だから上回る。
『心配いらない……ですか』
トリンからの定時連絡により、友の様子をラクラから聞いて俺が答えられるのはその一言だけだった。
「多少の過激さは目立つが、友は友だ。バラストスの調査でソライドさえどうにかすれば記憶は戻ると判明したのだろう?」
『はい。細かく言えば杖の破壊、もしくは杖内部に蓄積されている術を維持する魔力が枯渇すればとのことです』
複雑な術を杖の内部で構築し、当人はその発動の調整と維持の為の魔力補給か。魔法構築を施したエンチャントアイテムのようではあるが、複雑な構築を施した武器は強い衝撃で不具合を生じることもある。それで持ち歩いていても相手に警戒されにくい杖というわけか。
「一生そのままならばとも心配もしたが、友ならば無事にやり遂げられるだろう」
『確かに今の尚書様もとても頭が回っていますけど……私やミクスちゃんに対する態度がどうも怖いと言いますか……』
「だろうな。特に二人に対してはきつめな態度を取っているのだろう」
本来ならばミクスからの連絡がくるはずなのに、今回はラクラが連絡を寄越しているのだ。ミクスの心情が相当に揺れているのは重々察している。
『原因を聞いても良いでしょうか?このままですとミクスちゃんがあまりにも不憫で……』
「友人、兄として言うのであれば自分で気づくべきだと言いたいところではあるがな。まあいいだろう。友は他人との距離感を正確に把握する能力に長けている。多少若返ってもその能力は健在と考えて問題ないだろう」
『そうですね。この前捕らえたスマイトスさんという方への尋問もとてもあっさりと済ませていましたし……』
「ラクラやミクスが特に警戒されている理由として、距離感が近すぎるのだろうな。だから友は距離を離す為に二人への態度をきついものとしているのだろう」
相手が距離を縮めてくることを良しとしないのであれば、自分が離れるか相手に離れるようにさせるかだ。
『そうは言われましても……。あ、エクドイク兄さんには大分打ち解けているようなのですが』
「あの男は意外と人と打ち解ける才能がある。離されたあとに近づくことを許可されたと考えていいだろう」
それにエクドイクが抱いているのは恋心ではないだろうし、そう面倒になるものでもないしね。
『うう……ちょっとずるいです……』
「俺に弱音を吐かれてもな。妹からのものならいざ知らず、真面目に対応したいとも思わんが」
『陛下冷たい……』
「妹の恋敵相手に優しくする外道ではないからな。友に冷たくされたくないのであれば、今の友を別の一個人と思って接することだ。少なくともそうすれば人並みには接してもらえるだろう」
結局のところ、今の友は過去から呼び出された新たな一人格なのだ。そのことを念頭に入れ、正しく接すれば本来の友よりかは時間が掛かるにせよ親しくなれるだろう。
『それは知っています。でも顔も声も全く一緒なのですよ……』
「大変だろうな。俺も苦労するだろう。できれば再会する時には元に戻っていることを期待する」
今友に出会い、『誰君?』とか言われたら三日は枕を濡らして夢でうなされる自信がある。ミクスやラクラには酷な話ではあるが、頑張ってもらいたい。
『くすん……報告は以上です……』
水晶の輝きが消えるのを確認したあと、重い溜息を吐く。ミクスは今とても辛い気持ちでいるのだろう。俺もミクスも依存してしまう相手にはとことん依存してしまうからね。その相手も同じだけにあの子の気持ちは手に取るように分かる。だが友があのように距離を取りたがる理由にも心当たりがある。それを理解している以上、俺から何か介入するというのはできないんだよなあ。
「とりあえずラッツェル卿にも報告しておくか……」
ちょうど昼食時、ラッツェル卿やウルフェちゃんも兵舎にいるだろう。あの二人の再訓練は想像以上に順調に進んでいる。問題があるとすればラグドー卿やグラドナの体力の方だろう。兵舎へと顔を見せるとやはりラッツェル卿達は食事をしている最中だった。ただこちらの存在に気づくとウルフェちゃん以外の全員が直立して出迎えの行動を取った。
「楽にしろ。ラッツェル卿とウルフェに話があって来た。食べながらで構わん」
「いえ、そういうわけには……」
まあラッツェル卿はそうだろう。だがウルフェちゃんの方はこくりと頷いて食事を再開した。他の騎士もこれくらい砕けてくれると付き合いやすいのだけどね。
「ではトリンからの報告を手短に話す。多少の問題は起きているが、最悪と言うほどでもないようだ」
二人はラクラからの報告の内容を知るも、特に慌てた様子を見せる素振りはなかった。まあこの二人なら俺と同じくらいに友のことを理解しているのだろうし、そうだろうねとは思った。
「彼のことについては心配の必要はなさそうですが、ミクス様やラクラの心労が気になりますね……」
「そうだな。ラクラはさておき、ミクスは俺と同じで考え方が固い。あまり思い詰め過ぎなければ良いのだがな」
「へーか、ラクラも心配してあげてください」
ウルフェちゃんは不満そうな顔で文句を口にする。友よりかは遠慮しがちではあるが、きちんと意見を言ってくれる。ウルフェちゃんの存在は友不在の中で数少ない癒しとなってくれているな。
「兄としてミクスを一番心配してやらなくてはならないのでな。ラクラの分の心配は友である二人に任せよう」
「ウルフェ達は二人共同じくらい心配しているのに、ずるいです」
「それを言えばラクラには現地に兄がいるだろう?」
「エクドイクさんはその辺ダメな人です」
ターイズ魔界から帰ってきてからというもの、ウルフェちゃんって随分とはっきりと物を言うようになったよなぁ……。
◇
街中にあるトリン軍の施設や警邏を行っている兵士を襲い続け、暫く経過した。トリン軍としては兵士を狙われているからと言って引き籠もるわけにはいかない。それに狙うだけでいいのであれば商館を見張っている兵士がいるわけだからね。
「ソライド……敵、来ないですよ……」
「来なければ来ないで構わないさ。トリンの兵士はすっかり混乱している。それならもう少しでリティアルが戻ってきて落とし子達を逃がすことができる」
「その……敵が来ないならスマイトスを助けに……」
「馬鹿を言うなよ、って言いたいところではあるんだけどね。ここまで反応がないと意外とありなのかもしれないなぁ」
「っ!だったら――」
「馬鹿を言うなよ」
「結局言われた……」
ユグラの星の民のことだ、戦力の各個撃破を狙うこちらの思惑は既に理解しているのだろう。なら現状で各個撃破の有力な駒となるスマイトスの解放はなんとしても避けなければならない。そもそも既にスマイトスは死んでいる可能性もある。
だがそれにしても動きがないのは不気味だ。こちらが調子に乗って油断するのを待っているのか、それとも何か策を練る準備をしているのか……。どっちだろうとこちら側が変則的な行動を先に起こすわけにはいかない。
「スマイトスを助けるにしても、まずは罠を張ることが得意なエクドイクは排除しなきゃだね。まあ敵もその辺を考えてエクドイクにはユグラの星の民の警護を――」
「ソ、ソライド!糸に違う反応があった!」
俺達が各個撃破を狙う為に施している手段、それは襲撃した場所にコミハの糸を僅かに残すこと。コミハは自分の武器として特殊な蜘蛛から採取された糸を常に携帯している。空中に張られていれば目の良い奴は気づくだろうが、それが地面ならば簡単には察知されない。糸にはコミハの魔力が通してあり、その上を対象が踏めばその位置を特定することができる。さらに簡易的ではあるがその相手の魔力の質を探ることもでき、標的を見つける上で非常に役立つ。魔力を探知されれば糸に気づく可能性はあるが、そこは襲撃場所にコミハ本人の魔力を僅かに漂わせておくことで上手く誤魔化しているらしい。
「ようやくトリンの兵士以外が現場に現れたか。特徴は?」
「ええと……体重的に男、魔力がちょっと人と違う?なんだろう、魔物の魔力に近いような……」
敵の勢力でその条件に合致しているのはエクドイクただ一人。エクドイクが現地を調べに来た?どうもおかしい、そうなるとスマイトスを捕らえている施設には誰がいる?ミクス=ターイズか?
「俺達があえて残した痕跡を追うかどうか確認するんだ」
「……うん。ソライドが誘導しようとしている方向に進んでいるよ!」
奇襲を仕掛ける為、あえて特定の箇所へ向かったかのような痕跡を残している。そこにはコミハが万全に戦うことのできる罠を仕込んでおり、そこで仕掛ければ勝機はこちらにある。
だが最初に釣れたのが最も狙いたいエクドイクというのが気掛かりだ。スマイトスからコミハの情報を聞き出せているのであれば、鎖使いであるエクドイクを送り出すのは愚の骨頂。スマイトスが情報を吐かなかった?地下の存在を漏らしたことからそれは考えにくい。
「他に周囲に標的はいないのかな?」
「いません。数人のトリン兵士はいるけど、変装しているような感じはないです」
最善の獲物が最善の状態で最善の場所に誘導されている。エクドイクを囮にした伏兵も今のところはない。舐められている……というのはないよね。
「……よし、仕掛けよう。ただしエクドイクが何らかの手段で敵襲を受けたことを味方に連絡できると考え、戦闘時間は一定時間内とする。それまでに仕留めるか深手を負わせるんだ」
「わ、わかりました!」
エクドイクがコミハと同じくらいに鎖を操れるのであれば、自身の魔力を帯びさせた鎖に対し遠隔で操作を行い仲間と連絡を取れる可能性もある。敵の援軍を許せば有利な戦いも台無しになる、周囲を見張るのは俺がやるとしよう。
「エクドイクが相手の時の手順は覚えているね?君が一人でエクドイクと戦い俺は君が敗れそうな時の逃走の手助け、あるいは敵の援軍への奇襲を担当する。そのどちらかを取るのかは音の種類で聞き分けるように」
「は、はい!」
俺の攻撃手段は音、その音色は自由に操ることができる。音というのは合図としても優秀で視覚の次に迅速に内容を伝えることのできる手段でもある。事前に音を覚えているコミハだけが対応できるように特定の音を響かせてから行動に移れば高度な連携もとれる。鳴らす音はコミハが攻撃を行う時に放たれる音を模している為、敵になんらかの予兆として認識される危険性も低い。
襲撃場所は人通りが少なく、視界の確保の難しい路地裏。俺とコミハはそれぞれが配置につき、エクドイクの到着を待つ。コミハは家の屋根の上、俺は空き家となっている家の中だ。探知魔法対策に足場に魔封石の欠片を落とし、窓の横に空けてある穴から路地裏を見張る。
見渡しが悪い以上、周囲からの奇襲には警戒するのは当然だ。そうなると視線を意識的に向けるのは相手が自分を覗けるような位置となる。だがコミハは糸で視覚に頼らず、俺はこうして窓の横にある穴ごしだ。
「……来たな」
路地裏へと歩いてくるエクドイクの姿を確認する。魔力で操作している鎖を漂わせ、周囲を見渡している。視線が合わないうちに穴から目を離し、壁に張られている糸に小声で話しかける。
「コミハ、念の為周囲にエクドイクを見張っている奴がいないか確認するんだ。大丈夫なら糸を使って後方で音を鳴らせ。エクドイクが反応すると同時に頭上から仕掛けろ」
当然返事はないが、暫くするとエクドイクのいる場所よりさらに奥から僅かな音が響く。音色からしてどこかの家の窓を糸で操作して開閉した音だろう。それに合わせ、穴を覗き込みエクドイクの場所を確認する。
視界に映り込んだのはエクドイクが素早く横に飛び、頭上から仕掛けたコミハの奇襲を回避している光景だった。よしよし、これで良い。コミハは奇襲を避けられたことに僅かな不安顔をしているが、戦意は十分感じられる。
「――コミハだな?」
「……エクドイクですね。恨みはありませんけど、死んでもらいます」
あるだろ馬鹿、屋敷を燃やしてスマイトスを捕まえた奴の仲間だろうに。だがこれでエクドイクも状況を把握し、周囲に鎖を展開し始めた。
◇
同胞に言われた通り、トリンの兵士が襲撃を受けた場所を細かく調査すると逃走したと思われる痕跡が見つかった。誘い込まれていることを承知で進み、奇襲に適した場所へと辿り着くと事は起こった。
背後の音を囮に、突然の頭上からの奇襲。風切り音と僅かに感じた殺気がなければ危なかっただろう。だが今の体捌きからして、このコミハの実力はヤステトよりもいくらか下と考えられる。とは言え糸による攻撃は非常に見極め難く、厄介なことには変わりない。
探知魔法を使用し周囲の様子を探ろうとするも、ところどころに魔封石をばら撒かれているようでまともな索敵はできない。だが近くにソライドが潜伏しているものと考えて戦えばいいだけのこと。
鎖を展開し、複数の方向からコミハへと攻撃を仕掛ける。しかしその鎖は全て途中で軌道を変え、コミハには届かなかった。
「――誘い込んでまで戦いたかった場所だ。既に周囲には無数の糸が張り巡らされているというわけか」
こうなると『盲ふ眼』による鎖は満足に使用できない。この眼で鎖を創り出すには何もない空間が必要不可欠。既に空間内に物質が紛れ込んでいる場合、その鎖は途中で千切れた状態で生成されてしまうからだ。
「貴方が私よりも格上だということは重々承知しています。ですけど、私なら貴方に勝てます……!」
攻撃をする気配を感じ、周囲に魔力を放出して備える。視界の外から迫る数本の斬撃、回避する準備をしつつ鎖を盾に防げるかどうかを確認する。鎖の表面に糸が食い込む感触があったが、完全に切断されるほどではないらしい。だがこれが本気の一撃というわけでもないだろう。
「そこまでの自信があるということは、そうなのだろうな。だが俺も油断して敗北するつもりはない」
同胞は言った、相手は俺に対して優位を持つ才能を保持していると。基礎能力だけで言えば俺の方が数段上ではあるが、同胞が言う以上は奴の糸は俺の鎖よりも優れていると考えるべきなのだろう。だが俺とて鎖の扱いには多少の自負はある。全力で勝ちに行く!
「相手が油断してくれるなんて、最初から度外視です!」
コミハの糸を鎖で受け止めつつ、こちらも鎖で反撃する。互いに物質を操作して戦う者同士、素早く移動するといったことはない。糸が鎖を、鎖が糸を絡め取り、周囲の景色に無数の線が引かれていく。
「既に大量の展開を許している分、こちらが僅かに不利といったところか」
「いいえ、それだけではありません!私の糸の方が……鋭いんです!」
空中で制止していた鎖が突如切断される。糸を強化して切断力を上げたか?全方位からの斬撃を確認し、鎖で周囲を覆う球体を構築する。幾重にもと厚めに展開した鎖の結界ではあるが、まるで柔らかい果実を糸で切断するかのように食い込んでくる。
「なるほど。細い糸だからこそ、少ない魔力でも相当な強化ができるというわけか」
鎖の硬質化はできなくはないが、糸の切断力を上げることに比べるとあまりにも効率が悪い。細い方の利点が上回っているという結果だ。
「もう逃げ場はありません、これで――」
「だがこれは蜘蛛の糸だな?ならばこうすればいい」
糸に接している鎖の部分の温度を一気に上昇させる。鎖と蜘蛛の糸ならば、どちらが先に燃えるかは明白。通常の糸と違い、燃え広がることはなかったが鎖に食い込んだ部分の糸は千切れたようだ。
「糸を熱で!?自分の周囲を鎖で包んでおきながら……!?」
「身の周りの空気を冷却すれば済む話だ」
蜘蛛の糸は燃えると言うよりは溶ける。しかし熱した鎖だからと糸を完全に防げるというわけではない。あちらの糸の切断力は健在、普通にぶつかりあえばこちらの方が切断されてしまう。鎖にさらに魔力を込め、太さを数倍にまで変化させる。これで即座に切断されるということもないだろう。
「鎖が太く……だったらもっと鋭く……!」
糸が鎖に食い込む速度が上がるも、鎖が切断されるよりも早く糸が熱によって溶ける。これならば攻撃にも転じられるだろう。数本の鎖を肥大化させ、コミハへと放つ。コミハの周囲には無数の糸が張り巡らされている為、こちらの攻撃がすんなりと届くことはない。だが熱された鎖が糸に触れ続ければその糸は次々と溶けていく。
「――届く!」
「ッ!?」
自身へと迫る鎖を見て、コミハが初めて回避行動を取る。奴を守っていた周囲の糸を一通り溶かしきれたようだ。再度展開されるよりも早く捕らえなくては。
「糸を太く変化させればその切断力は大きく落ちるだろう。だがこちらの鎖は太くなればなるほど、重い一撃になるぞ」
「でもその分見切りやすいです!」
鎖が太くなれば操作に費やす余力も増える。さらに視界に捉えやすくなり、反応しやすくもなる。コミハは周囲に糸を伸ばし、その伸縮を操って移動しているのだろう。肉体はほとんど動いていないのにもかかわらず、素早い速度でこちらの鎖を回避していく。
「ならばこういうのはどうだ?」
一本の鎖を上空へと伸ばし、一気に大量の魔力を注ぎ込む。そして路地裏の幅と同じだけの太さへと変化させていく。そして路地裏の道なりに沿って、一直線に振り下ろす。これだけの質量を高熱にすることはできない。糸を溶かすことはできないが、その糸を張り巡らせている建物の強度を上回る衝撃を与えることは可能。逃げる隙間もなく、糸ごとコミハを圧し潰せる一撃だ。
「っ!」
鎖が視界を埋め尽くす直前、コミハの周囲が白い繭に包まれるのが見えた。糸を集中させ、守りに特化した結界のようなものだろう。強化した鉄の鎖すら切断する糸ならば衝撃を防ぎきれるのか?いや、違う。あれは防ぐというより俺の視認を誤魔化す為のものだろう。鎖にはコミハを押し潰せた感触はなかった。
「鎖に押しつぶされる直前、地面を掘って体を隠すだけの隙間を用意したか」
糸で地中をどれほどの早さで掘れるのかは分からないが、視界に映らない状態で時間を経過させるのは愚策だ。鎖の太さを元に戻し、追撃を行うべきか。鎖に命令を飛ばし……反応しない!?
「その攻撃を待っていました。私が糸でちまちまと戦えば、攻めあぐねた貴方は力技で押し切ってくるだろうとソライドは言っていました」
巨大な鉄の壁により届かないはずの声が脳裏に響く。違う、これは音ではなく鎖ごしに思念が届いているのだ。
「糸ごしにやろうと思いましたけど、貴方の鎖に施された構築は思った以上に洗練されたものでした。素手で触れようにも様々な毒や呪いが込められていて、とても触れる代物じゃありませんでした」
腕に巻き付けてある鎖が、俺の意思とは関係なく俺の腕を強く締め付ける。肉が千切れ、骨が砕けていく感触のあと、腕の感覚がなくなった。
「ですがこれだけ鎖を巨大化させてしまえば、その面積全てに毒や呪いを展開することはできませんよね?なら素手で鎖に触れられます。貴方と同じ立場で鎖に干渉できます」
鎖を体から解き、離れようとするも、鎖は俺が操作している時と変わらない速度で動き、俺の全身に絡みついていく。
「私の糸では貴方には勝てませんでした。ですが同じ物を扱うのなら、私の方が上です。それが私の落とし子としての、勇者ユグラにも匹敵する物質操作の才能なのですから!」
「――ッ!」
全身に巻かれた鎖を前に、直前に締め潰された腕が脳裏に過る。眼に魔力を集中させ、『盲ふ眼』を発動させる。俺が装備している鎖は既にコミハの物と成り果てている。ならば新たに鎖を創り出し――
「もう何もさせません!自分の鎖で、絞め殺されてください!」
コミハの命令により、鎖が俺の全身を一気に締め上げた。




