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ゆえに期待する。

「説明できる内容としちゃぁ、こんなもんだな。質問くらいは聞くぜ?」


 無色の魔王の分身体から、ユグラ側の現状と、友がどのような状態にあるのかの説明を受ける。頭の痛くなる話ばかりだが、最悪の結末だけは避けられている。

 もしも友が黒の魔王を復活させる流れにしなければ、ユグラは誰の意見も聞かないまま世界をやり直していた。少なくとも黒の魔王の陣営との決着が済むまでの時間稼ぎにはなったわけだ。


「しれっと妾達の国力まで知れ渡っておるの。狡くないかの?」

「狡いもんか。『統治』の力を使えば、魔王や魔族を除いたこっちの戦力はすぐに調べられるだろ。黒姉が直接その力を使わない分、有利なのはそっちだ」


 確かに緋の魔王の侵攻の際にも、金の魔王の『統治』の力は無類の威力を発揮している。時間を操作できる仮想世界を利用することで、敵の魔物のいる位置を進行形で捕捉し続け、そこから敵の陣形や目的などを先読みすることができるのだ。

 黒の魔王の配下である魔族がどれほど強大でも、単身で行える行動には限りがある。大軍を単騎で倒せても、広大な領域を占領することはできないのだ。

 金の魔王の『統治』の力があれば、魔族の相手には個々の力に優れたものを、魔物には各国の兵力を適切にぶつけることができるだろう。


「話を聞く限りだと、『黒』は前線で戦わないのかしら?」

「多少の力はユグラが貸すだろうが、土台が弱すぎるからな。後方で戦略を練る担当に回ると思うぜ」

「その状況でも諦めないなんて、よっぽど魔族に自信があるのね?」

「オタクんとこのひよっこエクドイクに比べりゃ、黒姉んとこの狂人共は完成された魔族だからな。それになんつっても、ユグラを除けば最強の魔王であるこの俺もいるわけだし?」


 無色の魔王は魔王ではなく、魔族としても完成されていない。しかしこの男はユグラとの付き合いが長く、その超越した技術の恩恵を幅広く受けた存在だ。

 ユグラの後継者として生み出されたハイヤでさえも、手段を問わない戦いになれば向こうに分があると言っている。


「敵対行動は取れんのではなかったのかの?」

「ユグラとの契約だからな。ユグラが手伝うってんなら期間限定での解除くらいしてくれんだろ。これで心置きなく暴れられるってもんだ」

「その割には浮かない顔をしているの」

「あ、分かる?いやさ、向こうの空気すっげー悪いの。こっちもこっちで緊迫してるって感じだけど、向こうは喋らせてくれる空気じゃねぇっていうかさ……」

「ユグラと『黒』、それに性格に難ありの魔族しかいないんじゃそうなるわね」


 黒の魔王本人の意思は強いが、陣営の士気としてはあまり高いようには感じられない。この点をうまく利用することができれば、戦況に有利となる一手を打てるかもしれない。


「彼の体が『黒』に奪われたことで色々と心配はあったけど、とりあえずは大丈夫そうね?」

「俺様としちゃ、黒姉の機嫌を悪くされないかで心配だがな。そんじゃま、あの男が稼いだ余命、せいぜい盛大に燃え上がらせてくれよな?」


 無色の魔王の分身体は少しだけ愉快そうな笑顔を見せて姿を消した。少しの間静寂の時が部屋に流れていたが、金の魔王が両手を叩いて流れを変えた。


「まずは妾達の目指すべき目的を定めようかの。先ず最優先は『黒』の侵攻を防ぐこと」

「次は『黒』をなんとかするのも含めて、彼を助け出すことかしらね?」

「最後は後回しにされたユグラの時空魔法の阻止、かしらね」


 三人の魔王の掲げた目標に全員が頷く。友のことだ、黒の魔王を利用して時間を稼いで終わりというわけではないだろう。僅かながらであっても、何かしらの可能性を見出してこの結果を導いたのであれば、ユグラに対しての何らかの一手を打っているはず。

 我々にできることはこの世界の住人として、少しでもこの世界を永らえさせることに務め、その可能性の芽を潰えさせないようにすることだ。


「クアマ、トリン、メジス、セレンデ、各大国のトップも協力するとの返事はもらっている。ユグラ辺りの事情は皆には伏せるだろうが、この戦いが人類の存亡を懸けた戦いになることは謳うだろう」

「『緋』の一件で多少の士気は上がっておろうが、もっとやる気を出してもらわねばの。あとは……『碧』の説得かの?」

「そのことでしたら、ご心配なく!」


 扉を勢いよく開けて現れたのは、碧の魔王の魔族であるニールリャテス。足音などが一切聞こえなかったということは、今までの会話を外で盗み聞きしていたのだろう。


「別に入ってきても構わなかったのだが」

「それがそのぅ……なんか入りづらくてぇ……。私が仲の良い人間って、あのユグラの星の民さんくらいじゃないですかぁ……」

「友は別にお前と仲が良いとは思っていないと思うぞ」

「酷いっ!?でもその刺々しさ、ちょっと我が王に似てて良いかも……」


 あの碧の魔王と同じ顔という時点で、この女から嫌われることは相当に難しいのだろうな。わざわざ嫌われたいとは思わないが。


「それでニールリャテス。心配の必要がないということは、そういうことなのか?」

「はい。あの無色さん、分身体を我が王にも送っていまして。我が王が『承諾した』とだけ応えに行けと派遣されました!こういうことだったのですねー」


 ニールリャテスは自分の髪型を気にしている。彼女の髪はいつもよりも乱れが目立つ。恐らくは可能な限り急いでここに来たのだろうが、ターイズ魔界からここまでどれほどの速度で移動したのだろうか。

 俺達は今さっき一連の経緯を聞かされたばかりだ。無色の魔王は話の合間に取り込み中だとかで分身体を消したりしていたが、その間に碧の魔王にも事情の説明をしていたのだろう。

 我々が協力して黒の魔王の侵攻を防ごうとすること、そして碧の魔王に協力を依頼しようとすることも見越してニールリャテスを送り出していたのだろう。


「ところでニールリャテス?貴方はこちらの陣営で最も長生きしている魔族よね?」

「年寄り扱いは止めてくださいよ?」

「貴方を年寄り扱いしたら、私達にも言葉の棘が刺さるわよ?聞きたいのは、魔族の覚醒状態についてなのだけれど?」


 無色の魔王は黒の魔王の魔族について、覚醒状態に至った完成された魔族だと言っていた。それが具体的にどのようなことを示しているのかは不明だったが、黒の魔王陣営の主力ともなればそれ相応の力を持っているのだろう。

 多少の時期のズレがあるとはいえ、ニールリャテスもその魔族達と近しい年月を魔族として生きてきている。何かしらの情報を知っていても不思議ではない。


「んー、私もそこまで詳しいわけじゃないんですよ。皆さんはユグラから聞かされていないんです?」

「魔族は魔王に親しい存在……傍に在り続ける守護者、意思を継ぐ後継者、新たな道を切り拓く開拓者、何にでも成りうると聞かされた程度ね?」

「ユグラもあの男と一緒でちゃんと説明しようとしなかったのよね」

「それはユグラにちゃんと聞かなかったからでは?」

「……」


 ここにいる全魔王が目を逸らした。事情はさておき、ここにいる魔王は自ら進んで魔族を生み出そうとはしてこなかった。蒼の魔王が最近になってようやく一人といった具合である。

 魔族を数多く生み出したのは黒の魔王と碧の魔王の二人。碧の魔王ならばさらなる情報を得ている可能性は高い。


「私も成ったわけではないので、聞かされた程度ですが……。魔族化は擬似的な魔王化の儀式なんですよ。ユグラにとって蘇生魔法とは死人を生き返らせるためのものではなく、完成された存在への進化のためのものだったそうです」


 魔王は不老不死の存在。確かに人として在るのであれば、完成された存在とも呼べる。どちらかと言えば完結した存在なのだが。


「確かに蘇らせるだけならば、魔王になる必要はないわけだからな」

「ですがユグラにとって、蘇生魔法とは不完全な魔法だったようです。だからユグラは別の方法で魔王になる術を模索したそうです」

「既に至った存在の魔力を利用し、人を上の次元へと昇華させる。それが魔族化というわけか」

「ですです。ですが結果として、人よりも上位の存在には成れたようですが、魔王とは別物になったそうです。擬似的な魔王くらいの感じじゃないですかね?」

「ふわっふわだな」

「そこまで興味ありませんでしたし。一番真面目に調べていたネクトハールも、魔王とは別物だと知った時に調べることを止めましたからね」


 碧の魔王と同じ域に辿り着こうとし、暴走した魔族ネクトハール。もしも魔族の延長上が魔王になるのであったなら、忠義の道を外れることはなかったのだろう。


「覚醒状態について掘り下げますと、人が魔王になるために対価を支払うのと同じで、乗り越えるべき試練があるそうです。それと主となる魔王の魔力が完全に肉体に馴染むことで成れるとかなんとか」

「本当に曖昧ね?」

「だってぇ、試練とか嫌じゃないですか。絶対条件とか厳しいですもん!そんなものに立ち向かうくらいなら、我が王に尽くしていた方がマシです!」


 黒の魔王の配下攻略の緒になりそうで、ただの雑談に終わったような、なんとも言えない内容だった。魔族が強力になる要素なのであれば、ニールリャテスやエクドイクにとっては重要なことでもあるのだろうが……この様子では活かすことは難しいだろう。


 ◇


 ユグラの脅しが効いたのか、オーファローとラザリカタは黒姉に従うと誓った。脅し程度じゃ物足りないと判断したユグラが契約魔法を使おうかと提案したが、黒姉はその必要はないと拒否した。


『私のために戦わせずとも良い。その力を奮ってもらえるのであれば、それで十分だ』


 その言葉にユグラは手緩いねとか言いつつも、それ以上の手出しを止めた。つってもその辺にはラザリカタから引き剥がされた肉片やら骨やらが転がってたわけなんだが。あいつ、返答待たずにぶっちぶちしてやんの、マジ怖ぇ。

 俺の記憶が確かならラザリカタは人間の頃、黒姉こそ嫌っていたがユグラにはある程度友好的だったんだがな。ユグラもそんなラザリカタに笑顔で応える時もあったはずなんだが……今じゃ笑いながら肉を千切ってやがるもんな。

 普通の人間なら取り返しのつかない怪我でも、魔族の体なら直ぐに治癒する。だからといって、痛みはあるわけで。


「しっかし、覚醒状態がこれほどたぁな……」


 黒姉が覚醒した魔族の力を確認したいと言い出し、ザハッヴァが率先として手を上げた。実戦で見せようとして魔物を利用するも、上級程度じゃ歯が立たねぇのは当然で、ユニーククラスを浪費するのは避けてぇってんで、どうなったかっていうとユグラがその相手をすることになった。


「悪くないんじゃない?『緋』くらいに実力を合わせてみたけど、結構良いのもらっちゃったし」


 ユグラの服の胸元には大きな穴が空いている。ザハッヴァに攻められ、防ぎきれなかった一撃の名残だ。少なくともユグラは『闘争』の力くらいまでは解放して戦っていたんだが、それでもまともに一撃を食らうとは思わなんだ。


「だからって、これは酷くね?」

「調子に乗りそうだったからね」


 そのザハッヴァはというと、そこに上半身だけが転がっている。再生するはずの傷口には何かしらえげつねぇ呪いが付与されているようで、瞳孔を開きながら涙や涎を垂れ流しつつ痙攣してやがる。


「……ァ、カ……」

「これ放っておいたら死なね?」

「死ぬようならそれまでじゃない?というのは冗談で、死なない程度に加減はしているよ。呪いの方もそろそろ解けるさ」


 などと言っている間に呪いが切れたのか、傷口がもぞもぞと再生しだした。この再生力はすげーとは思うんだが、いつ見ても気持ち悪い。

 舌を出しながらユグラの方を見ると、ユグラはユグラで穴の開いた服を脱いでいた。強烈な一撃を受けたはずの胸元には傷一つない。っかしーな、胴体貫いたように見えたんだけどなー。


「服貸そっか?」

「裸ローブなんてファッションセンスの服はちょっと……」

「おい、言い方!下は履いてんだろ!?ったく、なら勝手にこしらえてろ」

「アハ、そうするさ」


 ユグラは別の空間から布生地と糸を取り出し、魔法で裁縫を始めた。いやいや、そこから!?こいつの妙な凝り性は今でも変わらねぇな!?

 まあ蘇生魔法やら禁忌の魔法に比べりゃ、過去未来の服の構造なんて簡単なもんだし、魔法で裁縫できるんだったら何だって作れるよな……多分。

 呆れながら見ていると、ザハッヴァの再生が終わって起き上がった。ニールリャテスとかもそうだけど、自分の魔力で編んでんだろうけど服まで再生するのはどうなんだろうな。


「はふぅ……」

「なんでちょっと気持ちよさそうな顔してんだよ。さっきまですげー顔で痙攣してただろ、お前」

「刺激が痛いからなくなる過程には気持ちいいもあるのよ?知らないの?」

「知りたくねぇよ。気持ちいいだけの世界だけで完結してぇよ。真顔で質問すんじゃねぇよ」

「あれ、魔王様、魔王様は!?」


 ザハッヴァは近くに黒姉がいないことに焦りの表情を見せる。ああ、この表情だけは昔の面影あるんだよな、この女。


「黒姉だったら『上出来だ』つって戻っていったぞ」

「っ!良かったぁ……。グシャグシャにされちゃったから、見限られたらどうしようかと……」

「ユグラ相手じゃ誰だろうとグシャグシャだっつの」

「まあでも、憎らしいユグラに一撃入れてやったわ!やっぱり肉を抉る感触は……良いっ!そう思わない!?」

「同意しねぇよ。勢いで変態の仲間にしようとすんじゃねぇよ。人前でアブノーマルな余韻に浸ってんじゃねぇよ」


 まあ女の心臓に呪いを仕込んだ時の感触は悪かなかったけどさ。それでも肉の感触なんて上から揉むだけで良いっての。


「ああ、これからいっぱい殺せるのね?いっぱい、いっぱい!しかも私だけのためじゃなく、魔王様のためにもなる!あぁ……っ!」

「あー、こいつはダメだわ……」


 ザハッヴァはユグラと戦った余韻ですっかりとキマっちまってやがる。戦闘狂のギリスタとはちょっと違う。

 こいつはただ殺してぇだけ、目についた獲物を食うことしか考えられねぇ蜘蛛のように。こいつが三人の中で一番仲間としてマシってのがもうね、泣けてくるんだわ。もう俺がまともに話せるのはユグラだけ、本当に頼むぜ友人!


「よし、興が乗ってきた。せっかくだから『黒』の服も作ってこよう」

「……多分お前の作った服とか、絶対に着ねぇぞ?差し出したら目の前で引き裂かれて燃やされんぞ?」

「それはそれで趣があるとは思わないかい?ようし、際どいやつも作っちゃおう!」


 こいつ話せるだけで会話が成り立たねぇんだった。まあ際どいのはちょっと俺も見てぇけど。




元々魔王だから魔族を生み出せたというわけではなく、魔族を作るために魔王の力を利用する必要があったという話です。

結局失敗に終わった研究でしたが、不老を授けることはできたのでユグラは共に生きる仲間を作る手段として魔王達に方法を伝えました。

ちなみにその研究には最初の魔王である黒の魔王の協力があります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 下手をすると、エクドイクも気が狂う?
[一言] 主人公さんが際どいの着せられちゃわないコレ? 女装は布面積増やして骨格を隠すのがキモだよユグラくぅん!
[一言] テドラル君友達いたの?
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