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そして意識する。

「こんなものかの。ではこれにて会談を終了する。急ぎ帰るも良し、ガーネの国力を見て参考にするのも良し。各々の好きにするが良い」


 他にもいくつか質疑はあったが、質問と言うよりは意思確認のようなものが多かった。この場にいる者達は各国の代表、互いの情報はしっかりと知り尽くしているのだろう。

 それぞれの代表が立ち上がり、護衛の者達に今後の指示を出している。ワシェクト王子は速やかにその場を去って行った。

 マリトはエウパロ法王と何か話をしている様子、こちらも合流するかと思った矢先にゼノッタ王がこちらに寄ってきた。


「相変わらず強気な時は強気な啖呵を切るものだな」

「自分一人なら低姿勢でも良いんですけどね。仲間が割を食うのは避けたいですから」


 その辺はゼノッタ王も似たり寄ったりと言ったところだ。この人は間の抜けた発言をするときは自分を悪く見せつつも、要求を通そうとしてくる。その先には国が有利になる結果が控えているのだ。

 恥を忍んで物事を頼む能力は高い地位についてしまった者ほど衰えがちになる。本人は自覚していないが、話していると本当に断りにくい相手だったりする。


「魔王同士をぶつけろとは言わんが、あの城壁を破った力を考えると優秀な者達であることには違いないと思うのだが」

「魔王達が無能って言っているわけじゃないですよ。ただ扱う力が人の持つそれとは違いますからね。その辺を逐一説明するわけにもいきません。実際はもっと積極的に動かせてもらいますよ」

「それはなによりだ。想像を超える活躍を期待しているぞ」


 質疑応答の場では尋ねにくかった内容を後で聞いてくるあたり、こそこそとした行為を好む人だよな。本当。


「失礼」


 ガチャリと鎧の音と一緒に聞こえた声の方へ視線を向けると、トリンの将軍であるオデュッセが立っていた。

 正直面識もないが、何か言いたいことでもあるのだろうか。いちゃもんは勘弁してもらいたいところだが。


「何か?」

「少々話がある。だがその前に――」


 オデュッセはゼノッタ王の方へ体を向けると頭を深く下げた。後方にいた部下らしき亜人達も続いて頭を下げている。

 ゼノッタ王は困惑した顔で視線をこちらに向けるが、どうしろと。


「それは何の真似だ?」

「私はターイズ王の叱責を真摯に受け止めました。これはそのケジメです。自国、他国のために言葉を奮ったクアマ王に対し、無礼な態度を取ったことを謝罪させていただきたい」


 ゼノッタ王は髭を弄りつつ、そう言うことかと納得する。


「別に構わんのだがな。使いの者にする意見でなかったことは確かだ」

「いえ、この場で私が国の方針を変えることはできずとも、国に持ち帰り王に進言することはできるはずです。トリンはクアマとの友好関係を悪くしたいわけではない。トリンとしての印象を悪くしてしまったのは紛れもなく私個人の判断ミスです」


 少なくともターイズから見れば、トリンの代表がクアマの王に無礼を働いたと映っただろう。場合によっては他の国全てからだ。

 オデュッセはそれを感じ取り、今この場でマリト達の視線に入った状態で謝罪することを選択したようだ。なかなかに思い切りが良い将軍だこと。


「その程度で印象を悪くなどするものか。細かい揚げ足取りで他国に嫌悪を覚えるようなせせこましい態度では王はやってられん。だがその謝罪はトリンの潔さの表れとして確かに受け取っておく。だからもう頭を上げよ」

「――お心遣い、感謝します」


 それでももう暫く頭を下げっぱなしのオデュッセ、これは別の意味が含まれているのだろう。


「それで、こちらの者と話があるのだったな。私は向こうに行くとしよう。ではまたあとでな!」


 ゼノッタ王はすたすたとマリトの方へと歩いて行った。多分馬の話でもしに行ったのだろう。ちょっと気になるところではある。


「それで、話とは?」

「うむ。そちらの背後にいる白い亜人、名を尋ねても?」


 オデュッセの視線はウルフェに向けられている。少しばかり予想外の展開だ。


「ウルフェです!」

「一族の名を聞いても良いか?」

「……黒狼族です」

「黒狼族……そうか。やはりターイズで亜人が住む村が見つかったと言うのは本当だったのか……」


 オデュッセは何やら唸っている。ウルフェが白いことに関しては然程気にしていないのがちょっとばかり気になった。


「オデュッセ将軍、ウルフェの外見には違和感を覚えないんだな」

「ん、ああ。極まれではあるがトリンでも一族とは異なる風貌の亜人は生まれる。この場にいることを考えれば不思議ではないと思っただけのことだ」


 どうやらウルフェのような特殊な生まれの亜人は他にもいるらしい。ただ話を聞く限りではどうも優秀な存在として見られているようだ。『落とし子』のこともあるし、今後もう少し探ってみる必要があるな。


「そうか。ウルフェへの用件とは?」

「一つはダメ元だが……我が国への勧誘だ。遠目でもはっきりと分かった。その才能は驚異的だ。トリンならば亜人への差別も全くない、是非活かしてみないか?」

「遠慮します」


 即答か、少しは悩んでも良いんだぞウルフェ。オデュッセもそうだろうなと言った顔をしている。


「だろうな。その顔からは今の立場を嫌悪している素振りは見られなかった。自らの居場所を見つけた亜人はなかなかその場を離れたがらないからな。だがトリンはいつでも君を歓迎しよう。検討はせずとも意識の片隅には置いていてくれると嬉しい」

「――善処します」


 それ、正しい使い方なのかな?ウルフェの言葉の使い方は日本人らしさが滲んでいるんだよな、誰のせいとは言わないけど。


「さて、本題は別にある。これはウルフェだけではなく、貴公にも話しておいた方が良いだろう。我々トリン、セレンデが何故今回の戦争で他国に協力する素振りを見せないか、その理由だ。恐らくは国の領土の位置が安全で、国の損益を優先しているだけだと勘違いされてしまっているだろうからな」

「……聞こう」


 正直そう思っていた。他にもあると言うのならば今後のためにも耳に入れておくのは大事だろう。


「亜人が密集する国であるトリンやセレンデが、大陸の端にある理由は知っているか?」

「過去の魔王の侵攻の際に逃げたと聞いている」

「そうだ。亜人は危険を察知する能力が人間よりも過敏だ。ユグラと言う規格外の存在の登場がなければ間違いなく人間も亜人も滅ぼされると直感し、逃げ出した。結果としては勝ち戦で逃げ出した臆病者としてのレッテルを貼られることになったわけだが……」


 その中でも残ったジェスタッフの先祖である亜人の王族でさえ、長い歴史の間冷ややかな目で見られてきたのだ。

 ヘリオドーラ家は抗い続けたが、逃げだした当人達は素直に受け止めていたのだろう。


「今回の戦いでも勝てないと?」

「そういうわけではない。いや、そこが正すべき人間達が勘違いしている点だろう」

「勘違い?」

「トリンは蒼の魔王がクアマに侵攻を開始した時、派兵する用意はしていたのだ。ただ本格的な戦闘が始まる前に終わってしまったので、何を言うまでもなく準備を解いたのだが」


 意外な情報だ。だがそれが本当だとすると……幾つか浮かび上がる要因がある。


「亜人は魔王全てではなく、緋の魔王を含めた一部の魔王に怯えていると?」

「――聡明で助かる。そうだ。我らが祖先の恐れていた魔王は二人、黒の魔王と緋の魔王だ」


 黒狼族は黒の魔王を恐れて逃げ出したと伝えられていた。最初に侵攻を開始した魔王なのだからそのインパクトは相当なものだっただろう。

 だが魔王の格で言えば次点で驚異的なのは碧の魔王だ。まあ当人はほとんど侵攻をしていなかったらしいので省く。

 そうなると次点では『紫』が筆頭に上がるはずだ。最も広大な土地を魔界へと変貌させた『紫』はメジスを始め、多くの国から強い警戒意識を持たれている。

 過去の侵攻がどのようなものだったのかは詳しくは知らない。だがそれでも緋の魔王の戦いは歴史的に見ても群を抜くほどではないはずだ。

 ならば注目すべき点はそこではない。だが見ただけで判断できるほど分かりやすい理由があるとなると……。


「黒の魔王はさておき、緋の魔王を恐れた理由か……ガーネ魔界の魔物の姿に関係があるのか?」

「……なるほど。流石はユグラの星の民。そうだ。我らが祖先はガーネ魔界の魔物の在り方を恐れたのだ」


 ガーネ魔界の魔物はゴブリン、オーク、コボルトと言った亜人にも近い姿を持っている。地球人ならばコボルトとかも亜人じゃね?とか思いそうまである。

 実際顔が獣の亜人とかって、ファンタジー系の物語じゃ味方としても存在してるしね。

 ウルフェや『金』のような耳や尻尾に獣要素があるだけの亜人なんて、偽物だとさえいうケモナーの方だってきっといる。


「亜人は獣を模した人間であり、ガーネの魔物は人を模した獣だろ?」

「そこが問題なのだ。我らが祖先は人間達と険悪な関係だった。自らの肉体に獣の血が流れていることを誇りとし、そして人を差別し、侮蔑する大きな理由として使ってた」

「それがより濃く獣の姿をしている二足歩行の魔物が現れたことで、自己顕示欲がおかしなことになり始めたと」

「そうだ。だがそれだけならばまだ心の問題だ。本当の問題は魔王の侵攻を食い止めている時に起こった。発端は魔物との戦いで傷つき、戦線を離れた戦士が家庭で過ごし、新たに生まれた自らの子供を抱きかかえた時のこと。その子供は一族の血をしっかりと受け継ぎ、親に似た耳と尻尾を持っていた。だが、抱きかかえた父親は思わず息を呑んだ。我が子は他の赤子に比べ、より獣に近いと。その問題は他の亜人の一族からも次々と発生した。自らの子供達が、自分達が倒した魔物の姿へと近づいている。この苦悩は瞬く間に亜人全体に広まっていった」


 気のせいだろうと片付けることはできる。自尊心を満たしていた獣の要素を遥かに受け継ぐガーネの魔物と戦い、意思疎通の通じない相手に獣のように戦い続ける日々。そんな精神的に不安定な時に生まれたての赤子の姿を見れば、そう錯覚する者がいてもおかしくはない。

 だがここは異世界、何が起こっても不思議ではない。緋の魔王の力に起因する出来事の可能性だってある。


「このままでは自分達の一族が魔物と変わらぬ姿となるのではと恐れ、亜人達は皆戦う意思を失ってしまったのだ」

「その変化ってのは収まったのか?」

「ああ、数世代ほどを経てその変化は完全になくなり、元通りになったとされている」


 数世代も影響があるのなら気のせいってことでは済ませられないか。真面目に検討する必要があるかもしれない。

 セレンデ領にいるエルフやドワーフも、自分の子供がゴブリンやオークに似始めたらそりゃあ戦いたくなくなるわな。


「呪いと言うよりは、触発された感じか。獣としての要素を強みとして持っていた亜人達は完全に獣の姿をしている魔物と戦い、良くも悪くも獣としての本能が強まって、それが遺伝と言う形で表に出たと……」

「そういう説も過去に議論されたことがある。だが確信は得られなかった」

「実験するわけにもいかないからな」


 亜人が奴隷となる類の異世界ものの話なら、マッドサイエンティストならぬマッド魔術師とかがやりそうな実験だ。


「だが我らが祖先はそのことを『獣堕ち』と忌避していた。緋の魔王と関わればその中にある獣の血が濃くなり、やがては獣と化してしまうだろうと……その恐怖は今でも続くほどに徹底して叩き込まれている」

「トリンの王が人間だと言うのはそれが理由か」

「そうだ。ユグラが国を分けた時、我らが祖先は国を欲さなかった。魔界の傍を避けられる土地を得られればそれで良いと、トリンに人間の王を置くことを良しとした。亜人の変化を恐れ、それを確かに見分けられる人間の王をな」


 トリンは人口の比率のおかげで亜人主体の国としての立場を確立するも、象徴には人間を置き、人間らしくあろうとしている。地球上で子供が徐々に獣に変化すれば、そりゃあ大問題になるだろうよ。何処の国も色々問題を抱えてますね。


「この話、ウルフェへの警告と言うことで良いのか?」

「ああ。亜人ならばガーネ魔界の魔物と戦うのは極力避けた方が良い。だが立場上避けることはできないだろう。だからこそその変化を他の者がしっかりと見極めておいて欲しいのだ」

「分かった。忠告感謝する。ウルフェの自由にはさせるがいつも以上に様子を確認することにしよう」

「――良き主に仕えているようで何よりだ。一つ溜飲が下がった」


 この話をするのは亜人の心の弱さを伝えることになる。亜人が中心であるトリンとしては好んで行いたい話ではないだろう。それでもあえて伝えてきたのはオデュッセもまたウルフェの才能を見出し、意識せざるを得なかったのだろう。


「それはそうと、クアマの方からレイティスの件で連絡が行ってると思うんだが、そのことについて詳しく聞かせてもらえないか?」

「ああ、そのことか。正直驚いたな。トリンは確かにレイティス発祥の地ではあるが、まさかそのレイティスを隠れ蓑として他国の転覆を狙っていたとはな。トリンは直ちにレイティスの聖地を抑え調査を開始した。だが首謀者達は既に雲隠れをした後のようでな。これといって怪しい情報は得られなかった」


 ラクラの反応から見て嘘ではない。レイティス全体が黒でないことは予想していたが、本当に隠れ蓑としてしか機能していないのだろうか。


「今はどういう扱いになっているんだ?」

「怪しい情報は見つからなかったが、クアマで死亡した賊の素性がトリン出身でレイティスの信者だったことは確認が取れている。トリンとしてはクアマから寄越された監査を受け入れ、レイティスの聖地や施設を監視してもらっている。少なくとも今回の戦争が終わるまではその状態は維持されるだろう」

「他国の監査を良く受け入れたもんだな」

「メジスとユグラ教のような関係でもないし、トリンとしては国ぐるみではないと身の潔白を証明したい立場だからな」


 ただそうなるとラーハイトやリティアルは今どこで何をしているんだって話にもなる。大人しくしていてくれれば良いんですがね?この感想、前にも思ってたな。いつも思ってることだし仕方ない。


「『落とし子』についてもある程度は把握しているんだよな?」

「一応は、な。陛下の判断で国領土内にいる該当しそうな者達を捜索している。ただ新たに見つけられるかというと、悩ましいところではある」


 トリンはリティアル達が根城にしていた土地、直ぐに発見できるような『落とし子』なら確保されているだろう。


「亜人で一族と違う風貌の者とかはどうなんだ?」

「その者達は既にトリンで然るべき地位にいる。賊との関係がないかの調べは行っているが今のところ不穏な様子はない」


 その様子だとトリンの重役とかにいるようだな。潔白が証明されるのであればウルフェに会わせてあげたいものだ。


「動きを見せるまではトリン国内にいる可能性が高い。気を抜かないようにな」

「ああ。了解した。では私はこれで」


 オデュッセ達はこの場を去って行く。トリンは緋の魔王との決着が済めば向かいたい場所だったが、彼らのような者達が多いのであれば比較的行動はしやすそうだ。

 満足げにしているとウルフェが袖を引っ張ってきた。


「どうしたウルフェ?」

「ししょー、ウルフェのことは気にしなくて大丈夫です」

「心配を掛けないようにしてくれるのは嬉しいけどな。オデュッセの忠告も無視できるものでもない」

「でも――」

「あんまり気にするな。むしろ今まで以上に傍にいられる機会が増えると思えば悪くないだろう?」

「……おお」


 その発想はなかったとばかりに手をポンとするウルフェ。その仕草は誰が教えた。

 ウルフェ個人に問題があるとは思えないが、亜人に対する緋の魔王の影響は気になるところだ。当面は傍に置く機会を増やすことを意識するとしよう。




その頃の王’s

ゼ「ターイズ王、ターイズの馬に乗ってみたいのだが」

金「面白そうじゃの、妾も乗ってみたいの」

マ「構わないが、落馬しても外交問題にしないと言う契約書を書いて貰おう」

エ「(落ちるな、間違いなく)」


重版出来後の帯などもサーガフォレスト公式ツイッターで上がっており、テンションが上がっております。

二巻に向けての作業もボチボチ始めねば……キャラクターデザインが本当に大変そう。

大雑把な箇条書きしか無い中で素晴らしいイラストに仕上げてくれるひたきゆうさんには頭が上がりません。


さて今回のキャラクターデザインラフ紹介は、メインキャラクターであるウルフェです。

ひたきゆうさんの銀髪好きがデザインラフの時点でひしひしと……全身像は書籍の挿絵にあるので今回もアップだけとなります。

挿絵(By みてみん)


イリアスはどうしたかって?一巻の表紙で良い顔しているのでなしです。

ただ一巻の販促イラストの公開許可を貰えればこっちでも紹介するかも……?


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[一言] ウルフェって、もっと幼いって思ってました。
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