だから見つかる。
ランドスレに接触した商人の宿や住処を襲わせた結果、全ての商人がハズレだった。具体的な方法として複数人で家に上がりこみ、刃物で脅して少量の金品を奪う。実力を隠している相手がいないか確かめるために一人を軽く痛めつける。これらの行動を全ての商人に対してやり終えてしまっていた。
「おっかしーなー。当たりがいるって思ったんだけどな」
「ソ、ソライドさん!流石に一晩に強盗事件を立て続けに起こしたせいで、トリン軍の警備がひでぇことになってますぜ!?」
「そりゃそうだろうね。『見切り』に盗品の宝石でも握らせて、トリン軍に発見させておけばいいさ」
ゴロツキの中にも役割は存在する。こうして俺に報告を行い、命令を伝えていく奴。実際に肉体労働に勤しむ奴、トカゲの尻尾切りの尻尾になる奴。普通なら尻尾役をやりたがる馬鹿はいないけど、実際には馬鹿しかいないので自分が尻尾役であることにも気づかない。
「へぇ、トリン軍の動きを大人しくさせてきやす」
果たして本当にユグラの星の民はいるのか、その有無を検討する。ジェスタッフ=ヘリオドーラが行っている魔界の品を市場に流すという発想、これ自体は事前に相談してあればジェスタッフに行動させることはできる。つまるところ、奴らが仕掛けてきていない可能性だってありえるわけだ。魔王による報復がないことから、ユグラの星の民は死んではいないが危篤のまま?その辺の確認を取ってしまった方が手っ取り早いか?
「……何か言いたそうだね、リティアル」
「いえ、別に?」
ゴロツキが部屋から出て行った後に姿隠しの魔法を解除しているリティアル、その表情には笑みが浮かんでいる。リティアルが俺のやり方を笑う理由は?考えるまでもない。これは嘲笑、俺に対するアドバイスのつもりなのだろう。つまりリティアルは気づいているわけだ、俺のやり方に穴があると。
「狙いは俺達、それは変わらない。その為にランドスレに接触してこの商館の調査を行いたいはずだよね。ヤステトだってトリンにいる落とし子の能力を把握しきれているわけじゃないし。アークリアルと接敵したばかりなら警戒せざるを得ないはずだ」
やはり表向きはランドスレと交渉する商人として潜り込むのが妥当だ。いや、待て待て。その妥当の判断の基準はなんだ?俺の視点での話じゃないんだ、これは俺達を警戒している連中の発想で考えなきゃいけない。
「――そうか。しまったな。ユグラの星の民がいれば既に潜り込まれているのか」
襲った商人達のうち、このトリンから逃げた者は一名のみ。そもそも強盗の被害に遭ったとはいえ、金銭的な被害は微々たるもの。怪我も治療すれば翌日には仕事をすることができる。だからランドスレとの交渉は特に問題なく進み、この商館へと足を運んでいる。
「この商人達はハズレ、だけど完全なハズレじゃないってわけだ」
この方法なら怪しまれずに商館に近づくことができる。周囲を警戒し、探知魔法だって使用する事もできるだろう。
「うーん。我ながら見えも確認もできていない敵相手に感心するってのは変な光景だよね。でもまあ、リティアルと同格ってことはそういうことだ。いると前提を確立し、されていると踏まえて考える」
しかしそう考えると相手は俺を一度欺くことに成功した相手ということになる。ならば次は読み勝てるのか?それは甘い考えだ。たったの一度でも有利を許してしまう相手に不確かな勝機を望むのは敗北者の癖だ。ではどうすれば勝てる?
「――ああ、そうか。そりゃそうだよね。簡単な事だ、読み勝てないのなら読まれてから勝てばいいんだ」
とりあえずやるべきこと、それは次にランドスレに接触してくる新たな商人をこれまで通り襲うことだ。
◇
ホルステアル商会に潜り込むことは無事に成功だな。次は内部にいる落とし子の数を探る段階となる。ランドスレに接触した商人が次々と狙われたことで展開は早く進むことになった。
この短期間でランドスレに接触した商人は六人、うち半数が『俺』の用意した商人だ。リティアルが相手ならば何らかの方法でこちらのルートに気づく可能性がある。その為に正解を増やしておいたわけだ。
最初はこちらの狙いを読み切って動いてきたのかとヒヤリとしたが、念の為にと調べておいた他の商人も襲われたことで確信できた。相手は当たりを見極められていないと。
「尚書様が直接交渉するわけではないのですね」
「そりゃそうだ。あの商館にはリティアルやラーハイトがいる可能性だってあるんだぞ?うっかり出会ったら変装も意味ないだろ」
商人はこちらで用意した者達だ。『我々はジェスタッフ=ヘリオドーラの部下。魔界で採取される商品を普及するにあたり、流通の様子を調査することを目的として動いている』そんな名目で接触し、比較的安く商品を卸す代わりにその動向を監視させて欲しいと交渉している。三人分の在庫管理はなかなかに骨が折れた。
「あの人達も強盗に遭ったのに、めげない人達ですよね」
「相手は総当たりで調べるつもりで強盗に入ったんだろうな。一晩で六軒も家を強盗して回るんだ。そんなに恐怖を与える余裕はなかっただろうよ。多少の怪我くらいで怯むような商人に交渉を持ちかけたつもりもないしな」
そもそも強盗に関してはこちらの方でマッチポンプを狙っていたのだ。まずは穏便にホルステアル商会と取引をさせ、適度なタイミングで強盗なりの被害に遭わせる。そしてその後、商人達に護衛を雇わせるのが本来の手順だった。
「強盗に遭った商人なら冒険者を護衛に雇っても不思議ではありませんからね。でも実際に強盗事件を起こすつもりだったんですか?」
「まあな。最初は魔界の商品を盗ませて、そういった商品には価値があるからと認識させるのが狙いの一つだったわけだ。もちろん流通の様子を調べたいからとほぼ無償で商品を補填させてやるつもりだったけどな」
商人はそれぞれが数人の護衛を雇っており、その中にケイールとメリーアの二人が異なる商人の下に潜り込んでいる。他の面子はリティアルに顔を覚えられているので別の行動をさせている。
「ここまでして忍びこませるくらいなら、エクドイク兄さんに頑張ってもらった方が良かった気もしますね」
「そういうのはアークリアルのような化物がいないと判断できてからだな。お前が戦ったヤステト、あいつくらいの腕前を持つ奴らがどれだけいるかも分からんし」
「うーん。確かにあの辺のレベルの方々を相手にするのは骨が折れますからね……」
今のところ分かっているのはリティアルがトリン側の拠点に護りを強化させているということだ。『俺』が復活しているのかどうか、その確信を得ているかはわからないが動きを与えているのは商人を襲わせたことではっきりしている。
リティアルくらいに慎重な男なら『俺』が復活しているかもしれない、何かを仕込んでいる最中かもしれないって前提で動くだろうし、決定的にバレない限りは縮こまり過ぎるのはNGだ。
「ま、とりあえずは数日様子見だな。そこで何もなければ本格的な調査を行わせる」
「慎重ですねえ」
「リティアルなら一応護衛の方にも着目するだろうからな。トリンの拠点を仕切ってる奴にアドバイスくらいするだろうよ」
「尚書様はリティアルさんが指揮をしていないと分かっているのですよね?」
「ゴロツキを使った総当たり強盗なんてリティアルが絶対にしない方法だ。見当が付いていませんって相手に教えるようなもんだしな。だが商人に対して何かしらのチェックを入れてきたってことはだ、『俺』が回復している可能性に対応するようにと、ネクトハールやリティアルが口を挟んでいるのは間違いない」
「尚書様が回復したことが伝わっているかのように動いていますものね」
「確信があるならリティアルが動いてそうなんだけどな。それを抜きにしてもリティアルなら念の為にと行動しそうなんだよ。でもトリンで行動しているのは別の人物だ。そう考えるとその人物は少なくともラーハイトやリティアルと同じくらいには権力がある感じなんだが……」
商人を襲っていたのはゴロツキだと聞いている。街のゴロツキを使うということはそれなりに顔や名前が知られている可能性があり、その情報を溢す程度には甘い奴なんだがな。
「あまりよろしい状況ではないのですね」
「まあな。リティアルが一任している相手ということはだ、まるきり無能というわけではないだろう。だけどリティアルと比べると粗も目立つ。その意味を考えるとまともな奴じゃないってのが浮かび上がってくるんだ」
リティアル的には自分でやるか、協力して護りに努めたいはずだ。そうしない理由は相手を説き伏せるのが困難だということ。リティアルが説き伏せる選択肢を取らない相手、それは相当に実力があるのか、それとも狂っている奴なのか。商人を総当たりで襲わせることを考えれば後者だろう。
リティアルがどれほど手を貸しているか今現在では判断がつかないが、取り返しがつかなくなる前には口を挟むなりして軌道修正を試みてくるはずだ。それまでにその人物のことを理解できるかどうか、そこが鍵だな。
◇
同胞さんの思惑通り、私は商人の方の護衛としてホルステアル商会の本拠地へと入り込むことができました。ですが現段階では内部の調査はせずに、目にしたものだけを情報として持ち帰るようにと言われています。
「(えっと……荷馬車から荷物を下ろす時、護衛なら周囲に覗いている人がいないか確認するかな……)」
この屋敷を調査しにきている感じを出したらダメだと言われました。純粋に強盗に遭って警戒心の上がった商人さんの護衛であるべし、あるべし。
荷物を荷車へと移し、商館の入口で商人さん達が書面のやり取りを進めるのを眺める。すると商館の人が荷車を預かり、敷地の奥の方へと運んでいきました。
「商品はランドスレさんの部下達が倉庫に運んでくれるから、君達はここで待っていてくれ。私はランドスレさんと商談を進めてくる」
「はい、わかりました」
同胞さんの話だと、この大きな商館の居住のスペースの何処かに落とし子がいるかもとのことでしたが……ここで荷物を運び入れる手伝いでもできれば商館の周囲の様子も詳しく調べられそう。だけど私はそこまで隠密が得意というわけじゃないですし、素直に待つことにします。
あまり周囲に視線を向けると不自然かもしれない。そう思いつつ他の護衛の人と変わらない頻度で周囲を見渡していると、商館の中から何者かが現れました。随分と長い髪の……あれ、男性ですかね?その男性は真っ直ぐとこちらの方へとやってきて、私達を一人ずつ舐め回すように眺めた後、
「ねぇ君達、ホルステアル商会に商談に来た商人の護衛だよねぇ?」
その男性は随分とねっとりとした喋り方をしており、着ている服は随分とダボついていて動きにくそう。手には身の丈ほどもある杖が握られており、その先端には鈴のようなものがついています。そして凄く甘い匂いが漂ってきます。
「はい、そうです。依頼主は今ここの方と商談中ですので、こちらで待たせてもらっております。お邪魔でしたでしょうか?」
「さぁー?今日はここに来る商人の大半が護衛付きだし、諍いを起こさなきゃ別にいいんじゃないのかなぁ?」
「そうですか。……ええと、何か御用でしょうか?」
「用がなかったら話しかけちゃいけないのかな?」
これは聖騎士としての直感、この人は同胞さんの敵だ。それもかなり危険な人物だと判断できる。
「いえ、そういうわけでは……。ですが私達は護衛の依頼中ですので、余計な雑談などは控えた方が良いかと」
「……ふぅん。つれないなぁ?ああ、自己紹介がまだだったよね。俺の名前はソライド、このホルステアル商会の代表のランドスレに世話になっているんだ。君達の名前は?」
この人が聖職者の方と同じで嘘を見抜けるか分からない以上、下手な嘘をつくわけにはいきません。
「……メリーアです」
ソライドの独特の雰囲気に戸惑いながらも、他の護衛の人も答える。ソライドはうんうんと頷いた後、続けて質問を投げかける。
「ところで君達の中にさ、黒い髪と黒い瞳を持つ男の知り合いっている?」
「(――ッ!?)」
ここまで堂々と同胞さんのことを調べてくるのですか!?もしかして、同胞さんの策略が見破られている……?でも同胞さんは確か『リティアルならかもしれないだけで行動をしてくる』とも言っていましたし……それにソライドは私個人ではなく、他の護衛の方にも話しかけています。どう返事をしたものか……。
「ねぇ、君は?」
「……いえ、存じません」
もしもこの人が嘘を見抜けるのであれば、それ相応の反応を示すはず。表面上は平静を保って、相手の様子を慎重に……。
「そう。実はその男、最近起きている強盗事件の首謀者らしくてね?今朝もランドスレさんと接点のあった商人を襲ったらしいんだ」
この人、躊躇なくデタラメを……。でも私達はその被害者の一人である商人の護衛としてここにいる。持ちかける話題としては自然な流れではあるけど……。
「そうですか。情報をありがとうございます」
「どういたしまして。君達もそんな男を見かけたら是非教えてね?とても極悪な人物らしいから、絶対に一人で近づいちゃダメだよ?」
「……はい」
ソライドはそれで話が終わったのか、そのまま商館の中へと戻っていきました。嘘はバレていないようですが……あまり長く会話をすると、色々と見抜かれてしまいそうな感じがします。その後商人さんが戻ってきて、商館を後にしました。
「いやぁ、色々と助かったよ。ヘリオドーラ卿も随分と羽振りが良いんだね。流通の様子を報告するだけで商品を安くしてくれて、護衛まで手配してくれるなんて。私からの手取りは本当にいらないのかい?」
「はい、大丈夫です」
同胞さんが手配した商人さんに限っては、その方の護衛の冒険者の賃金は同胞さんが前払いで支払っていることになります。他の護衛の方は普通に雇っているそうですが、私もそれに倣った形です。
「ヘリオドーラ卿もだけど、ホルステアル商会も護衛はしっかりしてたよね。窓から見ていたけど、君達が話していた男がとても優秀な護衛だってランドスレさんの部下が言っていたよ」
「そ、そうですか……」
「凄く変わった格好をしていたけど、もともとユグラ教の聖職者だったそうだよ?」
「……え?」
今、なんて……。あのソライドがユグラ教の聖職者だった?嘘を見抜いていたという様子は感じなかったし、私の前で平然と嘘を付いていたのに……。ユグラ教の聖職者の方は滅多に嘘をつきません。自分が嘘を見抜く手段を持っている為、嘘に対して慎重になるからです。
「ちょっと前までクアマ支部を任されていたっていう、セラエス大司教の弟子だとか。凄いよね」
「そ、それではこれで失礼します!また後日、お伺いしますので!」
これが本当の話だとすれば黒い髪と黒い瞳を持った男性、同胞さんのことを知らないと言った嘘が見破られたことになります。どうしよう。すぐに報告しに戻るべきでしょうけど……もしもあのソライドが私の嘘を見破った上で行動しているのであれば、尾行されている恐れも……。
念の為に通る必要のない道を選び、途中で尾行されていないかの確認。……多分大丈夫だと思いますけど……でも、もしもと考えると……。今日は戻らずに何処かで時間を潰せば……きっとエクドイクさんが探しに来てくれると思う。エクドイクさんに事情を話しさえすれば、きっと……。
「(うん。私の迂闊な行動で皆さんに迷惑は掛けられません。ここはエクドイクさんにお願いして――)」
「どうしたんだメリーア?」
「っ!?ど、同胞さんっ!?どうしてここに!?」
見覚えがあると思ったら、この辺は買い物をする時に通った道の傍でした!でもよりによってどうして同胞さんが……ってああ!?
「どうしてって、今日は飯当番だからな。ミクスと一緒に買物に来てたんだ」
「そうでしたね……。あ!ミ、ミクスさんは今何処に!?」
「その先の店で魚を値切っているぞ。……尾行でもされているのか?」
「っ!?」
同胞さんの様子が変わりました。表情から感情が薄くなるような、そんな冷たい感じに。私の狼狽え一つでそこまで見抜けるなんて……。そうです、戦闘能力はなくても同胞さんに相談すれば大丈夫なはずです!
「実はその……商館で……」
「あれぇー?黒い髪に黒い瞳……当たりだと思ったんだけど、亜人?そういえばターイズで黒狼族って亜人が見つかったって聞いたけど、それなのかなぁ?」
透き通るような鈴の音と、耳に纏わりつくような甘ったるい声。その音の聞こえた方へと視線を向けると、そこには商館で出会ったソライドの姿がありました。
次回の更新は少し遅くなるかもしれません。理由として、同じ生活スタイルの身内がインフルエンザ判定を貰い、私もちょっと熱っぽいので。




