おまけ、肋骨との邂逅2
あけましておめでとうございます。
こちらは別連載の【女神『異世界転生何になりたいですか』 俺「勇者の肋骨で」】とのちょっとしたおまけ話です。次回からは通常の更新になります。
※正月ということでチラシの裏のような世界観でのお話です。本編の進行には何の関係もありません。
『お久しぶりです』
「うわ、出た」
気がついたら以前に出会った女神と再会していた。再会というか、召喚されてしまったのだろう。消されていたはずの最初の邂逅の時の記憶もしっかりと戻っている。
『軽く不敬罪に適用したくなるリアクションですね』
「前後の脈絡もなくいきなり目の前に現れたらこんなリアクションにでもなるだろ」
『少し違いますね、現れたのは貴方の方です。ここは私の空間ですので』
「屁理屈の部類に入る返しだな。ま、元の世界に戻った時の悪影響はなかったんだし、ここは素直に招かれたことを楽しむとするか」
『随分と適応能力が高いことで』
元の世界……というとややこしくなるか、イリアス達の世界に戻った時にはここでの経験などは完全に記憶から消える。思考のタイムラグなども一切存在しなかったので、ここでは自由にするのが正解だろう。色々と考えておきたいことは山積みなのだが、ここで考えたことは全部忘れるのだし、名案を思いついたら損なだけだ。
「あいつは元気にしているのか?」
『ええ、今おせち料理を作らせています』
「お、いいな。日本の文化から離れて久しいし、ありがたいことだ」
空間に置かれている炬燵の中にいそいそと足を入れる。コンセントとかそのあたりの仕組みは考えるだけ無駄だろう。
「はぁ……炬燵はいいなぁ……異世界にも欲しくなるよ」
『仕組みは簡単なのですから、魔法などで代用すればよいのでは』
「そこまで寒い時期とまだかち合ってないからな。それにあまり他の世界の発明を持ち込むことは避けたい。発想の違いってやつはどこで影響を及ぼすかわかったものじゃないからな」
『なるほど。一理ありますね。ところで、本日はそちらの世界の住人をもう一人連れてきたはずなのですが、どちらにいるのでしょうか』
「えっ」
ちょっと待て、いくらなんでもよその世界の住人を勝手に連れてくるってのはどうかと思うぞ。いや、『俺』もよその世界ではあるんだけどな。つか誰が連れてこられたんだ?やっぱりこういう時はイリアスか?いきなり神の前に召喚されるとか、イリアスじゃ許容量的にかなりやばいと思うのだが。周囲を探していると空間に不自然に取り付けられている扉が開き、そこからご近所さんが姿を現す。
「おせちの準備ができましたよー。あ、ご近所さんだ」
「よっ、邪魔してるぞ。異世界でおせちを作るとか、マメだな」
「こういうのは季節の風習を楽しんでなんぼですからね。それにお手伝いもいたのですぐにできましたよ」
「お手伝い?ああ、そっちにいたのか――ってエクドイクかよ」
「む、同胞も呼ばれていたのか」
こいつ、凄く割烹着が似合ってないな。つか鎖は外せよ。
『おや、そちらにいましたか』
「……同胞、この女は何者だ?魔力とは違う何かを感じるが……只者ではない」
『女神です』
「女神……だと……。確かにその佇まい、風格、感じられる気配からして人ではないな」
『ちなみに貴方の世界の神とは関係ありません』
「――つまり同胞の世界の女神ということか」
『いえ、そこの彼の世界の神とも関係ありません』
「……ではなぜ俺や同胞の前にいるのだ?」
ごもっとも。まあ全ての原因はそこでおせちを取り分けている男なのだ。そのへんをかいつまんでエクドイクに説明する。
「なるほど。同胞の同郷の者がこの女神の世話になっているというわけか。多くの世界を旅しているとは、やはり同胞の世界の住人は凄いのだな」
『凄いといえば凄いですがね。どう凄いかは語りたくありませんが』
エクドイクの飲み込みが思ったよりもスムーズだ。夢のような何かだと割り切っている感がある。
「ご近所さんは随分と現地の人に尊敬されているようですね」
「尊敬……そうだな。同胞はとても凄い。この前も単身で魔王を打倒したほどだ」
「エクドイク、あまりその話で持ち上げてくれるな。単独行動で暴走した末の結果に過ぎない」
『魔王討伐経験がおありですか。異世界転移者としてのお約束を一つクリアしたようですね』
「同胞の同郷の者はどうなのだ?やはり数々の世界を転々としているのであれば、かなりの武勇伝があると思うのだが」
「魔王討伐ならそこそこありますよ」
コメディー路線の異世界転生とは言え、実力で倒していることには違いないんだよな。もうこいつ地球人と呼べないよな、多分。
「流石だな……」
『勇者討伐回数も酷いですがね』
「勇者もだとっ!?」
エクドイクが凄い驚愕の表情を浮かべている。そりゃあ勇者も魔王も見境なしに討伐しているやべーやつがいたらそんな感じで見るかもしれない。
「いや、ついうっかり」
「うっかりで魔王や勇者を倒したというのか……」
「くしゃみとかでつい」
「くしゃみで!?」
うん、こいつの話を真面目に聞いていたらツッコミだけで話の半分が終わりかねない。そんな展開にさせる訳にはいかないな。
「エクドイク、そいつの話は全部本当だろうが真に受けていたら身がもたないぞ。酒の肴くらいな気分で聞き流せ」
「あ、ああ……」
エクドイクに酒を注いでやる。ファンタジー世界の住人にとって、異世界転生者の存在は超常的な存在とも言える。しかもこのご近所さんはコメディー路線の住人だ。まともに受け入れていては例え記憶が全部消去されたとしても、支障がでかねない。こいつがコメディー色に染まったらそれはもう大惨事にしかならない。しかも最近はラブコメになりそうなんだ、コメディー色を強くされるのは勘弁願おう。
『ちなみにこれが彼の最近の異世界転生の記録です』
「どれどれ……ん、これは」
ご近所さん、コメディー要素のない異世界にも転生していたのか。しかも大往生してるし。それでもここに戻ってきたということは……まあ女神様だろうな。
『おかげでこの人を成仏させるプランが何一つ思いつかない状況です』
「いやぁ、ははは」
『褒めていませんよ』
「好きにやらせるしかないだろうな。そのうちいずれかの形でまとまるだろうし」
『そういうものですかね』
「人間の場合の話だけどな。もう人間を辞めている感じがしなくもないが」
「いやぁ、ははは」
「褒めてないぞ」
一通り食事を済ませ、ご近所さんは料理を片付ける為に部屋を出ていった。それにしてもこの女神、凄く食べるな。
『……人間の場合と神の場合、違いはあると思いますか』
「さてな。人間は神になることはできないし、神が人間になることもないのが一般的だ。人間ができるのは神に合わせるくらいなもんだろ。なら神様の気分次第ってことじゃないのか」
『……そうかもしれませんね』
「ま、そんなことを聞きたいがために呼び出すあたり、やりたいことは決まっていそうだけどな?」
『……察しの良さも程度を過ぎるとどうかと思いたくなりますね。ところでお連れの方、瀕死ですが』
エクドイクが静かだと思ったら、すっかり酒で潰れている。今回用意されたお酒は日本酒なのだが、エクドイクの舌に合っていたのか結構なペースで飲んでいたからな。普段飲まない奴がペースも考えずに飲めばこうなるのはお約束のようなものだ。
「エクドイクを連れてくる必要はなかっただろうに。鈍感な奴に恋愛相談なんてできるわけないだろ」
『恋愛相談というわけではないのですがね。普段鈍感な人間が相手のことをどのように思っているのか、参考までにお尋ねしてみたかっただけです』
「単純に相手のことを大切にしているだけだな。相手の気持ちは理解できていなくても、傍で支えてやりたいって熱意は本物だ。言葉のままに素直に受け取ってやればいいさ」
『……』
「それとも前みたいに分析して、女神様の本心を後押しして欲しいか?」
『……それは遠慮しておきます。私だけが一方的に干渉を受けるのはフェアではないでしょうから』
この女神が『俺』を呼び出した理由は非常にわかりやすい。思春期かって言いたいところだが、そこは黙っておこう。
「『俺』もいっそ魔法が使えるような感じで異世界転移できてりゃ、色々捗ったんだけどな」
『そうですね。きっと彼に負けないような活躍ができたでしょうね』
「そこまでの自信はないが……自分一人で物語を進められる強さってのはちょっとした憧れだしな。人に頼ることが悪いことじゃないってのは理解しているつもりでも、なるべくなら頼らずに済ませたい。そんな小さな見栄が残るような小さな男だよ」
『頼られるのは嫌いじゃないくせに、頼りたくはないと。身勝手な人ですね』
「自覚はしているさ。女神様だって自分がどういう性格かくらいは自覚してるんだろ?」
『貴方との会話はつくづく癇に障りますね』
「そんな奴を呼んだのは誰だっけな」
『……さて、私はそろそろ別室に呼び出した他の女神と飲むことにしましょう。お二人は次に目が覚める時には帰れるようにしてありますので、自由に寛いでください』
「別にこっちに呼んでも良いだろうに」
『色欲を持った人間が近づくと灰にさせられる女神ですが、お望みなら連れてきましょう』
「……スタイルは?」
『引き千切りたいと常々思っています』
「わかった、二人きりでごゆっくり」
女神は立ち上がると、何もないところに扉を創り出す。そしてこちらを見ることなく扉の奥へと入っていった。
『おまたせしました。それでは飲み明かすとしましょう』
『あ、あの……な、何かありましたか?なんというか、いつもより不機嫌そうなオーラが……』
『なんでもありません。ところで、貴方の妹達は連れてこなかったのですか』
『そ、それが……イリュシュアちゃんも、ウルメシャスちゃんも私達の作った世界に降臨していて……』
『そうですか。では用意したこの四人分のお酒は二人で飲み切るとしましょう』
『ど、どうみても四十人分くらいあるんですけど……』
『おや、お酒は強いと聞いていたのですが。まあ時間は弄ってありますので、帰りの心配はしなくても結構です。頑張って飲み切りましょう』
『ひぃぃ……』
扉が閉まるのと同時に扉は消滅した。声しか聞こえなかったが、随分と可愛らしい女神がいたようだ。
「女神にも力関係ってあるんだな」
次に起きればイリアス達の所に戻る、か。なら今くらいは静かに飲んでおくとしよう。あっちの世界に行ってからというもの、一人で静かに飲む機会はほとんどなかったからな。と思ったらご近所さんが顔を出してきた。一人酒はまた今度にお預けになりそうだ。
「片付け終わりましたよ女神様、っていないや」
「他に呼び出した女神と飲むって変な扉を潜っていったぞ」
「あらら。他の女神様とも親しい関係になりたいのに、つれない」
「色欲を持った人間が近づくと灰にさせられる女神らしいがな」
「それくらい問題ないですよ」
「人間なんだから問題であってくれ」
ご近所さんがこたつに入ってくる。食後のデザートなのか冷凍みかんの入った籠をもっている。炬燵で冷凍みかん……なかなかいい趣味だ。
「お連れのエクドイクさんは眠っちゃいましたか」
「日本酒は美味いからな。それにこいつは普段から酒を飲むようなタイプでもないし」
「まあそれなら日本人同士、だらだら飲みましょうか」
「散々異世界転生しているんだし、そろそろ日本人の血とか薄れてそうだけどな」
「初心を忘れるな、君の言葉を大事にしていますから」
あー日本で飲んでいた時、そんな説教みたいなことを言った記憶がある。千年以上人(?)生を続けているくせに、よくもまあそんな覚えていられるものだ。
「記憶力はいいんだよな」
「でも感謝していますよ。君の言葉があったから、俺は女神様のことを思い出すことができた。記憶を失った異世界転生でも、あの人のことを求めることができましたから」
「……思ったよりがっつり好いてるのな」
「一目惚れですからね」
「そういや好みのタイプの話をした時、あの女神様そのままのイメージを語ってたな」
この男は異世界転生を繰り返し続けている。その様々な人生で得るものはいくらでもある。だがこの男はその全てと比べても、あの表情筋が死んでいる女神の傍にいることの方に価値を見出しているのだ。実に愛が重い。惚気話をされたら逃げる一択だな。
「ご近所さんは異世界転移先で素敵な女性に会えましたか」
「んー、綺麗どころはいるし、性格も悪くない。信頼もできるし、支えてやりたいって連中ばかりだ」
「気が多いですね。でもまあハーレム系も悪くはないですし、全員にアプローチしても良いのでは」
「女ばっかりじゃないさ。そこに寝ているエクドイクも最初は敵だった。裏切らせて、役に立つ手駒として迎え入れた。だけど本当に忠実なやつでな、気づいたら色々と世話を焼きたくなるような奴になっていた。そんな感じですーぐ色々と関係が増えていく……本当に恵まれているよ、『俺』は」
「――珍しいですね。自分のことを一人称で呼ぶなんて。それだけ自分を出してでも護ってあげたい人達なんですね」
「ああ、皆良い仲間達だ」
ご近所さんは嬉しそうに飲む。『俺』が恵まれていると思っていることを、こいつは心の底から祝福してくれているのだろう。
「俺も女神様以外にも色々な人と縁を結ぶことができましたよ」
「そりゃ何より。どんな奴なんだ?」
「まずは紅鮭師匠ですかね。ざっくり言えば紅鮭です」
「初球から変化球は止めろって散々言ってんだろ!?」
ああ、懐かしいな。こういうのも。




