そして任せる。
「ターイズの騎士が思った以上に殿の役目を果たしておる。一部の箇所では指輪を使ったらしいが、ほぼ問題なく無事撤退できたようじゃな」
「途中で追うのを止めた敵の様子も気にはなるがな」
突如全ての戦場で魔物が強くなったとの報告があった。ゴファゴヴェールズ卿を始めとした一部の騎士の情報によると、緋の魔王が『闘争』の力を使ったことは間違いない。
紫の魔王や蒼の魔王にも個々の魔物に対し、魔力を与えることで強化する事例は存在していた。だが全ての魔物のランクが一同にして一段階上がるというのは実に厄介な力だ。目の前で突然敵兵が倍以上に増えるようなもの、やはり反則的な力であった。
『マリト、今大丈夫か?』
友からの連絡がくる。情報もそこそこ集まっていたところだ、一度情報の共有を済ませるとしよう。
「ああ、大丈夫だよ。そっちはどうだい?」
『カラ爺達の避難を確認したと同時に撤退した。戦闘は行っていないから無事だ』
「ラグドー隊の面々なら心配する必要もないだろうに」
『そっちの心配はない。ギリギリまで観察したかったからな。先にそっちが得ている情報が欲しい』
現段階で分かっているのは『闘争』の力は超広範囲に渡る影響力、全ての魔物が強くなるといったものだ。厄介なのはただ魔力が上昇するといった強化だけではなく、恐れず、死ににくくなるといった練度の変化もあるということ。
騎士達の威圧にもまるで動じない。致命傷を与える攻撃でも既のところで耐えきれるよう立ち回ってみせる。死を恐れないのはアンデッドも同じだが、その勢いは遥かに上だ。
「遠距離攻撃と陣形による迎撃だけじゃ処理しきれなくなっている。乱戦に持ち込まれればいよいよもって不利になるね。当面は下がりつつ、有利な状況を作り続ける必要がある」
『亜人達の様子はどうだ?』
「亜人達?」
亜人を含むのはガーネとメジスの軍だ。ターイズの騎士には亜人はいない。金の魔王に視線を送り、確認を行わせる。
「ちょっと待っておれ、様子を確認させよう」
『そうしてくれ。恐らく何らかの影響が出ているはずだ』
「……ウルフェちゃんに何かあったのかい?」
友がその着目点に気づく理由はそれしかない。彼の傍にいる亜人はウルフェちゃんだけだ。口調からしてそこまで大事でないのはわかるが、どうもハラハラする。
『緋の魔王が力を使った瞬間、ウルフェに僅かながらの変化が現れた。そこまで極端な変化じゃないが、どうもハイ――高揚状態になっている』
「緋の魔王の力の影響を受けているってことかい?」
『一見するだけじゃ分からないが、確かに影響を受けている。魔力量が多く、魔法の影響を受けにくいウルフェだからこそ軽度で済んでいる可能性がある』
緋の魔王の力はガーネだけでなくメジスの方へも届いている。つまりはあの瞬間、全ての亜人にも同様の影響があったと。
「今確認が取れた。御主の言う通り、亜人の兵の様子がおかしくなっておる。感情的になったり、怯えておったりと変化は異なるが情緒不安定な状態となっておるの」
『やっぱりか。緋の魔王の力は獣の本能に訴えかけるとかそう言った力だろうな。奴の魔力から生まれた魔物には影響力が強く純粋な強化だが、こっちの兵には精神異常を与える効果があると考えて良い』
敵の士気を下げることにも一枚噛んでいるということか。本当に厄介だ。いや、嫌悪する暇があれば直ぐに対策を考える必要がある。
「エウパロ法皇に情報の共有を。部隊の編制を調整する必要もあるだろう。……ところで金の魔王は平気なのか?」
「妾にそれっぽい変化はないの。確かに『緋』の放った魔力の波は届いてきたが、元気そうじゃのと言った感想しか湧かんかったの。『蒼』も大丈夫じゃろうて」
『エクドイク達には確認済みだ。ちなみに悪魔やアンデッド系の魔物には特に反応は見られなかったそうだ』
「それで獣の本能に訴えかけるって考えになったわけか。合点がいった」
『こっちはウルフェの様子を少し観察する。そっちも迂闊に亜人の兵を動かさないようにしてくれ』
「そうは言うがの。兵が割合で削られるのはなかなかに辛いところじゃぞ」
『そこは大丈夫だ。敵は最初に戦闘を行った場所から動いていないだろ?』
「ああ、そうだね。そこは気になっていた」
最初は撤退するこちらの兵を追いかけようとしていたらしいが、一定以上離れると追撃を止め、戦場となった場所に留まり始めた。部隊の再編制を優先した可能性もあるが、その後の動きが見られないのは明らかに理由があると考えるべきだ。
『ただ魔物を強化できるだけなら最初から使っておけば良い。ユニーククラスの魔物の連中は意図的に影響を受けずに済ませられるし、簡易的な指示は出せるようだしな。そうしないのは開戦時刻を調整した理由と一緒だろう』
「つまりこの力は相手にとっても長時間使えるものじゃないと」
『そう言うことだ。上級の魔物とかなら比較的平気かもしれないけどな。下級の魔物には魔王の力は負担が大きいんだろう』
当然ながら魔物の割合は下級が最も多い。その下級の魔物が潰れてしまえば緋の魔王の軍勢は大きく勢いを失うことになりかねない。これは欠点とも言える面だろう。
「となると、今後の展開は……じわりじわりと攻め上がるってことかな」
『こちらが撤退をすれば、無理に追わずに兵を休ませてから進軍するだろうな』
「食料や水がほとんど必要のない魔物ならではの兵の使い方だね」
戦争において長期戦を行うことは多大な費用が掛かる。これが人間の兵でそんな運用をすれば肉体的、精神的に疲労が蓄積し、回復しきることはできないだろう。だが魔物は魔力を元に成長し、生き永らえる生物だ。魔界に比べ大気中の魔力は薄いとは言え、活動に支障が出ることはないだろう。
「何か対策は思いついたかの?」
『一応はな。ただ簡単な案過ぎるから、対策の一つや二つあるだろうな』
「仕掛けるタイミングをずらすんだね?」
『ああ。緋の魔王の力は超広範囲に広がる。だから一斉に効果を発動できる。これだけだと厄介だが、逆に戦闘開始の時刻がまばらになれば一斉に強化するメリットがデメリットに変わる』
一部の戦場で戦闘が始まったからと言って、即座に『闘争』の力を使えば非戦闘中の部隊まで時間制限のある強化が施されてしまう。つまりはその状態を意図的に引き起こしてしまえば相手の兵は休む時間をほとんど得られなくなる……簡単ではあるが確かに効果的に感じる。緋の魔王もこの欠点くらいは理解しているのだろう。
「魔力の波を指定した方向に飛ばして、部隊ごとに強化してくるくらいはしてきそうだね」
『できるにしても、今回のように一斉に仕掛けたってことは手間なんだろうよ。全ての戦場の情報を把握しなきゃならないからな』
「こっちと違って通信用の水晶の使用は確認されていないようだしね」
『ああ、それな――そうだ、一つ妙案を思いついた』
友の声色が少しだけ変わったのを感じた。これは悪い顔をしている時の声だな。友の隣にいるラッツェル卿達の表情が目に浮かぶ。
「お、なんだい?」
『それについては直接話す。ラーハイトが緋の魔王と連絡を取っていたのもこの通信用の水晶だ。この通信を傍受されている可能性があるからな』
そうだった。この通信用の水晶の存在を緋の魔王は知っている。だからこそその可能性は常に意識しておく必要があった。便利過ぎる物は時として危機感を薄れさせてしまう。細心の注意を忘れないようにしなければ。
「分かった。どれくらいでこっちに戻れる?」
『先に仕込みを済ませたい。あと数日はどうにか頑張ってくれ』
「了解。君のいない寂しさに負けないように頑張るとするよ」
『なかなかユニークなジョークだな』
「割と冗談じゃないんだけどね」
友がいないことの寂しさがあるのは本当だ。だがそれ以上に彼が戦場にいるということの不安が俺にとって、かなりの心労となっている。事が始まる前、金の魔王の仮想世界を経験した際に友の体を経験させてもらった。その時に彼の脆弱さを恐ろしいほどまでに再認識させられたのが原因だろう。
弱いことは知っていた。だが知っていただけで体感することの理解には程遠いのだと思い知らされた。あんな弱さで戦場を出歩くなんて、正気の沙汰とは思えない。彼の異常性を知れたのは嬉しいが、同時に負の面も感じるところがあった。
「妾はとっくに寂しさで心が折れそうじゃ。むしろそっちに――」
『尻尾に蚤を放り込むぞ』
「……な、なかなか偏執的な趣味じゃな。しかし御主とて妾がいなくて寂しいじゃろう?妾の尻尾の愛くるしさは罪と言っても過言ではないからの」
『代用品あるしな』
「そうじゃった!おのれ妾!」
ああ、あれか。確かに金の魔王には苛立ちしか湧かないが、あれにはなかなかの魅力を感じる。そもそも獣の尻尾が恋しければ、彼なら自由に触れるウルフェちゃんがいるだろうに。
『それじゃあ移動を再開するから切るぞ。何か他に言っておきたいこととかはあるか?』
「ええと――」
「妾に労いの言葉をじゃな」
『冗談を抜きにして緋の魔王の力にも負けない力を、ずっと仮想世界を運用しているんだ。素直に凄いと尊敬しているさ』
「……そうじゃろう、そうじゃろう!んっふっふっ!しかしの、『緋』と同格と見るでないぞ!まだまだ妾の本気はこれからじゃからの!」
安い魔王だ。だが金の魔王もたまには役に立つ。つい友に対し、弱気な発言をしそうになってしまっていた。友のことだ、俺が迂闊な言葉を吐けば彼に対し感じている不安などもきっと理解してしまえるのだろう。
俺は友にとって頼れる王であり、親友でありたい。それは紛れもない俺の本心だ。だからこそ今彼に伝える言葉は……。
「俺からは何もない。こっちは任せてくれ。君は君らしく自由に動いてくれ」
『――ああ。頼りにしているぞ、マリト』
通信が切れた。だが今の友の発言……見透かされてしまった気がしないでもない。だがそうだとして、少なくとも俺の意志は伝わったということだろう。
これからやることは幾らでもある。時間差による奇襲の指示、撤退しながら敵を迎え撃つための陣地の確保や罠の準備。敵軍がどれだけの休息を必要とするかは分からない。下手をすれば休息を取らずに強行してくる可能性もある。完璧にするだけではダメだ。敵の行動を制御するような綱渡りのような采配を考える必要がある。
「金の魔王、各方面への連絡は任せた。暫く集中して策を練る」
「妾を雑用扱いするでない。って聞いておるのか?おーい?無視かの?泣くぞ?妾おとなげなく泣く――」
金の魔王が何か言っているが既に耳に入っていない。地図の上に再現された敵の配置、味方の配置に集中する。事前に仮想世界を利用し、頭に入れていた各土地の情報を記憶から引き出す。各部隊の編制、亜人の比率、再編制の予想図、今後の敵の展開予想、それぞれを組み込み打つべき手を考案し、脳内で検証する。友が行うであろう奇策は希望的観測が混ざるので考慮しない。緋の魔王が友の行動に気づく余裕を与えないように、奴の視線をこちらに向かせる采配を取らなくてはならない。それがはたして可能だろうか?否、可能にしなければならないのだ。
◇
マリトとの通信が終わり、安全な地帯に隠しておいたターイズ製の馬車に乗って移動を再開する。
「しかしマリトの奴、結構プレッシャーを感じているな」
「兄様がですか!?」
「陛下が!?」
「お前らマリトを感情がなく、非の打ち所がない化物だとか思っていないだろうな?」
「……か、感情はあるに決まっているだろう!」
非の打ち所がない化物とは思っているわけだ。確かにあいつの才能は凄い。『落とし子』の尖った才能とは違い満遍なく優れている。弱点らしい弱点も普通には見えない。だがマリトは不完全な人間であることには違いないのだ。
「長所ってのは見方を変えれば短所にもなるんだ。マリトが一人で四国の兵をしっかりと管理できるってのも、裏を返せばマリトが倒れれば一気に瓦解する危険性があるってことだ」
「それは短所と言えるのでしょうか?」
「言える。マリトが成果を上げ、皆がマリトを妄信し、あいつに頼り切ってしまうことになれば自らの責務が増加する。それは皆の能力を下げることに直結する。マリトが過労で倒れたとか広まってみろ、戦場の士気がどれだけ下がると思う?」
ターイズ出身の二人は分かりやすいほどに青ざめた顔をしている。要するにそれだけマリトの存在はターイズにとって大きい。だがそれ故に圧し掛かる重圧も並大抵のものではないのだ。それを四国分、いや、外で見守っているトリンやセレンデも含めれば大国全ての期待を背負っていることになる。アラサー青年に背負わせるには過ぎる重圧だ。
「兄様は……大丈夫なのでしょうか?」
「皆がマリトを信頼すれば、あいつは立場上それに応えざるを得ない。一国を担うだけでも息抜きの友達を欲しがるほどだ。今の心境は相当だろうよ」
「ご、ご友人!是非とも兄様のところに――」
「今頃全体の采配を練り直している最中だ。その集中を途切れさせるわけにはいかない。今はできることをするだけだ」
最後にマリトは心配するなとこちらに檄を飛ばした。『金』が割り込む前はそんな素振りはなかった。思い直した結果の発言なのだろう、わざわざその意志を解いてやる必要はない。
それよりも今注視すべきなのはウルフェだ。馬車の隅に座り、不満そうな顔をしている。本人としては問題ないと把握しているのに、大事を取られているのだからそうなるのも理解できる。
「ウルフェちゃん、不機嫌そうですね」
「……ウルフェは大丈夫です。問題ありません」
「問題あるんだよ。戦闘を行うことなく撤退したことに不満を持っている時点で、いつも以上に戦闘行為に過敏になっている」
「それは……ししょーのために頑張れるって思っていたからで……」
ウルフェは強くなった。自身もそれを理解し、実力に関してはそれなりの自負も持つようになっただろう。だが緋の魔王の力の影響を受けたのは間違いないのだ。
魔力の波が伝播してきた際、イリアスとミクスもそれを感じ取っていた。二人の反応は異様な魔力を感じたことによる警戒、身構えるといったものだった。だがウルフェの反応は違っていた。一瞬呆けたように見え、その後戦場で暴れ出す魔物達への視線が強くなっていた。
敵が強くなったことで警戒するのはまだ良い。守る対象が対象だけに本腰を入れ直すという奴だ。だが目を輝かせるのはウルフェらしくないのだ。
「ウルフェ、ウルフェ自身は大丈夫だと思っていることは分かっている。だが『俺』はウルフェのことをずっと見てきた。その『俺』がおかしいと感じ取れたんだ。狡い言い方をするけどな、ウルフェは自分の判断と師匠の判断、どっちが優れていると思っている?」
「それは……ごめんなさい。ししょー……」
項垂れるウルフェの頭を撫でる。こんな状況でも『俺』の判断の方が正しいのだと即決できるのは『俺』に全幅の信頼を置いているからだ。それを理解した上での諭し方は正直褒められたものではない。だが中途半端に不満を残しておくよりかは納得させることの方が大事だと判断した。
「謝る必要はない。ウルフェにとっちゃ問題のない範囲にしか感じられないんだ。『俺』が慎重過ぎるだけかもしれないんだからな。悪いな、半人前扱いするような真似をして」
「ううん。ししょーに比べたら、ウルフェはふつつかものです!」
「そこは未熟者って言おうな。多分ラクラのせいだな。もしくはミクス」
ミクスがわざとらしく目を逸らしたので多分半分はギルティ。ラクラと一緒に吹き込んだに違いない。イリアスを見ろ、我関せずと言った顔だぞ。
「それはそうと、どこに向かうつもりだ?」
「『紫』と合流する。ちょっと頼みたいことがいくつかあるからな」
「さっきの妙案とやらか」
この戦いの肝は、マリトがどれだけ『闘争』の力を受けた状態の魔物達との戦闘を避けるかによる。しかし亜人の兵達の不調による士気の低下を始めとした不安要素を抱えての采配にも限界はあるだろう。緋の魔王もこの展開を視野に入れているのだろう。その上で選んだ手段なのだから戦略的に考えても十分に勝てるレベルにあるに違いない。他にも隠し玉があると考えておいた方が良い。
仮にマリトが超絶技巧の域の采配を見せたとしても、その被害は多大なものとなるに違いない。それを防ぐためには外部からの一撃が不可欠となる。
「仕込みと言えば、マリトに伝えておく指示があるんだよな」
「ならさっきの通信で言えば良かったのではないのか?」
「通信が傍受されるリスクがあるからな。臭わせる会話はしないようにする必要がある」
羊皮紙を取り出し、マリトへの手紙を書く。直接会って話せばそれで済む話ではあるのだが、それでは時間が足りなくなる。現代社会におけるメール通信のようなものだ。この世界にハッカー的な奴がいるのかどうかは知らないが。
書き終えると興味深そうにイリアスが顔を近づけて覗き込んでくる。人の悪巧みに対する好奇心が随分と高くなってるよな、こいつも。
「ああ、このことか。そう言えば通信で伝えていなかったな」
「ターイズの騎士なら遅かれ早かれ気づくだろうし、下手をすると明日にでも勝手に対処しちゃう可能性があるからな。……特にカラ爺にも同じ手紙を送っておくか」
手紙を丸め、紐で縛る。そしてそれを馬車に置かれている樽へと持っていく。
「おっ、ご友人。ついにその子を使うんですな!」
「せっかく『金』から預かったんだしな。有効活用はするさ」
樽の蓋を開けると同時に中にいたそれは勢い良く飛び出し、こちらの懐へと突っ込んでくる。受け止め、適当に撫でてやる。それは両手の上にすっぽりと収まる、小さな金色の狐。これが『金』から預かったもの、『金』の生み出した魔物である。金狐族である『金』らしい魔物だ。
「ケーン!」
「よしよし、狭い樽の中で良く待機してくれていたな。偉いぞ」
「ケーン!ケンケーン!」
言葉は理解できるが人語は話さない。動物の可愛さの秘訣の何たるかをよく理解した魔物だ。とりあえず懐いてくれるのは良いが、言うことを聞かせるには満足するまで撫でてやる必要があるあたり、生みの親の性格を引き継いでいるよな。
外見こそ可愛らしい狐だが、侮るなかれ。戦闘能力こそ『俺』と互角でこの世界で生き残れるのか心配になるレベルだが、とても厄介な力を持っている。とりあえず満足したようなので金狐の首に手紙を括り付ける。
「よし、それを『金』のところに運んでくれ」
「ケーン!」
金狐は一声鳴いた後、ふっと姿が消えた。これが金狐の能力、ステルス能力ではない。今この瞬間、金狐はこの世界にいないのだ。そう、金狐達は『金』の創り出した仮想世界へと直接移動する力を持っている。そして自由に現実世界へと姿を現すことができるのだ。
『金』が仮想世界を閉じた際には強制的に現実世界に戻されるといった欠点こそあるが、その隠密性は並大抵のレベルではない。いない生物を捕らえることなどできないのだ。
敵意を感じるだけで即座に逃げ出す臆病さも相まって、捕らえることはかなり難しい。試しにデュヴレオリに捕獲させようとしたが当然のように逃げられたほどだ。
現状発覚している欠点としては、懐く相手の間でしか行き来したがらず、使える相手が限られているということ。生みの親である『金』、そして『俺』。あとはエクドイクとハークドック、そしてゼノッタ王にのみ懐いている。男縛りでもあるのかと勘繰ったが、最近では徐々にミクスやウルフェにも撫でさせる貫禄を見せているのでその限りではなさそうだ。
「良く分からない魔物だな」
「割と分かりやすいとは思うけどな」
「そうか?しかし思いついた妙案とやらの説明は書かないのだな」
「それは念のためだ。マリトならあの情報だけでこっちが何をしようとしているのか薄々は察してくれるだろうしな」
ちなみにイリアスにはまったく懐いていない。撫でようとすると即逃げる。一定以上の強者には過敏になっているのか、当人のゴリラっぷりを感じ取っているのか。そこは金狐のみぞ知る。ウルフェに懐き始めている時点でお察しだが。
金の魔王の魔物、金狐の能力を適当に補完。
・戦闘能力は主人公並。
・金の魔王が仮想世界を創っている間のみ、現実世界と仮想世界を自由に行き来する。
・危険を感じると即座に仮想世界に逃げる。さらに仮想世界内では……。
・懐いた相手の言うことは聞く。ただやり取りに使ったりするためには懐いている間同士でないといけない。
・結構我儘で満足するまで相手をしないと懐いていても言うことを聞かない。
・懐く条件は主に二つ。