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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
選択編

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223/382

だから甘い。

 ソライドに一任してからある程度の日数が経過した。ユグラの星の民の動きを含め、各国には今の所目立った動きはない。ただこれはユグラの星の民が死んでいないということも意味している。あの男は三人の魔王を従え、一国の総力にも等しい力を得ている。その人物がセラエスの一件で死んでいれば、何かしらの動きが起きて然るべきだ。あの男が生きているからこそ、魔王達は大人しくしているのだ。


「なぁリティアル。もう君は帰って良いんじゃない?」

「そうもいかないさ。それに私が帰らなくてもネクトハールにお茶を用意する人員がいなくなる程度の痛手だ。トリンで休暇を楽しむのも私の自由だろう?」

「街を出歩くにも変装しなきゃ出られないような奴が休暇ねぇ。退屈凌ぎに女でも用意しようか?」

「遠慮しておくよ。そこから情報が漏れたら困るだろう?」

「抱いた後は殺せばいいじゃないか。壊すまで遊んで、飽きたら次を用意すれば良い」


 ソライドは純粋な親切心で提案し、率直な意見で答えている。そこに悪意はなく、ただ精神が荒んでいるというべきか。一般的な冒険者として生活を送っていた立場としては共感を持つことはできないだろう。


「我々は犯罪を好んで行う組織ではないよ。ある程度の常識は守らねば」

「人の命の一つや二つ、ネクトハールがしてきたことを考えたら微々たるものだろ?君が品性高潔に生きたところで国に捕まれば死刑は確実だ。誰に対しての体裁を守っているつもりなんだい?」

「考えるまでもない、私自身にだよ。私は多くの者達をこの道に導いてきた。私はそんな者達が選んだ選択を後悔しないような、そんな人物として在り続けたいのさ」

「人の上に立つ奴は大変だなぁ。まあ俺の下にいる連中はクズばっかりだからね、その点では気楽でいいよ。……噂をすればってやつかな」


 品性を感じない粗雑に扉を叩く音が響く。私は魔法で姿を隠し、背景に溶け込む。同時に現れたのは亜人の男、風貌からして街に時折見かけるゴロツキの一人だろう。ソライドは自らの配下としてそういった手合の者達を従えている。


「ソライドさん!失礼しやす!」

「あー、うん。いいよって言ってないけどなんで勝手に開けてるわけ?」

「え……あ……す、すいやせん!すいやせん!」

「冗談だよ。俺はそもそもノックの音に返事をしたことがないんだよ。なんで相手の動作に合わせて口を開かなきゃならないんだい?不思議だと思わないかい?」

「へ、へぇ……。多分ですが、急に入ってこられると困る時があるとかでしょうか……」

「ふーん。例えば?」

「え、えーと……服を着てなかったり、女を抱いてたり……」

「別に困らないけどなぁ。あーでも寝ている時は嫌だなぁ、寝ぼけて部屋を血塗れにするのは臭いが残る。起こされるのも……あーそもそもノックで起こされるなぁ……。うん、いらないなぁ」


 街のゴロツキもソライドに比べれば常識があるものだとため息が漏れそうになる。ソライドは自分のペースでしか動かない。この男を動かすにはこちらも行動で介入し、そのペースを働かせてやる必要があるというわけだ。


「ええと……言われていた件、色々と調査しておきやした。トリン軍の動きは何時も通り、他国の様子はそこまで調べられなかったですが似たような感じですぜ」

「君達の目が節穴なだけじゃないの?調べてみたいから片方ちょうだいよ」

「そ、それは勘弁してくだせぇ!あ!最近の変化と言えば、どうも市場に見慣れない品が出回ってやがりますぜ」

「見慣れない?君の教養が足りないだけじゃなく?」

「それは否定しねぇですが、どうも魔界で取れた鉱石や薬草のようですぜ」


 魔界、その言葉には私も反応してしまう。現在魔界を支配できている魔王は碧の魔王と蒼の魔王の二人。現在人間にとって脅威となる碧の魔王の土地での採取はありえない。ガーネ魔界は緋の魔王が不在とはいえ、魔物は発生しているし資源の採取には危険が伴う。

 このことから考えられるのは蒼の魔王の管理下にあるクアマ魔界、そして紫の魔王が管理を手放した上で魔物の脅威を取り払ったメジス魔界の二箇所ということになる。その二人はユグラの星の民の配下にある状態だ。


「出処はわかっているのかい?」

「へぇ、何人かの商人に直接聞きましたが、全部クアマ魔界で取れた品のようです」

「何人か?結構出回ってるんだ?」

「クアマ魔界は現在ジェスタッフとか言う男が開拓しているそうで、その男が資金稼ぎにクアマに商品を流しているとか」


 ジェスタッフ=ヘリオドーラ、優秀な駒ではあったがあの男もまたユグラの星の民の下についた。建国をするつもりだとは聞いていたが、確かに魔界で取れる資源ならば金銭的価値はそれなりにあるのかもしれない。魔界の特殊な魔力に染まった鉱石や植物は通常の物とは違った特性を保つ場合が多い。魔物の脅威を取り払った状態では自由に採取することができるだろう。クアマ王の正式な許可を貰っているのもジェスタッフ一人だけ、商売としては十分稼げるはずだ。


「……臭うなぁ。ユグラの星の民が関わってそうな、そんな臭いだ。あー、トリンの商人達はどう動いている?」

「クアマに仕入れに向かう者もいやすが、大抵はクアマから来る商人と交渉して仕入れのルートを確保しようって感じですぜ」

「それが妥当だろうね。クアマ魔界の開拓権を持つジェスタッフにその権限を与えたのはクアマ本国だ。魔界の品の取引にはクアマが主体となって関わるからクアマの商人が最も美味しい立場にないと困るからね。自分で仕入れに行くのは品質に拘りたい奴だし、軽めに手を伸ばしたい連中はクアマの商人に取引を持ちかける。……となるとホルステアル商会もその流れに乗りそうな感じだなぁ」


 複数の商人に魔界の品を持たせ、トリンへと流していく。そうなれば商人達は次々とその商品を扱う商人と手を組もうとするだろう。ホルステアル商会に接触を試みる手段としてはあの男が取りそうな手段ではある。ランドスレの性格からして四~五人は交渉することになるだろうが、その中に紛れ込むつもりだろうか。


「それで、どうしやすか?」

「うん。君は暫くランドスレを監視してもらえるかな?もちろん数人で休まず連日で。ランドスレが接触する、される商人全員を把握しておいて」

「へい。わかりやした」

「一人の漏れも許さないからね?あんな奴知りませんでしたってなったらさ、君を知る人がいなくなることになるからね」

「へ、へい!」


 男は恐縮した態度のまま部屋を後にする。ソライドの判断は今の所問題ない。私も同じように行動しているだろう。ソライドは私と同じで頭を使うことに慣れている。ただ問題があるとすれば行動を起こす時の躊躇のなさが心配になるのだが。


「なにか言いたげだね、リティアル。大丈夫だよ、ランドスレ本人に危害が加わるような真似はさせないよ。一応俺の世話をしてくれているし?そのくらいの恩義は感じているつもりだから」

「君の感じる恩義に重さを感じることはなさそうだけどね」

「あー、そうだねぇ。言われてみればそんなに?他の落とし子の面倒を見なくて良いってんならここにいる理由もないわけだし……。あーでも俺にとって人の家ってのはさ、大事なんだよね。俺だけの家だったらさ、他の連中が好き勝手にするだけで殺したくなるし。妥協できるナイスポイントだよ」


 もっとも、トリンにいる他の落とし子達は皆ソライドを恐れている。可能ならばセレンデに移りたいと常日頃から言われている状態だ。恐怖で支配するのはあまり好きではないが、ソライドの影響力はそれだけ大きい。それを理解しているからこそネクトハールはトリンの管理をソライドに一任しているのだ。


「そういや他の落とし子には挨拶しないのかい?」

「私が顔を出すとセレンデに連れて行って欲しいと言われるのでね」

「ははっ、違いない。アークリアルくらいに腕がたてばいいのに、どいつもこいつも臆病な連中ばかりだからね」

「それが君のせいだってことは自覚しておいた方が良いと思うけどね」

「あー、うん。それはそれでいい感じじゃないかな?生半可な才能で偉そうにされるよりずっとマシだ」


 ソライドは私の皮肉に対し、屈託のない笑顔で頷いていた。


 ◇


 一人で商品の在庫管理をしていると、メリーアがこそこそしながら声を掛けてきた。


「同胞さん、同胞さん、ちょっと良いですか?」

「ん、なんだ?」

「少しお聞きしたいのですが、エクドイクさんの好きな料理とかご存知ですか?」

「エクドイクか……肉が苦手なのは知っているよな?」

「はい。それは以前お聞きしたのですが、野菜の料理でも好みがあるかなと」


 本人に聞けよと言ってしまえばそれで終わりなのだが、こうして一人で情報収集をしているということはこっそりとエクドイクを喜ばせたい意思があるのだろう。


「基本的には手の込んだ料理の方が反応は良いな。自分には出せない味には素直に感心するタイプだし」

「言われてみれば……もっとレパートリーを増やした方が良いのでしょうか?」

「エクドイクが知っている料理でも、一工夫加えるだけでも喜ぶとは思うがな。なんならそういう料理を一緒に作って教えてやった方が、味で喜ばせるよりいい感触が掴めると思うぞ」

「な、なるほど……。同胞さんはエクドイクさんのこと詳しいんですね!」

「詳しいっちゃあ詳しいけどな。だからって全力で喜ばせるような真似はしないが」


 徹底的にやれば今以上に好感を持たれる自信はある。ただそうなるとあいつに依存させてしまいかねん。せっかく自分の意思で行動して成長している最中だってのに、その機会を奪う真似はしたくない。


「距離感も大事ということでしょうか……深いですね」

「あいつを骨抜きにしたいわけじゃないしな」

「わ、私もそんな風には思っていませんよ!?――ただ同胞さんのようにエクドイクさんに頼られるような存在になりたいと言うか……」


 メリーアは視線を逸しながらボソボソと呟いている。この蜂蜜でも気化してるんじゃないかって空気、この異世界じゃなかなかなかったな。酒の匂いばかりだし。まあ『紫』のは……あれはどちらかと言えば体を蜂蜜にされているって感じだし。嫌じゃないんだが、あの感覚は長くいると多分ダメになる。


「戦闘力や知力で足りない分を得意な分野で補うってのは良いことだ。ただエクドイクのことになると、ちょっと難しい感じではあるよな」

「そうなんですか?」

「エクドイクはラクラにも甘くなっているからな。アレに甘い時点で秀でていることが全てじゃないって物語っている」

「……はっ!納得しちゃダメな奴ですねこれ!?」


 納得していた顔をしていたので手遅れではある。『蒼』もなんだかんだでラクラには甘くなっている。ラクラは甘えられる相手を嗅ぎ分ける才能があるんだよな。調子に乗ることも多いのでそのうちエクドイクからも説教されそうだが。


「今日の飯当番は『俺』だが、さっきの話を試してみたいってんなら一緒に作るか?流石にエクドイクを誘うってのは別の機会にやってほしいが」


 エクドイクまで誘うと甘ったるい空気の中で料理をすることになる。そうなると味付けがスパイシーになりすぎてしまう気がする。


「はい、ぜひ!機会を与えてくださってありがとうございます!」

「ま、楽できるからな。そこまで感謝しなくてもいいさ」

「いえ、私のことを気遣った上での提案なのですから、感謝させてください!」


 メリーアは尻尾を振って喜んでいる。この魔法、感情の動きも耳や尻尾に影響するんだよな。犬系になっている連中は非常に分かりやすい。

 うーん、このひたむきに純真なメリーアの爪の垢を煎じてラクラに飲ませてやりたい。いや、以前ウルフェので試したけど効果なかったから期待はできないな。


「あの、どうかしましたか?」

「人には色々な個性があるなと思ってな。どれも味はあるんだが、比較するのは程々にしなきゃな」

「おお……深いですね」


 諦めて受け入れる境地なので深くはないです。その後メリーアと一緒に夕飯を作ることになったのだが、元々一人で作る分を二人で作れるとあって、メリーアはしっかりと手の込んだ料理を作ってエクドイクに感心されていた。誰かさんが下準備を手伝ったとはいえ、ほぼ全部の味付けを一人で済ませたのは流石と言わざるをえなかった。

 ただ失敗したのはメリーアがほとんどの料理を担当したことで時間ができた誰かさんがメリーアに触発され、食後のデザートにこの世界ではまず見ないレシピを解禁したことでエクドイクの最終的な評価がそっちに流れてしまったことだろう。


「なんか……すまん」

「いえ……本当に美味しかったですし……流石は同胞さんです……。もっと私に精進しろと実力の差を見せてくださったのですね……」


 いや、この世界じゃ嗜好品の中でも貴重な砂糖とか、製造法が確立していない生クリームやバターを自重なく使ったエッグタルトとかいう反則技を出した奴が酷いんです、ごめんなさい。






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― 新着の感想 ―
流石同胞。実際に爪の垢を煎じて飲ませるとは。
ほんとに爪の垢を煎じて飲ませる奴初めて見た。流石は主人公
[一言] さらっとラクラに盛ってるの笑う
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