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次に助けを求めるは。

 ターイズ、メジス、ガーネ、クアマの大国は同じ日付をもってそれぞれの領土内にいる全ての者達へ魔王復活の事実を伝えた。

 復活したとされる魔王は黄の魔王、碧の魔王、蒼の魔王、緋の魔王、紫の魔王。

 その中で蒼の魔王がクアマ魔界より侵攻を行いクアマの防壁を破壊したこと、緋の魔王が侵攻の準備を行っていることが報じられた。

 伝えられたのは景気の悪い話だけではない。

 勇者ユグラと同郷の人物が現れ四つの大国と協力し魔王を抑制する成果を上げ黄の魔王、蒼の魔王、紫の魔王が目下のところ中立状態になったことも報じられた。

 この情報は後日には残りの大国にも伝わることだろう。

 ちなみに誰かさんの詳細に関しては一応伏せられている。

 そう遠からず容姿の情報は漏れるだろうが最弱を自称している以上わざわざ人目に付くリスクを背負うことはない。

 しかしこの発表をガーネの王として行う『金』はとても複雑そうな顔をしているのだろう。

 ちょっと見たかったし、からかってやりたかった。

 拠点にて公表された内容の写しをエクドイクと共に読みつつ今後の予定を立てる。


「魔王を傘下に加えたとは伝えなかったのだな」

「そりゃあな、ユグラ教側としては魔王と手を組みましたとは発表できないからな。第三陣営こと『俺』達は魔王を抑止する立場として公表するのが不要な敵を作らない無難なやり方なのさ。ユグラと同郷と言えば聞こえは良いからな。事の流れによっちゃ新たな勇者に担ぎ上げられる可能性もある」


 もっとも勇ましい者こと勇者と呼ぶにはあまりにもチキンなこのメンタル、言われるだけで恥ずかしくなるような称号はお断りです。


「同胞は魔王に立ち向かい勝利を収めている。実際のところ勇者の称号は得ても不思議ではないと思うがな」

「まともに向き合ったのは『紫』だけだぞ。肉体労働はほぼ皆無だしな」

「金の魔王や蒼の魔王相手にも同胞の知恵がなければ今の結果は得られなかったはずだ。あまり自分の実力のなさを念入りに語るのは過度な謙遜になるぞ」

「名参謀の称号くらいなら甘んじて受けてもいいんだが……やり口が詐欺師紛いな方法だって自覚しているからな、謙遜するというより自慢しにくいだけだ」


 汚い手段で勝つことを自慢できるほど図太くはない、『おっす俺勇者、魔王の娘を人質にして魔王を精神的に追い詰めて倒したぜ!』とかただのやばい奴ですよ。


「確かに誰もが憧れるような手段は使っていないかもしれないが……少なくともウルフェは同胞の凄さを純粋に尊敬しているはずだ」

「ウルフェは善悪の区別よりも合理的な判断をするタイプだからな」


 善悪の区別を学び、その固定観念が根付くことで人は合理性以外の方法で物事の良し悪しを計れるようになれる。

 出自から善悪の区別を学べなかったウルフェはあらゆる物事をフラットな立場で見ることができ、合理的な判断を下すことができる。

 などと言えば良い印象に感じなくはないが『やって良いことと悪いこと』の線引きが非常に曖昧となってしまうデメリットは見逃せない。

 悪の道に染まってしまえば善は非常に疎かになりやすい、最終的に悪道を進むことになるとしても善の道は知っておくべきなのだ。


「合理的ではダメなのか?」

「悪くはない、だが合理的な判断しかできないのはよろしくない。お前だって『蒼』に対して合理的に接したわけじゃないだろ?」

「――なるほど、そうだな」


 合理的な判断を行っていた場合『蒼』はこちらの敵、排除するのが最も合理的だったのは言うまでもない。

 仲間に取り込むのは寝返るリスクや現時点で味方である者達から敵対されるリスクもある、確固たるプラス要素を見出せないのであれば避けるべきだろう。

 それでもエクドイクは『蒼』を諫める手段を選んだ。それも個人的な理由でだ。


「エクドイクの取った選択は合理的ではなく人道的なものだ。だが少なくともそのことを後悔するようなことはないだろう?」

「そうだな、むしろこの選択を取れたことを誇らしいとすら思っている」


 その言葉を『蒼』に言えたのならもう少しあのツンツンも和らいでくれるのだろうがそこは言わないでおく。そっちの方が面白いだろうし。


「判断基準は多いに越したことはない。ウルフェには『俺』以外からも色々学んで欲しいところだ」

「そういう意味ではイリアスが傍に居るのはありがたいことだろうな」

「ああ、イリアス達の騎士道は道徳的な要素が強いからな。ウルフェからすれば少し堅苦しいかもしれないが良い手本になってくれている」


 その上でこちらを尊敬しているのだから将来的にウルフェが騎士道に目覚める可能性は限りなく低いのだろうがそこは触れないでおく。


「俺もウルフェに教えを乞うてもらっている立場として技術面以外での貢献はしたいところだな」

「エクドイクなら心配ないさ、お前の与える影響は間違いなく良いものだ」

「そ、そうか……。臆面もなく言われるとむず痒いものだな」

「そうだろ? 『俺』もいつも痒い思いをしている、勇者とか言われたらさらに痒くなるだろうな」

「……綺麗に話を戻してきたな」

「脱線させっぱなしってのは好きじゃないからな。さて、これで世間は緋の魔王の侵攻を意識せざるを得ない。ここからの印象操作は各国の代表の腕の見せ所だな」


 緋の魔王の侵攻に対して一丸となれれば御の字だが国への不信が積み重なってはロービト達のクーデターを正当化する要因にもなりえるのだ。


「それで、俺達はこれからどうするんだ?」

「物騒な手段は最終手段、奴らの舞台に合わせて相手をしてやるつもりさ」

「というと?」

「国を奪うというのはある意味侵略よりも厄介なことだ。既に国に住んでいる国民を納得させる必要があるからな。隙をついて城を落としてはい終わりってわけにはいかない。国民の大半を納得させるだけの大義名分が必要となる」

「そう簡単に見つかるものか?」

「特にという意味ではゼノッタ王、『金』が危ういな。ゼノッタ王は他の指導者に比べカリスマ性が低い。『金』は魔王であることが明るみに出れば彼女への不信は一気に加速する事態に陥るだろう。ユグラ教はユグラ教で湯倉成也のマッチポンプ問題もある」


 ジェスタッフ、ロービト、チェニヤスの三者がそれぞれ別の国を狙うのであればクアマ、ガーネ、メジスが妥当となるだろう。

 ターイズやトリン、セレンデは内情を調べた限り大義名分を作るには少々手間だ。

 だがスキャンダルのタネを用意するだけならば真実に固執する必要もない。多少の警戒は残しておくべきだろう。


「そう考えると付け入る隙は少なくないのだな」

「一番の問題はそういった大義名分を明確にする工作を行うであろうラーハイトの一味だな」


 ジェスタッフ達の様子を探った結果としては人員の確保作業が主体できな臭い真似を殆どしていない。

 つまり肝心の策を行うのはラーハイト側の連中ということになる。


「見えない敵を探すのも苦労するものだな」

「見えてないわけじゃないさ、例の試みは成功したんだろう?」

「ああ、これを見てくれ」


 エクドイクはクアマ国内の地図を広げる。

 魔法による索敵はあのハークドックがいる以上通用しない。

 そもそも直接警告をしたのだ、監視されていると警戒しているのが当然だろう。

 案の定ジェスタッフは屋敷に引き籠り姿を見せなくなった。

 だが外部との連絡を一切絶つわけにもいかない、何かしらの接触はあるとみるべきだ。

 姿を見せずに接触する方法として最初に考えついたのはユグラ教の秘術である音声通信。

 しかしこれはユグラ教に敵対する上で使用するには傍受されるリスクもありよろしい方法ではない。

 実際エクドイクに屋敷へ向けられる魔力の波長も監視させていたが反応は見られなかった。

 次に思いついたのが各国の暗部が使用する姿隠しの魔法、これならば探知魔法を使用されて引っかからない限り捕捉される心配はない。

 とはいえ露骨に探知魔法を展開していては流石に寄り付かなくなるので少しばかり知恵を絞った。

 屋敷の周囲を囲むようにエクドイクの鎖を地面に埋め込ませた。

 この万能鎖は外部に魔力を漏らすことなく鎖の埋まっている周囲を歩いた者がいた場合、耐圧センサー並にその振動を感じ取ることができる。

 この便利さは正直ずるいと思う。エクドイクがいなければ水でも撒いて足跡とかで計測していたとは思うんだけどさ。


「同胞の言ったとおり屋敷を出入りした者の数と実際に確認できた者の数が不一致だった。姿隠しの魔法を使用した者の出入りがあったと見て間違いないだろう。その者が向かった方角はこっちだな」


 そう言ってエクドイクは地図に矢印を書き込む。

 発見した時点で追いかけ捕獲したいところではあるが、下っ端だった場合に情報すら得られない事態もあるのでまずその拠点を割り出すことが優先となる。


「こっちはラクラに同じ方法でチェニヤスの屋敷周囲を探らせた際に発見した姿隠しの魔法を使用した者の移動ルートだ。これで大よその方角は絞れそうだな」

「ラクラにもやらせていたのか」

「お前と違って万能鎖が使えないからな。ラクラ本人の魔力を地中に仕込ませた」

「魔力で振動をか……不可能ではないと思うが、魔力では伝わる振動が微力過ぎてまともに感知できないのではないか?」

「ああ、ラクラも流石に無理ですと言っていたが試しに近くの空き家の床を引っぺがして首を残して地面に埋めてみたらなんとかできた。後はミクスと連携を取らせ目視と魔力への振動察知を照らし合わせて、お前と同じ形での計測をさせた」

「さらりと容赦がないな」

「いや、最初はそこまでやるつもりはなかったんだ。ただ退屈な監視が嫌だと散々ごねてきたからつい魔が差してな」


 ラクラは一つのことに専念させればその精度は群を抜いている。

 以前『蒼』が放った魔力の波長を察知した時のように集中できる環境を整えれば非効率な方法でも実現可能ではないかと思っての行動だ。

 決してラクラが退屈な監視に飽きて『チェニヤスの屋敷に特攻した方が早いです!』とか言い出して暴走しようとしたのを仕置きついでに冷静にさせるため地面に埋めたら『あ、いけるかもしれません』とか口にしたから『じゃあ三日三晩よろしくな』とノリ良く放置したわけではない。

 なお実際に三日三晩埋まっていたわけではなく時折ミクスが掘り出して食事やトイレ、就寝は地面の上で行えていたらしい。

 当人に『一度も様子見に来ないで本気で三日三晩放置する気でしたね!?』と非難された時には営業用スマイルで返しておいた。

 現在泥だらけになったミクスとラクラはイリアス同伴の下、クアマ城の広々とした風呂場で酒盛りをしている。

 これは正当な労働への対価であり、様子見に戻った際半泣きで成果を上げていたミクスとラクラを見て良心が痛んだとかイリアスに人でなしを見るような眼で見られたからではない。

 ギリスタもふらりと付いて行ったけどアイツ城で逮捕とかされてないよな?


「他の者達も苦労しているな……」

「人の苦労を労っているところ悪いがエクドイクにはもう少し張り込みを頼みたい」

「それは構わないが……ロービトのところか?」

「いや、お前とラクラが調べた情報から予想されるポイントだな。人通りが多くなるから目視と振動感知を同時に処理できるお前に頼みたい」

「わかった、今直ぐに向かおう。だがそうなると同胞の護衛がいなくなるな」


 夜になって間もない時刻ではあるがウルフェは既にお休みモード、善悪の判断も大事だが生活習慣を大切にすることは資本の体を守る上でのマストオーダーだ。

 年頃の娘なのだから多少の夜更かしは許したいところではあるがあまり夜更かしが癖になるとマーヤさんに小言を言われてしまう恐れがある。


「ウルフェが起きるまでは出かける予定もないし他の連中が帰ってくるまではデュヴレオリの傍にいるさ」

「あら、そこは私の傍にいると言って欲しいわね?」


 いつから部屋にいたのか『紫』が背中にそっと手を置いてきた。

 思わず悲鳴を上げそうになったのを堪えた自分、偉いぞ。


「……流石に夜通し女性の傍にいるという発言は気が引けてな」

「ふふ、本当に奥手よね?」

「あとできれば驚かすのは勘弁してもらえませんかね、こちとら精神もか細いんです」

「私としては可愛い叫び声の一つでも聞ければいい思い出になりそうなのだけれど?」

「こちらの努力を少しでもいいから尊重してもらえませんかね?」


 既に中立状態とは言え『紫』は人間から見れば恐れられる魔王、しかし彼女は同等であることを望んでいるがゆえに人から恐れられることに対し少なからず寂しく思うところがあるのではと推察している。

 そんなわけで飄々と応対することを常に心掛けているわけなのですが突発的なドッキリへの耐性には限度があるのです。


「堂々としている姿も好きなのだけれど、私のために滑稽に見える努力をしている姿も好きなのよね?」

「歪んだ愛憎はロクな結果を生まないと相場が決まっているんだ」

「歪んでなんていないわよ? 全てを欲しているのだから」

「いっそエクドイクと一緒に出掛けるべきか……ってエクドイクがいない?」

「彼ならもう出かけたわよ? 彼って私と貴方が二人きりでいる時は空気を読んでくれるからありがたいのよね?」


 空気を読むスキルを身につけたエクドイクを評価すべきなのだろうができればそのもう一歩先を読んで欲しいところである。

 いっそウルフェと同じように早寝してしまおうか、いや誰もいない状況で『紫』の前で眠ったら何をされるかわかったものではない。

 イリアス達が戻るまでの間なんとかしてこの籠絡されかねない空間を生き延びねば。


「そ、そうだ、デュヴレオリに話があることを思い出した」

「そうなの? なら仕方ないわね……デュヴレオリ、出てこれるものなら出てきなさい」

「その言い方ずるくない?」


 その夜、デュヴレオリが出てくることはなかった。


 ◇


「はぁー、生き返りますねぇ……」

「そうですなぁー」


 ラクラ殿とチェニヤス=モルガナイズの屋敷周辺を調査して数日、これといった成果もなくラクラ殿が飽き始めたころご友人が姿隠しの魔法を使用している者の捜索案を提示。

 その方法としてラクラ殿を空き家の地下に埋めて放置という正気とは思えないものが取られました。

 ご友人曰く『土と同化すればなんとかなるんじゃね?』と非常に軽いお言葉を頂いたのですが困ったことにそれでラクラ殿が周囲の人々の歩く振動を察知できてしまったのです。

 結果その方法を正式に採用しラクラ殿は数日間地面に埋まる日々の繰り返しでした。

 初日こそわりと真面目にやっていたラクラ殿でしたが二日目から自分は何をやっているのだろうという自問自答が始まり、三日目にはしくしくとわざとらしく泣き始めました。

 私は屋根の上で姿を消して周囲の人々の姿を確認していたのでその哀れな光景はラクラ殿が出して欲しいと頼むタイミング以外見ずに済みました。

 しかし一日数回とはいえ無心でラクラ殿を掘り出して埋める作業を繰り返すのはなかなかに心にくるものがありました。

 運よく三日目の夜に姿隠しの魔法を使用した者の歩く足音を掴み、その者が向かったとされる方角を確認することができましたがこれがあと数日続いていたらと思うとゾっとします。


「ラクラ、ミクス様……本当にお疲れ様でした……」

「ラッツェル卿、その哀れみの眼差しはかえって傷口を抉ってきますぞ……」

「私もその光景見たかったわねぇー」

「ギリスタ、あの光景は見た者にしか分からないだろうが自然と涙が出そうになるぞ」


 ラクラ殿はというと数日振りのお風呂とお酒にご満悦の様子。

 受けた扱いよりも今は人としての在り方を取り戻したことに意識が向いているようですな。


「はぁー、手足が動きますー……うう……」


 そうでもなかった、きっと忘れようとしているのでしょう。

 ちなみに全身泥だらけでクアマ城に訪れゼノッタ王に直接許可を貰いに行ったのですがその時に見せたゼノッタ王の哀れみの視線はとても慈愛に満ち溢れたものでした。

 具体的に言うとゼノッタ王がオススメするお酒まで分け与えてもらえました。


「それにしても旦那さんも酷い作戦を強行したものねぇー。きっと他にもマシな方法はあったでしょうにぃー?」

「本当ですよ!? いえ私の方も地面に埋められたあとに地中に魔力を浸透させて周囲の探知をやってみたら本当に精度が上がっていて『あ、いけるかもしれません』って言っちゃいましたけど!」

「その後のご友人の決断は恐ろしく早かったですからな……」

「うう……戻ってきた時の尚書様のあの笑顔を思い出すだけで涙が……」

「あれほど清々しい余所行き用の笑顔はなかなか見られないからな」


 ご友人の心からの笑顔は本当に素敵なのですが……私の記憶が確かなのか心配になるほどでしたな。


「でもミクスちゃん、私達は持ち場を離れて良いのでしょうか?」

「ご友人が大丈夫だと言っていたので大丈夫だとは思いますが……おや、ラッツェル卿、どうされたので?」

「いえ、その、なにも……」


 ラッツェル卿の顔色があまり優れていない、非常に気まずそうな顔をしていますな。

 これは……何か私達に後ろめたい気持ちがある時の顔、聞き出すべきでしょうか。


「イリアスさん? 汗が凄いですよ?」

「の、のぼせたのかもしれないな……」

「ところでぇ、旦那さんが紫の魔王に悪魔を手配してもらっていたけど何をするつもりなのぉ?」

「ばっ、どうしてこのタイミングで!?」

「あらぁ、何か都合が悪かったのかしらぁー?」

「い、いや、そんなことはないぞ!? ただ突拍子もない会話の切り替えに驚いただけだ! し、しかしこのゼノッタ王の用意してくださったお酒はなかなかに美味だな!?」


 実に分かりやすい反応。

 んんー、後ろめたいことと悪魔の手配……あ。


「……ラッツェル卿、ひょっとしてクアマの地中に悪魔を配置させて我々がやったことを代わってもらうとかそういうことですかな?」

「げっほ、げっほ!?」

「なるほど……生物である悪魔なら探知の及ばない深さに配置ができ、延々と繰り返す単調作業も問題なくできますからな……」

「ミクスちゃん、それって私達の頑張りは……」

「だ、大丈夫ですぞ!? 結果を残したのはラクラ殿です、結果を残せたからこそご友人はその工程をより効率的に進める手立てを用意したのですぞ!」

「そ、そうですよね……」


 確かにもっと簡単な手段は存在したにせよ、この方法が効果的だと証明したのはラクラ殿です。

 ただその必要性が絶対にあったかと言われると……いえ、あったと言うことにしておかねば!


「そうよねぇ、でも旦那さんも後ろめたくてこうしてゼノッタ王に口利きをしてくれたのよねぇー?」

「あ、ああ、彼は時折ミクス様やラクラのことを気に掛けて――」

「イリアスさん、凄く目が泳いでいますね?」

「そんなことは……」

「ご友人、三日ほど完全に私達のことを忘れていたのですな……」

「それで旦那さん、今朝『あ、やっべ』って言ってたのね」

「ギリスタ、お前わざとやっているだろう!?」

「しくしく……」


 ああ、ラクラ殿が悲しみのあまり酒のペースが倍速に。

 ご友人にはのちほどしっかりと追加の報酬をいただかねばなりませんな。


「しかしご友人がそれだけ私達のことを忘れるということはシュナイトを探る方が忙しいのですかな?」

「ええまあ、彼はロービトと懇意になっています」

「なんと!?」


 私達がチェニヤスの周囲を調べている間にご友人は本命の懐に潜り込んでいると!?

 ロービト=ゴシュナイトはなかなかのやり手と聞いていたのですが……流石ですな。


「尚書様の話術は凄いですからねぇ。懇意とはどれほどでしょうか?」

「あー……婿養子にならないかとまで言われている」

「それほど!?」

「ご友人は受けたので!?」

「いえ、既に別荘に待たせている女性がいるので新たな妻を迎えることはできないと断っていました。それでもロービトは諦めていませんでしたが……」


 恐らく紫の魔王のことなのでしょうが嘘を吐かずに誤魔化しきっているようですな。

 ラッツェル卿の顔から相当な光景を見せられた模様。

 作戦とは言え婿養子になられてはなかなかに焦ります、ほっとしました。


「そう言えば最近尚書様、大分落ち着いてきましたよね」

「落ち着く……?」

「蒼の魔王さんを相手にしていた時はなんというか怖い感じの尚書様が常に顔を覗かせているような感じでしたがここ数日は前の尚書様に戻ったと言うか……」

「地面に埋められておいて落ち着いたと?」

「そういうわけではありませんけど!?」


 確かにご友人はここ最近まではピリピリした感じが抜けていない様子でした。

 ですが今日のご友人は大分近づきやすいと言うか……上手く表現できませんな。


「ふむ……考えられるのは相対した相手だと思うが……ロービトは違うだろうからな……となるとハークドックか」

「誰でしたっけ?」

「ジェスタッフ=ヘリオドーラの右腕の男だ。探知魔法に優れている」


 確かエクドイク殿に要注意人物だと警告していたのを覚えています。

 その後日ギリスタ殿が挑んで返り討ちに、そして何故か捕獲できたとかでしたか。


「可能性はありそうですな。ご友人は鏡のような方、注視する敵に応じて在り方を変えていますからな。ラーハイトと比べればずっと親しみが持てそうな方なのでしょう」

「そうだな、あまり頭が回るようには見えなかったが真っ直ぐな性格だったと思うぞ」

「それに結構強いわよぉ? イリアスほどじゃないけど場合によっちゃエクドイクも倒せるかもぉー?」

「エクドイクさんを相手にしてもですか……」

「どういった感じの方なので?」

「そうねぇ……戦闘に関しては特出した力は無いと思うわぁー? でも相手に合わせてしっかりと対応できるって感じねぇー?」


 いまいちピンと来ませんが見た目以上に強いということでしょうか。

 もしも敵対することになれば格上を相手にするつもりで挑む必要があるでしょうな。


「まあご友人をとっつきやすい状態に戻してくださったハークドック殿には感謝せねばなりませんな」

「ミクス様、相手は今の所敵であることが濃厚なのですが……」

「敵は敵として処理する必要があるかもしれませんが敵に敬意を払うことも十分にありえます。人生あらゆることは味方だけから学ぶわけではありませんからな」

「そう……ですね」

「ところでそのハークドック殿について他に何か情報はあるので?」

「彼が聞き出した情報によると肉が好きで笛の練習が趣味らしいです」

「お見合いでもしていたのですかな?」


 私ご友人にそんな質問された覚えがないのですが……いやご友人のことですから既に知っているとは思うのですが。

 うむむ、少しばかりジェラシー。

 結局ラクラ殿はお風呂から上がって直ぐに酔い潰れてしまいイリアス殿が運搬することに。

 拠点に戻った時ご友人は紫の魔王に膝枕をしていました。

 その時の『ああ、助かった』と言いたげな顔は私の中で五本の指に入る良い顔でした。


リアル都合でドタバタしていましたが三~四日ペースに戻せそうです。

肋骨の方も更新したいので二日ぺースはなかなかに辛いですが無理のない範囲で頑張ります。

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