とりあえずピンチです。
窓から差し込む朝日の眩さにイリアスは目を覚ます。
朝だ、起きねばならない。
体を起こす、見慣れた自室の光景だ。
だがいつもと違いやや体調がよろしくない。
その理由を考え、昨日のでき事を思い出す。
いつも通りに起床、だが彼が帰ってこないことに気づきどうするかを考えた。
ひょっとすれば帰ってくるかもしれないと待ち続け、探しに出かけるか悩み、すれ違いを恐れて待ち続けた。
結局帰ってきたのは日が暮れる直前であった。
その後彼に連れられ、『犬の骨』へと向かった。
そこで出会った給仕の者とのでき事、店の賑わい、美味しい食事に酒の味。
そして彼との会話の内容を思い出す。
――楽しかった。
ラグドー隊では皆親切にしてくれていたが、非番での関わりは無かった。
誘われたこともあったが自ら鍛錬を口実に距離を取っていたのだ。
自分は他の者達から疎まれている。
仕事以外でも親しくすれば彼らに迷惑が掛かるのではないかと恐れていた。
しかし全てがそういうわけでは無かった。
私のことを疎む国民もきっといるのだろう。
だが自分のことを認め、尊敬してくれる民が確かにいたのだ。
そして彼が言った言葉をもう一度頭の中で反芻する。
口元が緩んでしまった。
「それで……」
そこから先の記憶があやふやだ。歩いて帰った記憶がない。
酒を飲める年になった後もわざわざ飲むような事は無かった。久方の酒に高まった気分……。
最後に途切れる意識……。
ああ、何てことだ。
「私は、酔い潰れてしまったのか」
となれば彼は私を運んで……。
情けなさに目がはっきりと覚める。
右手を顔に当て、深い溜息を吐く。
とりあえず起きるとしよう。
起き上がり、一階に降りて顔を洗う。
自室に戻り、仕事着に着替える。
時刻的に朝食を作る時間は無い。市場で果物でも買うとしよう。
そうだ、彼に詫びを――いや礼を言わなければならないだろう。
彼の部屋の前に着き、軽くノックする。
返事は無い。まだ眠っているのだろうか。
そういえば彼との出会いは眠っている彼を起こすところだった。
「ふふっ、そういえば寝つきの良い奴だったな」
過去のことを思い出し、つい笑ってしまった。
間もなく出かける時間、すれ違いにならないよう夕食の話について話もしておきたい。
申し訳ないが一度起きてもらうとしよう。
扉を開け、声を掛ける。
「まだ寝ているのか? 昨日の事だが――」
彼は既にいなかった。
窓際に残されていたのは昨日まで着ていた服だ。洗濯されている。
一体いつ起きたのだろうか、そもそも家で洗濯されて気づかないほど、深く眠っていたのか自分は。
「……はぁ」
溜息が漏れた。
◇
もうね、芸がないと言われても仕方ないんですけどさぁ!
筋肉痛がね、酷いんですよ!
おかげで日が昇る前に起きるハメになった。
寝なおす気分にもならなかったため、仕方が無いのでさっさと洗濯を済ませ、出かける事にした。
欠伸が出る。昼にシエスタを一時間程度取っておいた方が良さそうだ。
『犬の骨』に移動している間に日は昇り始めている。
ゴッズは起きているのだろうか、起きていたら残り物でも貰おうかな。
店に到着、同時に見覚えのある人に出会う。
カラ爺の奥さんだ。
「おや、早起きだね坊や」
「おはようございます。そちらこそ」
「年よりは早起きって相場が決まってるからね!」
ぐっとガッツポーズの奥さん。
凄い元気ですね、少し分けて欲しい。
「私は食材の管理と仕込みを始めておきたくてね、坊やはどうしたんだい?」
「あー、昨日の客の数と売り上げを確認して、皆さんへの給料を初めとした資金繰りをゴッズと話そうかなと」
「あら、それだったら私がなんとかするわよ。これでもやりくりは上手なのよ」
旦那の給料もしっかり管理していそうだ。
カラ爺って小遣いどんだけもらえてるんだろうな。
「それじゃあ経過だけ聞いたら帰りますよ」
「昨日の残りがまだちょっとあるよ、食べていきな」
流石にありつけないかなと思ったが願っても無いお誘いを頂いた。
「ではお言葉に甘えて」
「しっかし、塩は便利だねぇ。大体の料理にちょっと使うだけで味がぐっと引き締まるし、旨味も増すのよ」
「本当は塩を使った料理だけでなく、塩を使って作る調味料やらができればもっと幅が広がるんですけどね。その為にはまず塩の価格帯を下げるようにしないと」
「そんなことできるのかい?」
「確実というわけじゃないですけど、今後色々手を回すつもりです」
「それじゃあ期待しておくよ、塩の値段を聞いたら皆使うのを躊躇っちまってねぇ」
なんてことを話しながら店に入る。
「おはようございますドミトルコフコン夫人! 本日も麗しゅう!」
ゴッズが敬礼しながら迎えてくれた。
うーん、これが店主かぁ。
食事を取りつつ、ゴッズから売り上げや出費の話を聞く。
方向性の話はカラ爺の奥さんを混ぜて進めていく。
この調子ならば金銭のやりくりは問題なさそうだ。
従業員も急に増えたが収支はプラスを維持できそうだ。
問題があるとすれば食材の運搬量が増える事だが、既に荷車の手配をしているとの事。
こちらとしては当面やることは無さそうだ。
「後は女性向け、昼食向けのレシピを増やせば客層も稼働率もよくなりそうだな。今度思いついた物があったら紙に書いて持ってこよう」
「ま、まだ増えるのか?」
「なに言ってんだい、ビシビシいくよ!」
「ひえっ」
二メートルの大男を震え上がらせるお婆ちゃん、いい構図だ。
「そうだ、兄ちゃんの取り分を渡さなきゃな」
「従業員も増えてそんな余裕が無いだろう。以前払った塩代を回収できればそれで良い」
何せこれからはここで塩味の利いた料理が食べられるのだ。
それだけでこの数日の労働の対価として十分だ。
「そうは言うがなぁ……じゃあいつでも飯を食いに来てくれ。空いてる時ならいつでも奢ってやるよ」
「そうか、じゃあ混んでいる時に来てやるよ」
「立つ瀬ねぇなぁ、おい」
とは言え時折はご馳走になるとしよう。
何せ今のところヒモ生活なのだ。そろそろ定職を得ねばなるまいて。
支払った塩代、籠代、そして二日分の賃金を貰い、所持金は僅かにプラスになった。
とは言え買い食いした分や昨日の夕食代を引くと、さほど増えたというわけではない。
最終的にこの所持金はイリアスに返さねばならないのだ。金策も考えねばならない。
「それじゃあ金策の旅に出てくる」
「おう、気をつけてな……いや、金に困ってるなら謝礼くらい受けとりゃいいのに」
目指す場所はバンさんの所、金になる話なら商人を頼るのが定石だ。
かれこれ三日連続で訪れているにもかかわらず、バンさんは笑顔で接客してくれた。
「『犬の骨』、訪ねさせていただきました。いやはや、素晴らしい変貌っぷりでしたな」
「もう行かれたのですか、昨日の今日で早いですね」
「もちろん、最も信用できるのはこの目で見た物ですから。しかし従業員の方々には少々度肝を抜かれました……」
有名な騎士達の奥さんだもんなぁ、そりゃあ知ってる人は萎縮するだろう。
彼女らも久々に活気のある生活を手にしてやる気満々、小遣いも稼げて一石二鳥との事。
「おかげで仕事が無くなりましたよ。暇になったので別件の話でも進めておこうかなと」
「未開の地探索の話ですか、目星などはもう?」
「ええ、……ただちょっとこの話は内密にお願いしたいのですが」
と、ドコラの地図の写しを机の上に広げる。
「これは……」
「先日壊滅した山賊同盟の首魁が持っていた地図の写しです。彼らは騎士達の手から逃れる為に山や森に拠点を作っていました。そして用意周到にも周囲の情報を調べていたのです」
「良く入手できましたな。しかしこれは凄い。これほどの広域で行動していたとは……我が国の騎士達が苦戦するはずだ」
「今日明日には各拠点の調査が入り盗品などは回収されますが、拠点として使用されていない目印となっている洞窟などは手付かずの筈です。この辺を調べて行きたいと思っています」
「後は調査する順番などでしょうかね。ふーむ、昔宝の地図を見た時を思い出しますな!」
「宝の地図って、バンさんは昔冒険者でも?」
「ええ、商人の才の方が優れていたので今は落ち着いていますが、昔はやんちゃでしたとも」
なんだろうな、知り合う人間スペック高い人多すぎない?
ゴッズとサイラに凄い親近感が湧くんだけど、あいつらも実はって特技があるのだろうか。
ああ、ゴッズの酒に対する目利きはバンさんも評価していたっけ。
案外サイラも服屋としての才能があるかもしれないな。
「しかし不用心ですね。私が抜け駆けするとは思わなかったのですか?」
「その時はその時ですよ。バンさんが『そういう人種』だと割り切ってやりますとも」
「はっはっはっ、それは怖い。では良き協力者として振舞わせて頂きましょう」
「ただ調査しようにもですね、腕や体力に自信は無いわけで……」
「なるほど、用心棒になる人材が必要なのですね」
「後はそれを雇う資金も……」
人件費、食費、馬代、雑費、どれもありませんとも。
カラ爺のような騎士がいれば問題ないのだがそう何度も無償で働かせるわけにもいかない。
ああ、いや待てよ。
「バンさんのように興味のある有志を募るという形はどうですかね?」
「費用としては折半も可能ですし悪くないと思います。ですが募る際に他の商売敵に情報が漏れる可能性もあります」
そうだよなぁ、儲けを考えると出し抜こうという者もいるだろう。
あくまでこのプランは上下関係を予め作っておく必要がある。
「信用できる冒険者の一人二人ならばこちらでも手配できます。しばらくは小規模になりますがそれで様子を見るとしましょう」
「そうですね、その間にでも資金面のことを考えておきます」
「こちらに出させようとはしないのですな」
「あまり甘えていると協力関係が維持できませんからね」
アイディアを出して終わりというわけではない。
資源を手に入れた後はバンさんが主体で動くのだ。
調査の時点からバンさんにおんぶに抱っこではこちらの必要性が無くなってしまう。
ここは何とか自分で解決する必要があるのだ。
「でもまあ最初の冒険者の手配と給金は甘えてしまいそうですが……」
「その事に関しては、今後の塩の供給増加への謝礼ということで出させていただきますよ」
この計画の最善の結果として、早い段階での資源発見を達成することだ。
見込みさえあれば借金という選択肢もできる。
上手くやれば国を説得する事もできるだろう。
そうなると今は少しでも地理の情報などを学び、嗅覚を鋭くする必要がある。
その後はバンさんに現在使用されている鉱山の話などを教えてもらい、細かい話を突き詰めていくことになった。
◇
「イリアス。例の協力者への式典、立食会の誘いの返事は貰えたかね?」
ラグドー卿の言葉にしまったという顔を見せたイリアス。
そういえばなんだかんだで一緒にいる時間が短く、色々あったためこちら側から話を切り出す機会が無かった。
「まだか、昨日は非番だったのではないのか」
「申し訳ありません……実はその、彼は前の夜から出かけており帰ってきたのが夕方で……」
「ひょっとして一日中待ちぼうけを受けたのか?」
「は、はい」
ラグドー卿は溜息をつく。
せっかくの非番をそのように潰すというのはよろしくない。
「今日はもう上がって良い」
「し、しかし」
「ああ、そうだな。言い方を変えるとしよう。本日のラッツェル卿の任は協力者に招待の旨を伝えること、そして了承を得ることだ。もう時間も少ない、その事のみ尽力せよ!」
「は、はい!」
駆け出すように去るイリアスを後にして、ラグドー卿はやれやれと言いつつも優しく笑う。
一昨日と比べ随分と肩の力が抜けていた。僅かな時間で何かあったのだろうか。
ラグドー卿はイリアスのことを娘のように思っている。
その彼女の良き変化を目にしたラグドー卿はまだ見ぬ青年に感謝の念を抱くのであった。
「……王は、どうなされるだろうか」
件の本の話は王に伝えた。
王は難しい顔をした後、本をラグドー卿に預けた。
本の出自を追え、との指示は出されたがそれ以上は無かった。
王もかの青年と出会うことを楽しみにしている。
願わくは、良い関係を築くことができれば良いのだが……。
◇
さて、冒険の始まりだ。
バンさんの話では、近場には危険な獣が出ない地域もあるとの事。
地図で確認すると一箇所洞窟があるではないか。
費用を浮かす為にも自分のみで足を運ぼうとした次第である。
うーん、筋肉痛なのにこのやる気の高さ、日本での自分にも見習って欲しいアクティブさだ。
門番に挨拶しつつ城門を出る。
隣にはバンさんもついてきている。
ちょっと一人で見に行ってみようと言い出したら、彼が馬を貸してくれることになったのだ。
しかし馬に乗れないことを伝えると、
「では私も行きましょう。久しぶりに動きたくなりましたからな!」
との事。冒険計画をしているうちにスイッチが入ってしまったようだ。
それで良いのか商館の主人よ。
今までの方向とは別の方向、鉱山への道を進んでいく。
そして一時間程進み、鉱山まで残り三割と言った場所で馬を降りて森に入る。
「この馬は人を襲わないんですか?」
「国の方へ逃げるように訓練してありますからご安心を」
それは良かった。
カラ爺の馬は気性が荒く、帰りの際に噛まれそうになった思い出がある。
それに比べこの馬の眼の優しいこと。
その馬と別れ森を進んでいく。
やはり元冒険者だけあってか、進む速度はカラ爺達騎士にも負けていない。
いや、歩みの速さだけならそれ以上だ。
さらにこちらがついて行きやすいよう気を配ってくれている。
冒険者時代はスカウト的なポジションだったのだろうか。
進む方向への迷いも一切感じられない。
「手馴れていますね」
「それはもちろん。戦闘はパッとしませんが、斥候の仕事なら今でも若いのには後れを取りませんとも」
「頼もしい限りです」
森を抜け、木々の数が減っていく。
岩肌が見え始め、平らな道から上りを含む山道へと変わり始める。
追いつく為にひぃひぃ言いながらも、無事目的の拠点に到着した。
以前見つけた洞窟とは違い周囲は岩肌だらけ。洞窟の入り口というよりかは亀裂に近い。
ここから上はほぼ岩山。ドコラの地図にはその先の情報は無かった。
隠れる拠点候補としてはここらが限度ということなのだろう。
「さて、行きましょうか」
二人とも松明を持ち、洞窟の中に入る。
中は狭い通路が続いている。
一本道で進みやすいのだが、岩肌にはこれといって目新しい発見は無い。
もう少し地下に続く道などがあればよいのだが……。
「ただの通路みたいな感じですね」
「そうですね……おや、行き止まりです」
なんてこった、もう行き止まりだ。
ワンルーム程度の広さの空洞に行き当たったが、そこで道は途絶えていた。
最初の調査は不発に終わってしまったようだ。
「うーむ、これは残念ですね。隠れ家としても狭くて長いだけというのは使われなかったのでしょう」
「そうですね……岩肌に鉱石でも見えれば別なんですが……」
「それらしい物は見当たりませんね……おや?」
バンさんが壁を観察していると何かに気付いた様子。
「どうかしましたか?」
「これは……この場所だけ魔法で作られた壁ですね」
そんなのあるの? と思いつつ指された壁を見る。
だが他の壁との違いなんて分からない。
同じ材質に見える。
「同じに見えますが……」
「はっはっはっ、そうでしょうそうでしょう。ですがこういう道のプロなら分かります」
そう言ってバンさんが取り出したのは、頭に何かを引っ掛けるような捩れのある杭のようなもの。
キャンプなどでテントを張る際に使用される杭を思い出す。
「土魔法で周囲の鉱石を利用して壁を作ったのでしょうが……ふんっ!」
勢い良く、壁に杭を突き立てる。
そして次に取り出したるは、煌びやかな装飾が施されている金槌だ。
バンさんは自分の持っている袋をこちらに預け、杭と対峙する。
「少し離れていてください、危ないので」
無言で距離を取る。
バンさんは深呼吸の後、杭に向かって金槌を振り下ろす。
すると轟音とともに壁が砕け散った。
「な、なんです、それ」
「衝撃を何十倍にもするエンチャントハンマーです。壁を突き破る際に重宝します」
「便利な物もあるんですね」
「それなりに魔力を浪費するのと、魔封石を持ったままだと使えないのが玉に瑕ですけどね」
ああ、それで荷物を持たせたのか。
そして魔力が微々たる日本人には使えない模様。
くう、魔法が付与された武器なら魔法も戦闘もできるんじゃ、とか思っていたのに!
崩れた壁の先にはさらに通路があった。
「これは、ふぅむ……」
バンさんの考え込む理由も理解できる。
今我々は資源の捜索の為にやってきている。
だが見つけたのは故意に隠された通路だ。
何やらきな臭い。
恐らく山賊達はこの場所で引き返したはずだ。
「よし、行きましょうか」
ああ、バンさんの目が冒険者モードだ。
外れの結果で終わるよりかは好奇心を満たしたいのだろう。
それはこちらも同じこと、頷き進む。
しばらく進むと先に光が見えた。
外だ、どうやら山の中を抜けたようだ。
洞窟を抜け、外の光に目が眩みつつも周囲を見渡す。
そこには新たに森があった。
先ほどまで進んでいた森に比べれば、木々以外の植物の茂りが大人しい印象を受ける。
うーん、なんだろうかこの虚しさ。
過去に使われていた通路だったりするのだろうか?
「これで終わりですかね?」
「……いえ、少し待ってください」
そう言ってバンさんは森へと足を運ぶ。
置いていかれるわけにもいかないので続く。
バンさんは道を進むというより、森を調べて回っているような様子だ。
そして非常に興味深そうに何度も頷いている。
「これはなかなか重要な発見をしてしまったようですな」
当然の如く首をかしげる。
「こちらの地図を見てください」
大きめの地図を取り出す。
ドコラの地図とは違い、細かい情報こそ無いがターイズ領土全域の地形が分かるような地図だ。
「私達はここから進みました。歩いた時間からして今いるのはこの辺です」
そう言って指を指した場所は――山脈だ。
「山脈の中ですね」
「ええ、つまりこの森は周囲を山脈に囲まれている隠れた森なんです」
なるほど、大きな山脈の中にぽつんと空間があり、そこに森がある。
確かにこれは発見というべきなのだが……。
「見知らぬ森が近場にあったというだけなのでは」
「いえ、この周囲の草木を調べましたがターイズ領土で目撃されている物とは別物なのです」
周囲の木々や植物をもう一度観察する。
言われて見ればここ数日歩き回った森と違う気もする。
そうだ、これはあの場所に近い。
「植物の形が『黒魔王殺しの山』にあった物と似てますね」
「おお、良くご存知ですね」
「ええ、この前そこでスライムに襲われまして」
「良く生きてましたねっ!?」
あーこのリアクション懐かしい。
だが確かにそうだ。
木々は透き通っていないし、発光もしていない。
だがそれに照らされて見えた足元の植物がそれに近い。
「ええまあ、運よく」
「運がいいとかそういう問題の場所ではないはずなのですが……コホン。これらの植物は魔力の高い土地に生息する物です。ターイズにはかの山以外にこれらが発生している場所はないと思われていましたが……」
「つまりは希少な植物が見つかる可能性があると?」
「ええ、これは新たなビジネスチャンスになりますよ!」
バンさんは非常に喜んでいる。
あーあ、こっちをそっちのけで周りを調べだしちゃったよ。
だが、塩と言った食用品ではなく貴重な薬草などが取れるのであればそれはそれで良い儲け話になるだろう。
不発かと思われた探検で予想外の当たりを引くとは、日頃の行いが良いんだな!
うんうん、と頷き視界から消えそうなバンさんの方へ向かおうとして。
突如襲った衝撃と共に意識が途絶えた。