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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
選択編

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だから、もう。

 燃え尽きた屋敷のあった場所にトリン軍が常駐をし始めた。となれば、スマイトスが情報を漏らしたのだと考えられる。自分のことよりも仲間の落とし子のことを心配するようなスマイトスが裏切るか、ユグラの星の民は相当えげつない拷問の方法を知っていると考えるべきかな。

 近くのゴロツキの住処に隠れつつその様子を伺っている間も、コミハが不安そうな顔でこちらを見ている。この女は今の状態の意味を理解する程度の最低限の知識はある。


「ソ、ソライド……スマイトスを助けに行かなきゃ……!」

「コミハ、君は馬鹿なのか?トリン軍が屋敷の跡地に兵を常駐させているのは地下室の存在をスマイトスから聞き出したからだ。なら既に君の手の内も敵に知れ渡っているだろう。スマイトスを助け出しに来そうな奴は君しかいないわけなんだが、僕なら間違いなく君用の罠を仕掛ける」

「で、でも……」


 冷めた視線でコミハを睨むとコミハは言葉を出さなくなる。これが現段階での最大戦力だというのだから素敵だ。素敵過ぎて首と手首を切り裂いて歌を歌って踊りたくなる。ぶつける相手、ぶつけ方を間違えればコミハは簡単に攻略されるだろう。雑魚とクセの強い臆病者しか手札がない現状、無駄に切り捨てることもしたくはない。


「スマイトスは既に俺達の情報を敵に話した。ならこれ以上酷い目に遭うことはない。なら俺達がすることはこれ以上の被害を増やさないことだ。わかるよね?」

「……はい」


 ま、情報を吐ききった捕虜の末路については敵さん次第なんだけどさ。リティアルからもらったこれまで通りの情報を信じるのであれば生存、でも今回のやり口的には既に死んでいるか拷問の末に廃人にでもなってると考えられる。


「さて、俺達の勝利条件、敗北条件を整理しようじゃないか。まず敗北条件、言ってごらん?」

「ええと……私達が捕まること……?」

「正解だ。ユグラの星の民がトリンに来た目的はトリンにある俺達の拠点、落とし子の脅威を排除することだ。俺達二人、特に俺が捕まればこの鍵が敵の手に渡り、地下室にいる落とし子達も敵の手に落ちることになる」


 単純な戦闘力で考えれば、セレンデにはアークリアルがいる。あれ一人がいれば戦力としての総量は変わらない。強いて言えば頭脳役である俺がトリンで最も失いたくない戦力と言える。とは言っても、俺の扱い難さを考えれば正直そこまで痛手じゃあない。

 トリン側が全滅することになれば、ユグラの星の民は憂いなくセレンデにネクトハールやリティアルを倒しに向かうことができるようになる。これが敵にとっての一番の成果だ。


「ホルステアル商会という隠れ蓑は失ったけど、俺にはまだトリンで活動できるだけの戦力はある。これを失わない限り、ユグラの星の民は常に俺の方にも意識を割かなきゃならない。だから次に取る一手は俺の排除だ。じゃあ勝利条件は何だと思う?」

「ええと……ユグラの星の民の排除?」

「概ね正解だね。でもトリンに俺達の存在がバレたのは確実、そうなるとユグラの星の民を殺したとしても、今後はトリン軍や他国の軍も俺達を狙ってくるだろうけどね」


 でもまあ、その辺の対処はいくらでも思いつくことができる。その対処を見破れるだろうユグラの星の民を始末することは、避けて通れないだろうけどね。


「それじゃあその人を始末さえできれば……」

「リティアル達が地下室にいる落とし子の回収が容易になる。それが済めばスマイトスを助けにいく計画も練る余裕はできるだろうね」


 手伝うつもりはないけど、まあリティアルなら手伝ってくれるだろう。アレの落とし子に対する甘さはちょっとした病気のようなものだし。


「わ、わかりました。まずはその人を……」

「その男の周囲にはそれなりの手練がいる。コミハより格上なのは……エクドイクという鎖使い、『殲滅の刃』ミクス、そしてラクラって聖職者だ」


 ゴロツキに命じて見つけ出したメリーア達が住んでいた家。既にある程度の荷物を持ち出されていた痕跡はあったが、残された荷物から住んでいたのが九人だと判明した。うち直接確認が取れているのはユグラの星の民、ミクス、メリーアの三名。

 ただしその周辺の住人を脅して聞き出した情報から、亜人に変装していると思われる鎖使いエクドイク、ジェスタッフの右腕ハークドック、ユグラ教司祭のラクラとマセッタ。これら四名の存在は間違いないと見ていい。

 他には男と女が一人ずつ。男は小奇麗な剣を装備していた姿が見られたことからターイズの騎士か何かってところか。女の方はイリアスやウルフェ、ギリスタといった危険人物の容姿とは似ても似つかないことから別の協力者、あるいは蒼、紫の魔王と考えるべきか。いやアークリアルが戦ったという大悪魔、奴がいるのであればあの日に割り込んでなきゃおかしい。なら紫の魔王の線も外れるか。

 主戦力なしでトリンに乗り込んできたってことなんだろうけど……舐められてるというよりはセレンデへの牽制のつもりかな。


「格上が三人も……」

「リティアルの分析結果を信じるなら、ハークドックとラクラって奴は先手を許さなきゃ俺でどうにかできるかな。エクドイクはコミハ、君なら完封できる。接近戦を許さなきゃね」


 ミクスに関しては俺とコミハ、同時に仕掛ければなんとかといったところか。これは単純な戦闘能力というより、相性の問題だ。だけどその勝機を確実なものにするためには各個撃破が望ましい。


「……うう」

「なぁに、君に頭を使えと言うつもりはないよ。むしろ何も考えずに俺の言った通りに戦えばいい。そうすれば勝てる」


 敵を分断させ、理想の形で対峙し、仕留めていく。その為には敵を誘導する必要がある。結局のところ、俺とユグラの星の民の読み合いが肝になる。あの男に先手を許せば不利なのは明確、ならこちらから仕掛けなくてはならない。

 思いつく手段は様々だが、自重する必要がないというのは素晴らしい。既に存在が公にされて、素性を隠す必要すらなくなった。ならより楽しめる手段を選んでいこうじゃないか。


 ◇


 ご友人がスマイトスから聞き出した情報によると、ホルステアル商会の商館があった場所には落とし子が特殊な処置を施した地下室が存在するとのこと。ラクラ殿の立ち会いのもと、嘘ではないと判明したのですが私達では発見には至れませんでした。

 ご友人は証拠の捜索という名目でトリン軍に商館のあった場所に仮拠点を設置させ、そのまま監視させるように根回しを行いました。ご友人曰く、戦闘能力のない落とし子は今もなお地下室にいて、セレンデからの援軍を待っている状況だろうとのこと。


「そしてそれまでの時間稼ぎ、周囲の撹乱目的でソライド辺りが暴れ始めると言ったところだね」

「実際に行動に出ているようですな。トリンの兵士が何人か襲われ、行方をくらましております。商館に乗り込んだ日に協力してもらった兵のようで」

「情報収集も兼ねているんだろうね。でも一番の目的は『僕』達に足取りを追わせることだ。わざと痕跡を残して追いやすくしている」


 ご友人がトリンの地図を広げ、トリン軍の兵が襲われたとされる地点に石を置いていく。石は綺麗にバラけており、罠の臭いがぷんぷんと……。


「私達を分断しようとしているのでしょうか?」

「そうだね。多分この騒動のどれかを追いかけていけばソライドと接触することになる。ソライドと共に行動しているのはコミハって落とし子だけど、その話を聞く限りじゃこちらの戦力を十分に削れるはずだよ」

「私はともかく、エクドイク殿やラクラ殿を倒せるかと言われるとピンときませんな」


 ラッツェル卿やウルフェちゃんの強さに霞んでしまっていますが、エクドイク殿とラクラ殿の兄妹もかなりの強さですからな。


「そう?ソライド、コミハって戦力を『僕』が使えば、今トリンにいる面子全員を仕留めることは難しくないよ?」

「むむむ……今のご友人には私達の力を一度も見せていないというのに、この自信……」

「根拠ならあるよ。ソライドの動きがそうだから。恐らくリティアルから『僕』達の主戦力の情報は伝わっている。その情報を元にソライドが勝てると判断して、行動を起こしているんだろうね」


 リティアル=ゼントリー、確かにご友人と同格とされる観察眼を持つあの人が情報を提供しているのであれば……。


「ではどうなさるおつもりで?相手の主戦力は二名、こちらが常に固まっていれば十分に退けられるかと」

「そうさせない為にあちこちで暴れているのさ。『僕』達が分断しなければソライドは地の利を活かしてトリン中を混乱させてくる。それを達成させられたら今焼跡の地下室にいるとされる落とし子達が逃げ出しやすくなるからね」

「つまり、私達が分断するまでは向こうはひたすら嫌がらせをしてくると?」

「今はトリン軍だけだけど、もう少ししたらトリンの民が狙われ始めるだろうね。悠長に追いかけっ子をしていたら、『僕』らのせいでトリンに多大な迷惑が掛かるってこと」


 何という無茶苦茶な。分断しなければトリンの民が悲惨な目に遭うと、脅しを掛けているようなものですぞ。私ならいっそその誘いに乗って、正面から罠を突破しようと思うのですが……今のご友人からするとその選択はしそうに――


「ま、誘いに乗ってあげようか」

「なんと!?しかし相手はこちらを倒せるからと――」

「リティアルの情報を元に行動しているとして、その情報は結構古いんだろう?少なくとも君達はリティアルと出会ってからそれなりの武器を手に入れ、戦闘経験を積んでいる。情報の有無は勝敗を大きく左右する要因にはなるけど、情報に依存し固執するのは自滅へのカウントダウンだ」


 私やハークドック殿は『紫』殿から新たな武器を頂いている。エクドイク殿も魔族として肉体が馴染みつつあるわけですし……確かにリティアルの分析が優れていたとしても、私達の成長まで掌握できるとは考えにくいですが……。


「――ご友人は他に何か考えているのでしょうか?」

「考えているよ。ま、それを君に言う必要はないと思っているけどね」


 ご友人が多くを語らないことは珍しいことではありませんが、普段ならこうして突き放すような言い方は絶対にしません。この距離感だけでも、どうにか縮めたいのですが……。


「……その、私の何かが気に入らないのであれば謝罪します。ですので味方に対してそういう態度を取るのは止めていただけないでしょうか?」

「ミクス、確かに『僕』は君に対して思うところはある。だけどね、協力することは決めているし、勝つ為の策もきちんと練っている。今の『僕』にそれ以上を求めるのは欲が過ぎるんじゃないかな?」

「ですから、直すべきところはしっかりと直しますので――」

「しつこいな。敵になった方がいいかい?」


 どろりとした感触に思わず体が竦んでしまいました。これまでご友人の目で観察されることはあっても、明確な嫌悪や敵意を向けられたことはありませんでした。

 何か取り繕う為の言葉を言おうと思っても、頭が回らない。兄様の前で緊張してしまう時と同じような、そんな情けない時の状態になってしまっている。


「も、申し訳ありません……」


 ようやく口にできたのはただ謝る言葉のみ。しかしそんな言葉ではご友人の様子は少しも変わることなく、むしろさらに距離感が開いてしまったような……。


「――エクドイクとハークドックに話をしてくる。今日はもういなくていいよ」


 ご友人はそう言って部屋を出ていきました。


「……」


 もう、嫌だ。どうして、どうしてご友人は……。あの顔で、あの声で、あんなことを言われたくないのに。素敵な笑顔を向けてくれた、あの時の思い出が、色褪せてしまいそうで。

 エクドイク殿はその原因を自分で考えろと言った。だけど何が原因でご友人が私を遠ざけているのか、いくら考えてもわからない。もしかして最初からご友人は私のことが気に入らなかったのではないのか、そう考えてしまう。


「兄様……私は……どうすれば良いのでしょうか……」


 たった一人の態度だけでこの狼狽っぷり。兄様の邪魔をしないようにとターイズを出て、自らを磨き上げようと冒険者として生きてきたのに。


「こんなに、こんなにも弱かったのですな……私は……」


 兄様やラッツェル卿に相談すればあっさりとわかることなのかもしれません。本当ならばさっさと聞いて、今の関係を少しでも修復しなければならないのです。だけどあの二人に聞く勇気が持てない。私だってご友人と親しい間柄にいるのだと、そんなつまらない意地が、二人から答えを聞いてしまえば砕けてしまいそうで。そんな意地を守りたいと思ってしまう自分の浅はかさに、ただただ嫌悪しか湧きませんでした。



金「(地元なのにヒロイン力が誰かに吸われている気がするのじゃ)」

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[一言] ミクスと同じでまったくわからない…
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