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そんなわけで、兄属性でした。

 ラクラと合流するため、ハークドック達のいる施設を目指しつつアンデッドを処理していると、異様な姿の獣と遭遇した。

 明らかに通常の獣とは違う風貌、そして死霊術の影響を受けていることから、ヒルメラ王女の駒の一つなのだということは察することができた。


「魔物ではないのだな?」

「ええ。アンデッドとして蘇生されてはいるけど、通常の死霊術ともちょっと違うわね」

「違うとは?」

「死霊術は相手の亡骸にその魂を閉じ込めて扱う高等な術なの。だけどあれは……単純に肉体だけを再生させて、本能だけで動くようにしているって感じ?」


 ラーハイトはこのような使い方はしていなかった。ならばヒルメラ王女は独学で死霊術に応用を効かせていると考えるべきか。

 あの大きさの獣が肉体の制限を受けず、自由に力を振るえるとすれば……魔力強化を施しただけの鎖での拘束は少々難しいか。

 そもそも魔法が封じられている以上、体積や長さをこれ以上変化させることが難しく、アレを拘束する為に武器を使い切るような真似はできない。

 などと考えていると、エードと共に空で様子を探っていたベラードが戻ってきた。エードならば二人くらいは乗せられるだろうから、『蒼』とメリーアの移動手段はこれで大丈夫だろう。


「大まかに見た感じでは巨大な魔封石の姿は見当たらなかった。そしてあの獣だが、他に複数体確認できた。意図的に放たれているようだが、人間を殺すだけにしては向かう方向が妙に似通っているな」

「何かを探している……と考えるべきか」


 獣の特性を残しているのであれば、人型より優れた五感を持つアンデッドということになる。ヒルメラ王女がこの騒ぎの中探したい存在……ヌーフサ王子や行方の分からないセレンデ王あたりだろうか。


「倒すのか?」

「いや、浄化魔法が使えない以上、あの体積のアンデッドを無力化する術がない。戦闘になっても脚を破壊し、即時離脱が良いだろうな」


 まず行うべきはラクラ、ハークドック達との合流。その後は魔封石を探しだし、その撤去だ。

 下手に手分けして行動した場合、あの獣との戦闘の際に不覚を取る者も出てくるだろう。


「それが良いわね。まったく、場所を選ばなくて良いならダルアゲスティアで一網打尽なのに」

「……そうだな。ダルアゲスティアを使うことを考慮に入れておいても良いかもしれない」


 この場所に移動するまでの間、救助対象となるセレンデの国民の姿がほとんど見えなかった。これほどの災害ならば、もっと被害は大きくなると考えていたのだが……ヌーフサ王子が想像以上に上手く立ち回っているのだろう。


「とにかく、魔封石の影響範囲から抜け出さないとね。この様子じゃラクラ達はまだメジスに連絡取れてないでしょう――っ!?」


 遠くから聞き慣れない獣の雄叫びが聞こえた。その雄叫びが俺達の警戒していた獣のアンデッドのものであることは、それに応じるように上げた雄叫びで分かった。

 どんどん雄叫びの数が増える中、俺達が見張っていた個体が走り出す。こちら側ではなく、最初に雄叫びが聞こえた方角だ。


「何かを見つけ、それを仲間に伝達していたようだな」

「……ならばあの方角に王族の誰かがいるのだろう」


 通常のアンデッド達は反応を見せていない。あの特殊なアンデッドだけが一点に集おうとしている。

 ラクラとの合流を急ぐのであれば、無視して先へと向かうべきなのだが……。あのラクラが今の雄叫びを聞いていて、俺と同じ考察に至っていた場合、ラクラはあの方角に向かうかもしれない。

 あの獣のアンデッドに襲われたのならば、魔法の使えないラクラでは間違いなく勝てない。魔力強化での移動も追いつかれるかもしれないのだ。


「向かうの?」

「ラクラも向かう可能性がある。方角からすればラクラの方が先につくだろう。ならば少しばかり遠回りになっても向かう意味はある」

「危険ではないのか?」

「危険ではあるが、無視できない状況だ。二手に別れよう。俺が一人で――」


 俺の言葉を遮るかのように、背中が強く叩かれる。視線を向けると、そこには『蒼』とメリーアが同じ表情をしてこちらを見ていた。


「勝手に仕切らないでよね。私と貴方じゃ私の方が上なんだから。だいたい貴方と別れて行動すると毎回ピンチになるんだから、学習しなさい」

「……明確に危険な場所に向かうことになるのだが」

「なら貴方が私達を守りなさい。ベラードは飛べるんだから、先にハークドックのところに向かってラクラが既に合流しているかどうか確認してきて。ほら、メリーア、乗って」

「わ、はい!」


 二人を乗せたエードが走り出す。こうなった以上は口を挟む余地などない。やるべきことをやるしかないのだろう。


 ◇


「今の雄叫びは一体……」


 ヤステトさんのおかげで施設には無事に着いたのですが、どうやらハークドックさん達は既に移動してしまっているようです。途中まではアンデッド相手に戦闘を行っていたようで、ところどころにお二人が暴れた痕跡のようなものが見られます。


「人のものではないだろうな。そちらの魔王の配下ではないのか」

「うーん。『紫』さんの魔物はそもそも吠えませんし、『蒼』さんの魔物はもうちょっと可愛さがあると言いますか……」

「ならばこの事件を引き起こした犯人の次の一手と考えておくべきだろう。雄叫びの上がった方角、間隔からして獲物を見つけた時の連絡のようだったが……」


 それは私も思いました。この状況下でヒルメラ王女さんが何か、いえ、誰かを探しているのであれば、それはヌーフサ王子でしょう。

 人ならざるものの雄叫び、嫌な感じがぴりぴりしますが……うう、私が向かったところでできることがないんですよね……。


「……よし、まずはマセッタさん達と合流します!ヤステトさんの負担を増やすわけにもいきませんしね」

「賢明な判断だ。……ラクラさん、良い報告と悪い報告が一つずつあるが……どちらから聞きたい?」

「うっ、その言い方って悪い報告の方が勝っちゃうんですよね……。私のことを褒めて、良い報告を増やしてもらえません?」

「善処しよう。では考える間、悪い方から。落ち合う二人だが、どうやら刺客に襲われたようだ」


 えぇ……。その辺にお二人の死体が転がっているとか、そんなことありませんよね?知り合いの死体はちょっと見たくないのですが……。


「よくわかりますね?」

「そのへんの痕跡だが、どうも一人が魔法で攻撃を行い、もう一人が近接戦をしていた感じだ。そしてその相手は……以前うちのアークリアルを倒した相手のようだ」


 ヤステトさんは抉れた地面を見て難しい顔をしています。これ、足跡ですかね?どんな力で踏み込んだらこんな跡が残るのやら……。ってアークリアルさんって物凄く強い方ですよね!?


「あ、あの、お二人は――」

「良い知らせの方だが、二人共生きてはいる。血痕が二人分重なって、向こうの方へと移動している。床に残っている量と点々と落ちている血痕を見る限りでは、深手は負ったが魔力強化の範囲での止血は可能な状態のようだ。理由は分からないが、見逃されたと考えて良いな」

「ほっ。良かった……」

「あと姿勢が綺麗だ」

「あ、本当に言ってくださるのですね。ありがとうございます」

「今度モラリに女性らしい仕草を教えてやって欲しいものだ。あの妹分は恋する乙女な癖に、中身が荒くれ者過ぎる」


 モラリさんって凄く怖い人でしたよね。ミクスちゃんはとても可愛いと言っていましたが、あの目つきはなるべくなら関わり合いたくない方です。

 それにしてもどうしましょう。ハークドックさん達は怪我をしているそうですが、生きてはいるようです。向かった方向もセレンデ城から離れ、安全な場所へと向かっているかのような印象があります。

 まともに歩けていないのであれば、急げば直ぐに追いつけるとは思うのですが……うーん。


「むむむ……」

「仲間の元へ向かわないのか?」

「そうしたいのは山々なのですが、どうも状況が逼迫しているようなんですよね……」


 あの雄叫びを上げた存在が複数、避難誘導を行っているヌーフサ王子の元へ向かっているとした場合、かなり危ない状況です。エクドイク兄さんも気づいているでしょうから、きっと援護に向かっているでしょう。

 しかし魔法が使えない状況では、皆さんできることは限られてくるはずです。私が特にそうですし……。


「魔法が使えない以上、あの雄叫びを上げた連中の向かった場所には付き添えんぞ」

「それは大丈夫です。魔法が使えない私が行くわけないじゃないですか。頼まれたって嫌ですよ」

「……ならば怪我をした仲間を助ける他にできることがあるのか?悩む時間があるのなら、合流を急いだ方が良いと思うがな」

「なにかできるような、そんな感じがここまできて引っかかっているんですよ……」


 頭を抑えつつ、うんうんと唸ってみるも、これだ!って考えが浮かんできません。尚書様ならここでずばばーって、妙案の一つや二つ思いつくのでしょうが……。


「……ふむ。モラリ達もまだ来ていないようだし、少しくらいならば知恵も出すが……俺もそこまで頭が回る方ではない」

「こう、本当になにか思いつきそうなので……とりあえず私を褒めていてください」

「……爪の手入れがしっかりしている。モラリのやつはよくナイフを使う時に荒れるからな」


 この感覚はいつからでしょうか。確か魔法が打ち消された時……そうです、あの時の感覚にどうも覚えがあるんですよね。ええと、あれはいつの時でしたっけ……。


「うーん」

「……肌が綺麗、睡眠をしっかりと取っているようだな。モラリは夜ふかしばかりするからな」

「うーん、うーん」

「……髪の手入れもしっかりとしている。風呂もこまめに入っているようだな。あいつはリティアル様に会う日以外は面倒臭がるからな」

「ヤステトさん、モラリさんのこと好きですね!?」


 褒められて気分が良くなればあるいはと思いましたが、逆に気が散ってしまいました。褒めるところがどうも細々としているし、お風呂に入っているとかではなく、もっとこう人格的な面をですね……ん?お風呂?そうだ、それです!


「長年付き添った妹分だからな。嫌いではないさ。ただまあ、もう少し俺の話をしっかりと聞いてくれたら可愛げのある女になれるはずなのだが……っておい」


 施設の中に入り、きょろきょろと目当ての場所を……ありました、お風呂!薪はくべられていないので、冷たいですが……贅沢は言ってられません。服を着たまま飛び込みます。


「いや、別に風呂の入り方とかは人それぞれだと思うから、実践しなくても……というか服を着たまま飛び込むのか……」

「違いますよ!?ええと、とりあえずもう一度試してみてっと……」


 左右に両手を広げ、結界魔法を展開……しようとした途端に構築が分解されてしまいました。ですが、これです、この感覚です。もう一度……、もう一度……。


「魔封石の影響下だ。魔法は使えないだろうに、一体――」

「あっちです!あっちの方角に魔封石があります!」

「……なんだと?」


 以前魔界にいる『蒼』さんの位置を特定する時にやったアレ、魔力の密度が少ない水の中では魔力の波長が伝わる速度が遅くなるとかいう話です。

 実際には自分で構築し、その場で無力化されているわけなのですが……その無力化される位置が、僅かにずれがあるのです。

 それが魔封石から向けられている波長なのか密度なのか、詳しい話は真面目に聞いていなかったので覚えていませんが、ずれがあるということは向きが存在しているということ。


「魔封石さえどうにかすれば、皆さん自由に対応できるようになるわけですから、最優先事項ですよね!」


 水風呂から上がり、近くにあったタオルで髪を拭いていると、今度はヤステトさんが水風呂へと飛び込みました。そして私と同じように何度か魔法を発動しようとし、構築が分解されていきます。


「――なるほど。そういうことか」

「え、ヤステトさんも分かるのですか?……あ、そういえば――」

「俺は集中力に秀でた落とし子だからな。魔法のない環境ならば、ラクラさんと同じ芸当をすることはそう難しくない」


 この人もある一点では伝説の勇者に並ぶ才能の持ち主。ただこうして私だけができると思ったことをさらりと真似されるのはちょっと切ないです。

 ヤステトさんは水風呂から上がり、同じようにタオルを手にとって頭から拭いていきます。そういえば服、どうしましょう……。二人共ずぶ濡れのままですと風邪を引くと言うより動きがですね……。


「マセッタさんがハークドックくんを見張るため、毎日のように通っていたことは聞いている。最近では荷物を持ち込み、寝泊まりしながら監視をする計画を建てていたこともな。この騒動ならその荷物は残っているかもしれん」

「あ、そういえば!……うう、頭の回転も私とは比較にならないほど早いです……」

「なにを悲観にくれているかは知らないが、これはラクラさんの功績だ。もっと得意気になって良いと思うが」

「とてもそんな気分には……」


 ヤステトさんは近くの部屋を開け、荷物を漁ります。どうやら誰かの服を拝借するようです。そうだ、私も早く着替えなきゃ……。


「――俺の才能は生まれつき、しかも他人から与えられたもの。だがラクラさんの集中力は自ら磨き上げた成果の結晶だ。それが同格なのはラクラさんの努力が勇者ユグラに匹敵したのと同じと言っても良い。少なくとも俺には他のことで努力をし、その分野の才能を持つ落とし子に並べるとは思っていない。魔封石の方角を見つける手段も、ラクラさんの経験ありきのものだ。俺が真似をできても、結果を生み出せるのはラクラさんにしかできないことだ」

「ヤステトさん……うう、以前エクドイク兄さんと一緒にあんな目に遭わせてしまったのに……。ここまで評価してくださるなんて……。尚書様ももっとこの人のように私を褒め続けるべきなのですよ!」

「そこは意見させてもらうが、悪い点を指摘するのは身内の役目だぞ」

「うっ」



ヤステト「(もう一人妹がいたら、こんな感じに面倒な風になるのだろうか)」


とか思ってそう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヤステトは、めんどい属性の持ち主を妹分にしたかったりして?
[良い点] ここで魔力ソナー?の設定がでてくるのか!、という感動。
[一言] そしてラクラは誰も味方がいなさそうな方面へ…え?大丈夫なのこれ?((((;゜Д゜)))
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