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次に清潔に。

 さてさて、多少予想外の展開ではあったがジェスタッフと共にいた男を捕獲することに成功した。

 しかしイリアスを前にしても怯むことのなかった男がこちらの顔を見るだけで気を失うとはいかな理由か。

 『私』という人種を見抜いただけではその理由に説明がつかない、他に何かしらの理由があるのだろう。


「起きろ」


 他の案内役達と同じように拠点の個室へ拘束しイリアスに男の頬を叩かせる。


「う……」

「おはよう、悪いが目隠しはつけたままにさせてもらう」


 男を尋問する際に再び気を失われては手間だからと男の目にはバンダナを巻いて視界を封じさせてもらっている。

 さらに全身の衣服には魔封石を忍ばせ探知魔法による周辺の探知を行えないようにしてある。


「……お前達は誰だ、俺を捕まえてどうするつもりだ?」


 男は現状を理解した上で質問を選択した。

 少しでも情報を得ようとしている、自らの仕事を粛々と進めているのだ。


「声だけならば気を失わないで済むようだね」

「やっぱりあの時の男か、本当何者だ? 本能様がここまで暴れたのは初めてだ」

「本能『様』か、随分と自分の本能を信用しているようだね」

「俺みてぇな男がここまで生き永らえてきたのはこの感覚のおかげだからな、敬意くらい払う」

「自分の才能だとは思わないのかい?」

「どうだかな、俺からすりゃ身に余る才だ」


 鋭い本能を持ちそれに全幅の信頼をおいている、この手の相手は本当に厄介だ。

 早い段階で処理してしまうのも十分視野に入る、だがそれは今ではない。


「君には質問したいことが幾つかあってね」

「質問だ? 尋問の間違いじゃねぇのか」

「手荒な方法で情報を吐いてくれるのならば尋問に切り替えても構わないけどね」

「俺がお前らの得になるような話をするとでも思ってんのか、そうだとしたら笑えるぜ」

「まずはルールの説明を行おう。質問は交互に一つずつ、拒否は自由だがその場合質問者が次の質問を続けて行う。これくらいは理解できるね?」

「人の話を聞いてんのか!?」

「まずは君からだ、一つ質問をすると良い」

「こんの……」


 男は暫く沈黙し、そして口を開く。


「ハッサ達を捕まえたのはお前らか」

「そうだ」

「あいつらは今何処にいる」

「それに答えるには先にこちらの質問に答える必要があるね」

「……くそが」

「君のフルネームは?」

「……ハークドックだ」

「フルネームを聞いているのだけどね」

「俺は元々孤児だ、昔あった家名なんざ覚えちゃいねぇ」


 この場合『紫』の力は使えない可能性が高い。

 当人に確認したのだが『籠絡』の力を使うには名付け親から与えられた名前であることが条件らしい。

 ウルフェのような後から名付けられた相手ならば可能性はあるのかもしれないが試すわけにもいかないだろう。


「ハッサ達ならば今はクアマ城に引き渡している」

「そうかい……てことはゼノッタ王の関係者か。国民相手にロクな真似をしねーな、次の質問を早くしろ」

「残念だが聞きたいことがもうない」

「はぁ!? もっとこうあるだろ!?」

「ジェスタッフ、チェニヤス、ロービト、ギルドの相談役である重鎮が揃いも揃って国を乗っ取ろうとしていることは知っている。それ以上の情報を知っているのかい?」

「んなっ!?」


 この驚き方、答え合わせには十分すぎる反応だろう。

 勘の良さと戦闘力を除けばそれなりにポンコツのようだ。

 もちろんそれ以外にもミクス達にはチェニヤス、ロービトの動向を探ってもらい両者が同じ方向から各自の住まいに移動したことは調べが付いている。


「質問されることが希望なら適当に聞くとしよう。好きな食べ物は?」

「肉だ、ハッサが喋ったのか?」

「いいや、かまをかけたら今の君と同じようにバレバレな反応をしてくれただけだよ」

「……くそっ、非難できる立場じゃねぇな。質問をよこせ!」

「趣味は?」

「笛の練習だ、お前は誰だ」

「ラーハイトと接触し緋の魔王の侵攻の際に混乱を起こそうとしている存在をどうにかしてくれとゼノッタ王に頼まれた者だ」

「……お前が蒼の魔王の侵攻を止めたっていう協力者か。どこまで掴んでやがる」

「こちらの質問が思いつかないな」

「頑張れよ! もっと俺に興味持てるだろ!?」


 話していて割と楽しい男だ、つい『俺』の方へと切り替わりそうになる。

 だがイリアスが怪訝な表情をしているのでそろそろ真面目になるとしよう。


「君が気絶した時の詳細を聞きたい」

「ん、んんん……それは答えられねぇ。つか言葉にすることができねぇ」

「頑張りなよ、時間はあるんだ」

「……色々混ざっていて、それでいて何か奥底にどす黒いもんが漂っているような……それが途方もなくヤバイって感じた。そのヤバさがヤバ過ぎて意識を保つこともできなかった」

「語彙力ないね」

「うるせぇですね!?」


 ハークドックが感じている何か……心当たりはあるけども今それを調べる余裕はないか。

 確証を持ったところでどうにかなる問題でもないわけだしね。


「OK、質問に答えたと見なそう。どこまで掴んでいるか……と言われてもね。君達は緋の魔王が動き出すまでほとんど水面下に潜むだけだろう? ハッサを捕まえたことを知っているのならば今後は会合もほぼ行われなくなるだろうからね。規模に関してはジェスタッフがかき集められる私兵、冒険者の総数を考えれば大よそ見当は付くだろう?」

「言われてみりゃそうだな。くそ、無駄な質問をしちまった」

「それはお互い様さ」

「俺の個人情報が無駄ですみませんね!? ったく、捕まってるってのに命の危機をほとんど感じねぇぞ」

「ああ、それは君の本能が正しい。質問が終わったら君に関してはその辺に放り捨てるつもりだしね」

「……おう、俺はジェスタッフ兄貴の右腕だぞ!? もうちょっとこう、なんかないのかよ!?」

「『私』がジェスタッフなら君には大事なことは言わない」

「んなっ、お前に兄貴の何が分かるってんだ!?」

「そうだね、『お前が必要だと思うのなら勝手に動け、お前一人で動く分には無茶もできないだろうからな』とか言って君を信頼して放任するくらいには信用しているのだろう」

「ッ!?」


 どうやら図星のようだ。

 ただ言葉が一致しすぎたかな、警戒心が随分と増している。

 だがジェスタッフへの分析結果は思いの外正確に進んでいるようで何より。


「最後の質問だ。ダメ元で聞くけどリオドに接触してきたラーハイト、その周りの情報は知っているかな?」

「……知らねぇよ」

「知ってた」

「腹立つな!?」


 結局情報収集においてハークドックを捕らえた意味はほとんどない。

 だがそれ以外ならば話は別だ。


「ハークドック、君を捕らえた本当の理由はジェスタッフに情報を持ち帰らせることで彼に釘を刺すことだ。彼が動かなければただの歴史的貢献者の一族の末裔でしかない。感謝こそあれ敵に回す必要もなくなるからね」

「兄貴がその程度で怯むと?」

「少なくともゼノッタ王に睨まれることになるのは明白だ。その上で覚悟を決めるのであれば――」


 ハークドックの眼を覆っていたバンダナを取り外す。

 彼は目が合った途端、分かりやすく動揺し始めた。


「な、ン……ッ!?」

「その時は『私』が君達の全てを奪う敵となる。ジェスタッフの今後を思うのならば精々上手く立ち回ることだ」


 ハークドックは返事の代わりに白目を向いて意識を失った。

 二度目ともなると流石に悲しいものがあるが恐怖を植え付けられる方法があるのならば利用しない手はないだろう。


「それじゃあイリアス、彼を適当な場所に放り捨てに行こうか」

「良いのか? 君はこの男を警戒しているのだろう?」

「それはもちろん、放っておけばきっとこちらの急所を嗅ぎ分け突いてくるタイプの男だからね」

「始末しようとまでは言えないがゼノッタ王に身柄を預けてしまえば良いのではないか?」

「その方法は既に考えた。確かに彼をクアマ城に投獄しておけば危険因子を遠ざけたまま事を進めることができるだろう。だけどそれじゃあダメだ、ジェスタッフ達が自由に動けるからね」

「警戒させてしまうだけだろうに」

「それで良いのさ。ラーハイトのことを考えるとやっぱり別の勢力が隠れている気がしてならないからね。顔を出させるには多少の波風は立たせなきゃね」


 他者を利用し事を成そうとしている存在がジェスタッフ達を無力化したところで表に出てくるとは考え難い。

 だからこそジェスタッフ達を使うことを作戦の主軸として残させたまま動きを制限させるのが今の最善手。

 もしもその存在が干渉するようならばジェスタッフ達を通して察知できる可能性が高い。


「まあ良い、では早い所運ぶとしよう」

「その前にだ、ハークドックとの接触も果たせたし大よそのプランも用意できた。そろそろ戻りたい」

「……顔を貸せと?」

「気絶しているハークドックに悪戯しても戻れそうとは思うけど、一緒に試してみるかい?」

「何を感じ取ったかは知らないが君を見て気を失った相手をこれ以上虐めてやるな」

「いやあ、嗜虐心を煽られる相手もなかなかいないものだからね」


 ◇


「それで、解放されたってわけか」

「はい、不覚を取ってしまいました……すいません!」


 気が付いたらゴミの山の中、あんの野郎人様を言葉通りに放り捨てやがった。

 探知魔法を使用してみたが尾行されている様子などはない、完全に放置だった。

 結局あの男は俺に情報を与えるだけ与えて俺からほとんど情報を引き出しちゃいなかった。

 その程度の奴だと侮られた、実際その通りなのだがそれでも腹は立つ。

 だがそれは置いておいてまずは兄貴に報告するのが先決だろということでこうして兄貴の下へ一直線に向かった次第だ。


「……これはラーハイトとは別口から仕入れた情報だがある男が複数の魔王を傘下に収め第三陣営を名乗ったそうだ。その男は黒髪で黒い瞳の男、恐らくはあの時見かけた男だろうな」

「魔王を傘下にって……マジですか!?」


 いやいや、流石にそれは無理が……いやどうなんだ?

 戦闘力ではあの男に脅威は何も感じないがあの男にはそれ以外の何かがある。


「蒼の魔王の侵攻を止めたっていうゼノッタ王の協力者の容姿とも一致している、同一人物と見ていいだろうな」

「蒼の魔王って倒されたって話は聞いてませんよね……てことはあいつの下に蒼の魔王も!?」


 あのバカでかい防壁を破壊したとかいう蒼の魔王まで……。

 いやエクドイクやギリスタ、あの女騎士まで仲間にいるってんだから魔王がいても……いやいやいや。


「ったく、分かりやすい面だな」

「兄貴、あの男はヤバイです! 止めるべきじゃないですか!?」

「焦るな。奴さんは何故ゼノッタ王に密告して儂らを捕らえに来ないと思う?」

「それは……どうしてです?」

「チェニヤス、ロービトの関与まで気づいておきながら儂らに釘を刺すだけに留めた理由くらい察しろ」


 ええと、ああ、そういやそんな感じの質問があったな。


「そういやラーハイトの周りの情報を探っていましたね」

「だろうな。奴さんは気づいているのさ、儂らが唆されて行動に出た連中だってな。そして奴さんの本命は儂らを唆した者だ」

「……誰です?」

「そいつはお前の頭に入れておく必要のないことだ。奴さんに感謝するんだな、お前がそういう立場だって理解してくれた上に生かしてくれたんだからな」

「感謝なんてできませんよ!?」

「いいや、感謝することになるさ。なんせ奴さんの情報を引き出せたのはお前だけだからな」

「えーと、それはどういう……」

「奴さんに儂らの願いを踏みにじる力があるのか見せて貰おうじゃねぇか、諦めるかどうかはそこからでも十分だろう?」


 兄貴は不敵に笑ってみせた。

 良く分からないが多分兄貴はすげーことを思いついているに違いない。

 不敵に笑う時の兄貴はいつ見ても渋くて格好良くて頼りになる。

 あの男の脅威を知ったうえで笑える兄貴ならきっと大丈夫だ。

 大丈夫だよな……いや、大丈夫にするのが俺の役割だ。


「兄貴、俺にできる事があればどんどん言ってください! 兄貴のためならなんだってやってみせます! 俺は兄貴の右腕ですから!」

「おう、先ずは体洗って着替えてこい。儂は自分の右腕も洗えない耄碌じゃねぇぞ」

「ですよね! すいません!」


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