ターイズの者として送り出すことになるんだ。さして長居はできないから調査は迅速にね?」

「そこまで露骨に繋ぎ止めようとしなくても簡単に鞍替えはしないさ」

「いやいや、分からないよ。ガーネの王が君を気に入ることだってあるんだからね?」

「そんな物好きはお前くらいだ。そうだな、一ヶ月もあれば十分だろう」


 こうしてガーネにターイズの暗部が差し向けられる。ガーネでは新たな王が就任してからと言うもの犯罪率が大幅に低下、その統治はマリトも見習いたいと言っていた程だ。そんな国に怪しい影は見つかるのか、それは定かではない。だが願わくは状況を打破する切っ掛けが見つかれば良いのだが……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ほんと残念ゴリラというか脳筋ゴリラというか……
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