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ゆえに差し出す。

「少々語弊があったが、話は今説明した通りだ」


 まずはユグラが復活したこと、そしてそのユグラがこの世界に対し、何かをしでかそうとしていること、友がそれを止めるために無色の魔王と共に向かったことを集まった者達に説明した。


「兄様はどうしてご友人を止めなかったのですか!?あの無色の魔王の言葉を信じて誘いに乗るなど――」

「落ち着け、ミクス。友が自分で気づき、提案を受けたのだ。そもそも私や金の魔王が反対しなかったと思うか。したに決まっているだろう」

「これが『色無し』の罠なら、あやつは乗らんかった。別にユグラ相手に喧嘩を売りにいったわけでもないのじゃから、そこまで心配することもないじゃろ」

「本気で言っているの?あのユグラよ?自分の都合で笑いながら相手の首を刎ねる男よ?」

「……ダイジョウブジャロ」


 目を逸らしながら片言で話す金の魔王を見て、周囲の表情が固まる。この狐魔王は周りを不安にさせるようなことしか言えないのか。


「分析をしていた友は言っていた。ユグラは気分屋で、自分勝手で、人を巻き込むことをなんとも思わず、話もまともに通じない類の人種だと」

「その通りだけど、だから問題なんじゃないの?」

「まあそうなのだが……」

「『蒼』、話の腰を折らないでやってくれ。マリトは同胞が向かうに至った理由を話そうとしているのだ」

「わ、分かっているわよ!ユグラを知っている奴からすれば、あいつがどれだけぶっ飛んでいるか……」


 魔王達もユグラが関わると、いつも以上に口が回っているように感じる。彼女達からすれば、ユグラはここにいる他の者達よりも付き合いの長い人間だ。


「だが友はこうも言っていた。ユグラは独特ではあるが、論理的思考を持って行動をしている存在だと。その思考と噛み合いさえすれば、対話することも不可能ではないとな」

「……アレとまともに話せてたのっていたっけ?」

「『黒』と『碧』くらいかしら?魔法の分野だけだけどね?」

「とにかく!友は勝算もなしに挑むような命知らずではない。少なくともここにいる誰よりもユグラを理解した上で、望みを持って向かったのだ」


 俺だって内心は心配で仕方ない。だが友に『上手く不安を減らしておいてくれ』と頼まれた以上は親友としてその役割を果たさねばならない。

 しかし意気込んでみたものの、皆想像よりも不安の色が薄い。ラッツェル卿やウルフェちゃんなどは特にと思っていたのだが、思ったよりかはと言った感じだ。

 セレンデから帰ったばかりの友が同じ状況になっていれば、きっとこうはならないはずだ。少なくとも休息していた日々の間で、友なりに彼女達の心配を和らげる努力をしていたのだろう。


「なるべく早く連絡を寄越すとも言っておったからの。『色無し』が協力しているのであれば、こちらへの連絡くらいすぐに――」

「おう。すぐに持ってきてやったぜ。感謝しやがれ、金娘」

「……もう少し予兆的なものは出せんのかの?」

「あのなぁ、これは進歩した転移魔法なんだぜ?わざわざ予兆を消してんの。まあ分身体だけどな」


 確かに実戦で転移魔法を使う場合、最初からそこにいたかのように感じる認識阻害は非常に有効だろう。どうやっても対応が遅れてしまうのだ。刹那で勝負が決まる超越者達からすれば必殺の技と言っても過言ではない。

 いや、それよりも無色の魔王が現れたということはだ。友は未だユグラの元にいる。帰れない理由があるということだ。


「伝言があるのならば、速やかに言え。お前と仲良く話すつもりはない」

「おーおー、気が合うじゃねぇの。とりあえず経過報告ってやつだ。端的に言えば、あの男はユグラと話し合う場を取り付けた。今も俺の目の前で話しちゃいるが、この様子じゃ殺されるようなことはねぇだろうな。いきなり喧嘩を吹っ掛けたわけじゃねぇし」


 そう語る無色の魔王の視線はこちらの誰かではなく、ここにない誰かに注がれているように見える。金の魔王が分身体を使い、精神だけをガーネとターイズの間で行き来させていたが、この男は二つの体を同時に扱うことができるのか。


「……そうか」

「勝負は挑んでるがな」

「何をやっているんだ友は!?」


 同じように声を出そうとしていた者が数名いたが、俺が誰よりも先に声を出してしまったせいで、一人で叫ぶことになった。赤面しそうになるのを気合で抑え込み、軽く咳払いをする。


「気持ちは分かるがな。だがこれはお前らにとっても、必要な勝負でもある」

「……どういうことだ?」


 無色の魔王は友に話したように、ユグラが何をしようとしているのかを皆に説明した。

 時空魔法を使い、過去に戻り歴史を覆す。その結果はどうあれ、今の世界はその影響を大きく受け、新たな歴史に塗り替えられてしまうだろうと。


「規模が大きすぎて、ピンときませんな……」

「ダメだったから過去に戻ってやり直すとか、子供の発想じゃないの!?」

「蒼鬼の言う通り、ユグラの発想は単純で幼稚だ。だがな、あいつはそれを実現できる力がある。できるからこそやる。お前らはどうだ?魔王になって悔いたことがあるのなら、悪い話でもねぇと思うがな」


 正直説明をされても実感などはない。過去に行われた事例のない歴史の改竄。しかしその結果は推測をすればするほど、今を生きる者達にとって絶望的な未来しか待ち受けていないことになる。


「冗談じゃないわよ!そりゃあ最悪な思いはしてきたけど、こっちはそういうの必死に乗り越えてきたのよ!?あと蒼鬼って言うな!」

「へぇ、あの死にたがりが随分とまぁ……」

「あの時のままの『蒼』なら賛同していたかもしれんがの。そもそもその話が真実ならば、妾達は魔王になることもなく人間としての死を迎えるだけじゃろ。妾達は既にこの世界で、この今を生きたいと願っておる」


 紫の魔王にいたっては答えるまでもないと、静かに笑みを浮かべている。歴史が変われば黒の魔王は存在せず、友がこの世界に呼ばれることはない。友の存在がなければ、彼女がこの今を生きる意味はないのだ。


「ま、お前らが今を生きる理由なんざ、どうでも良いんだがな。あの男が挑んだ勝負はこの世界を残すための行動なんだろうが、同時に滅びへと近づくものでもある。あの男がどういう結末を考えて、あんなことを言い出したのかは見当もつかねぇが……まぁ、お前たちが何もできないまま消えるよりかは断然マシなんだろうな」

「……友がユグラに挑んだ勝負とは一体何なのだ?」


 確かにこのまま何もしなければ、ユグラは歴史を変えてしまい、俺達の存在は消えてしまうのかもしれない。だからといって、この今を生きる者達にユグラを排除することは不可能だ。ユグラの後継者として生まれたハイヤがいたとしてもきっと無理だろう。

 そんなユグラに友が何かを含み勝負を挑んだ。ならば我々にできるのはその勝負の駒として、友のために死力を尽くす他にない。

 しかしユグラが未練をなくしたこの世界で、勝負を受けようと思えるような理由があるのだろうか。話の通りならば、一刻も早く過去に戻りたいと願っているのではないのか。


「――ユグラも流石に一考せざるを得なかったのさ。黒姉に復讐を完遂させようだの言われたらな」


 ◇


 ターイズに送り込んだ分身体での経過報告をしつつ、ユグラとあの『地球人』の様子を見守る。

 一応あの男に言われた伝言も込みで届けた。連中もその真意を理解することはできていねぇようだったが、これから何が起こるかは把握できたわけだ。

 話が終われば既に全ての大国に情報が広がることだろう。時間の猶予はないにも等しい。なんせ歴史上最悪の魔王が復活し、人間界に襲いかかってくるってんだからな。


「それじゃあ勝負の内容を再確認しよう。勝負と言うよりも、これは清算と言うべきなのかな」

「ああ。お前が過去に戻って全てをやり直すことを、止めるように説得することはできない。法の範囲外なのだから権利なんてないし、力で止めることも不可能だ。だから提案をする。お前がこの世界に置いていく黒の魔王の意思を尊重してやってほしいと」


 今黒姉の魂はこの男に欠片程度移されているが、大本は黒魔王殺しの山にある。人間への復讐に囚われ、怨嗟の念を抱きながら解放の時を待ち続けている。

 ユグラはもう今の黒姉を救う事はできないと結論付けた。だから時空魔法で過去に戻って、黒姉が体験した惨劇ごとなかったことにしようとしている。


「僕が過去に戻り、彼女の未来を変えれば、今の哀れな彼女は存在しなくなる。それで十分だとは思うのだけれどね。僕は彼女に世界を滅ぼしてほしいとは願っていないのだから」

「だけどお前は黒の魔王に世界を滅ぼす力を与えた。その上で復讐を果たす機会を奪った。このままだとお前はこの世界の黒の魔王を裏切ったまま、彼女を見捨てることになる」

「捉え方の問題だとは思うけれどね。でもまあ、確かに後味の悪さが残るのは間違いないね」

「取り憑かれて夢を見せられている身としては、間違いなくお前を恨み続けたままだな」


 この男の責任を追求するかのような口調とは裏腹に、ユグラに対する敵意や嫌悪などは一切感じない。そんなものを少しでも込めて話してしまえば、『君には関係のないことだ』と話を切り上げられて終わってしまうだろう。


「それで『黒』を解放し、この世界が新たな歴史に上書きされる前に、させたいことをさせてやるべき……具体的にはこの時代の人間達と最後の戦争をさせる」

「お前にとっては既に興味を失ったものだとは思うが、この世界もまたお前が変化を与えて創り出したものだ。どのような形であれ、結末くらいは迎えさせてやってほしい」


 もしも黒姉が復活し、人間界への侵攻を再開した場合。間違いなく人類は滅ぶ。残る全ての魔王が協力し、全ての大国が一丸となってもだ。

 それほどまでに圧倒的な戦力差がある。戦略だとかそんなものは、理を超えた相手には通用しない。今の俺がユグラを相手に何もできないのを悟っているのと同じだ。


「『黒』には最後の憂さ晴らしを、この世界の住人には尊厳ある死を。それを見届けるのがこの結果を生み出した僕の責任ってわけだ。時空魔法の準備が済むまでの余興としても悪くない。だからその勝負を受けるとは言った。でも二つほど問題がある」

「黒の魔王が完全に復活した場合、お前が時空魔法を使うのを妨害してくる恐れがある。だろ?」

「その通り。僕だって彼女のことは良く知っている。過去に戻ってやり直してくるなんて言ったら、『この私が今抱いている怒りはどうなる!?』とか言ってくるだろうからね」


 そりゃ言うだろうよ。今の黒姉は人間を滅ぼしたくて仕方がねぇんだ。それを『なかったことにしてきてやる』と言われて『じゃあよろしく!』と見送る奴がどこにいるってんだ。

 黒姉はユグラから理を超越した力を与えられている。その力を総動員すりゃ、時空魔法そのものを妨害することだってできるだろう。


「もう一つは……『俺』か」

「うん。『黒』とこの世界の人間達の関係に、終止符を打たせることは賛成だ。そこに僕や君のような異端者が介入するのはフェアじゃない。君が僕の介入を望まないのと同じで、僕も君に介入してほしいとは思わないんだよ」


 ユグラはこの男を警戒しているわけじゃねぇ。これは単純に『僕がどっちかにつくとそれで勝負が決まるし、だからといって僕が介入しないのに君だけが介入するのはずるい』ってニュアンスだ。俺から言わせりゃ、この男が人間側についても黒姉の方が全っ然有利だし、むしろそれくらいはしてやっても良いんじゃね?くらいなんだが。


「その両方を同時にクリアする方法はある。この体を黒の魔王に渡す。それなら大丈夫だろう?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ユグラはなんで魔王なのに名前が残ってるんやろう??
[一言] これは…憑依型のTSですね!俺は詳しいんだ!
[一言] ちょっと、何言ってんの!? 「渡す」って何?せめて「貸す」にしなさいよ! 元に戻れなくなったらどうするのよ!? ・・・って言いたい。
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