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さしあたって教えます。

 城にある来賓室の一つに彼と陛下、ウルフェと私がいる。陛下は彼が持ち込んできた異世界の文化に関する資料を読み込んでいる。

 そして彼とウルフェはテーブルを挟んで座り、騎士達が息抜きに遊ぶ盤上遊戯をやっている。彼曰く『チェス』という彼の世界にある遊戯と似ているとのことで興味を持ったらしい。先程二人にルールを教えたばかりで数戦ほど続けて行っている。


「そういえばマリト、結局エウパロ法王はどうなったんだ?」

「しばらくはこの国に残るそうだ。まもなくユグラ教が主催する収穫祭があるだろう?それに参加する予定らしい」

「まあそれなりの人数で来たんだ。街中にも法王がターイズにやってきたという話は伝わっているだろうからな。何もなく帰ったらそれはそれで疑惑の目も向けられるだろうし、最初からそのつもりで来たと見て良いな」

「法王と大司教は教会に宿を借りるらしいね。マーヤも大変だろうに」

「さてはマーヤさんは最初から知ってたな。ラクラを追い出した理由もそれか」


 二人とも作業をしながらというのに、よくもまあ別の雑談ができるものだと感心する。しかしこの位置からだと盤面は見えないのだが、随分と早いペースで指しているようだ。


「そうだ。ウッカ大司教は洗脳魔法の影響で、ラーハイトと接触していた時の記憶はないって聞いたが、深層心理とかに干渉する魔法とかでサルベージ――汲み上げるといったことはできないのか?」

「記憶を読み取る魔法は存在するから試してみる価値はあるかもしれないね。ただその手の魔法は対象への負担がかなり重いと聞くよ。さながら拷問のようだって」

「ウッカ大司教はこちらに負い目がある。その辺揺さぶりながら説得すれば折れるだろう」

「ちょっと待て、そこまでして手に入れる必要がある情報があるのか?」


 話の内容に思わず割り込む。ウッカ大司教の謝罪は心のこもった物だったと覚えている。その彼に拷問に近い苦痛を与える必要が果たしてあるのか。


「さあな。だが最もラーハイトと接触していたのはウッカ大司教だ。何かしらの情報が得られる可能性があるとしたら彼くらいだ」

「そんな希望的観測だけで……」

「後手に回っていたら後から辛い目に会うのは一人だけじゃないんだぞ。とりあえず些細なやり取りでも思い出せたら伝えて欲しいと連絡しておいてくれ。一般人と国王じゃ重みも違うしな」

「わかったよ。負担を減らしつつ記憶を探ることができる方法も模索させておくよ」


 ラーハイトと遭遇して以降、彼の様子が僅かながらに変化している。私達への態度こそ変わらないが、物言わぬ時などの表情に憂いが見える。一度ならず二度もラーハイトの策を見破ったのだ。もう少し安心しても良いだろうに。


「ウルフェ、これ詰んでないか?」

「えーと、はい。ウルフェのかちですっ!」

「また負けたか。強いもんだ」

「なんだ、負け越しているのか。何戦何勝だ?」

「十戦十敗だ」

「……なんだと?」


 この遊戯は知略の訓練にも用いられている物で、当然ながら頭の良い者ほど強い。ウルフェも努力家ではあるが、彼の知略からしてそう負け越すとは思えないのだが……。


「手加減していたのか?」

「いや、全力だ。単純に負け続けているだけだ」

「しかし――」


 ひょっとすればウルフェがこの遊戯の才能を予想以上に持っているのだろうか。その可能性はないとは言えない。だがウルフェも始めたて、互いに条件は同じはず。


「じゃあウルフェ、イリアスに席を譲ってやれ。イリアス、一戦やるぞ」

「あ、ああ」


 ウルフェの代わりに席に座り、駒を並べなおす。私もカラ爺達に付き合わされてこの遊戯を行ったことは多々ある。そこまで強いわけではないが一朝一夕の相手に負けるつもりはない。相手の実力もそれなりには測れるだろう。


「ところでイリアス、お前エウパロ法王が臆病者だって言った時に怒ってたのか? ラグドー卿が後で言ってたぞ」


 指し始めながら彼が語りかけてくる。こちらの打つ手を見るや手早く返してくる。行動に関しては迷いがほとんど見られない……が。


「う、それは……そうだが」

「どうりで謝ってきたはずだ。相手はユグラ教のトップだ。発言の一つや二つで威圧してくれるなよ」

「だが君は臆病者ではない。山賊や暗部達との戦いにも率先して前に出てきたではないか」

「それは守ってくれる相手が強いからだ。本来なら頼まれたってやらないぞ」


 そういってもらえるのは嬉しい。だがそれとこれとは話が別だ。彼は確かに結果を残しているのだ。それを臆病だから成し遂げられたなどと言われれば腹も立つだろうに。


「あまり謙遜する必要はないだろう。君は結果を出しているではないか。だから私は君の実力を評価している。陛下だってそうだ」

「実力か、言っておくがマリトとお前が評価している箇所は別物だ」

「どういうことだ?」


 そういって彼は指す手を止め、傍にあった羊皮紙とペンを手に取り何かを書き始める。そしてそれを後ろから眺めていた陛下に渡す。その後再び指し始めた。


「ふむふむ、なるほど」

「と言ってもイリアスには口じゃ説明しても理解してもらえないか。さて困ったがそれ以上にこっちも困ってきたな」


 彼の指す手は非常に愚直な攻め方だ。素人が駒の動かし方を覚えて取り敢えず攻めているような感じでしかない。駒の配置も何も考えてはいない様子。


「真面目に指しているのか?」

「ああ、こういった形での頭は良くない方でな。何十手も先のことなんて読めやしないさ」

「だが君は――」


 突如部屋の外で音が響く、甲高い音だ。陛下が外に顔を出し、衛兵に声を掛ける。


「何事だ」

「いえ、飾ってあった鎧が突如倒れまして……土台が不安定だったのでしょうか……」


 どうやら大事ではないようだ、緊張が解ける。さて、後少しで勝負はつくだろ――


「……え?」


 盤面を見て一瞬思考が止まる。誰がどう見てもこちらが詰まされている。何が起こったかと考えたが、答えは一つしか出てこない。


「さっきの音がしたときに盤面を弄ったのか!?」

「誰かそれを見たのか? ……ウルフェ、手をあげなくて良いぞ」

「イカサマではないかっ!」

「使う人を考えて欲しいものだね、まったく」


 陛下がやれやれと渡された羊皮紙を魔法で燃やした。つまりはそういうことか。羊皮紙で陛下に指示を出し、陛下に音を立てさせた。方法は分からないが陛下にはできることなのだろう。そして私が護衛として警戒し、視線を逸らした瞬間に駒を操作した。


「要するに、こっちがやってる手法ってのはこういうものだ。正々堂々と同じ条件でやりあったら、確実に負ける程度の実力しか持ち合わせていないからな。イリアスの強さは百戦戦って百戦勝つような力。だけどこっちのは勝ちたいと思った一戦だけを勝ち取る手段なんだ。二度は通じないし、そう褒められたものでもない」


 確かに駒のすり替えが発覚している以上、もう一度勝負すれば当然警戒するだろう。それだけではない。他にもイカサマを行うだろうと気を張り続けるだろう。


「マリトやエウパロ法王はこう言ったことを理解した上で認めてくれている。力がないにもかかわらず、良くやってのけたものだとな」

「俺としては君の型破りなところが特にってとこだね」

「そいつはどうも。ただあんまり真似るとラグドー卿から何か言われかねんから、ちゃんと王道進めよ」

「それはもちろんだとも」

「……」


 彼は目の前で実行して見せたのだ。自分の取る手段とは真っ当でもなければその力は評価されるべきでもないと。


「そう難しい顔をするな。相手が相手だからこそ許される手段で勝っているだけで、酷い方法だという自覚はあるんだ。イリアスだって必要だとはしても、決闘で反則技を使い勝利したとして、それで称賛されて嬉しいか?」

「それは……そうだな」

「とは言え、勝つために手段を選ばないその心意気とかを褒められてもそれなりには受け取ってやれるわけだ。その辺は褒めてくれても多少は喜ぶから甘えさせてくれ」


 彼の言いたいことは分かった。自分を過大評価するな、そんな力はないと。それでも成果を得ようと努力することは評価してくれて構わないと。


「君の言い分は理解した。だが君の出した結果は騎士達には成し得ないことだった。それは何の力が要因となったのだ?」


 力が強いわけではない。賢しいわけでもないのならば彼はどのように結果を勝ち取っているのか。


「生き方が上手い、そんなところだな」

「生き方が……上手いか、なるほど」


 確かにそういわれれば不思議と納得が行く。剣も魔法も、知識もない。それでも現状を理解し、上手く立ち回る。足りぬ力は努力で培ってきた私が選ばなかったやり方。彼はその道を進む熟練者なのだ。


「どれくらい臆病なのかと言うとだな、日夜監視がつくと息が詰まるからイリアスの護衛はいらないんじゃないかとマリトに進言するつもりだったが、ラーハイトの一件以来護衛を外して欲しくないと懇願しつつ、少しでも早くその脅威を取り除きたいと思っている程だ。臆病者だろう?」

「ふふっ、そうかもしれないな。いや待て、息が詰まるだと?」

「朝の着替えまで見られようものならそう思うわ」


 乙女じゃあるまいし、気にすることでもないだろうに。しかし陛下やエウパロ法王が彼のそういった面を正しく理解し、評価しているという話はなんだが少し先を越されたようで悔しさを感じた。

 カラ爺が言っていた。私が彼に自分が持っていないものを羨むように彼も他者を羨むのだと。あまり先を越されていては、彼の視線はこちらに届かなくなるやもしれない。

 幸いにも彼の護衛を任されたのは私だ。ラーハイトの一件が終わるまでは護衛は続くだろう。それまでになんとしても彼からの評価を上げて見せたいところだ。



 どうも最近イリアスの距離感が近い。向こうが半歩程詰めてきているようなそんな感じがする。

 カラ爺との一件の後からなので、恐らくは彼女なりになんらかのアプローチを試みていると考えて良いのだろうが……積極的になる分には良いことと割り切ろう。

 それより心配すべきはウルフェだ。最近、師匠らしいことができていない気がする。先程見せた反則技などは『そういう手段を使う相手がいる』と用心させることなのだが、真似されるのは教育上よろしくない。

 当初と比べると意見も言うようになり、一部の相手には悪戯心も湧いている。……あの人生ゲームのことは忘れておこう。取り敢えずは何かしら学習させることが必要ではないのでしょうか。うーん、どうするか。


「というわけでウルフェ。たまには師匠らしいことをしてやりたいのだが、何かやって欲しいことはあるか?」


 せっかく家でだらだらしているのだ。ウルフェのための時間を作るならウルフェの希望を聞いてしまおうではないか。我ながら名案である。


「なんのわけかはわかりません。でもししょーにおしえてほしいことはあります!」

「ほう、殊勝な心がけだな。言ってみろ」

「あいてのたばかりかたをしりたいです!」

「……」


 あー、うん。イリアス、そんな目で見つめないで。そろそろ慣れてしまいそう。とは言え、物凄く期待に満ちた瞳には抗えない。ここは程よい感じのレクチャーをすべきだろう。


「そうだな。謀ることばかりではないが、色々実戦で教えてみよう。イリアス、ラクラ、向かい側に座ってくれ。ウルフェは隣にだ」


 今の机に四人で座る。常に近くにいようとするイリアスはさておき、ラクラは面白半分で乗ってくれた。これは好都合だ。


「ウルフェは二人を見つめていてくれ。二人はまずはこれを」


 そういってペンと紙を渡す。


「一から九まで、好きな数字を一つ書いてくれ。書いたら裏側にして置いておくんだ。その後、問答で揺さぶりをかけて当てていく」

「そんなことができるのか」

「ふふん、簡単には引っかかりませんからね尚書様!」


 そして二人は数字を書き終えて紙を伏せる。この世界の数字は多少違いはあるものの、基本的な使い方は変わらない。書きやすく、シンプルな形を使用している。


「じゃあ問答だが、必要ないな。イリアスが一でラクラは七だな」


 そのまま紙をひっくり返す。数字は宣言と一致していた。


「質問してませんよねっ!?」

「問答で当てると言う言葉がそもそもの仕掛けでな。実際は二人の手元に注視して、どの数字を書いていたか見極めていた。本来なら似た書き方の数字があった場合や、文字が小さい場合にはそれなりの問答で絞ろうと考えていたが、二人とも分かりやすい数字を大きく書いてくれたからな」

「うう、それで嘘ではなかったのですね……」

「相手には別のことに意識を向かわせること。それが手っ取り早く相手の虚を突ける。戦闘中に相手の予想した方法と違う攻撃を繰り出せれば強いが、そもそも余所見させられたらもっと強いだろ?」

「なるほど」


 とは言え、イリアスに余所見をさせることに成功したとしてもこちらの攻撃は届かない。差がありすぎるとダメなのだ。戦闘で虚を突くためには手段もだが、相手を倒せるだけの最低限の力も必要なのである。もちろんありませんとも!


「後は相手の判断力を奪うことだ。挑発や演技で怒らせたり、優越感に浸らせるのも良いが、個人的にオススメなのは納得させること。人が考えるのを止める時は、考えることを妨害された時か考えが終わった時だ。とは言え、妨害は相手によって難易度が変化しすぎる」


 納得にも種類がある。相手の行動を読みきったと納得させること。自分の行動が正しかったと納得させることなど様々だ。特に後者は効果が大きい。何せ一番信用できる自分自身が信じ込ませた情報なのだ。


「ただ出会ったばかりの相手にこういった策は通じにくい。どうすれば相手が納得するかがわからないからだ。だから事前に相手の情報を少しでも多く手に入れ、相手の考え方を理解することでその成功率は上がるんだ」

「おおー」

「ただ注意点としては理解しても共感はしないことだ。共感した相手を謀るのは抵抗感が付きまとうからな」

「合点は行くのだが、ウルフェに教えて良い話なのだろうか……」

「利用するにはまだまだ観察眼やらが足りてないから難しいだろう。だけど相手がそうやってこちらを観察している可能性があると知っておくのは有意義だと思うぞ」


 悪意ある者にも脅威の差はある。ただ悪意をばら撒く者ならば距離を取るなどしかるべき対処を取れることも多い。しかしこちらを理解したうえで悪意を向けてくる者程厄介な存在はいない。とは言え、あまりこの辺を強く警戒させすぎると人間不信に陥るので難しいところだ。


「できることならマーヤさんやラクラみたいに、嘘を見抜ける目が欲しいもんだ。やり手は無理でも大抵の相手は対処できるんだからな」

「尚書様は毎回すり抜けて悪さしてきますけどね」

「苦労するが、お前を謀るのは楽しいぞ」

「楽しまないでくださいっ!?」


 さて、最後に締め括りとしよう。


「ウルフェ、相手を謀るという方法はそう何度も成功するものじゃない。準備を徹底してようやく一度成功すれば御の字だ。だがイリアスやラクラの様に鍛錬で身に着けた力はいつまでも通用する。一切使うなとは言わないが、純粋に自分を磨けるうちはしっかり磨くように。それだけでも選択の幅は大きく広がるんだからな。特にウルフェは才能がある。あるものを無駄にするのは勿体ないからな」

「はいっ!」


 よし、これでよろしくない講義も良い感じにまとまっただろう。


「そうだ、せっかくだから地球(こちら)の世界で有名な知将の行った計略とかの話もするか」

「それは私としても興味深いな」

「私は眠くなりそうです……」

「枕を用意してるんじゃねぇよ。まずは……やっぱり三国志辺りだな」

「ししょー、おねがいしますっ!」


 この世界の話ならばきっと他の誰かがウルフェに語ってくれるだろう。だが地球の話をウルフェに聞かせられるのは一人だけだ。色々な話をしよう。ウルフェにとって学べることも多い筈だ。いつか独り立ちする時に、良い師匠だったと思われるくらいには語ってやろう。

 ちなみにオチはない。話の最中に寝入って寝言で妨害を始めたラクラをどうこうした話なんてどうでも良いことだ。

 

「良くないですよっ!?」



 メジスにある酒場、そこは冒険者達が賑わう場所だ。今日も今日とて魔物狩りの健闘を称えあい、酒を飲み飲まれて騒ぎ立てている。騒ぎ立てる冒険者達は互いの卓へと割り込み、絡みだす。だがある卓だけはまるで存在しないかのように誰も見ない、聞かない、知覚していないのだ。 

 

「相変わらず人払いの結界は便利なものねぇー。注文できないのが難点だけどねぇー」


 気だるそうに話す女、格好は露出の目立つ軽装だがそれよりも目を引くのは椅子の背後に突き立てている巨大な鋸状の剣だろう。口を閉じた鰐から覗く牙の列のような、乱雑に取り付けられている刃には赤黒い錆が所々とついている。


「姿が見えていたとして、そんな武器を持ち込んでいる奴に注文取りにくる奴はいねぇだろうがボケッ! ほら、干し肉でも食ってろ」


 女に干し肉を渡すのは引き締まった肉体を持った男。こちらは全身を黒いラバータイツのような物で覆っており、その上に急所を守る鎧を取り付けている。両腕に装備している篭手は独特なフォルムで、黒いドラゴンの頭部を型取っている。


「まーないよりましぃー? ありがとねパーちゃん!」

「パーちゃんは止めろぶっ飛ばすぞギリスタッ! せめてもう少し愛着を込めて言え」

「はぁいよぉー」

「口に物を入れて喋んなカスがッ! ほら喉を詰まらせないための酒だ」


 残るもう一人の男は椅子に座ったまま酒場の屋根を延々と見つめている。だらりとした腕には肌が見えなくなる程の鎖が大量に巻かれている。

 

「ギリスタ、パーシュロ、エクドイク、君たちは人払いの結界を張らないと目立ち過ぎではないですかね?」


 フードを被った少年が現れる。年は十歳程度、だがその佇まいは大人となんら変わりもない。


「あらぁー、ひょっとしてラーハイトーぉー? 可愛くなったわねぇー」

「元の体がユグラ教に封印されてしまいましてね。憑依術と死霊術の応用で魂だけ別の肉体に移したのですが、それもバレてしまいましてね。とりあえずは疑われにくそうなこの体でと」

「傑作過ぎて笑い死ぬわボケッ! ほら、椅子、座れるか?」

「ありがとうございます。さて冒険者の中でも比較的危険な裏仕事を普段からこなしている皆さんを集めたのは、当然ながら危険な依頼です」

「危険ねぇー。法王でも殺してこいって言うのかしらぁー?」

「少し惜しいですね。殺して欲しいのは最近法王の側に現れた男です。彼自身は皆さんなら一呼吸もいらないと思いますが、その護衛が厄介でしてね。ターイズでも五本の指に入る騎士です」


 そういって羊皮紙を二枚机の上に広げる。そこに描かれているのはイリアス=ラッツェルとチキュウから来た男の似顔絵だ。


「へぇー、女の子なのにぃー強いんだぁー! 私とぉー一緒ぉー!」

「ターイズで五本の指ってことはターイズに行けってことかよクソがッ!? いつまでに殺せば良い?」

「できるだけ早急にお願いします。そうそう、今ターイズにはエウパロ法王も滞在中です。そちらが終わったら殺してみても良いですよ」

「本当ぅー!? 頑張っちゃおうかしらぁー!」


 ギリスタと呼ばれた女は立ち上がり背後にある剣を床から引き抜く。持ち上げた瞬間ギリスタの足元が軋み始める。剣の重量が見た目以上の重さのせいだろう。彼女の両足面積では床への負担が大き過ぎる。

 

「どうもこの人物と私は相性が悪いようで、皆様のような純粋な暴力にお任せするとします」

「自分でできねぇからって押し付けかよゴミがっ! 確かに請け負った。任せてもらおう」

「ええ、お願いしますよ」


 少年の姿のラーハイトは笑う。その笑顔は元の姿と共通して、作り物のような不気味さを感じる物であった。


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― 新着の感想 ―
パーちゃん優しそう  マムシ師匠?
[良い点] パーシュロさんの口が悪くて素直(?)なところ、ツボです。。
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