ゆえに向かう。
ネットが復旧しましたので、ペペイと書いていた分を投稿させていただきます。いやぁ早めに直ってよかった。
黒の魔王の瞳を通して映る光景は、内で眠っている『俺』にも伝わってくる。戦闘に加われない黒の魔王が戦況を確認する方法として、湯倉成也が玉座の間に設置した無数の水晶。
その仕組みは無色の魔王ことテドラルが普段俺達を覗いていた使い魔の応用なのだろう。
水晶にはそれぞれの魔界や魔族達の様子が映し出されており、黒の魔王はそれを静かに眺めている。
「やぁ、聞こえるかな?」
「……怒られないか、それ」
黒の魔王の中にいるはずなのに、まるで真横にいるかのように湯倉成也の声が届いてくる。外側にいる黒の魔王が反応していないところを見ると、湯倉成也当人がなんらかの力を使い、直接『俺』に話しかけてきているのだろう。
「彼女の体は貧弱な君の体だ。こういった真似をしても、彼女は気づくこともできないさ」
「確かに同じことをされても、気づけない自信はあるな。それで、愚痴相手でも欲しかったのか?」
「愚痴……そうとも取れるのかな。僕が『黒』になにを言ってもその言葉は届かないからね。テドラルも出張っているから、暇と言えば暇なんだ」
「時空魔法の方は良いのかよ」
「つきっきりで構築をし続けるわけじゃないんだ。魔力を専用のものに精製しなおしたり、魔法陣に魔力を蓄積させたり、そういった待ち時間とかが生まれるのさ」
思ったよりも科学的、いや地球出身の湯倉成也だからこそそういった手段でのアプローチをしているのだろう。
「凄いもんだな。常人でしかない『俺』でも、魔族達の戦いが見えている」
「『黒』の座っている玉座、そこに少し手を入れていてね。五感から取り込まれる情報を、持ち主の脳が受け止められるように変換しているのさ。たとえ目で捉えきれない速度で動く物体があったとしても、目の前で動いた事実は変わらない。その事実を目で認識したものとして処理し直しているといえばいいかな」
「なるほど、わからん」
能力的に見れないものを、見れるものとして認識し直す。どんな仕組みだとか、理を超えた連中の思考を理解することは、脳の寿命を縮めかねない。聞き流す程度が一番だろう。
「僕も座学をするつもりはないさ。希望があれば今度、理論を直接脳内に流し込んであげるよ」
「いらんて。それで、お前が求めているのは魔族達に対する感想か?」
「まぁね。『全能』の力を与えられた彼女が残せた最後の力。随分と惨めだとは思わないかい?」
「全能を失えば、そこになにが残ろうとも惨めだろうよ。でもまぁ、見ていて痛ましいのは事実だな」
意識はガーネ魔界でイリアス達と戦っているザハッヴァへと向く。人の姿を捨て、蜘蛛へと変貌していく彼女の姿は、その過程を考えればとても痛々しいものだ。
「覚醒の意味、君なら理解できているだろう?」
「ああ。魔族にとっての覚醒とは、恐怖そのものとなることなんだろ」
最も情報を得やすかったのが、感情を垂れ流しにしているザハッヴァの在り方だった。彼女は蜘蛛の姿を自らの力として誇示しているが、その姿を好いてはいない。
「その通りだよ。名前という対価を支払う魔王達に対して、魔族は恐怖を乗り越える試練が与えられる。ま、恐怖の定義が弱すぎて、他にも必要な条件があるんだけどね」
その者の深層意識の中にある恐怖の対象。それを乗り越えることが試練として与えられる。それが魔族になる術の正体というわけだ。
そして恐怖を乗り越えその他の条件を満たした者には、自らが恐怖の対象そのものへと成り果てる未来が待っている。
恐怖そのものになれば、恐れるものなどない進化した人類であるってわけか。酷い暴論もあったものだ。
「そりゃそうだろうよ。ザハッヴァが蜘蛛を怖がっていたとして、それは村娘でいた時の話だろう。今彼女の目の前に蜘蛛が現れたとして、なんの恐怖もないだろうに」
「因子としての定着は悪くなかったんだけどね。そもそもが魔王の魔力を使い、初めて可能となる術式だ。不完全な存在であることには変わらないけどね」
「その結果が過去のトラウマに変身する怪物達が生まれたと。これ、ピーマンとかが一番嫌いだったらピーマンの怪物になったりするのか?」
「好き嫌い程度じゃ因子にはならないさ。ピーマンを食べて食中毒にもなっていれば別だろうけど」
あったらやだな、そういう展開。人が進化する過程としては理に適っているが、最終的に自我を持ったまま自らの恐怖へと成り果てた者は三名のみ。他の条件があまりにも厳しかったと考えるべきか。
「あの蛇の怪物は恐怖こそ乗り越えたものの、時間の流れに精神が耐えられなかった蛇嫌いの末路って感じか」
「彼の名はイドラク。生前から生真面目に『黒』に忠誠を誓っていた男だ。今はもう心が死に絶え、魔族としての体だけが本能に従って動いている感じだね」
覚醒状態へと成るには、魔族自身も成長が必要なのだろう。長い年月を経て肉体を作り変え続け、覚醒へと至る下地を用意することが。
しかし肉体はその過程を耐えられても、心はそうではない。人としての心が、魔族としての体と噛み合わず、年月とともに摩耗していく。時が過ぎ、その肉体が変貌していけばしていくほど、その摩擦は増していく。
ネクトハールの顛末を思い出す。『碧』の隣に並ぶことを願い続け、そのことだけに執着し、壊れてしまった哀れな従者。
近くに支えとなる王がいてもなお、数百年という年月は魔族達の心を容赦なく蝕んでいた。ならば黒の魔王が不在となっていたセレンデ魔界の惨状はそれ以上だったのだろう。
この時の流れこそが、魔族達が真に乗り越えなければならない試練なのだ。
「皮肉な話だな。覚醒状態に至るまで耐えるには、人として歪でなきゃいけないなんてな」
人の心を持っていては、魔族の肉体との摩擦に殺される。だがそもそも人として歪ならば、魔族の肉体を手に入れてもその摩擦は少なく済むのだろう。
自らの王に異常な執着を見せ続けたニールリャテスやザハッヴァ、彼女達は病的なまでの依存心があったからこそ、この長い年月を変わらずに生き続けることができたのだ。
同等以上の忠誠心を持った者達はいたのだろうが、彼等は人間味があり過ぎた。真っ当過ぎた感情は時の流れによって削り殺されてしまったのだ。
「人を憎む魔王の末路としては、お似合いではあるけどね。さて、君はこの戦いの勝敗をどう見ているかな?」
「そんなこと、聞かなくても読み取れるだろうに」
「『黒』に気づかれ、不快になられたくないのさ。ほら、君だって読書中に脇腹を突かれたら不快になるだろう?」
「多少なりとも勘付かれる恐れがあるってわけな。でもお前、黒の魔王が本当に読書中だったら、脇腹突きそうだよな」
「殴られた経験はそれなりにあるね。魅力的な脇腹は指で突くのが礼儀だし」
「そりゃ殴られて当然だな」
試しにいくつか湯倉成也が反応しそうなことを脳内に思い浮かべて見たが、これといって反応はない。どうやら黒の魔王にこちらへの干渉を気取られないように、最小限の意思疎通しか行っていないことは事実らしい。
この状態になってからの懸念、湯倉成也に現在の思考を読まれることはどうやらまだ先のことになりそうだ。まずは一つ目の賭けはクリアといったところだろう。
「そうだな。魔族達は確かに怪物揃いだが、怪物ゆえに歪な箇所は多い。『俺』がいなくても、簡単には負けないさ」
「君がいれば勝てると言いたげだね」
「何百年も歪なままの心を維持してきた連中だ。それだけ頑固ならかえって読みやすいだろ」
能力的な強さについては専門外だが、イリアス達はどうにか食らいつくことができている。ならばあとは魔族達をどのように理解し、対処していくかなのだ。
その兆しの種はもう植えてある。彼女達ならば、きっと勝てると信じている。
「自信たっぷりだね。だけど内心は怖かったりするんだろう?見知った顔がいつ死ぬかも分からない過酷な状況で、不敵に笑えるほど君は強くないのだから」
「まぁな。現状で既に泣きたいくらいだ。魔族達を殺したいと、色々な策を頭の中で巡らせて、何もできないことに憤っているさ」
これ以外の手段を思いつかなかったとはいえ、俺は世界中を巻き込んでしまった。レアノー卿やウッカ大司教が襲われる姿を目の当たりにして、心が震えた。こうしている今もイリアスやマーヤさんが理を超えようとする怪物達と戦っている。
きっと大勢の人が死ぬ。その中には『俺』が守りたいと思った人達も含まれるのかもしれない。そう考えるだけで、怖くて怖くて仕方がない。
「味方の勝利を信じているわけじゃなく、信じるしかないわけだ。羨ましいよ、人間らしくて」
「だろ。お前は『俺』にないものを沢山持っているが、『俺』はお前が捨ててきたものをしっかりと持っているからな」
だから歩み続けよう。彼女達がそこまでの道を切り拓いてくれると信じ続けて。恐れながら、震えながら、涙を堪え、歪に笑って、『俺』にしか打てない最後の一手を打つために。
◇
「はぁっ!?あの蛇も元は魔族だって言うのっ!?」
蛇から離れ『蒼』の元に戻って、理解した事実を伝える。『蒼』は驚きの声を上げるが、マリトの方は静かなままだ。可能性があることには気づいていたのだろう。
「間違いない。あの蛇の魔力から魔族であったころの記憶を読み取ることができた。ただかなり古い記憶だ。正気を失ったのはかなり昔のことなのだろうな」
『あの再生能力は魔族のようなものではなく、魔族の能力そのものということか。……エクドイク、あれが魔族の成れの果てだというのであれば、コアが確実にあるということだな?』
魔物にとってコアの有無は個体によって異なる。再生能力を持つ個体の場合、コアを中心に再生しているのか、そもそもそういった特異性を保持しているのか、その辺の判断がつけ難い。だが魔族にコアがあることは確かであり、あの再生能力は魔族特有のものであることは間違いない。
「蛇の頭が別れている胴体付近にあることまでは絞れている。ただ魔族としての防衛本能がのこっているのであれば、あの巨体の中に埋まっているコアを的確に破壊することは至難の業だ」
セレンデでウルフェ達が戦ったネクトハール。奴は人の体を捨てた異形の怪物となっていたが、そのコアは通常の魔族と変わりのないものだったらしい。ならばあの蛇のコアも小さなもの、あの巨体の中から小さなコアを狙うには遠距離攻撃では無理がある。
『肉片も自在に操れるのであれば、コア近くに攻撃が届くだけでその位置が移動する可能性もあるな』
「一撃でコアまで届く射程と威力の攻撃を叩き込めば、理論上は可能だが……メジス側にいる戦力では厳しいか」
詳しい位置の捕捉はできるだろうが、あの分厚い肉の壁を突き破りながらも衰えない威力の一撃は俺には放てない。コアに届かせるだけならば鎖を肉の海の中で潜航させれば届くのだろうが、それではコアが移動してしまうだろう。もっと勢いよく肉の中を突破する技が必要だ。
『エクドイク、ドリルという言葉は知っているな?』
「――っ、ああ、思い出したぞ。それがあったな」
かつてラーハイトの刺客として同胞と戦ったあと、俺はターイズの山奥にある洞窟の中に身を潜めていた時期があった。その時同胞の金策の手伝いとして、未探索の洞窟の奥にある鉱石の調査を頼まれていたことを思い出す。
硬い大地を掘り続ける上で、必要なのは掘った岩を邪魔にならないように掻き出す手段だと理解した。その時に編み出した技を同胞に見せた時、『まるでドリルだな』と言っていたのだ。
俺はドリルについて、同胞に詳しい仕組みを尋ねた。先端は鋭く、切り屑を後方へと排出する螺旋。それは一撃で突き崩すのではなく、突き削るといったもの。
実戦に使えないかと試行錯誤はしてみたものの、鎖を展開し、その構造を維持し続けることによる隙の多さから封印していた。だが相手がこれほど巨大で回避をしないのであれば、十分に使えるだろう。
「え、なに、なにか打開策あるの?」
「ああ。だがそれにはお前の助力が必要になる。『蒼』、俺の背中に乗ってくれ」
「……?」
背中に『蒼』を乗せ、鎖で俺の体にしっかりと固定する。そして必要な分の長さの鎖を確保し、『蒼』の両手に鎖の両端を握らせる。
「ちょ、ちょっとこれなに!?なんでこんなにガッチリ!?」
「俺は両手を使って鎖の構造を維持する必要がある。その上でさらに大きく揺れるからな。少しばかりきついが我慢してほしい」
「見た目が色々と酷いんだけどっ!?」
『それはちょっと俺も見てみたい』
「あんたは黙ってなさいよ王様!?」
別に用意した鎖を蛇の頭の一本に穿ち、自分の体を引き寄せコアのある胴体の真上へと飛ぶ。
「『蒼』、お前はその鎖にお前の魔力を流し込み続けてくれ。少しずつ溢れ出す程度が好ましい」
「私の魔力で無理やりあの肉を除去していくの?できなくはないけど、鎖の耐久度の方が持たないでしょ?」
「いや、お前が握っている鎖は魔力を届けるための血管だ。奴の肉を抉る鎖は、この眼で創り出す……!」
眼に魔力を集中させ、真なる『盲ふ眼』を発動する。この鎖の強度ならば問題はない。だが鎖としての機能ではたわみが生じ、目的の削る能力が劣ってしまうだろう。
鎖で編み込むだけのドリルでは強度が足りない。ならば鎖で構築された個体をイメージし、その形としての強度を得る。伸ばした両腕の先に、破城槌ほどの大きさの鎖の槍を創り出す。
「ど、どでかい槍?って先端が回ってるぅ!?」
「そうだ。これは堅牢なる壁をも貫く、不屈の螺旋が一突き!『鎖穿の削槍』!」
降下し、蛇の肉体へと鎖穿の削槍を突き立てる。鎖穿の削槍の先端が肉を刳り、螺旋がそれを巻き込み後方へと運び出す。
真なる『盲ふ眼』で創り出した鎖穿の削槍の内部には、『蒼』の魔力が漏れ出す鎖が内包されている。鎖穿の削槍の回転に合わせ、螺旋の溝から『蒼』の魔力が奔流し、軌跡を描く。
これならば削り取った肉片の再生能力を奪いつつ、効率的に掘り進めることができるだろう。
螺旋が肉を掴み、泳ぐように速度を上げる。コアのある胴体まで一挙に距離を掘り進んでいく。
「いける、いけるわよ!これ!」
「まだだ!この速度ではコアの近くまで辿り着けても、コアの移動の方が速い!」
肉体の再生速度よりも早く掘り進むことはできているが、この攻撃の異変に蛇が反応しないわけがない。蛇の頭から多くの絶叫が響き渡り、周囲の肉が蠢くのを感じる。
理性は失われていても、コアを狙われることに対しての防衛本能は健在。俺達を無理矢理にでも外に排出しようとしているのだ。
「じゃあどうするのよ!?」
「コアがこの攻撃を回避する時、それが最もコアに接近できる瞬間だ!その刹那を見極める!」
肉体は不規則に蠢いているのではない。俺達からコアを守るために最善の動きをしている。ならばその動きを読め、理解しろ。狩人が獣の本能を活かして追い詰めるかのように、コアの動く先を読み切れ!
「――っ!そこだぁっ!」
真なる『盲ふ眼』を解除し、鎖穿の削槍を虚空へと消し去る。『蒼』の魔力を纏う鎖を腕へと巻きつけ、肉壁へと叩き込んだ。
手の先に触れる球体の感触、それを握りしめ、一気に引き抜く。そこには黒く淀む宝石のようなコアが握られていた。『蒼』の魔力を直接に浴びたコアには亀裂が奔り、手の中で脆くも砕け散った。
肉の中にいるのにも関わらず、鼓膜を破るかのような蛇の絶叫が耳に届く。それがなにを意味しているのか、俺も『蒼』も直感的に悟ることができた。
「やったわね!コアを破壊できたわ!……あれ、エクドイク?ちょっと、なんで黙っているの?」
「……いや、ここから脱出する方法を考えていなかった」
周囲は『蒼』の魔力で照らされているが、上下すら分からない一面の肉壁。俺達が掘り進んで来た道もある程度は残っていたが、入口付近はとっくに再生済みだろう。
「さ、さっきの槍とかもう一回出せないの!?」
「空間に異物があっては真なる『盲ふ眼』は満足に使えない。この広さでは難しいな」
「け、結界魔法とかで守れない?」
「俺の結界魔法はそこまででな。以前自分で増大させた鎖に押し潰されて死にかけたこともあるほどだ」
ラクラが使うようなユグラ教仕込みの空間固定タイプの結界魔法なら、この蛇の肉圧にも耐えられるだろう。だが戦闘中でも動きを阻害しない纏うタイプの結界魔法では流石に厳しい。
とりあえず『蒼』を鎖から解放し、周囲の肉を鎖で抉ってみる。再生能力は失われているようだが、質量は健在のまま。この蛇の体が塵に還るよりも、蛇自身が地面に倒れ込む方が先だ。その時の衝撃は俺達の肉体を圧し潰すには十分過ぎるものだろう。
「どうするのよ!?こんなところで二人仲良く圧死なんてごめんよ!?」
「確かにな。『蒼』とは常日頃から仲良くありたいとは思っているが、流石に場所は選びたいところだ」
「そ、そうよね……ってそんな場合じゃない!ええと、ええと……っ!?」
大きな揺れと同時に、浮遊感が体を襲う。周囲の肉壁が引き裂かれ、外の光が漏れこんでくる。肉壁の隙間から覗くのは白い骨の壁だった。
「ロオオオオォッ!」
「ダルアゲスティア!?そうよ!この子がいたんじゃない!」
蛇の体に飲み込まれていたダルアゲスティアが、再生能力を失った肉の海の中をかき分け、俺達のいる空間を食い千切って脱出してくれていたのだ。
「ロォォ……」
「あ、ごめん。忘れていたわけじゃないのよ?ちょっとわたわたしちゃってて……」
肉が崩れ、周囲の様子もはっきりと見えるようになってきた。地面へと倒れ込んだ巨大な蛇の体が徐々に崩れ去り、塵へと還っている。どうやら無事に倒すことができたようだ。
『エクドイク!無事か!?』
「マリトか、こちらは蛇の怪物をどうにか倒せた」
『そうか、それは良かった。だが安堵しているところを悪いが、すぐにマーヤとデュヴレオリのいるところへ向かってくれ。既に二人は魔族と交戦中で、旗色がかなり悪い』
「――わかった、直ぐに向かう!」
鎖で翼を構築し、周囲の肉を払いながら『蒼』を抱えて浮遊する。可能ならばダルアゲスティアも連れて行きたいところではあるが、ダルアゲスティアの体はいたる所が負傷しており、今無理に動かすのは危険だろう。
「ダルアゲスティア、貴方は暫く潜って休んでいなさい!よく頑張ったわよ!」
「ロォォ……」
「いくぞ『蒼』、ここからが本番だ」
「ええ、でも血肉まみれになるのが本番前って……先が思いやられるわね……」