だから慎重に。
「酷いですね」
「酷いですな」
ヤステト達から情報を得たことをミクス様達に説明すると、見事に彼を非難の目で見つめた。気持ちは分かる。私も似たような目で見ているし。ただ紫の魔王だけはいつも通りだが。この様子だとこの場に居ないエクドイクやハークドック辺りは素直に感心するかもしれない。
「比較的マシな方法で済ませたんだがな……」
「乙女心を利用するというのはどうかと思いますぞご友人」
「いや、モラリにはそもそも通用してないわけだし、ヤステトの場合は別の感情が原因だしな。ある意味ではセーフだと主張したい」
確かに彼の手腕は見事と言わざるを得ない。拷問などを行わず、肉体的苦痛を与えることなく相手から情報を得るということはそう簡単なことではない。
「その辺の討論は後日として、今は次の行動を決めるべきだろう。君はどうするつもりだ?」
「いきなりセレンデに殴り込みってのは避けたいな。得られた情報は多いが、決定打には欠ける。それにそろそろエウパロ法王辺りがこっちに介入してくる頃合いだ」
「エウパロ法王がか?」
「ああ。セラエスを取り逃がした以上、ユグラ教にとって最優先となるのは奴を捕まえることだ。今頃マリト達と話して新しい監視でも増やす準備を進めている頃だろ」
「一応私が監視として報告はしているのですが……」
「エウパロ法王としてはラクラで十分だと思っているさ。ただ他の大司教や権力者からすればラクラの信用度はまだ薄い。司祭クラスと聖騎士が一人ずつくらい増えるんじゃないかな」
そう考えると彼の周囲にも随分と人が増えることになる。危害を加えるつもりはないだろうし、彼の身を守ってくれる人員が増えることはありがたい。ただ彼の行動が制限されてしまうのではという懸念もある。
「では本格的な行動を行うのはその新たな監視の程度を見極めた上で、ということか?」
「ああ。懐柔しやすい相手なら特に問題はないがな」
「懐柔て……。ところで気にはなっていたのだが、ヤステト達を嵌めた手法だが……」
今回は随分と回りくどい方法を取ったように感じた。これまで見たやり方と幾分か違っているような気がする。
「その辺についてもそろそろ説明しておくか。『理解する』という行為にもいくつかの段階がある。ここは深度と言っておこう。第一段階はお前らでもよく経験するようなものだ。戦闘とかで『この相手ならこう動くだろう』って思ったことはあるだろう?」
「あるな。武器や戦い方、その時の相手の反応からある程度の動きを見切ることはある」
「これは入口のようなものだ。次が第二段階、相手の思想、感情などを読み解いた上で相手の動きを予測する」
「第一段階とはどう違うのだ?」
「大分違うぞ。第一段階は目の前で得た情報だけでの判断だが、第二段階は相手の情報を調べた上で考え方まで読み解くことができるからな。『あいつならこの時、こう動くだろう』と場面においての動きも読める」
なるほど。確かによく知った人物が相手の場合、目の前にいなくてもどう動くか想像できることがある。その精度が異常ということを除けばそういうことなのだろう。
「普段君が相手のことを調べているのは、第二段階までの理解を行うためということだな」
「ああ。ヤステト達に対して行ったのはこの第二段階だ。当人に関する情報を引き出すために色々話を聞いたりする必要があるが、この作業工程が多ければ多いほどその精度は増す。それで第三段階だが――」
彼は一度ゆっくり目を閉じて開く。ああ、彼が異質だと思ってしまうときの眼だ。覗き込まれれば、どこまでも見透かされてしまいそうな深い黒。魔法的な変化があるわけでもない。だが、誰もがそう感じてしまうような不気味さがある。
「当然のことだが、その相手本人になれば思考や行動を読むことは簡単だ。自分の中に相手を再現する。相手を理解するならいっそその相手になってしまえば良い……ってのが第三段階だ」
彼が軽く首を振ると、普段の眼に戻っている。それだけで周囲の緊張感が随分と緩和したのを感じる。
「ま、イリアスとの約束でこの辺は極力使わないようにしているけどな」
「極力だな。本当に」
「約束を破ったことは悪いと思っている。ただまあ、場合が場合だったしな……」
緋の魔王の時、そしてセラエスに捕まっていた時のことを言っているのだろう。私の落ち度もあるわけだし、そこはあまり強く責められない。ただ彼が気にしてくれているのは正直嬉しい。
「私としては全てを理解してもらえるのは嬉しいのだけれどね?その割にはつれない場合が多いけど」
「理解しても応えるかは『俺』の判断だしな。そう嫌味を言ってくれるな『紫』」
「嫌味というわけではないのよ?そういう態度も好きなのだから。ところで私も気になったのだけれど、貴方はここにいる者達をどこまで理解したことがあるのかしら?」
「ぶっちゃけ全員第三段階の深度までやってるぞ?今ここにいないハークドックとマセッタさんは第二段階だけどな」
この世界に現れて、最初に関係を持ったのが私だ。孤独であった彼からすれば私の真意を知ることは必要不可欠だったのだろう。そもそも私との約束があるまでは第三段階までの行為を普通に行っていたわけだしな。ただ隅々まで理解されていると考えるとなかなかに恥ずかしいものがある。
「それは兄様などもということですかな?」
「ああ。ついでに言えばマリトには深度の説明はしてある。好奇心たっぷりの眼で聞いてたぞ」
「でしょうな……」
「ただ魔法とかじゃなく、意識的なものによる思い込みの技術だ。相手が持っている知識を完全に模倣することはできない。戦術とかは知識あっての強さだしな。『俺』の知り得ない知識や技術が存在している場合は当然ズレが発生する。ま、そのズレも感じ取れるからある程度の対応はできるがな」
さらりと言うがとんでもないことを言っている自覚はあるのだろうか。相手しか知り得ない秘密があることを理解できるというのは、それだけで大きな情報だ。どのような状況にあっても、最後まで油断をしないということになる。
もしも、彼がこのやり方を封印していなければ、緋の魔王の単独特攻すら予見できたのではないだろうか。そう考えるとどうも後ろめたくなる。
「……」
「そう気に病むなイリアス。緋の魔王の思考が読めても緋の魔王の強さは読みようがなかったんだ。相手の立場になって理解することにも限界はある。セラエスならラーハイトと交渉するだろうという確信はあっても、証拠がなければ問い詰めることもできないのと一緒だ」
「さらりと人の考えを読むんだな……」
「一度理解した相手なら顔色さえ見れば大体読める。どのように成長したかとかも知れば調整は簡単だぞ?」
「簡単ではないと断言できるぞ」
皆が私の言葉に賛同するように頷く。理解すれば行動を読むことは容易い、そうは言うがその理解することが難しいのだ。私が剣を磨き続けたように、彼も技術を磨き続けていた。だからこそできる芸当なのだから。
「それでこの話をしたのにはもう一つ理由があってな。リティアルの観察力は『俺』と同等と考えるべきだ。観察するだけで相手の能力や才能を見抜けるってことを考えれば上位互換なんだが……まあ理解に関する箇所の話でな」
「それは……本当なのか?」
「ああ、クアマでリティアルと対峙した時に感じていたことだ。『こいつは同類だ』って直感がヒシヒシとあったぞ。少なくともリティアルと接触した連中は第二段階までの理解はされていると考えて良い」
リティアル=ゼントリー、奴とは一合だけ斬り合った。奴は私をいとも容易く動揺させ、隙を作り出して逃走して見せた。心理戦を含めれば相当危険な相手と言うのは分かっているが……そこまでの危険人物ということか。
「尚書様、それって不味くありませんか?尚書様もリティアルさんと接触したわけですし、リティアルさんなら尚書様がモラリさん達と交渉できてしまうことも推測できるということですよね?」
「そうなるな。碧の魔王との交渉に気づかれていた場合、即座にセレンデに乗り込むのは危険だ。罠を張り巡らされている可能性もある。リティアルには年季もあるし、『俺』より理解については上手だろう」
彼と同等以上、そう考えると勝てるのかという疑問が浮かんでくる。しかし彼の表情からはそういった陰りは微塵も感じない。
「どうしようもなくありませんか、それ?」
「理解には限度があるって言っただろ?『俺』とリティアルの互いへの理解は限界に近い。そうなればあとは理解じゃなく、騙し合いの勝負だ。つまりは性格の悪い方が勝つ」
「急に大丈夫に感じてきましたね」
「あとで覚えていろよ。それにこれは正々堂々とした対等な勝負じゃない。手札も違えば、傍にいる者達だって違う。お前達がその気になれば勝率はいくらでも上がる。だから『俺』に力を貸してくれ。そして『俺』に勝たせてほしい」
彼は真剣な眼差しのまま私達を見たあと、深々と頭を下げた。彼が何かを頼むことは珍しいことではない。だがこんな風に懇願した姿は見たことがない。それだけ彼にとってリティアル達が危険な相手なのだろう。
「そんな風に頭を下げなくとも、ご友人の頼みなら何でも力を貸しますぞ!むしろ不気味に感じますな!」
「何か裏があるんじゃないかって思いたくなりますよね?」
「私もついそう考えてしまったわ?」
「お前らな……。一応緋の魔王の時のことを反省した上での行為なんだぞ……」
彼は彼で他の者達に頼らずに一人で事を進めてしまったことを悔いている。だからこそ、私と同じように見限られてしまうのではないかと、そう考えてしまっているのだろう。……なるほど、私も随分と彼のことを理解できるようになっているようだ。
「そう心配しなくてもいいだろう。君は君が思っている以上に人望があるのだ。性根の酷さは周知されているがな」
「イリアスまで言うか……。ま、ありがとうな。それじゃあそんなわけでトリンの攻略に向けて準備を進めるか!」
「だからそういうところだぞ!」
この物事を説明せずに進める性格をどうにか直せないものだろうか。頭の回る陛下ならいざ知らず、毎回首を傾げざるを得ない者達の立場を理解してほしいものだ。
◇
ラーハイトやネクトハールが潜伏しているのはセレンデだという情報は得た。しかしリティアルのことを考えれば安易に仕掛けるのは危険と言わざるを得ない。注意する点の一つとして、セラエス達をセレンデまで逃がした手段だ。ヤステト達から聞いた情報によれば、奴らの仲間の中には間者として優れた才能を持つ落とし子がいるとのこと。
「仮に上手く行っても逃走され、トリンの方に逃げられたら手間だからね。まずは逃げ道を完全に塞ぐためにもトリンの方の拠点を潰す。在処を知られたリティアルが取らざるを得ないのは本丸の護りだ。トリンに君達が仕掛けても全力で対応することはできないというわけだね。さらに言えばトリン側に割いた戦力からセレンデで待ち受けているだろう主力の規模を推測する材料にもなる」
「流石はマリト。説明の手間が省けて助かる」
「説明は大切な手間だよ?そこを疎かにするとラッツェル卿達に怒られるだろうに」
「流石はマリト。よく御存じで」
「怒られたのか」
ターイズに戻り、マリト達と今後の方針を話し合う。ターイズに残したニールリャテスにも進捗を説明しなきゃならないし、まとめてこっちで話せば二度手間にならずに済んだのだが、ついうっかり口が滑ってしまったんですよ。
「うーん。私としてはさっさとネクトハールを捕まえてほしいのですがね?」
「そうは言うがな、ニールリャテス。セレンデで逃がしてトリンで捕まえるよりかは早いさ。半端に逃がすと碧の魔王が不機嫌になるだろ」
「それはそうですねぇ。ついでに私まで潰されちゃいますね!」
「まあネクトハールが関わっていることは確実に分かったんだ。それだけでも進展はあっただろ?」
「ですね!いやー早くあの裏切り者の首を我が王に届けたいです!」
「できれば生かしてって言ってなかったか?」
ネクトハールは現在セレンデで何かの研究を行っている。その詳細を知っているのはごく僅かな者達だけで、ラーハイト、リティアルなら知っているだろうとのこと。アークリアルも近しい位置にいるらしいのだが、頭が悪いとのことで仮に捕まえても情報は得られないだろうとも言っていた。
「セレンデに攻め込むまでの間、モラリとヤステトの身柄はターイズでしっかりと預かるよ」
「助かる。ゼノッタ王の所はちょっと不安でな。ある程度は運動させて体を鈍らせないようにさせてやってくれ」
モラリとヤステトだが、デュヴレオリの腹の中に放り込みつつターイズに護送した。二人を一緒にしたことでものの数分で『俺』のやったことがバレてしまい、物凄い剣幕で睨まれたが結果としては同じなので、怒りが収まれば交渉通りに動いてくれるだろう。どの道二人にはその選択肢しかないようにするわけだしな。
「トリンに向かわせる面子はどうするんだい?」
「そこなんだよな。最初は下調べからしたいところだし、少数で行きたいところではある」
「ならラッツェル卿とウルフェは外すべきだね」
「そうなるか」
この会話に二人が反応を示すも、言葉を出すより早くマリトが手をかざして制止させる。
「友にとって最大の戦力となるのはラッツェル卿、そしてウルフェの二人となる。だがアークリアルと言う男の強さは現状で二人を凌駕していると考えるべきだ。ならば来る時に備えて二人には戦力の強化を行ってもらわねばならない。二人は戦いの技術を学び、強さの域で言えばこの国の誰にも負けないだろう。だが単純な強さだけで決まるほど現実は甘くない」
「それはそうですが……」
「短い期間ではあるが、その間にユグラの剣術に匹敵する相手にも対抗できるまでにならなければならない。感傷に浸る暇はないと思え」
二人が反論する様子はない。スペックで勝る相手ならばこれまで通り無双できるだろうが、また緋の魔王のように規格外の存在が現れては成す術がないことは本人が熟知しているだろう。
「ま、無茶をする気はないからな。必要になれば呼び出すし、それまでは頑張ってくれ」
「……わかりました!」
「いい返事だ。イリアスも大丈夫か?」
「……ああ、今度こそ君を護りきれるだけの力を蓄えてこよう」
「頼むぞ。お前がどれだけ強くなるかでできる無茶が増えるからな」
「無茶はして欲しくないのだがな」
トリンに向かうメンバーとしてエクドイク、ラクラ、ミクス、ハークドック、『蒼』、そして新たにエウパロ法王が用意する監視の二人が決定される。
「それでも八人か。多くないか?」
「ラクラと監視の二人はメジス側の意志を尊重するためだしね。ターイズ側としてはミクスだけなんだよね。できればもう一人つけてあげたいところではあるんだけど」
「あー……そうだな。ならケイールを連れて行ってもいいか?」
「なるほど。確かに下調べをするなら彼の能力は重宝できそうだね。手配しておこう」
『紫』とデュヴレオリもイリアス達と同様に、本丸であるセレンデ攻略に備えて準備を進めてもらうことになった。『金』はいい加減にガーネに帰れということで全員の意見が一致した。
「妾の扱いが酷くないかの?」
「ルドフェインさんから苦情の連絡が何件来てると思ってるんだ」
◇
モラリとヤステトが捕獲されたことはあまり芳しいことではない。我々の情報を全て知っているというわけではないが、リティアルの部下ということで拠点の大半を知っているのだ。だが奪還できるのかと言われれば難しい。個としての能力が高い落とし子達は局地戦には強いが、数が勝敗に大きく関わる大規模な集団戦に適応できているというわけではない。しかしそんな心配をよそに、ネクトハールには然程気にした様子が見られない。
「あの二人はリティアルが訓練している。情報を漏らす心配はないのだろう?」
「まあ、通常の拷問や魔法の類による自白は無理でしょうね。ただ懸念もあります」
「ユグラの星の民か。随分と高く評価しているようだが、その者は今重篤の状態なのだろう?」
「そうですが……今回の一件、随分と手際が良い。ターイズの賢王だけ、というわけではないでしょう」
敵の中にはエクドイクや紫の魔王の配下の情報もあった。あの男の勢力も協力していることは明白だ。だからこそ気掛かりになる。どう表現すべきかを考えているとリティアルが姿を現す。
「ラーハイト、セラエス達の移動は終了した。方針は決まったかね?」
「リティアルさんですか。いえ、ユグラの星の民が動いているかどうかで少しばかり悩ましくてですね」
「なるほど。セラエスの話では意識すらなく、命もそう長くないと言っていた。魔法による治療ができないのであれば介入することはできないと判断できるがね」
「魔法による治療ができない……ふむ。だが可能性がないというわけではないだろう。魔王と手を組んでいるのであれば、何かしらの手段をもって我が――碧の魔王の協力を得るやもしれないからな」
「――ネクトハール、そのことについて少し詳しく聞かせてもらっても良いかな?」
ネクトハールが碧の魔王の力について説明する。『繁栄』の力、やはり魔王というのは異質な存在ばかりだ。しかしその話が本当ならばあの男が回復する可能性があるということだ。リティアルの表情もいつもの温和なものから、彼本来の顔に戻っている。私はこのリティアルが苦手だ。まるでユグラの星の民の傍にいるような気持になってしまう。
「秘密にするつもりはなかったが、碧の魔王と関わるつもりはなかったのでな」
「今の今までこの情報を聞かなかったのは反省すべき点だろうね。ラーハイトから聞いた紫の魔王の情報からしても、碧の魔王を頼る可能性は高い。交渉材料ならば彼らには白い亜人の落とし子がいる」
「……なるほど。あの碧の魔王の琴線に触れるやもしれないな」
「もしも彼らが迅速に碧の魔王の協力を得られていた場合、ユグラの星の民は既に復活していると考えて良い。そうなればモラリとヤステトから情報が漏れるのは時間の問題だろう」
リティアルは落とし子として優れた観察能力がある。相手を一目見ればその人物がどのような才能を持つのか、それがどれほどのものなのかを瞬時に見極めることができる。そのリティアルをして、警戒すべきと判断せざるを得ないユグラの星の民が復活するというのは凶報という他にない。
「リティアル、お前が訓練した者達でも無理だと思うのか?」
「あの男は私と同格だ。そして私ならばモラリ達から情報を引き出すことは可能だとも。若くしてあれほど人を理解することに長けているというのは脅威という他にないがね」
「ならば連中はここ、セレンデに現れると?」
「……半々と言ったところだろう。ユグラの星の民も私のことを同じように評価しているはずだからね。もしも徹底して安全に立ち回るつもりならば、先にトリンにある拠点に仕掛けてくる可能性もある」
なるほど、退路を断つつもりか。確かにあの男の考えそうなことだ。だがそう思わせておいて真っ先にこちらに仕掛けてこないとも言えない。
「守りを割くか?」
「主戦力はセレンデに回さざるを得ないだろうね。あの男がトリンに攻め込むにしても、他の国はセレンデを狙う可能性の方が高い」
「セラエスを取り戻そうとするユグラ教か。ならばアークリアルはこちら側に残しておくか」
「それが良いだろうね。トリンには私が向かおう。私が向かえば現状の戦力でもそれなりには戦えるだろうからね」
「ですがリティアルさん。あの男が現れるのであれば、トリンの戦力的に不利になるのは貴方の方では?」
「それは何とも言えないね。ただあの男も全ての戦力をつぎ込む真似はしないはずだ。そうすればこちらが主力を投じてくる可能性が出てくるからね。セレンデに攻め込む前にこちらの手の内を調べようとしているのに、トリンで総決戦になるのは向こうも望まないはずだ」
リティアルは自分の言葉に少しの疑いも持っていない。ユグラの星の民ならば必ずこう動くと確信した上で発言をしている。やはりこの男も油断ならない人物であることには違いない。
「勝算は?」
「あの男も私のことは十分に理解しているだろう。そうなれば後は騙し合いの勝負、性格の悪い方が勝ることになるだろうね」
「……どっちもどっちだと思いますがね」
「トリンにはソライドもいる。上手く立ち回ってみせるさ」
ああ、そういえばトリンにはソライドがいたな。アークリアルと同じようにリティアルによって発見された落とし子。ネクトハールに気に入られるも、その目的に賛同することなくトリンの拠点で堕落した日々を満喫している怠惰な男が。
「ああいうタイプとよく付き合えますね。私はごめんです」
「ああ見えてソライドは一緒にいて退屈しないからね。常に一緒は私もごめんだが」
直接的な戦闘力はないが、ソライドの恐ろしさは落とし子の中でも群を抜いている。あの能天気なアークリアルでさえ距離を取ろうとするほどだ。そういう意味では善戦するかもしれないが……血を流すよりも凄惨な戦いになりそうだ。




