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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
選択編

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だから願う。

 ソライドを倒しラーハイト達の動きを封じることに成功したとはいえ、トリンですることはまだ少し残っている。むしろ次に繋げるという意味では今やっていることが『俺』にできる本命と言ってもいい。戦闘ではエクドイク達に頼りっきりな分、ここで仕事をしておかないと本当に出番がなくなりかねないからな。トリンに来て記憶を失って、気づいたら帰ってきたとかイリアスにどんな目で見られることか。


「知っておきたかったことは仮説の通りの展開になってくれた。あとはバラストスに頼めばなんとかなるか……?」

「よ、兄弟。遅くまでご苦労なこったな」


 机の上であーだこーだと考えていると、両腕に食料を抱えたハークドックが姿を現した。隣にはマセッタさんの姿もある。


「そういうハークドックも夜遅くに調理か?」

「おう、小腹が空いたんでな。あとは兄弟にも何かと思ってな」

「そうか、何か腹に入れれば頭が回るかもしれないし、助かる。それでマセッタさんは?」

「わ、私も代表さんに何か用意しようかと……」

「さっきばったり出くわしてよ。腹の音が鳴ってたから連れてきた」

「ちょっとっ!?」


 ケラケラと笑うハークドックを恨めしそうに睨むマセッタさん。そいつに気遣いを求めるのはちょっとな。


「夕食をしっかり食べなかったのかな。時間の管理はしっかりとね」

「は、はい……」

「いや、こいつ夕飯おかわりしてたぞ?」

「ハークドックッ!?」


 まあ『俺』にできるフォローはしたつもりだ。聞かなかったことにしておくので、それで勘弁してほしい。

 ハークドックはテキパキと野菜のスープを作り、机の上に並べていく。こちらも作業を止めてスープを口に運ぶ。格段に美味いと言えるものではないが、ほっとする味だ。


「あっさりとした味付けだな」

「ジェスタッフの兄貴もいい歳だからな。必要なら塩でも足すか?」

「あーそうだな。少しもらおう」


 マセッタさんは皿が見えないように食べている。一瞬見えたが、野菜がゴロゴロと入っていた。スープを注いだのはハークドック、こいつなりの気遣いなのだろうが『俺』の三倍近い量はやり過ぎだ。


「いやぁ、やっぱ兄弟はこれくらいの方が落ち着くぜ」

「その件に関しちゃ悪かったな。マセッタさんも色々と苦労したんじゃないのかな?」

「あ、いえ、その……はい。確かに記憶を戻されていた代表さんにはちょっと……」

「ほんっと、空気悪くする天才かよって思ってたぜ?まともに会話できてたのってエクドイクとバラストスくらいだったしな」


 ハークドックは歯に衣着せぬ言い方だが、それくらいの方がこちらもやらかしたことを実感しやすくて助かる。『蒼』やミクス達にはある程度フォローをしておいたが、この二人にもしっかりしておくべきか。


「その中でもしっかりと仕事をこなしてくれたことには感謝しなきゃな」

「おう。戦闘こそなかったが、街中の魔封石を探し回ったりして大変だったんだぜ?マセッタとケイールとでそりゃもうコツコツとな」

「ケイールはどうだった?」

「あー、最初は騎士のくせにイマイチ覇気がねぇなって思ってたけどよ。すげぇなアイツ。兄弟がわざわざ指名して連れてきた意味がよく分かったぜ。なぁマセッタ?」

「え、私にふるの?……そうですね、人相書きの精密さや類まれなる記憶力。力だけが優劣を決めるのではないという言葉の意味を強く実感できましたね」


 本業とは異なる能力で活躍ができる者はこの異世界ではなかなか珍しいのだろう。瞬間記憶能力に関しては才能だが、絵の上手さは本人の技量によるものだ。努力の成果が認められるのは他人の話でも喜ばしく思える。


「ほんと、よくもまあ隅々まで覚えられるよな。落とし子じゃねぇのって思ったぜ」

「ある分野での天才ではあるからな。だけどケイールは常人の部類だぞ」

「落とし子と天才ってどう違いがあるんだ?」

「簡単だ。天才は最初から自分の才能を使いこなせるが、落とし子はそうじゃない。身に余る才能に振り回されてしまうんだ。なんせ湯倉成也が勇者として完成された状態での才能をいきなり与えてしまっているんだからな」


 天才といっても最初から最大のスペックを発揮できるわけではない。本人の練度に応じて成長をしていくものなのだ。


「なるほどな。てことはリティアルやアークリアルもそんな時期があったんかね?」

「あったと思うぞ?まあ観察眼や戦闘の才能ってのはそこまで振り回されるものじゃ……」


 ハークドックの危機察知能力は本人の意識すら奪うほどだ。それに比べれば比較的マシ……とも言えないか。


「ん?歯切れが悪ぃな」

「いや、『俺』と同等以上の観察力が子供の時からあったと考えたら、マシとは言えないなと思ってな」

「あー。なんとなくわかるぜ。でもリティアルは一流の冒険者となったわけだろ?兄弟みたいに捻くれた時期とかもなかったんじゃねぇの?」

「いや、あったはずだ。じゃなきゃああいう性格にはならない」


 リティアルの意思は高潔なだけではなく、理想だけを追い求めているものとも違う。あれは過去に何かしら泥臭い思い出を経験しているはずだ。


「ふーん。んで、勝てんの?」

「どうだろうな。上手くいけばトントン、そこまでは持っていけるが勝てるかどうかはお前ら次第だ」


 リティアルとの読み合いはどちらかが圧勝するということにはならないだろう。どちらかが読み負けるにしても、そう簡単に事が運ぶようなことにはならないし、させない。

 アークリアルという規格外の存在がいることは億劫ではあるが、イリアス達の戦力を考えればそう不利というわけでもない。最高の質は相手が持っていても、平均的な質の高さはこちらの方が勝っている。


「そっかそっか。なら任せてもらおうじゃねーの。兄弟が読み負けても、俺が番狂わせさえ起こせりゃ十分勝てるってことだろ?」

「何処からそんな自信が出てくるのよ……」

「自信じゃねぇ、覚悟だ。それくらいやってやるつもりでもなきゃ、俺にできることなんてたかが知れちまう。てめぇにできること以上をやってこそ男ってもんよ!」

「悪くない持論だけどな。そういうのは自分にできることを正しく把握した上で言うもんだ」

「周りがバケモンばっかだからなぁ……どうも限界を感じちまうんだよな」


 ハークドックは決して弱くない。実際ラクラにも勝ったし、エクドイクも追い詰められていた。だがこの先格段に強くなれるかと言われれば、誰もが口を閉ざすかもしれない。


「限界が見えてるなら話は早い。それを乗り越えられたら、もうお前に限界はなくなるってことだ」

「――へへ、違いねぇ」


 それでもコイツは伸びると『俺』は断言できる。ハークドックはどんな状況でも真っ直ぐと向き合うことができる奴だ。どれだけ歩みが遅くても諦めず進み続ければ、振り返った時に確かに道はできているのだから。


「その前向きさだけは私も見習わなきゃって思うわね」

「おうおう、もっと色々と見習っていいんだぜ?」

「その態度は見習いたくないわ。ところで代表、ターイズにはいつ頃戻る予定なのですか?」


 マセッタさんはメジスから送られてきた監視という立場がある。名ばかりの協力者のようなものではあるが、エウパロ法王に報告する義務は果たさねばならないのだ。


「もうそろそろ戻るつもりではあるんだけどな。バラストスの成果次第ってところだ」

「連中の隠れ家や合流地点とか色々調べて回ってるけどよ、これといって目ぼしいものとか見つかってねえんだろ?」

「そうでもないさ。見つからないことが発見にもなるからな」

「どゆこと?」


 同時に首を傾げる二人。意外と似た者同士なんだよな、この二人。


「それは皆が揃ってる時に説明するさ」

「出たぜ、兄弟の説明放棄」

「どいつもこいつも人が説明不足だーって言うけどな、同じ説明を何度も繰り返すのは疲れるんだよ」


 マリトくらいになると最低限の情報だけで全部理解してくれるのだが、他の連中になると理解力に大きな差が出る。それを踏まえた上で丁寧に説明すると時間が掛かるわけで、それはまあいい。ただそれを何度も繰り返すとなると流石に面倒になるんだよ。そんなことが長く続けば、そりゃあ言われるまで説明をしたがらない面倒な性格にもなる。


「なら代表さん。先に教えた人に説明してもらえば良いのではないですか?」

「そうなると先に説明する相手は説明ができる奴を優先しなきゃならないだろ?拗ねるんだよ、一部の連中が」

「あー」


 マセッタさんは納得した顔で視線を逸らす。そう、イリアスとかラクラとかな。だから忙しい時以外は『俺』自身が説明し続けるしかないのだ。


「兄弟も大変だな。誰かしらの機嫌を考え続けながら生きなきゃならねぇんだし」

「無難に生きたいだけなんだけどな」


 何故そんなに面倒なことをするのか、そう言われる時にはこう返すことが多い。それが一番手っ取り早く伝えることができるからだ。


「好きだよな、その言い方」

「まあな。『俺』の信条のようなもんだ」

「それで無難に生きられているのか?」

「無難に生きたいということは、無難に生きていないということだ」

「……大変だな兄弟」


 だからこそ願うのだ、切実に。



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