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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
選択編

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だから嗅ぎ分ける。

「ランドスレに接触してきた商人は二人、ランドスレが目をつけた商人は四人か。漏れてる商人とかはいないって信用していいんだね?」

「へ、へぇ。ランドスレさん本人を今も休まず監視しておりやすぜソライドさん。あと交渉役に選ばれるランドスレさんの部下達も同じように……」

「おっ、ちゃんと俺の言った言葉の意味をしっかりと噛み砕いてくれているようだね。それで正解。今度は間違えなかったね」


 ゴロツキどもがゴロツキである理由、それは賢く生きられないからだ。だが学習させることができれば人並みには使えるようになるし、行動力も意外にあるものだ。もっとも学習させること自体がとても難しく、相応の苦痛や恐怖を利用しなければ効率的にいかないという欠点はある。元々トリンにいたゴロツキの何割かは二度と帰らぬ存在にはなったが、残ったゴロツキ達の目まぐるしい進歩を考えれば十分に感謝されているだろう。


「い、一応接触のあった商人達の住処も調べてありやす。住処にいる人員や素性などはまだ調査してませんが……」

「ああ、それはいらないよ。君達は所詮ゴロツキだ。俺が探しているのは魔王を倒したってくらいにやり手の男だ。そいつ自体は君でも勝てるほどには非力なんだが、当然護衛はいる。普通にやりあえば俺でも勝てるか微妙な相手だろうし、そんな相手に対して君達が生半可な接触を続ければ自滅するのは明白だ。だろう?」


 ま、その人物が本当にトリンに来ているかは今の所不鮮明ではあるんだけどね。ただ俺の嗅覚だってそれなりには自信がある。魔界の資源がトリンに出回ったのは何かしらの意図を感じる。そんなことを仕込むような相手ともなれば普通の知恵者とはわけが違う。

 リティアルは自分とユグラの星の民は同等と言っていた。確かにリティアルならこういう発想で攻めてくる可能性もあるだろう。つまりはリティアルを相手にしていると考えて動けばいいってわけだ。


「へ、へぇ……。それでこの後はどうしますかい?」

「あー、うん。そうだね、人員を集めて一件ずつ強盗に入ってもらおう」

「えっ?あ、相手は相当に強いって……」

「ただの強盗として殺しはせず、金品や品物だけを盗めばいいよ。資料によれば奴らはそこまで過激な行動にはでない。それなら返り討ちに遭っても最悪トリン軍に引き渡されるだけだし。当たりを引いたらその他には仕掛けなくてもいい。酒代を稼ぐつもりでちゃちゃっとやってもらおうか」


 疑わしきは全て罰する。そんな言葉を聞いたことがあるけど、まあそれが一番だよね。もしもこの中のどれかにいるのだとすれば、その全てに仕掛ければ必ず当たりを引けるわけなんだし。


「で、ですがソライドさん――」

「命も心も無事な案なんだけど、もっと過激なのがいいのかな?」

「……わ、わかりやした」


 別にこいつらが死んでも思うところは何もないけど、使える人材は使えるだけ使い潰したい気持ちはある。正直こいつら放置してると勝手に増えるからなぁ、間引くには丁度いいよね。


「さて、と。他の落とし子も戦力としては使ってやりたいところだけど……臆病な連中だしなぁ……追い込むかぁ」


 リティアルからは落とし子の扱いには慎重になれと言われている。まあ腐っても一部では勇者ユグラと同格の才能の持ち主だし?でもユグラと対等に戦えるかと言われればアークリアル以外には無理な話だ。じゃあ何の役に立つのかと言われれば、その辺のゴロツキと似たようなものだ。才能を役立てるように使うことに慎重になればいいだろう。


 ◇


 ホルステアル商会との接触にも無事成功。今度はいよいよホルステアル商会の建物を調査する段階だ。そんなわけで男四人、今後の計画を相談することになった。女組は以前の食事が切っ掛けで男性陣の飯当番を奪って創作活動に勤しんでいる。ラクラについては味見役で楽しんでいるだけだろうが。


「潜伏役となると、やはり俺が適任だとは思うが……」

「だけどなエクドイク、ここにいる面子の大半はリティアルに顔を覚えられているからなぁ」


 亜人に変装しているおかげでぱっと見た感じでは印象を持たれないが、顔や体格まで大きく変えているわけではない。そもそもリティアルが先回りしていた場合、顔を合わせただけでバレる恐れもあるわけだし。ターバンで顔を隠してもいいが、それはそれで怪しまれる。


「リティアルに顔を見られてない奴っていうと……ケイールにマセッタ、メリーアくらいか?蒼の魔王はどうなんだ兄弟?」

「リティアルとの直接的な接触はないが、ラーハイトが何度か顔を合わせている感じだからな。人相書きくらいは伝わっているかもしれない」

「ケイール達を悪く言うつもりはないが、潜入任務には向いていないと思うぞ同胞」

「そ、そうですね……。剣の腕ならって言いたいところですけど……そちらの方もあまり……」


 ケイールにはこの街の細かいマッピングに重宝しているので、実戦力がないことは然程問題ではない。ないと言ってもターイズの騎士、その辺のトリン軍人相手なら複数人相手でも勝てるだろう。メリーアの実力はケイールよりやや下、ただし悪魔やアンデッドのような存在を相手にする為の魔法の幅が広い。


「強さはあまり気にしても意味はないけどな。ケイールなら内部の様子を見ることさえできれば建物の構造を的確に図案にすることができるし、要は自分の技能を活かせるかどうかってところだ」

「……確かにそうかもな。すまないケイール、侮るような言い回しだったかもしれない」

「い、いえいえ!エクドイクさんの実力はよく知っております!私を未熟だと思うのも仕方のないことかと!」

「ぶっちゃけ剣の腕ならハークドックより強いし、そこまで悲観することもないだろ」

「言うね兄弟。これでも俺はケイールと手合わせして十本中九本勝ってるんだぜ!」

「一回負けてんじゃん」


 ハークドックの戦闘スタイルは攻撃を回避しつつ、相手のリズムを崩すようなやり方だ。なので乱されると崩れが酷い者ほどハークドックは刺さる。エクドイクのように万能型で対応もクレバーな相手の場合、実力差で負けていればほぼお手上げではある。まあラクラを倒せた実績はでかいので、大番狂わせを起こせる可能性が一番高いのもこいつだ。


「ターイズ騎士ってのは隙を作りにきーんだよ!」

「で、でもハークドックさんの戦い方はとても参考になります!手のひらの上で踊らされているような、考えが誘導されるような、まるで熟練の騎士にあしらわれているかのようですし!」

「お、おう。サンキューな。ケイール、お前さん筋はいいけどさ、実戦慣れが足りてねぇよな。今のうちエクドイクとかとやり合っておくと色々参考になると思うぜ?」

「いえ、その……エクドイクさんは色々と器用過ぎて……」

「わかる。こいつ何でも一通りこなせちまうんだよな、ずっりーの」


 エクドイクは鎖以外の武器も高水準で使いこなすことができる。様々な武器を相手にする特訓としては非常にうってつけな相手とも言えるだろう。メリーアもそのことを理解しているのか、結構頻繁に手合わせを申し込んでいる。


「ずるいと言われてもな……大抵は鍛錬で得た技術なのだが……」

「真に受けんなよ。ま、鍛錬相手にはお前ほど便利な奴はいねぇけどな。ラクラとかだと体のどっかが切断されかねねぇし」

「ハークドック、鍛錬相手という意味ではミクスはどうなのだ?」

「……パス、相性が悪過ぎる」


 ミクスは初見殺しを多用するスタイル、ハークドックのようにリズムを崩そうとしても先に罠に掛けられてしまう恐れが高い。エクドイクの鎖やラクラの結界のように圧倒的な物量を誇る攻撃手段がなければかなり辛いことになるだろう。


「そもそもミクスは手の内を見せたらダメなタイプだからな。ただ剣の腕とかはそこそこって聞いたな。ケイール、剣の鍛錬くらいなら付き合ってくれるんじゃないのか?」

「そ、その先生……。ミクス様が陛下の妹君であることをお忘れでないでしょうか……?」

「あー……」


 騎士が自国の王の妹に手合わせを求めることができるのかと言われると……うん、無理だな。メリーアやマセッタもミクスに対してうやうやしい態度をとっているくらいだし。


「鍛錬相手にはエクドイクが適任ってわけだな。こいつなら加減も絶妙にできるし」

「そうだな。イリアスとかと鍛錬したらここにいる全員が壊れかねないしな」

「ラッツェル卿とは、流石に……」


 イリアスもイリアスで鍛錬相手に困ってそうなんだよな。今頃ラグドー卿にしごかれているんだろうけど、ラグドー卿も若くはないし……大丈夫なんだろうか。


「――静かに、家の外に誰かがいる」


 エクドイクの声に全員が臨戦態勢になる。あ、いや、誰かさんは違うけど。こういうところはケイールが騎士だって感じることができる。ハークドックもすぐに探知魔法を使ったっぽいし。


「む、この魔力は……」


 エクドイクが何かを言おうとする前に、玄関の扉が勢いよく開かれ来訪者が姿を現す。


「んっふっふっ!妾、参上!」


 そこにいたのは『金』だった。おい、ガーネ国王。隣国に顔を出すだけじゃ飽き足らず、二つ隣の国まで遊びにくるなよ。


「あのなぁ……」

「なんじゃ、トリンは妾の故郷の近くなのじゃぞ?たまには里帰りしても罰は当たるまい?」

「お前の故郷は焼かれただろうが」


 そういや『金』はこのトリンの近くで魔界を生み出そうとしていたんだったな。他の魔王が皆やっていたのでそろそろ自分も真似でもしようかと思っていたところ、魔王を討伐し始めたユグラにサクっと討伐されたのだ。おかげでトリン魔界なるものはこの世界には存在していない。トリンが魔物の被害に遭わないのはこの魔王の行動力の遅さのおかげとも言える。


「妾にとって、第二の故郷はお主の傍……ということでいいかの?」

「よくねぇよ。そこはガーネにしとけ」

「そうじゃった。ではお主は三番目の男というわけじゃな」

「それはそれで腹立つな。あとな、来るなら来るで事前に言ってくれ。急に来られると迷惑なんだ」

「酷い言い草じゃな。そこまで邪険にせずともよかろうに」

「いや、お前の魔力を探知魔法でガッチリ捉えた奴がだな」


 指を差す先には立ち上がる姿勢のまま凛々しい顔立ちで気を失っているハークドックの姿がある。そりゃあ魔王を見ただけで気絶するってのに、ダイレクトで魔力を探知すればこうもなる。


「おおう……確かにこれは哀れじゃな……よしよし」

「撫でてやるな。ケイール、悪いけどハークドックを奥で寝かせてやってくれ」

「は、はい先生」


 ケイールやメリーアにはハークドックのこの仕様は説明していたのだが、実際に見るとかなり不憫に思えてくるのだろう。ケイールはハークドックに一礼した後、丁寧にその体を運んでいった。『金』は人の膝の上に乗り、自分の尻尾を撫でろと言わんばかりに押し付けてくる。適当に撫でつつ感触を確かめる。中身が同じだと分身か本体かの違いは本当にわからないんだよな。


「それにしても皆亜人の姿になっておるとは、なかなか面白いの。お主の尻尾も触らせい」

「はいはい……。それで、これは本体なのか?」

「いんや、本体はガーネ城で仮眠をとっておる。最近はガーネ国内でちょこちょこ問題も発生しておるからの。ちょっとばかり息抜きがしたくなったのじゃ」

「まあそれならルドフェインさんに睨まれることも……ないとは思うが」


 『金』は自らが魔王であることをガーネの重鎮達に打ち明けた。当然その情報は広まり、ガーネ国王が魔王であることは多くの者が知るところとなった。緋の魔王の侵攻に備えるために有耶無耶になっていた問題だったが、やはり芳しく思わないものも多いのだろう。


「そう心配そうな顔をせんでも良い。妾はいつでもガーネ国王を辞めても良いと思っておる。ただ先代に託された以上は次の王にはある程度の水準を設けたい。しかしのー妾の統治以上に優れた政を行える者が現れなくてのー」

「そりゃあユグラから貰ったずっるい力があるからな」

「ターイズの愚王くらいでも妥協はしてやるつもりなんじゃがの」

「妥協って言わねぇよな、それ」


 魔王が嫌だと言ってもその実力が本物である以上、代わりの王を立てることは難しい。未来予知に等しい精度で政策の成否が確認できる『金』以上に優れた統治ができる者なんて、普通いるわけがないのだ。ただ強硬策に出る者が現れないのは実力主義を押し出してくれているルドフェインさんのおかげとも言えるだろう。


「王としての統治もそれなりには楽しんだからの。魔王として嫌悪の目で見られ続けるくらいならば……いっそ――そう思う日もないわけではないがの」

「言っておくが養わないぞ?」

「なん……じゃと……」

「わざとらしく絶望した顔をすんな。そんなに茶化さなくても弱音を吐く相手くらいにはなれる。大変なんだな」

「――妾だけならば然程なのじゃがな。ルドフェインを始めとした妾を支持する者達にも負担が増えておる。実力で示せば良いのに、陰湿な者が多くての」


 ああ、それでか。悪口なんざマリトから散々言われ慣れている『金』がその辺の連中の罵詈雑言に屈するはずがない。だが『金』を支持する味方への嫌がらせを行う者が現れているのだろう。自分を傷つけられることより仲間を傷つけられることの方が堪える者もいる。


「手伝った方がいいか?」

「今も手伝ってもらっておるからの。お主がこの世に貢献すれば、魔王に対する見方も少しずつ変わるじゃろう。長い年月が掛かろうとも、妾達は不老不死じゃからの」

「暫くは自分でやってみたい、か」

「うむ。お主ならばサクッと解決してくれるかもしれんがの」


 これは『金』の生き方の問題だ。『金』は戦乱の世に生まれ、その流れに巻き込まれたまま死ぬことを望まず新たな人生を生きる為に魔王となった。流れに任せたまま生きたことで得られなかったものを得たい、その願いは今も変わらない。

 もしもここで『俺』が全てを解決してしまえば、それは『俺』という流れに任せてしまうことと同じだ。だからこそ、自分自身の力でなんとかしてみたいのだろう。


「ま、頑張れ。駄目だったら泣きつけ。その時はどうにかしてやるからさ」

「養ってくれるだけでも良いのじゃがの」

「それ以外でな」

「つれないのう。――それはそうと、ここに来る前に周囲がちょっと騒がしかったのじゃ。トリンの軍が宿の前で調査をしておる姿を見たの。強盗事件のようじゃったが」

「ほう」


 地図を広げ、『金』にその宿の場所を教えてもらう。


「やっぱりこの場所か」

「同胞、確かこの宿は……」


 これが仕掛けられたものだとすると、こちらがトリンにある隠れ家、ホルステアル商会を狙っていることは予測されていると考えられる。ならばリティアルやラーハイトがその妨害に現れていると思いたいのだが……どうもやり口があの二人のものとは違う。

 ラーハイトならその日のうちにトリン軍が動くような仕掛け方はしないし、リティアルならここを初手で攻められるように情報を絞り込む。となるとトリンの護りを任されているのは別の人物か。さて、どうしたものか。






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