次に答え合わせ。
エクドイクとウルフェも無事答えに辿り着きいよいよ本格的に解決に向けて行動開始、と言いたいのだがその前に下準備が必要となった。
エクドイクには現在その用意のために飛び回って貰っている。
その間少々暇になったのでイリアスとウルフェを連れてクアマの街並みを観光している。
なんやかんやでクアマの街をしっかりと見ていなかったので丁度良い機会だ。
ターイズに比べ冒険者風の人物が多く、何より亜人の比率が段違いだ。
こういった違いを見るとマリトがターイズを固い国だと言っていた理由も実感できる。
ターイズではギルドの影響力がないため亜人を受け入れやすいリオドの仕事場がない。
そのことからかターイズに唯一根を張っているシュナイトに所属する亜人もターイズを敬遠しているのだろう。
ターイズを避けたがる理由は他にもある、それは隣接する魔界のせいだ。
亜人は人間に対しては勇猛であったが魔王に対しては臆病だったと聞く。
その中でも危険度の高いメジス魔界、ターイズ魔界は獣の血が混ざっている亜人からすれば本能的に避けたい場所なのかもしれない。
「それにしてもクアマは亜人が多いな、ターイズも早く亜人にとって親しみやすい国になれば良いのだが」
「その辺はマリトと黒狼族が良い切っ掛けになるだろうよ」
「そうだな、陛下ならばきっとやり遂げてみせるだろう」
そして一番の目玉、『勇者の指標』のある広場へと到着する。
飾り気のない広場の中央に大きな石碑がそびえ立っているがこれがそうなのか。
石碑に掘られている文字には過去に湯倉成也がこの土地を訪れ、凄まじい早さで魔界へと攻め入り『蒼』を倒したことを無駄に長ったらしく刻んである。
「これに触れれば湯倉成也の記憶が見れるのか?」
ペタペタと触ってみるが特に変化はない。
「恐らくは魔力を通して触れれば良いのだろう」
「魔力ないんだが」
「そうだったな、ならそのまま手を当てていてくれ」
石碑に当てている手の上にイリアスが手を重ねる。
そしてほのかに熱が伝わる感触が流れ込んだと思った瞬間、視界が広場から荒野へと変化した。
周囲にいるのは無数のアンデッド、武装した種類もいる。
「―――」
軽く声を上げてしまったつもりだったが声が出ない。
いや喋れてはいるのだろうが音が発生していないようだ。
傍に居た筈のウルフェがいない、イリアスはいる。
一緒の魔力で反応させたからだろうか……ここは『金』の仮想世界に近い、いやもう少し劣化したものか。
移動は可能らしいが下手に動くと見えていないウルフェにぶつかったりする可能性もあるだろう。
『さて、用意は良いかな?』
振り返るとそこには一人の男が立っている。
やや長い黒髪に黒い瞳、そして日本人男性らしい穏健そうで整った顔立ち。
年齢は20代半ば、服装は白をベースとしたゆったりとしたローブだ。
こいつが湯倉成也、『俺』と同じ地球からの転移者。
勇者と呼ばれている割に装備は魔法使いっぽい……まあ装備品は剣か。
既に湯倉成也は白の魔王となっている、それ故白い格好なのだろう。
『ユグラ、用意できたぜ』
聞き覚えのある声が耳に入る、無色のヤロウだ。
だが周囲を見渡しても奴の姿はない、元から隠れているような奴だしな。
湯倉成也へ視線を戻すのと同時に目の前に湯倉成也が飛び込んできた。
そしてそのまま体をすり抜ける。
慌てて振り返ると振り返った先のアンデッドの群れがバラバラとなって宙に舞っていた。
アンデッドの骸は地面に落ちる前に粉状に分解され塵となっていく。
それを見届けている間に気づけば周囲にいた無数のアンデッドは一匹もいなくなっていた。
イリアスの使っていた広範囲に衝撃波を発生させる薙ぎ払いに近いのだろうが溜め動作は一切見られなかった。
超人眼鏡を忘れていたが恐らくつけたところで結果は変わらないだろう。
間違いなく湯倉成也はこの世界の超人達と同等以上の強さを持っていた。
『―――』
湯倉成也が最後に何かを呟いた。
一瞬何を言っているのかと戸惑ったがそれはよく聞きなれた言語、そう日本語だった。
意味を理解しようとした時、景色は元の広場へと戻っていた。
「……見れたか?」
「――ああ、驚きの強さだったな」
イリアスの顔も想像を超える光景を目撃したことを物語っている。
今のイリアスでさえ、湯倉成也の強さは驚嘆に値する次元らしい。
「イリアスでもそう思えるほどか」
「身体能力だけならば互角かもしれないが魔力の保有量と扱い方が異質過ぎる。魔力強化、広範囲への衝撃波、浄化魔法の組み込み、それらを一息で全て行っていた」
「凄そうなのは分かるがピンとこないな」
「ウルフェの身体能力と魔力量、ラクラの魔法構築速度、エクドイクの複数構築技術、全部備わっていると言えばわかりやすいだろう」
「なるほど、化物だな」
「かなりの余裕も見て取れた。先の光景での戦いはまず本気ではないだろう」
同じ地球人のクセにずっるい。
あれだけ戦えるなら『俺』の今頃はどうなっていたものやら。
「ししょー! ユグラ強いですね!」
ウルフェも『勇者の指標』を試して光景を見たのか興奮している。
大抵の奴ならここで力量差に心折れるだろうが流石はウルフェ、燃えていらっしゃる。
「確かに強いが……あれは何と言うか種類が違うな」
「種類ですか?」
「ああ、あれは地道に築き上げた強さとは違う。革新的な方法で得た突発的な強さだ」
「君には分かるのか?」
「同じ星の住人だぞ、スペックの上限は熟知している」
アスリート、格闘家、軍人、そういった役職の人間を観察してきた身として言えば湯倉成也の佇まいは体を鍛える生き方をしてきたものとは違う。
百年以上前の人間ならば第一次世界大戦前後、従軍経験くらいはあるかもしれないが本格的な軍人といった印象はない。
そんな人間が今さっきのように動けていたらそれこそ伝説の狙撃手並みに歴史に名前が残る。
魔族や魔王になればあの領域に届くというのだろうか、まあ嫌だけど。
あんな力をポンと得たら人生の楽しみが半減どころじゃない。
こちとらゲームじゃレベリングはしないで適正難易度を楽しむ派なんだ。
あと縛りプレイもよくやった、今の状況も相当な縛りプレイだよなぁ。
「君を基準としてこの世界に来てからあの力を得たのだとすれば確かにそうかもしれないな。ところで最後に何か呟いていたようだが、あれはひょっとして君の星の言葉か?」
「ああ、日本語だった。湯倉成也は冒険者以外にこの世界を訪れる同郷者にメッセージを残していたようだな」
「何と言っていたのだ?」
「『ここから先は人の在り方すら捨てる、この世界で生きたいのならばこの辺で満足するように』だとさ」
「どういう意味だ?」
「誰とも比較できない強さを手に入れた者の末路ってのは孤独だ。湯倉成也は程々になと警告したのさ」
湯倉成也はさらに先の領域に手を出している。
無色の魔王が言っていた『神に殺された』という言葉からもそれは間違いないだろう。
確かにそんな存在と関わるなんてゴメンだ、神話に名前を残すような生き方なんて望んじゃいない。
「そういうことか……そんな景色は想像することも難しいだろうな」
「ま、貴重な失敗例を見せてもらったんだ。ここに来た甲斐はあった。ぼちぼちラクラとミクスに合流するか」
「ああ、そうだな」
昼食を先に取るべきか、それとも合流してからにするか。
イリアスとウルフェではあまりクアマの店には詳しくない、ならばミクスを頼るのがベストか。
「一応ダメ元で聞くが二人ともこの辺の飯屋事情には詳しくないよな?」
二人とも首を左右に振る、ならばやはりミクスを頼ろう。
あまり頼ると声のトーンが大きくなるから程々にしたいところではあるが安心と信頼のミクスクオリティの魅力は捨てられない。
「あの、少しよろしいですか?」
広場を去ろうとすると一人の女性に声を掛けられた。
広場に来た時一人で座っていた女性、その服装はラクラと同じユグラ教の司祭服だ。
年はラクラと同じくらい、顔つきからして活力に溢れているタイプの人間だ。
「何か御用ですか?」
「食事処を探しているのでしたらオススメの場所がありますのでご案内しましょうか?」
「嬉しい誘いが来たな、どうする?」
ふむ、渡りに船だが……。
「それは助かります、お願いしても?」
「ええ。ああ、申し遅れました。私の名はマセッタ=ノイチスと申します」
◇
私はラクラに完敗した。
私を地べたに這いつくばらせたラクラは欠伸をしながら退屈そうに、私を見ることもなかった。
それ程までに差があったと言うのか、あったのだろう。
結界を魔法で切断するなんて大司教の方でもおいそれとできる技ではない。
それも一瞬で、圧倒的な力量差を前にするとまともな実感すら湧かない。
アレだけの才能があればウッカ様が推薦する理由も理解できないわけではない。
だが戦闘以外はまるでダメなのだ。
あの失敗の山が演技と言うことはない、演技で大聖堂に被害を及ぼすような真似をする筈もない。
「なんて……惨め……!」
唇を噛みしめると僅かに血の味が口に広がる。
私は完敗した、だけどもまだラクラに劣っていると認めたくない。
勝っている部分の方が多いという自負が私に屈辱を与え続けるのだ。
モルガナでの私への待遇は何一つ変わっていない、リティアル様は最初から私が負けると見越していたに違いない。
私情に囚われ力量差も見抜けずに敗北したのだからいっそランクを下げてくれれば反省もできただろう。
それでもこのままということはラクラがそれ以上の存在だと認知されているということ。
私が辿り着いた場所の先にラクラは立っている。
それが悔しくて悔しくて堪らない。
だけど私にはラクラに鬱憤を晴らす術がない。
手段を問わなければあるのかもしれない、だが傍にはミクス=ターイズがいる。
ランク2ならばあの女の実力を知らない者はいない、間違えても敵に回して良い相手ではない。
何かしらの攻め入る点を考えなければならない。
そのためにはラクラのことをよく知る必要がある。
どうやって情報を手に入れよう、警戒されるような真似だけは避けなくてはならない。
立ち上がり広場を後にしようとすると視野に三人組の男女が入る。
勇者の指標の傍に居ると言うことは恐らくはクアマに訪れた旅行者か冒険者……男性は非常に弱く見えるが他二人は相当な強さを感じる。
騎士の方は隙がまるでなく、感じられる魔力も無意識に身構えてしまうほどに洗練されている。
亜人の方は……何あの魔力、魔力保有量の底が見えない相手なんてそれこそそこの勇者の指標で見たユグラ様くらいなもの……。
クアマではあまり見ない顔だが、他国の強者なのは間違いない。
「そういうことか……そんな景色は想像することも難しいだろうな」
「ま、貴重な失敗例を見せてもらったんだ。ここに来た甲斐はあった。ぼちぼちラクラとミクスに合流するか」
今何と言った、ラクラとミクス?
この三人はあの二人の知人なのか。
これは僥倖なのかもしれない、ラクラの情報を手に入れる千載一遇の機会。
私は声を掛け、彼等を行きつけの店へと食事に誘った。
店では二人組用の席が二つ空いており、纏め役らしい男性と私が一緒に座る形となった。
騎士の方は後ろの席にいるがこんな状況でも常に周囲に気を張っている。
仮に私がこの男性に手を出そうとすればその手が届くよりも早く彼女の剣がその間に割って入るだろう。
もちろん見ず知らずの人に危害を加えるような真似をする筈もない、仮の話だ。
男性は礼儀正しい作法で食事を済ませている。
話し方も温和で丁寧、本当にラクラの知り合いなのだろうかとさえ思えてくる。
「いやあ、美味しかったです。マセッタさん、ありがとうございました」
「ここは私の行きつけの店で、気に入っていただけて嬉しいです」
「なるほど、自分が認めているものが認められるのは気分が良いですからね。何かお礼でもできれば良いのですが――」
「私はクアマに長居しておりまして、こういった機会に外の方と少しでもお話ができればそれで満足です」
私への感触も悪くない、だがどうやって聞き出したものか。
あまり突発的に質問攻めにすれば怪しまれるし疎まれる。
ラクラは私と同じ聖職者、ならば彼の傍に同じ聖職者がいることを発言できるように誘導してそこに食いつけばよいだろうか。
悪くない、この方法でいくとしよう。
方針が決まり、彼に話しかけようとした時にふと彼の眼に違和感を抱いた。
何かが違う、魔力などは一切変化を感じないのにまるで本能が忠告をしてくるような。
「ラクラの件ですね?」
「……え」
「同じ司祭服ですから少し考えれば分かりますよ」
……そうだ、その通りだ。
私とラクラは同じユグラ教の司祭服を着ている。
ラクラと知り合いならば彼が私とラクラに関係があることを察していても何の不思議でもない。
ここは冷静に、彼から話題を振ってくれたのであれば好都合ではないか。
「え、ええ。ラクラとは同期でして、貴方が先ほどラクラの名を出したのでつい懐かしくて声を――」
「それでラクラの弱みでも知りたいと?」
「ッ、何を――」
「ラクラの名前を出した時のマセッタさんの眼や肩の強張り方を見れば二人の関係は凡そ理解できます。貴方は勤勉で努力も惜しまない方でしょう。そういう人から見ればラクラは目に余ることが多いですからね。マセッタさんがラクラの同期の方ならばラクラに先んじて司祭になられた嫉妬心や対抗心を燃やしているのでしょう」
何、この人。
私のことを知っている?
いや、この人の言葉に嘘偽りは一つもない。
「わざわざ今頃情報を得ようとしているのは最近ラクラと接触する機会がありましたね? ならばマセッタさんはモルガナのギルドメンバーですね。ランク2でしょうか、新天地で築き上げた地位にラクラが再び踏み込んできたから過去の思い出が呼び起こされて恨みが湧いてきた……そんなところですか」
「……ラクラから話を聞いたのですか?」
「いいえ、ラクラがモルガナのランク2に加入したことは聞きましたがそれ以外は何も。マセッタさんのことは何一つ聞かされていませんよ」
嘘はない、この人はたった今私を理解している。
それだけではない、ラクラのことも熟知しているからこそ私と比較して推測ができているのだ。
「モルガナには加入試験がありましたね。ラクラは実戦を好みますしお相手はマセッタさんでしたか? ……その様ですね」
「貴方は一体……」
「些細なことは気にせずに、そしてあまり警戒しなくても結構です。マセッタさんの意図が分かったからと言って『俺』が何かするわけではありません。貴方が行動を起こさない場合に限りですが」
「……そうですか」
人選を間違えた、この人は私が敵う相手ではない。
戦闘技術云々ではなく、純粋に見透かされている。
初めて出会った相手をヒントが少しばかりあった程度でここまで見抜けるものだろうか。
いや、それができる知恵があったとしても私の心情まで見透かすことはできないだろう。
ここは素直に引くべきだ、この人を相手にしたところで私が得られるものは何もない。
だが私が引こうとした気配を見抜いてか彼は話を続けてくる。
「せっかくですから少しばかり話をしましょう。貴方の心のわだかまりは貴方が勝手にラクラを敵視しているだけに過ぎません。勝手にラクラを格下に見て、差を付けられて屈辱を味わっている。最近の決闘で敗北したことでその思いはさらに募っていることでしょう」
「勝手に、ですか」
「ラクラは一般業務が致命的にダメですからね。それだけを見ていれば自分はマシだと優越感に浸りたくなるでしょう。でもそれが貴方の犯した間違いです。貴方はその優越感に負けラクラと話すことも見ることもしなかった。話すことができていればラクラが心まで不器用な人間だと知ることができたでしょう。見ることができていればそれでもラクラにある強さを理解することができた」
脳裏に過去の記憶が思い出される。
ラクラと話した記憶、ラクラのことを見た記憶がまるでない。
最初に出会った時、そしてその後に続いた失敗の連続を見てから私はどうした。
ラクラをいない者として扱っていた。
「短所は長所にもなります。貴方は人よりも多くのことに努力することができた。だけどラクラは不器用でたった一つのことにしか努力をすることができなかった。貴方が満遍なく努力している陰でラクラは一つだけの努力をしていた。でも見方を変えればラクラは全ての努力を一点に注いでいた。それは貴方では届かない領域、貴方が戦闘でラクラに負けたのは妥当な結果でしかない。それで恨みを持つのは貴方の勝手ですよね?」
心の奥からじわりじわりと自己嫌悪が湧いてくる。
私は司祭として、人として正しく生きてきたつもりだった。
だが彼の言う通り、私はラクラを下に見ていた。
そしてラクラに先を越され、ラクラに完敗して、勝手に憤慨している。
彼の言葉に何一つ反論することができない。
「私は……私は……」
「でもマセッタさんは立派な方です」
「……え?」
「そりゃあラクラに対する行動だけを見れば良いとは言えません。でもそれ以外はどうですか? 貴方は自分の成したこと全てを恥じるような方ですか?」
「そんなことは――」
「ラクラを理解していない状態で見ればただのずぼらな人間ですからね。そんなラクラに負けることを許しては今までの努力の意味や価値が否定されることになる。貴方が敵意を持ってしまったことは自分の、いや他者を含めた努力の価値が不当に扱われることへの怒りからだ。貴方は純情で真っ直ぐな方ですよ、そこは恥じる必要はありません」
「……」
「ただ昔の貴方は少しだけ視野が狭かった。それが原因で今もなお狭い視野で起こったことに囚われ過ぎている。少し息を吐いて冷静になってみてください。司祭として、冒険者として、貴方は本当にラクラに劣っていると思いますか?」
ラクラは私よりも先に司祭になった。
私よりも容易くランク2の冒険者となった。
だがそれは戦闘能力が飛びぬけているが故の特例でしかない。
司祭の仕事ならば私の方がきっとうまくこなせるだろう。
冒険者としての経験も私の方が遥かに多い。
「ほとんどのことでラクラに勝っている貴方がわざわざ極一部の負ける箇所に拘る必要はありません。マセッタさんが戦いに人生を捧げた戦闘狂だというのならば話は別ですがね」
「わ、私はそんなに物騒な人間じゃないですよ……」
「ええ、貴方は少し早とちりが過ぎるだけで素晴らしく魅力的な人だと思いますよ」
彼は私の手を両手で包み込む。
先程から感じていた妙な恐怖感はもうない、穏やかな青年の瞳。
「マセッタさん、貴方は多くの長所を持ちそして自分の欠点を知った。努力もでき反省もできる。貴方は踏み止まることよりも前に進むべきです。きっと貴方にしか成し遂げられないことが貴方の未来に現れるでしょう。そして貴方ならきっとそれをやり遂げられる」
彼は仲間に敵意を持っていた私を諭し、私を否定するだけではなく認めてくれた。
そこから先のことはあまり覚えていない、気づけば彼と別れ帰路についていた。
一つ言えるのはラクラへの嫉妬や憎しみはかさかさ乾き心の中でみすぼらしくなっている。
もうラクラへの執着はない、だけど今度は別の意味でラクラを理解してみようと思った。
あの人の言葉を信じてみようと思った、そうあの人の……。
「……あれ、私あの人の名前聞いてない?」