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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
決着編

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そんなわけで急ぐ。

 ツドァリからの報告により、突入してきた人数は十数名。三~四人から構成される三チームに分かれて移動を行っているようだ。影に潜める悪魔の存在を考えればもう少しばかり数は増えるだろうが、概ね予想通りの人数だ。

 ターイズの騎士、メジスの聖騎士の姿は見えない。私達が逃走を謀った時の為に周辺警備へと回しているのだろう。罠が張り巡らされている場所に人数を連れて突入すれば、それだけ一網打尽にされる可能性が高い。自分の身を守れる少数精鋭での突破だろう。


「気になるのは……ローブで姿を隠している人物。これは……私対策かな」


 ユグラの星の民は私が状況に応じて対応を変えてこれることを想定している。だからこそチームの編成を気取られないようにと情報を隠している。この遺跡内の情報を把握できるのはツドァリだけ。その情報を元に分析をしなければならない以上、正確な情報を得られないのは難儀だ。


「とは言え、先行している人物との相性を考えればそう難しい話ではないがね」


 第一チームの先頭はエクドイク、その後ろには蒼の魔王とローブの人物の計三人。

 第二チームの先頭はローブの人物、その後ろにはウルフェと紫の魔王、ローブの人物の計四人。

 第三チームの先頭はハークドック、その後ろにはローブの人物三人の計四人。


「第二チームの先頭はミクスだろう。罠が待ち受けている回廊を進まなくてはならない以上、そこを偽れば罠に対応しきれずに不必要なリスクを背負うことになる」


 同様に姿を見せている人物との相性を考慮しつつ、残りの人物の特定を済ませていく。ラクラ=サルフ、マセッタ=ノイチスは必ずいるだろう。碧の魔王との関係があるのであれば、その魔族であるニールリャテスとやらも含まれている可能性は高い。大悪魔デュヴレオリは……今は紫の魔王の影に潜んでいる場合もある。

 モラリ、ヤステトが含まれている可能性はないと判断した。あの二人は完全に裏切ることはなく、私が敗れた際にその身を護る為に行動する。もしもアークリアルと接触させればその場でアークリアルに助けを求める可能性があるからだ。あの二人はセレンデに連れてこられているだろうが、遺跡の外で待機させられている筈だ。そして私を倒した際、通信用の水晶で呼び出して私をこの場から遠ざけさせるつもりだろう。


「……これはやはりか。第三チームを私にぶつけたいのだろうな」


 第一、第二チームの編成は凡そだが想像が付く。だが第三チームだけは素顔を晒しているのがハークドックだけであり、考察をさせる要素を極力排除している。予期せぬイレギュラーを忍ばせているのであれば、やはりそこだろう。

 上層のルートをツドァリに上手く制限させることで、三手に分かれている者を任意の中層ルートへと誘導することができる。ユグラの星の民はそれらを全て想定した上でこの布陣を決定してきている。しかも自らがアークリアルの傍に残ることで『これ以上の変更はない』とさえアピールしているのだ。

 もしもあの男が何れかのチームに加わっていれば、ラーハイトやセラエスでは手に余ることになる。私が直接相対しようと思っていたのだが、この布陣には予想を外された。


「私の読みではイリアスとウルフェの二人組、またはそれに一人二人の人選を残して突入してくると踏んでいた。読みを外させるだけならばそう難しいことではない。だがそれではただ勝機を捨てているだけだ」


 私が読んだのはユグラの星の民にとっての勝ち筋だ。負ける展開にしかならないことは読む必要性すらない。この布陣は一度頭の中に浮かびながらも、『勝てない』からと思考から排除したパターンでしかない。

 確かに地上にあの男が残れば、十分な時間の間アークリアルを足止めする手段は存在する。しかしそれでは地下で待ち受ける不確定要素全てに彼が一切関われないということになる。それがどのような結果になるかくらい、当然理解している筈ではあるのだが。


「――ここは悩んでも仕方ない。こちらは最善の行動を取れば良いだけの話だ」


 まずは姿を隠している者達の特定を急ぎ、相手の手駒を完全に把握すること。そうすれば仮にユグラの星の民が私を凌駕する策を用意したとしても、それに気付き対応することもできるはずだ。

 戦況をひっくり返す策を使用するにも前提は必要となる。仮に私の予想を裏切る奇抜な策を実行できたとしても、表向きに大打撃を受けていてはその後の展開が息切れになる。油断を誘う狙いもあるのだろうが、こういう搦手を好む者が最も嫌うのは徹底した定石を貫くことだ。決して相手のペースにさせてはいけない。


 ◇


「ちょっとエクドイク、罠多すぎない!?」


 地下遺跡には様々な罠がいたる所に設置されていた。そのどれもが巧妙に隠されており、発動してからようやくその存在に気づくものもある。ツドァリと呼ばれる落とし子の才能、隠密に長けているとは聞いていたが、罠の設置技術にもある程度の影響はあるようだ。


「極力俺が踏んだ足場を意識的に進め。歩幅は気持ち狭くしておく」

「泥の上じゃないんだから、そんな芸当できるわけないでしょ!?」

「できる。微かではあるが俺の魔力を足跡として残している。少し意識すれば見えるはずだ」


 罠の種類はかなり豊富だ。糸などを張り巡らせているものもあれば、壁や地面に接触することで発動するものもある。魔力で探知できるもの、できないもの、できたとしても探知し辛いものとその違いの多さに心や意識が慣れることができないでいる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいエクドイク兄さん!もう少しゆっくり……!」

「エクドイク、ラクラが遅れているわよ!」


 殿にいるのはローブで姿を隠しているラクラ。殿と言うよりは純粋に遅れている状態だ。ラクラは複数のことを同時に行うことが苦手だ。ローブから素顔を見せないよう気を配りつつ、敵や罠を警戒しながら移動すると言ったことは結構な負担になっているのだろう。だからといって足を止める余裕はない。今もこうしている間に蘇生魔法が完成されようとしているのだ。可能な限り急がなくてはならない。


「ラクラは罠を気にしなくていい。ただ俺の付けた足跡を辿って走れ!」

「で、でも――」

「お前が罠を発動さえさせなければ、あとは全部俺が対処できる。必ず守るから心配するな!」

「は、はい!でもそれは私よりも『蒼』さんに言ってあげてください!」

「割と余裕あるわね!?」


 リティアルは常時この遺跡内の様子を把握しつつ、敵の配置などを弄っていると同胞は言っていた。それが本当ならばいつ俺達の意識の隙を突いてきてもおかしくはない。

 基本的には罠が主体で、時折レイティスの信者らしき者達が襲ってくる。信者達は正面から仕掛けてくるような真似はせず、罠の発動などに合わせて攻撃を行ってくる。だが落とし子達と比べれば特に厄介と言うほどでもなく、俺達の戦力ならば十分に対処可能だ。

 などと考えつつ地面から突き出された槍を回避するのと同時に、頭上から奇襲を仕掛けてきた信者への反撃を行う。


「ぐあっ!?」

「しかしこう絶妙なタイミングで仕掛けられ続けると、どうしても慎重に対応しなければならなくなるな」


 だからと言って力量を測らず、雑魚と判断しての反撃は避けなければならない。そう行動しようとすれば、リティアルは確実にそのタイミングで強者をぶつけてくるだろう。


「そうね。でもエクドイクなら問題ないでしょ?視覚、聴覚、嗅覚、魔力知覚、全部に集中しながら、都度探知魔法で進行先と後方を索敵してるくらいだし」

「探知魔法の方は中々に苦戦してはいるがな」


 遺跡の回廊にはところどころ魔封石が埋め込まれているのを確認している。レイティスの信者からすれば奇襲を仕掛けたい立場なのだろうが、探知魔法で位置が把握されてしまっていては意味がない。

 なので角を曲がった先の壁などに魔封石が埋め込まれており、曲がる前の探知魔法の大半が打ち消されてしまっている。幸いにもそのタイミングで仕掛けられた回数は現在のところ二度ほどで、問題なく回避に成功している。


「他のチームの皆さんが心配ですね……」

「大丈夫だろう。ミクスは罠に詳しいし、ハークドックには落とし子としての本能がある。ウルフェやデュヴレオリにとっては大抵の罠は意味すらない」


 リティアルにとってもこの上層の罠は時間稼ぎの手段の一つに過ぎないはず。時間を稼ぎつつ、こちらの編成などを確認して同胞の手の内を見透かすことが奴の今の工程だ。だからこそラクラの姿を隠しつつ、可能な限り最短で中層へと向かわねばならない。


「まあ一番心配なのは地上に残した二人よね。相手は剣の腕だけと言っても、ユグラと同格なんでしょ?どうにかなるものなの?」


 俺達がトリンで戦っている間も、イリアスはその剣技を磨き続けていた。しかしその練度の向上がどれほどであろうとも、アークリアルとの差をなしにできるわけではない。イリアスが一人で残ることになっていれば俺でも心配をしていただろう。だが今イリアスの傍には同胞がいる、それも同胞の意思の上でだ。


「――あの二人でダメならば誰にだってアークリアルを止める術はない。それだけだ」

「心配する暇があれば走れってことね。わかったわよ」


 心配する暇があるのならば、一刻でも早くネクトハールの研究を阻止し同胞達の元へと戻れば良いだけのこと。急ぐとしよう。


更新日に余裕を持たせたいので、暫くの間は更新頻度が一日ほど長くなるかと思います。可能ならば三日更新のペースを維持したいところではありますが。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アークリアル懐柔してネクトハールにぶつけるんかな?
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