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異世界でも無難に生きたい症候群【完結】  作者: 安泰
選択編

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だから備える。

 ニールリャテスに案内され、城の中の一室へと向かう。それにしてもこの城、あちこちに蔦が這っているな。碧の魔王は草属性的な感じなのだろうか。


「っ!ししょーっ!」


 部屋の中には見知った面子、それとあれは確かレアノー隊新人騎士のケイールだったか。なるほど、マリトが選んだ人選だろうな。そんなことを考えていると我先にとウルフェが胸元に飛び込んでくる。ウルフェも随分と力加減ができるようになったものだ。


「心配を掛けたな。まあ色々と……悪かった」


 ウルフェだけではない、これでもかと安堵している連中の視線が痛い。なんやかんやでやらかしたのが『俺』なのだから、罪悪感はある。さらに言えばここにいる連中は、碧の魔王との交渉の情報が古いままだ。まずはそこから先に話さなければならないだろう。とりあえずイリアスの方へと視線を向ける。


「君が無事だったことは喜ばしいことだが……」

「ウルフェの件なら心配いらない。碧の魔王とは別の交渉を取り付けた」

「ほ、本当か!?」

「ええ、本当ですよ。話すなりいきなり自害しようとするわ、我が王に交渉し出すわで大変でしたよ」

「じが……」

「交渉の内容だが、ターイズを襲った魔族の捕縛だ。生死問わずでいいのか?」


 そう言えば首を取ってくるとは言ったが、けじめを自分達でつけるかどうかは確認していなかったな。


「可能なら生け捕りで構いませんけどね。アレはアレでそれなりに強いので殺すつもりで構いません。無力化した後に生きていれば身柄が欲しいってところでしょうか」

「だ、そうだ。そしてその見張り役としてこのニールリャテスが暫くこちらの監視としてつくことになる」

「ふむ、期限などはどれほどじゃ?」

「設けておりませんね。我が王はその辺の細かい取り決めをすることを嫌いますので。私がきちんとしているなと思っている間が期限と言ったところですね」

「曖昧じゃな。お主の匙加減一つというわけか」

「不条理な真似をするつもりはありませんとも。やる気を見せてもらえればね?ただし同時並行としてそちらの亜人の訓練に多少の口だしは出させてもらいます」


 ダメなようならウルフェを回収すればいいだけのこと、そうニールリャテスは言っている。ニールリャテス個人をどうにかすることは容易いだろうが、その場合碧の魔王が漏れなく人間の敵となる。それがどれほど危険なのかは言うまでもない。細かい取り決めを作らないのも、自身の圧倒的な力による牽制があるからこそだ。『裏切りたければ好きにしろ、覚悟があればの話だが』って感じだな。


「ターイズを襲った魔族……か。だが居場所はわかるのか?」

「落とし子のことをレイティスに教えたのがその魔族である可能性が非常に高い。レイティスをどうにかするついでに辿り着けるだろうさ」

「そういうことか」

「いい加減ラーハイトとの関係も清算しないとな。ま、早いところターイズに帰るか。マリトの奴が相当心配してるだろうし」


 碧の魔王の城を後にし、ダルアゲスティアにのってターイズ魔界を飛行する。しっかし『蒼』の奴、こんなデカい魔物を拵えやがって。いやまあ、魔王の力を誇示することは大切だ。人間との関係を対等にするためには、敵に回すことを躊躇させるだけの力は必要不可欠となる。だが流石にこれは威圧が過ぎる気がしないでもない。


「しっかし、ターイズ魔界は凄く異色だな。人間の領土よりも自然に溢れてるってのは驚いた」

「同胞。今は何事もないが、ここに来る道中は散々な目に遭ったぞ」

「そうよ、どこもかしこもドラゴンだらけで大変だったのよ!?」

「まじか。ドラゴン見たかったな」

「お望みなら呼びましょうか?」

「やめて!?」


 ニールリャテスは当然のように溶け込んでいる。まあ何人かは警戒心が抜けていないわけだが。とりあえず『俺』がラーハイトに捕まってから今までの経緯を確認する。


「デュヴレオリ、お前には助けられたな。ありがとう」

「私は主様の命を守っただけに過ぎん」

「あら?その割には私の邪魔をしたわよね?」

「……」

「あまりねちっこくしてやるな。『俺』に意識があればマリト達と同じように誰にも会わないようにしていた。身内の凄惨な姿なんてそうそう見るもんじゃないさ」

「そうじゃな。勘違いした者ですら一人で魔王を倒しに暴走したくらいじゃ」

「いい手本になれたようですな」


 視線が痛い。くそう、わりとどいつもこいつも根に持ってやがるな。今後の穴埋めが大変そうだ。


「あまり無理をしてくれるな同胞。今の俺にはまだお前が必要なんだ」

「まったくですよ尚書様、私との約束とか放置して死にに行くような真似をして!」

「そうじゃぞ!妾をねぎらう話を放置しよってからに!」


 ラクラと『金』も穏やかな方ではあるが、それなりに怒っているようだ。素直に心配してくれているエクドイクの方が胸に刺さるが。


「その辺はおいおいとな。ところでケイール、マリトがお前を寄越したのは他に受けた命令があるんだろ?今のうちに済ませておかなくていいのか?」


 この人数に責められては身が持たない。そんなわけでケイールに話題を振ってお茶を濁す。


「わ、私のことをご存じなのですね……」

「レアノー卿から聞いている。剣の腕はまだまだ未熟でも一芸に秀でた人物だってな」

「同胞は知っているのか?」

「ああ。ケイールさえ良ければ皆に見せてやってくれ」

「は、はい!でもちょっと恥ずかしいというか……」


 そう言いながらケイールは背負っていた荷物から折り畳み式の画板を取り出し、それを広げて羊皮紙を張り付ける。そして手にした炭のペンで絵を描き始めた。その絵にエクドイクを始めとした周囲の者が目を向けることになる。


「これは……ドラゴンの絵か。細部までしっかりと描けているのだな」

「余暇には絵を描くのが趣味でして……」

「絵の上手さは日々の精進の賜物だが、ケイールの強みはその記憶力の高さだ。ターイズ魔界の地形や魔物の情報をしっかりと記録するためにマリトに選ばれたんだろ」


 戦力としてならエクドイクやイリアスで十分足りている。気の強い騎士を連れて行けば交渉自体が拗れる可能性も高い。ついでとはいえきちんと王らしい行動もとっているよな、マリト。


「同胞も絵が上手かったが、ここまでくると職人と変わらないな」

「『俺』の絵の技術は特徴を捉えた上で、相手に伝えやすいようにするためのものだからな。精密な描画技術はないぞ」


 それにしても格好良いな、ドラゴン。できるなら生で見たかったが、ここでニールリャテスに呼ばせると他の連中の視線が痛いどころじゃない。ケイールは観測したターイズ魔界の魔物の絵を数枚描いた後、大まかなターイズ魔界の地図を描きだす。


「見た感じ、円形に近いのか」

「そうですねぇ。我が王の居城を中心に広まっていますから。でも普通それを私に見せます?」


 ニールリャテスはその様子を感嘆の声を漏らしながら眺めている。


「交渉に応じてくれたんだ。ある程度の手札は見せるさ」

「そういうものですかね?私が言うのもなんですが、私が敵対行為と見なして交渉を打ち切るとか思わないのですか?」

「それはない。それくらいは理解している」


 ニールリャテスの性格は把握している。彼女は狂信者と言える人物だ。本人の気まぐれが混ざった所で、碧の魔王の損になる行動をとることは決してないだろう。考えるべきは碧の魔王視点での判断基準だ。碧の魔王はこの程度の情報漏洩は痛くも痒くもないだろう。


「……不気味な人ですねぇ」

「誉め言葉として受け取っておく。しかし碧の魔王の姿には驚かされたな」

「そういえば何人かは妙なことを言っていましたね。どなたかと似ていたのですか?」

「ああ、俺も流石に驚いたぞ同胞。まさかあれほどマリトと瓜二つとはな。どういうことなんだ?」

「碧の魔王の年齢を考えれば、ターイズ王家の先祖なんだろうよ」

「なんと……いや、でも確かにそうなら兄様と似ているのも頷けますが……」


 ターイズ王家は過去に湯倉成也によってターイズの領土を任された王族だ。その判断材料が優秀な碧の魔王の血族、ありえる話ではある。


「なるほど。我が王の血筋の方ですか。どうりで私の嫌いな女と似ていると思いましたよ」


 そう言ってニールリャテスはミクスに冷たい視線を向ける。ミクスと似ている女性も過去にいたということなのだろうが、その辺の詮索は地雷になりそうだからやめておくとしよう。


「わ、私ですかな?」

「いやー運が良いですね。もしも貴方が一人でいたら躊躇なく殺していましたよ」

「お手柔らかにお願いしますぞ……」


 ニールリャテスの言葉に嘘は感じられない。何をやったんだミクスのそっくりさんは。何となく予想はつくが。


「それでニールリャテス。可能な範囲で構わないが、その魔族についての情報を教えてもらえるか?」

「それもそうですね。彼の名はネクトハール。我が王が魔王となる前から仕えていた者の一人です」


 碧の魔王は魔王となった時、自らに仕えていた者達を魔族とした。ネクトハールは碧の魔王の右腕であり、落とし子の研究にも携わっていた者でもある。ネクトハールは碧の魔王に命じられて、人間世界に生まれた落とし子の捜索を行っていた。ある時一人の落とし子を見つけ出し、碧の魔王の元へと連れてきた。碧の魔王はその落とし子を大層気に入り、自らの魔族になるように命じたがその落とし子はその申し出を拒否してターイズ領土へと逃亡した。


「(暗部君のことだな)」


 碧の魔王の命令により、ネクトハールはその後を追った。しかし、その後何も言わずに消息を絶った。魔王は魔族の状態を知ることが可能、ネクトハールの生存は確認しているが呼びかけには一切応じず、それどころかその繋がりを意図的に絶ったらしい。


「そういったことは可能なのか?」

「我が王は研究熱心な方で、魔族に関する知識なども徹底して調べておられました。ネクトハールはそんな我が王から様々な魔法の知恵を授かっていましたからね。ほぼ間違いなくネクトハール自身が我が王との繋がりを断ち切ったとみて良いでしょう」

「動機は不明だが、その後はラーハイトを始めとする人間と手を組み、落とし子を集めているってわけだな」

「野心を持つ者でしたからね。ろくでもないことを考えているのは確かかと」


 ある程度の人物像は掴めた。細かい目的に関してはこれから把握していくことにしよう。それにしても今までは魔王を相手にしてきたが、今度は魔族か。順番が違う気がしないでもないが、油断はできない。ネクトハールは人間と手を組み、この社会に上手く溶け込んでいる。知略の高さではこれまで以上に厄介な相手と見るべきだろう。それにラーハイトやリティアルの存在もある。それなりの数の落とし子も敵に回るだろう。





















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