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次に忍び込むは。

 ハークドックを通してジェスタッフへの警告は済ませたが国を転覆させようとしている男が多少の脅し程度で折れるとは思えない。

 だが恐らくはこちらの想像通りに動くだろう、なのでエクドイクとギリスタには動向の監視を行わせることにした。

 なおギリスタには当面の戦闘を控えるようにと念を押しておいた。

 ミクスとラクラには引き続きモルガナでの調査を任せてある。

『紫』はターイズに送ろうと思ったのだが頑なにこちらに残ると言い張られたのでデュヴレオリと共にお留守番だ。


「そして残る三人でシュナイト攻略を進めようじゃないか」

「おー!」

「……シュナイトに属しているのは君だけだろうに。それにジェスタッフに君の素性が知られることになれば他のギルドにも話が行くだろう?」

「なるほど、確かにウルフェはリオド所属だし『俺』の外見に関してはジェスタッフ本人が目撃している。少しばかりの事情通ならば『蒼』や『紫』の件を知りえることもできるから警戒心が増す。そう言いたいわけだな?」

「そうだ。ウルフェはリオドに加入する際にそれなりに目立っているし、私もクアマで完全に無名と言うわけでもない。そもそもハークドックに顔を見られたわけだからな」

「なに、目立たなければ問題ない」

「外見的に目立つ三人組なのだから問題しかないと思うのだが……」


 そして数分後、そこには茶色い髪の毛の亜人となったウルフェと冒険者風の装いになったイリアスの姿があった。

 ターイズでノラが開発した色素を変化させる魔法を使いそれぞれの髪の色と瞳の色を変化させたのである。

 ウルフェは白い毛並みが目立ち、イリアスは騎士の鎧が目立つ。

 ならばそこを変えてしまえば良いだけのことだ。

 口を覆うスカーフを装着させ顔を誤魔化し、髪型を変えればパッと見では知り合いさえ騙せるだろう。

 幸い二人とも長い髪が印象的なので結ってしまえばとても新鮮な印象となる。

 当然こちらもウルフェに髪の色を金髪、瞳の色を青色に変えてもらった。

 その姿たるや完全にモブキャラ、自分の完璧な無難さが怖い。


「恐ろしいほどに一般人感があるな。しかし何で私まで……」

「そりゃあ護衛として一緒に行動するにはイリアスも変装する必要があるだろう? あともう少し姿勢を崩せ、騎士の真面目さが滲んでいるぞ」

「こ、こうか」


 そう言いながらイリアスはピシっとした姿勢から腰や膝をぐにゃりと曲げる。


「それじゃ真っ直ぐに立てない酔っ払いだ、後で演技指導する必要があるな。ウルフェは窮屈かもしれないがその姿で外出する時は体内の魔力を極力抑えこんで並に見えるように頑張ってくれよ」

「了解です!」

「あら、懐かしい姿ね? 出会った時の頃を思い出したわ?」

「そういうそっちはなかなかに見ない姿だな」


 エプロン姿で現れた『紫』、ドレスにエプロンて。

 拠点待機だけでは暇を持て余すからと食事当番を引き受けてくれたのだ。

 主が給仕を行っていることに対してデュヴレオリが物凄く複雑な表情をしているのだが本人が望んでいるのだから仕方あるまいて。


「三人とも完全に別人ね? でも一つ疑問があるのだけれど良いかしら?」

「なんだ?」

「貴方一般人過ぎて冒険者にすら見えないわよ?」


 見事に全員に頷かれた。

 唯一目立つ黒髪と黒い瞳がなくなったのだ、当然と言えば当然だろう。

 だがそんなことは百も承知である。


「問題ない、知的キャラで通すからな」

「知的……?」

「おうおう、全員揃って不思議そうな顔をするな。まあ見ていろ」


 整髪剤を手に取り髪型をオールバックに、そして魔力を失った状態の超人眼鏡を装備。

 最後に難しそうな表題の本を一冊脇に抱え姿勢を正す。


「おお、ししょー頭良さそう!」

「そうね、何割増しかで知的に見えるわ?」


 こういった演技力は日常的なスキルとして身に着けている、伊達に素性を偽って金持ちのパーティに潜り込んでいたわけではない。


「本を持ち歩く冒険者がいるか」

「確かに本はやり過ぎたか」

「それにいかにも別の君の口調になりそうな格好だな」

「安心しろ、口調はわざと崩す。あまりピシっとし過ぎると有能に見られるからな、適度に扱いやすそうな男を演じきってみせるさ」

「どんな演技だ……」


 そんなわけで『紫』に作ってもらった食事をいただきシュナイトの本部へと向かう。

 シュナイトの本部に到着し、受付の女性に話しかける。


「どうもー、ターイズ支部からの書簡を預かってきました!」

「あら、いつもの方ではないのですね。書簡の確認を行わせていただきます……はい、確かに支部長の署名もありますね」

「クアマに用事があったのでそのついでに。支部長とは懇意にさせてもらってます」

「そのようですね。貴方に依頼を斡旋するようにと紹介状も一緒にありました」

「肉体労働は少しばかり苦手ですが小間使いならお任せあれですよ!」

「そうですね……支部長の紹介状を考慮すれば……。この中から希望の依頼はありますか?」


 そう言って受付の女性は何枚かの羊皮紙を並べてくれた。

 そこにはこちらが探しているタイプの依頼が数多く並んでいる。

 当たりになりそうなのはこれとこれと……一応こっちも受けておくか。


「ではこの三つを受けさせてもらっても良いです?」

「そうですね、これなら掛け持ちでも問題はありませんね。もう幾つか受けますか?」

「いえいえ、紹介状のおかげでスムーズに依頼が受けられる立場ですからまずはその取り計らいに応えることを優先させてもらいますよ!」

「わかりました、ではギルドカードを――」


 後は淡々と依頼を受けて本部を後にする。

 後ろではイリアスとウルフェが静かに見守っていたが何が起こっているのかさっぱりといった顔をしているので受け取った依頼書を見せる。


「ほら、ロービトに接触するのにうってつけの依頼だ。こっちはその周囲を探る用だな」

「お、おおー?」

「……どういう絡繰りだ?」

「なんで『俺』がターイズで雑用をこなしていたと思ってるんだ。全部このためだぞ」


 ギルド内部にラーハイトの協力者がいる前提で動いていたわけだが有力な冒険者、ギルドの重鎮、優良な顧客、それらに接触するためには依頼を介することが最も自然な形となる。

 冒険者の受け入れ幅が広いシュナイトではそういった特殊な相手に関わる事になる依頼は公の掲示板には貼り出されずギルドの受付達が管理しているのだ。

 信用を示す方法についてだがモルガナではランクだがシュナイトの場合はコネである。

 そこで利用させてもらったのがターイズ支部の支部長さん。

 非常に誠実な人で『自らが関わることは万事において真摯に取り組むこと』をモットーとしている。

 毎日のようにギルド支部の清掃を行い、初見では清掃員の方ではと勘違いすることも多々見受けられる。

 ちなみに『俺』がターイズでシュナイトに加入した日も視界の端で床を拭いていた。

 そんな彼はシュナイトの信用を守るために普段から誰も受けないような依頼をコツコツとこなしていた。

 それこそ雑用と呼ばれるような依頼をだ、だから『俺』は雑用しか受けられないような立場からスタートすることにしたのだ。

 雑用だろうが喜んで引き受け、真面目にしっかりと達成する。

 そしてギルドを行き来する際に支部長さんだと気づかないフリをして清掃の手伝いも行った。

 支部長さんの眼に実力こそ未熟だが何事にも真摯に取り組む若者に映るように演じ続けたのだ。

 こうして『俺』は支部長さんから信用を得てクアマへの書簡運搬の依頼とクアマでの依頼を斡旋してもらえる紹介状を得ることに成功した。

 ロービトの周囲に潜り込める依頼があれば御の字であったが本人の依頼があったのは実に運が良かった。

 ちなみに利用したと言えば聞こえは悪いが元々性分に合っている行動だ。

 支部長さんとは今回の一件が終わろうともこれからも交友関係は続くだろう。


「流石ししょー!」

「ただギルドマスターに接触できる依頼はなかったな。まあコネで得られる依頼をきっちり達成していけば接触する機会は作れるだろう」

「……あれが全部打算だったのか」

「言っただろ、計画通りで順調だってな」


 だがここからが本格的な活動となる、周りの連中が超人だらけな身としてはこういうところで活躍しなければ示しがつかない。


「さあて『俺』の本領発揮と行こうじゃないか。いやぁわくわくするってもんだ」

「イリアス、ししょーが悪い顔してる!」

「そうだな、こういう時は基本ろくでもないことを企んでいるぞ」

「ろくでもないししょーも凄いです!」


 ウルフェ、なんかその言い方地味にくるから止めような。


 ◇


「暇ねぇー」

「愚痴るな、監視も立派な仕事だ」


 ジェスタッフの屋敷の傍にて監視を行っているがこれといった動きはない。

 相手が相手でなければ鎖を仕込み内部の会話も盗聴できるのだがハークドックと呼ばれる探知魔法に優れた男がいる以上、望遠魔法で視野に捉えられるギリギリの距離からの監視が最も安全な方法と言える。

 ギリスタを一対一で打倒したことからも実力はそれなりにあると見て間違いないだろう。

 その倒されたギリスタだが臓器への軽度のダメージが残っている程度で既に戦闘を行えるまでには回復している。


「エクドイクぅ、貴方の望遠魔法の可視範囲は私よりも広いから見えるけど私はここからじゃ屋敷がぼやーっと見えるだけなのよぉー?」

「お前と俺が一緒に行動しているのは屋敷の監視以外にお前の監視も同時にやれという同胞の指示だ。負けたにせよ軽度ならばまた挑みかねないからしっかり手綱を握れとな」

「旦那さんは流石ねぇ、私のこと良く分かっているわぁー」

「同胞が許しているうちは好きにしても良いが同胞の邪魔になる真似をするのならば容赦しないからな」

「わかってるわよぉ、流石に貴方とは殺し合いはしたくないわぁー。パーシュロみたいに殺されるのはちょっとねぇー?」

「なかなか棘を感じる言い方だな」

「そりゃあねぇ、パーシュロは気まぐれで自己顕示欲の強い男だったけどぉ、私みたいな危ない冒険者ともつるんでくれたものぉ」


 同胞はパーシュロが敵でしかないと判断したからこそ俺を利用してパーシュロの命を絶った。

 だがそれ以前からパーシュロとの付き合いは多少なりともあったのだ。

 ラクラや大悪魔達への復讐に囚われていた時期、そんな俺と組もうとしたのはパーシュロとギリスタくらいのものだった。


「そうだな、だが後悔があったかと問われればないと断言できる」

「私も後悔はないわよぉー? あるとすれば未練ねぇ、パーシュロとだらだら喋るのはわりと楽しかったのよぉー」

「そうだな、当時の俺は寡黙だったからお前の話し相手はパーシュロだけだったな」

「そおそぉ、だからエクドイクも喋り相手になっても良いじゃなぃー?」

「……分かった、監視に支障が出ない範囲でなら会話に付き合おう」


 同胞に対しそこまで恩義を感じていないギリスタに不満を持たせ続けることは良いことではないだろう。

 わざわざ敵を作る必要はない、俺が柔軟に立ち回ることで円満に事が進むのであれば多少の手間は惜しむべきではない。


「それじゃあエクドイクはぁ、蒼の魔王のことをどう思っているのぉー?」

「唐突な質問だな。……あいつは人生に価値を見出すことなく生きてきた。そのまま死を望むあいつの姿をみて俺は許せないと思った。だからその価値を見つける機会を持たせたかった。それだけだ」

「説明口調ねぇ、もう少し関係的な意見はないのぉー?」

「関係的と言われてもな。魔王と魔族の関係になった以上俺はもう逆らうことはできない関係だがそれは俺の我儘を叶えてもらう対価だと受け入れている」

「うーん、蒼の魔王も先が長いわねぇー……」

「どういうことだ?」

「だって貴方それだけ言っておきながら何かしてあげたのぉ?」

「今は同胞の助けで忙しいからな。これといったことはしていない」

「きっと不満溜まってるわよぉー?」


 不満……確かにこちらの要望を通しておきながら放置しているのは蒼の魔王からすれば快くないことかもしれない。

 しかし同胞の件もある、優先すべきは時間制限のある方ではないだろうか。


「俺は同胞の助けにもなりたい。だが蒼の魔王に不満を持たせていることも理解できなくはない。どうするべきだろうな」

「貴方が義理堅いのはもう分かっていると思うしぃ、簡単なことから始めれば良いんじゃないのぉー?」

「簡単なこと?」

「とりあえず容姿でも褒めればぁー?」


 容姿を褒める、その程度で魔王の不満が解消されると言うのか?

 当然貶されることの逆なのだからさらなる不満が溜まることはないだろうが……。

 蒼の魔王の容姿は悪くない、お世辞ではないにせよ褒めたところで当然のことを言われるだけに過ぎないだろう。

 ……いや、だからこそギリスタは簡単なことから始めれば良いと言ったわけか。

 褒めるだけという些細なことすら俺はしていないのだから、まずは何かしてみせろということだな。


「なるほど、参考になった」

「あらぁ、素直ねぇー?」

「人付き合いの経験はお前の方が遥かに上だからな。俺のために助言しているのならば素直に信じるべきだろう」

「ちょっと違う気もするけどぉ……それはそれで良いかもしれないわねぇー。私も素敵な男性に出会いたいわぁー」

「雑談ついでに聞くがお前にとって素敵な男性とはどういった男なんだ? 同胞のようなタイプではないのだろう?」

「旦那さんは人としては好きだけど男としてはひ弱過ぎるわねぇ、この前の男もちょーっと血の気が足りてないしぃー?」

「なるほど、お前と同類と思えば良いのか」


 ギリスタがそんな男と出会えば殺し合いになるだけだろうに、そうなるのならば性別に拘る必要もないのでは。



ちょーっとリアル事情が忙しくなりましたのでしばらく更新頻度が安定しないかもしれません。

書籍化作業の方は特に問題ありません。

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エクドイク、蒼に対するKYさを、 接触が一番少なそうなギリスタにまで言われてるw
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