そして話は進む。
後日、各国の代表が揃ったとのことでガーネ城へと向かう。ターイズの来国が早くても、他の国までそれに合わせて早く来るというわけでもないからね。
ターイズ城が過去の中世に登場しそうなファンタジーさを持つなら、ガーネは映画で見るようながっつりファンタジー系のお城だ。
見た時に感じる幻想的な印象はガーネだが、実際に住むとなるとターイズ城の方が落ち着く気がする。一番落ち着くのは狭いアパートか、和風たっぷりな日本屋敷なんだろうけども。
内部に案内され、今回は玉座の間ではなく会談用の部屋へと案内された。
十分な広さもあり、多くの人々が控えている。その大半が兵士や騎士なんだけどさ。
魔王の巣窟に入り込んだとか思ってるんだろうか、ガーネ国の人以外皆ピリピリしてらっしゃる。
あ、例外もいた。ゼノッタ王とエウパロ法王だけは飄々とした顔で席についていた。こちらが入室したのを見ると手を振って挨拶している。
「というかターイズが最後っぽいな」
「騎士達だけならば朝一で待機させている。そういう意味では丁度良いのさ」
「それはそれでなんというか……まあ、うん」
ガーネの兵隊はほぼいない。いるのは将軍らしい人か。まあ危険性がないと分かっているのだからわざわざ威圧する必要はないのだろう。
それに比べターイズはレアノー卿、フォウル卿、その二人の隊から選ばれた精鋭がそれぞれの隊十数人分と人口密度を一番上げている。
次点ではメジス。と言うかユグラ教。ヨクスを始めとする聖騎士、聖職者がエウパロ法王の後方にみっちりと。
ゼノッタ王の近衛は五人しかいない。余裕の表れかとも思ったがその五人全員が『えっ、うちの人数こんなに少ないの?生きて帰れるの?』って顔をしている。
ゼノッタ王の隣に座っているのは恐らくトリンの代表か。猫をベースとした亜人の方の背後には様々な亜人が控えている。
トリンは獣系の亜人が最も多い大国だ。国王だけは常に人間らしいのだが、その重鎮の大半を亜人が占めている。と言うことはだ、あの代表はトリンの王様ではないということになる。
「んで、あっちがセレンデか……」
ちょっと感激しています。と言うのもセレンデの代表、その背後に控えているのは亜人。それもただの亜人ではない。尖った耳、整った顔、そう、エルフと呼ばれる特殊な亜人である。
動物の姿を模しているわけでもなく、遥か昔から人と違った種族として存在しているのがエルフ、そしてドワーフだ。実際の発音は違うけど、こちらの翻訳機能がそれで通用するから特徴としてはそのままと言ったところだろう。
よく見たらドワーフらしき亜人も控えている。カラ爺っぽいが肌が浅黒く、髭や体毛の量が凄いことになっている。
セレンデにはそういった非獣系の亜人が統治している国とされている。御伽噺ではよくエルフとドワーフは仲が悪いと相場が決まっているのだが、それはとっくの昔に解消され、今は亜人同士仲良くやっているのだとか。湯倉成也の生み出した魔王の影響もまんざらではないということか、迷惑なことには違いないのだが。
いやぁようやくファンタジー系亜人の代表のエルフを拝めましたよ!願いが一つ叶いましたね。欲を言えば女性のエルフを見たかったけどさ。
「あまりジロジロ見ない方が良いよ。物珍しそうに見つめると失礼だ」
「そうは言うがな。あっちもがっつり見てきてるぞ」
「君の黒髪は珍しいからねぇ」
そう、トリンとセレンデの皆々様は部屋に入ってきた地球人に物凄く視線を向けている。
大よその事情は聞かされているのだろうし、魔族っぽい容姿はそれだけ警戒されるのだろう。
「それじゃ座るか」
「君はそっちだろ?椅子は七つ、つまりはそういうことだ」
そういうことらしい。『金』の奴、目立たせるような真似をしてくれて……ジェスタッフを呼びつければ良かった。いや、ハークドックでも……『金』を見て気絶しちゃうか。
用意されている以上は仕方ない。素直に座ることにする。しかしその背後にはイリアスとウルフェ、ラクラが控えているのですが、悪目立ちも良いとこではないですかね。
女騎士に亜人に聖職者である。中立の立場としては差別のない形に映らないでもないが、女を侍らせているとか思われませんかね?そこは大丈夫か。
「皆揃ったようじゃの」
最後に入って来たのはこの城の主、ガーネ国王兼魔王の『金』とルドフェインさん。
こちらに向けられていた興味の視線も、流石に自称魔王には全てを奪われてしまったようで。
魔王抜きにしてもガーネ国の王は名前すら公表しておらず、公に姿を一切見せないという怪しさ満載の存在だ。色々ずるい。
ただその向けられている視線の大半に敵意が混ざっている。そこは羨ましくもなんともない。
「さて早速じゃが、各々の代表には名乗って貰おうかの。妾はガーネ国王、ついでに人類の怨敵とされている魔王の一柱、金の魔王でもある。よろしく頼むぞ?」
うん、軽く煽ってる感があるな。らしいっちゃあらしい。敵意を向ける者、呆れた顔をする者と反応は様々だがこれは丁度良い。事前に各国の関係を見る良い機会だ。
「ターイズ代表、国王のマリト=ターイズ」
「メジス代表、ユグラ教法王。エウパロ=ロサレオ」
「……クアマ代表、国王のゼノッタ=クアマ」
良く知る三名の代表が順番に名乗りを上げる。トリンとセレンデの代表が一番反応を示したのはエウパロ法王、次にマリトか。賢王と広まっているだけはあるらしい。
マリトがバッサリとした挨拶にしたものだからエウパロ法王も続き、ゼノッタ王も合わせるしかなくなったな。
「トリン代表、将軍。オデュッセ=ガジュギッサ」
おや、将軍だったのか。亜人の皆さんは強そうに見えるから軍人か役人かいまいち判断がつかない。眼鏡とかつけてくれたら分かるんだけどさ。
「セレンデ代表、第三王子、ワシェクト=セレンデ」
こっちは王子様か。この世界で王子様って初めて見るな。マリトやゼノッタ王は王様だし、ゼノッタ王の子供は見たことないし。
ただエルフの寿命は長いらしいから、下手するとこの中じゃ年長……『金』より年上ってことはないか。
分析を済ませていると全員の視線がこちらに向けられる。と言うか名乗るの?
「挨拶は済んだようじゃな。それでは始めるとするかの」
あ、必要ないらしい。ちょっとホッとした。こんな場でペンネームを名乗るのって勇気いるんだよな。
「待て、そこの者が名乗っていないではないか。席に着くということはそれなりの立場の者だろう。名乗らせずに進めるつもりか?」
割り込んだのはワシェクト王子、どうやら相手が魔王でも物怖じすることはしないらしい。まあ見た目狐の亜人の若い女の子だしね。
「その者は名を名乗れぬ。何せ名を呼ぶだけで相手を支配できる紫の魔王を手懐けねばならぬからの。偽りの名を名乗らせることに意味はなかろう?」
「――名は名乗れずとも、立場くらいは言えるだろう」
「それもそうじゃな。では御主、適当にそれっぽく頼むぞ」
適当とか言ってやるな。ワシェクト王子苛ついてるぞ。
しかし名乗り口上とか完全に考えてないわ。早いところジェスタッフと一緒に国の名前考えておけば良かった。
「勇者ユグラと同じ世界から来た異世界人だ。敵には敵になる。以上だ」
別段驚かれることはない。相手も事前の情報くらいは得ているのだ。ならこちらが挨拶しておくべきことは『敵になるのなら敵として対処する』とアピールしておく程度で十分。
営業スマイルも考えたが、この場の連中にはおべっかなんて通用しないだろうしシンプルに行くとしよう。
「だ、そうじゃ。トリンもセレンデも、あまり不審な視線を向けぬようにな。ユグラとは違った意味で恐ろしい奴じゃからの?」
「――ふん」
ワシェクト王子は気が済んだのか腕を組み、椅子に深々と座り直す。好感を得るつもりはないが、侮られることもなさそうで何より。
「さて、さっさと本題に入ろうかの。知っての通りそう遠くないうち、蘇った緋の魔王が人間の住む領土へと侵攻を開始する。主な戦場となるのはガーネ、そしてメジスとなるじゃろうな」
緋の魔王が潜んでいるのはガーネ魔界とメジス魔界の境目の付近。直線的に侵攻をするのであればガーネとメジスが主な場となる。
特にガーネ魔界では完全にホーム、道中にいる魔物の邪魔を受けるどころか逆に回収することもできるだろう。
「ターイズは騎士団を遊撃としてガーネ地方主体に展開する。場合に応じてはメジスの方にも助力するつもりだ」
挙手をして軍の展開を語るのはマリト。緋の魔王の軍勢がターイズに攻め込む方法は非常に限られている。
ガーネ領土を通り、通常通りに国境を超える。もしくはターイズ魔界を経由する方法だ。
前者は十分にありえる。混戦に紛れて敵の一部が流れ込むこともあるだろう。だが後者はほぼない。
ターイズ魔界を経由するには碧の魔王の協力が不可欠。しかし最後の瞬間まで碧の魔王の助力を得られるような様子は感じられなかった。無理に通ろうとすればドラゴン系の巨大魔物の餌になるだけだろう。
仮にターイズ魔界を経由したとしても、『黒魔王殺しの山』を越えなければならない。
最強の魔王でさえ死ぬデッドゾーンを越えられる陸上型の魔物は存在しないし、飛行型なら早期発見も十分できる。
ただ可能性が皆無だとは言えない。効率を全力で捨て、これでもかと奇襲にこだわるのなら選ぶ選択肢の一つには入るだろう。
だがそんなレアケースもケアされており、ターイズにはある程度の騎士を残し、いざという時にはその騎士達が時間を稼ぎ、本隊の帰還を待つ用意が整っている。
「それは助かる。こちらにも聖騎士はいるが、聖職者達を一部ガーネに回すつもりだからな。その分の補充ができれば随分と楽になるだろう」
防衛となるとメジスの主戦力は継続戦闘に優れた聖騎士となる。ただ敵の種類によっては魔法による攻撃が主体の聖職者の方が有利に立ち回れる場合もあるだろう。ガーネでは魔法を主体とする兵種はない。そのためある程度兵の交換をしようとしているのだ。
他国と兵を交換する場合、指揮系統や士気の問題も出てくる。だが同じ宗教を持つ国を護るという聖職者の視点ならば士気の影響は受けにくいし、ガーネでは他国で動くための訓練も導入されている。弱いところを埋めつつ、デメリットは最小限に抑えられるだろう。
「個々の強さはターイズやメジスの騎士には劣るやもしれんが、軍としての練度ならばガーネは随一じゃと自負しておるからの。そちらも上手く扱うのじゃぞ?」
「言われるまでもない。他国の援軍を使い潰すようでは聖騎士の恥となるからな」
「クアマは――どうした方が良い?」
ゼノッタ王、ブレない。ここに来て判断を仰ぐ選択肢を取れるというのはある意味強い。
「冒険者による遊撃隊を二国に展開させるのが良いだろう。クアマの兵は自国付近で後方支援を主体に動いて欲しい。クアマ領土に魔物が攻め込んだ場合、援軍を寄越せる余裕がほとんどないのでな」
クアマ領土へはガーネ、メジスを横断しなければ侵攻することはできない。比較的安全ではあるが地形的に移動が難しいターイズよりも侵入は容易い。自国領土内を戦場とするよりはガーネやメジスの領土内で処理して欲しいといったところだろう。
撃ち漏らした敵の掃討くらいならクアマの兵でも十分だと言える。冒険者達の方は士気の管理が難しいが、遊撃としてなら役立ってくれる者達もそれなりにいるはずだ。
「何と言うか、兵はいらんと言われているようで寂しいな」
「慣れぬ土地で無理に前線に出られても、無駄な被害が増えるだけだからな」
「ターイズの騎士は両国で動くではないか」
「ターイズの騎士は……規格外じゃからのぅ」
エウパロ法王と『金』は苦々しい顔をしている。エウパロ法王はターイズに直接足を運び、その練度を目の当たりにしており、『金』に至っては仮想世界で宣戦布告をしてボロボロに負けている。
普通の兵士達が一般人の集いにしか見えなくなる。それくらいヤベー集団がターイズ騎士団なのである。
「それにターイズの馬は速度もある。いざという時には短期間で自国へと戻れる。クアマにはそこまでの移動速度はあるまい?」
「噂には聞いているが、そこまで差があるのか?」
「今回の会談で騎士達が乗ってきた馬がある。後で競わせてみれば良いだろう」
「それは楽しみだ!」
ゼノッタ王は興味津々と言った顔で喜んでいる。好奇心の尽きない童心溢れる王である。
「トリンは自国領にて守りを固める」
「セレンデも同じだ」
盛り上がっているゼノッタ王達とは逆に、ワシェクト王子やオデュッセは淡々と協力の姿勢はないと宣言してきた。
緋の魔王がトリンまで攻め入るにはガーネ、クアマの領土を越える必要がある。
セレンデの場合、メジス魔界経由ならば直接攻め込めるルートがあるにはある。ただメジス魔界は既に魔物の脅威が薄れており、自国領を荒らされたくないメジス軍は主戦場をメジス魔界にするだろう。
メジス軍がメジス魔界の方へ戦線を伸ばせばセレンデに届くルートの上になる。それ以上迂回する場合には高々とした山脈を越える必要が出てくる。
つまり両国ともほぼ安全な立地となる。様子見を決め込むのも仕方がない。
「うむ、分かった」
「分かったって……。トリンやセレンデも少しばかりは援軍を送っては貰えぬのか?」
ゼノッタ王が困った顔をしながら両国の代表に問いかけるも、二人は黙って首を振る。
「むむぅ。そこを何とか」
「クアマ王、無駄だ。この場で交渉することはできない」
ゼノッタ王の言葉を遮ったのはマリト。ゼノッタ王はでもと言いたげな顔でマリトの方を見る。
「しかしなターイズ王。ガーネやメジスが圧されれば困るのは――」
「その両名は王ではなく使いの者だ。使いの者は王の言葉を伝える代弁者でしかない。その二人が独断で国としての判断を変えることはない」
「……そっかぁ。そうだよなぁ」
寂しそうな顔で項垂れるゼノッタ王。そりゃあ使いの人が『じゃあ総力を挙げて助けに行きます!』とか勝手に約束してきたら困るだろう。
「いやはや、ターイズ王は御理解が早くて助かります」
その様子を見てワシェクト王子はやれやれと言った顔で笑う。オデュッセもどこかゼノッタ王に対し冷たい視線を向けている。少し苛つく。
「――だが貴公らは使いの者としての役割を果たすためだけにここにいる。それすら弁えず要らぬ姿を晒すのであれば、そんな使いを寄越した両国の高が知れることになる。この場は他者を見下す場でないことくらいは、学べ」
一瞬、その場にいる全員が固まった。
理由はマリトが一瞬だけ怒気を見せたからだ。それだけでものの見事にその場にいた全員が怯んだ。
エウパロ法王は怯むと言うより驚いたと言った方が良いが、他の連中は軽くビビってる。ちなみにフォローされてるゼノッタ王も大分ビビってる。
「ターイズ王、ここは人を怖がらせる場でもないからの?」
「この場に怯える者がいるとは驚きだ」
皮肉を言う『金』に対し、マリトは厭味ったらしく笑う。ちなみに背後にいたおたくの騎士もブルってましたよ。
マリトの奴、これでもかってくらいに感情が表に出るからな。しかもその感情は相手に凄く伝わりやすい。
ワシェクト王子はともかく、将軍であるオデュッセとしてはなかなかに驚かされたことだろう。
「話を進めるかの。連絡手段については――ユグラ教の通信を利用しても構わぬかの?」
「問題ない。トリンやセレンデにもユグラ教の施設はある。戦況の報告などにも役立つだろう」
「確かにあれは便利じゃからの。トリンやセレンデも、魔物の襲撃があった場合は速やかに連絡をするようにと王に伝えよ。助けを求める求めないは好きにして構わぬが、敵の位置を把握できぬのは困るからの。そこはしっかりと頼むぞ?」
「――了解した」
ワシェクト王子の返事と同時にオデュッセも頷く。
「これで各国の意志は確認できたかの。では質疑がある者はおるかの?」
すっと手を挙げたのはセレンデの代表、ワシェクト王子だ。
ワシェクト王子はこちらを見ている。つまりはこちらに対する質疑というわけだ。
「ユグラの星の民、第三陣営と名乗っていたな。貴公らは一部の魔王、魔物を従えていると聞いた。この戦いにはどう参加するつもりなのか?」
自国に籠る国が良く言えるよな。他の連中もそんな顔してるよ。
「メジス魔界、クアマ魔界の魔物はある程度誘導できるが、基本は控えとして待機させてもらう」
「戦わないと言うのか?」
「自分の国の兵士の立場で考えて欲しいんだがな。傍で魔物が共に戦っていて、敵味方の区別がつけて、士気が下がらないって連中がいるのならそこには援軍を送り込んでやるよ。いるのか?」
全員が見事に無反応。そりゃそうだ。魔物の見分けはつけられるとは言え、魔物は魔物だ。異形の存在が突如共闘するといっても心中穏やかではないだろう。
亜人と人間ならばまだ言語のやり取りもできるが、こちらの魔物で会話ができるのはごく一部でしかない。
「ガーネの兵ならばそう訓練することは可能ではあるがの。会話ができぬ魔物と連携は流石に難しいのぅ」
「ただ控えと言っても戦線に常に潜ませる。逃走時や戦略的撤退の時に合図を出してもらえれば殿として特攻させてもいい。魔物が残って戦ってくれるなら気兼ねなく撤退できるだろ?」
「なるほど。それならば多少の強引な転進も可能になるな」
エウパロ法王は悪くないと言った顔をしている。でもそれで無茶をさせて危険に晒したらあんまり意味がない気もするんですがね。
ただ使い捨てにできる魔物が殿となれば撤退は非常に楽になる。いざとなれば負傷兵も魔物に運ばせると言う手段もあるが、それは追々伝えていくとしよう。
ただワシェクト王子の方はまだ何か言いたげのようだ。続きを促す。
「魔王の力は強大だ。緋の魔王を倒すのであればそちらが従えている魔王をぶつけるべきだ」
「断る」
んな要求、脊髄反射で拒否だ拒否。通すか、そんなもん。
「何―」
「こちら側に協力してくれる魔王は、金の魔王を除けば紫の魔王と蒼の魔王だ。どちらも直接戦闘には向いていない。緋の魔王と戦える戦力じゃない」
最近『紫』がクアマでハッスルしていた気もするが、それでもイリアス以下であることは違いない。
「それでも魔王ならば――」
「紫の魔王は相手の名を呼び支配する力を持つ。だが緋の魔王は本当の名じゃない。蒼の魔王は死者をアンデッドとして使役できる。お前らの友や兄弟が戦死して、それを化物として扱うわけだが、この中に同胞の命の尊厳を屈辱的に使い潰して欲しいって外道はいるのか?」
「ぐ……」
緋の魔王にデュヴレオリのような名前を持つ魔物がいれば、『紫』の力も使い道は出てくるが多用する気は微塵もない。
「中立として行動させる以上、両魔王には人間に対する力の使用を控えさせている。それとだ。『俺』は魔王を従えているわけじゃない。対話をして、納得の上で協力関係にあるだけだ。従えているとかいう言い回しは止めてもらいたい。そう言った言葉に敏感な連中を止める実力は『俺』にはないからな」
この場にデュヴレオリがいれば間違いなくワシェクト王子を殺そうとしただろう。イリアスがいるから止められなくはないが、この場が滅茶苦茶になるのは避けられない。
個人的には止めたくもないしね。うん。やっちゃえデュヴレオリって内心思いそう。
ただ脅し文句としては効果があったようだ。ワシェクト王子は不満そうな顔を残しつつも質疑を終了した。