次に狙うは。
クアマとクアマ魔界を隔てる防壁に現れた無数のアンデッドの情報は日付の変更を前にしてクアマ国へと伝わり、ユグラ教、続いてターイズへと伝わった。
メジスは聖職者のチームを派遣、クアマ魔界周辺を経由する形で他方面での侵攻の警戒を行いつつ援軍を行う決定をした。
現状分かっているのは大地を埋め尽くす程の夥しいアンデッドにより防壁への侵攻が行われており、クアマは全力で防衛行動を行っている。
アンデッド達には統一意志として防壁の先を目指そうとしている傾向が見られるが幸いなことに意思疎通などは行っていないらしく烏合の衆として攻め入っている。
それ故に兵達への負担は今までの比ではないが防壁が突破される危険性は未だ無いとのこと。
「御主の言う通り『蒼』が動いたの。しかし愚直な攻めよな」
「そうよね? 『蒼』の使役できるアンデッドの総数を考えれば複数展開さえすればすぐにでも防壁を突破できると言うのにね?」
現在『紫』の別荘にて情報共有兼作戦会議を行っている。
マリトに呼び出され、クアマへの侵攻の情報を知らされた後にエウパロ法王から相談を受けたのだ。
何でもセラエス大司教含む反第三陣営の方々からこちらにこの事態の収束への協力を行わせるべきだとの声が上がったとのこと。
中立を謳うのであれば諍いを鎮めるのが責であるとのセラエス大司教の言葉にそうだそうだと他の者達も賛同しているらしい。
「勝手な連中ね、中立と言うことは不干渉を行う自由もあるのだけれどね?」
「御主は快諾したそうじゃが、本当に良いのかの?」
「信用を得るには丁度良い機会だしな。それに蒼の魔王を説得できる可能性もある以上は関われる立場を用意しておく必要がある」
もしもこのまま黙視を決め込めば今後の人間と魔王達との争いに関われる機会がぐっと減る。
ないとは思うが他の魔王達が助けを求めた際にも応じられなくなる可能性はある。
「なんじゃ、『蒼』の肩を持つというのかの?」
「一応最初に経歴を知った魔王としては縁を感じてないわけじゃない。だがそれ以上に蒼の魔王を第三陣営に取り込めるチャンスでもある、それが叶えばこちらの立場もそれなりに盤石になる」
蒼の魔王、自主性をほとんど持たない性格で他者の意見に流されやすい人物だ。
実際過去に人間界を侵攻していた『紫』が唆した際にあっさり過ぎるほどに人間達への攻撃を開始した。
その際に多くの犠牲を出しつつも湯倉成也によって阻まれ滅んだ。
そして今も十中八九緋の魔王の思惑通りに行動させられていると見て良い。
自主性のない魔王ならば上手いこと説得すれば仲間にできる可能性もある。
そうなった場合、人間に敵対する魔王は緋の魔王だけとなりこちらは魔王三人といった力関係になる。
緋の魔王を牽制するには打って付けの機会となる。
そういったわけで打算的ではあるがクアマへ向かうことになったのでそれをこの二人に説明しに来たわけだが。
「ちなみにお前等は留守番な」
「どうして?」
「魔王の侵攻を受けてる土地に他の魔王が現れてみろ、余計な混乱を生むだけだろうが」
クアマに協力を行っているのはユグラ教、メジスが大半だ。
セラエス大司教を始めとする反魔王派の前に最もメジスを荒らしてくれた『紫』が姿を現すのはよろしくない。
「妾ならガーネの援軍として出張ることは可能じゃと思うが?」
「ガーネは自国の防衛に備えた方が良い、ガーネ魔界と隣接するメジス魔界、その境界線に残った緋の魔王が控えているんだからな」
現時点でもアンデッドをこれ見よがしに突撃させメジスの聖職者達をクアマへと誘導しているのだ。
ガーネ軍が動くのを確認すれば緋の魔王が隙を突いてメジス、又はガーネへと侵攻を開始する可能性は大いにある。
「『紫』は下位の悪魔を広範囲に配置して蒼の魔王が他の場所へ攻め入る気配、緋の魔王が他の国への侵攻を企てる気配に注意していてくれ」
もしも緋の魔王がこの騒動に合わせて動くようならばガーネ、ターイズが主な主戦力となる。
『紫』にはその連携を手伝って貰った方が効率的だ。
数だけならば未だに他の魔王達にも負けない配下を従えているのだ、それを利用しない手はない。
「それは構わないけれど……貴方に直接的に協力できないのは寂しいわね?」
「以前の無色の魔王との接触の際に顔も割れているからな、流石にクアマには連れていけないさ」
「……ならこうしましょう」
そういって『紫』はスカートの裾を破る。
何をやっているんでしょうかね、僅かにドキリとはしますけど。
「私の調整した悪魔を貴方に預けるわ? ――そうね、貴方のその木剣にでも宿らせましょう?」
「感知魔法とかでバレないか?」
「問題ないわ、悪魔として一切反応しないように弄ってあるのよ? 余計な欲を持つほどに賢くもないから貴方の指示次第となるけれど……並の上級悪魔にできる事ならば一通りこなしてくれるわ?」
「それはありがたいが……本当に言うことを聞くのか?」
「主の権限を貴方に移すわ、血を一滴貰えるかしら?」
返事がわりに手のひらを差し出す。
『紫』は自らの服の一部を細い針状に変化させ、こちらの親指の腹を浅めに刺す。
ぷっくりと血が滲んだところでその上に千切った衣服を当て染み込ませ、何やらぼそぼそと呟いた。
するとその切れ端はうぞうぞと蠢く影へと変化し、こちらの相棒へと纏わりつく。
しばらくすると変哲の無い元の状態に戻った。
「これで良いわ? 貴方の声に反応すると思うのだけれど、試してみて貰えるかしら?」
「ああ、……返事をしろ」
しかし相棒はウンともスンとも言わない。
「反応がないな」
「名前を呼ばないと、声だけに反応していたら大事になるでしょ?」
「そりゃそうか、この悪魔の名前は?」
「無いわよ? 私は意志一つで操れるのだから、わざわざ名前を呼ぶ手間なんて必要ないもの?」
デュヴレオリは自ら名前を名乗ったユニーク種である大悪魔だが他の悪魔は名無しと言うことか。
なら勝手に名前を付けていいと言うことだが……あまり捻った名前を付けても呼びにくいだけだ。
ググゲグデレスタフとか名付けたら名前を呼んでいる間に窮地に陥りかねん。
「クトウ、返事をしろ」
「ハイ、アルジサマ」
おお、返事をしてくれた。
木刀から安易に取ったが悪い名前ではないと思う。
相棒が応えてくれているようでなんだかテンションがあがりますね、はい。
しかし何とも中性的な声だ、悪魔に性別とかあるのかね?
「なあ、この悪魔って性別はあるのか?」
「悪魔は生殖を行わないから性別と言った概念は無い筈よ?」
「でもデュヴレオリとか他の大悪魔って雄の外見をしていたよな」
「そういえばそうね? やはり力を得た以上はそれを誇示するために男性の型を取るのかしら?」
この世界で女性が非力だと思ったことは一度も無いのですがね。
特にイリアスとか性別を超えたゴリラだし。
と言うか……。
「何で人の親指を咥えている」
「ん、貴方は治療魔法を受け付けないのでしょう? なら原始的な方法だけれど唾で殺菌して治療しなきゃいけないじゃない?」
分からない話ではないが、それは当人がすれば良い話ではないでしょうか。
まあ治療してくれるのだし文句は言わないけども。
「そういや悪魔型の魔物の定番であるサキュバスやらを見た記憶がないな」
『紫』は『籠絡』の力を持つ魔王だ、その力の影響を受けた魔物ならばサキュバスやインキュバスと言った人間を籠絡するような魔物がいても不思議ではないのだが。
実際見かけたのはデビルと呼べるような羊の角っぽいやつが生えた連中ばかりだ。
「それはどういう魔物なのかしら?」
「知らないと言うことはいないのか」
簡単にサキュバスやインキュバスについての説明を行う。
『紫』はふむふむと真面目に聞いた後、真顔で答える。
「わざわざ夢に出て精神干渉するなんて手間を行うなら寝ている隙に直接食べた方が早い気がするのだけれど?」
「ごもっとも」
力が弱いからこそ、人間を堕落させ長い期間で力を得ると言う名目もあるにはあるのだが……。
地球で語られるサキュバスやインキュバスは不貞を働いた者達の言い訳として語られたりしているからなぁ、そういった誤魔化し的な存在はいないのかもしれない。
そもそもこの世界は人間界と魔界がはっきりと分かれている。
人間社会に溶け込み悪さをするなんて悪魔はそうそういる筈も……魔王はいたな。
「そういう悪魔が欲しいの?」
「個人的には要らないが、貴族を籠絡するのには便利そうだな。まあいらんけど」
本気で相手を籠絡するのであれば『紫』の力で事足りる。
間接的な真似をしたところで疑われるだけだし、尻尾を掴まれれば話がこじれるだけである。
サキュバスとの夜を楽しむと言う誘惑は多少なりともあるかもしれないが、それを『紫』に用意させるのは不味い。
自分を求めている異性に性欲処理の道具を用意してくれとか言えるわけがない。
「ま、クトウの性別はなしってことなら気軽で良いな。悪魔の姿にはなれるのか?」
「爪や翼といった部位を生み出すことはできるけれど本来の姿といった形は持っていないわ? 強いて言うなら宿った物の形がそうよ?」
「ふむふむ……クトウ、翼を出して浮いてくれ」
そういうとクトウから蝙蝠のような一対の翼がバサッと現れバッサバッサと動き出す。
するとエクドイクタクシーを使用した時のような浮遊感が得られるが……。
「腕が疲れるな……」
こちらの体重を浮かせることはできるようだが常に握っていないと落ちるわけで。
腕を固定させるべきか、いやそれはそれで腕や肩に負担が掛かる。
色々と考えて命令を与えないといけないようだ。
しかし上級悪魔と同等の働きができるならば期待は持てる。
エクドイクやイリアスが雑魚相手にもこちらの身の安全を意識して立ち回らなければならない状況等が多少は改善されるかもしれない。
過信はしたくないので気休めであることは忘れないようにしなければならないが。
「うん、こう一から色々学ばせていくのは育成感があって良い。ありがとうな『紫』」
「本当ならデュヴレオリでも宿らせたいところだけども……その貧弱な武器じゃ耐えきれないでしょうしね?」
「それは相棒のためにもデュヴレオリのためにもならないから謹んで遠慮しておく」
蜘蛛巣薙ぎの剣と言う名からクトウへと変わった相棒。
名前の威力は下がったがインテリジェンスソードの様で悪くない。
「そういえば餌とかいるのかこれ」
「当人の魔力を……貴方魔力量がほとんど無かったわね? 魔力が不足していると眠りにつくようになっているわ? 時折誰かから補充させてもらって?」
どうやらガス欠になる可能性もあるようだ、ご利用は計画的に。
「むう、妾も何かしら御主に託したいところじゃが……そうじゃ小さい妾の分身を」
「いらん」
「即答じゃと……!?」
「目立つ真似は遠慮したい」
小さい亜人がふよふよと浮いていたらいくら何でも目立つ。
そもそもセラエス大司教は『金』の顔も知っているのだ。
「残念ね『金』?」
「ぬぐぐ、御主も何か案を出さぬか!」
「何で餞別を送られる側が提案しなきゃならんのだ」
結局クトウの柄頭に『金』の尻尾の一部をカットして作った飾り紐を付けることで幸運のお守りにしようと言う結論で丸く収まった。
流石に尻鞘付きの鞘を用意しそうになった時は止めることにした。
木刀に鞘は不要というのもあるがあのモフい尻尾の毛を徒に刈り取るのは気が引けます。
「ところでクアマに行くことを止めるつもりはないのだけれど、上手くことを進められる自信はあるの?」
「一応それなりにはな。上手いこと立ち回ってみせるさ」
◇
クアマに侵攻を開始した蒼の魔王、その侵攻を止める手助けを行う事を快諾した同胞は俺と共にクアマへと向かった。
俺の鎖の翼を使った移動ならば一日も掛からずに向かうことができる。
とは言え重量制限や荷物の運搬の関係もありイリアス、ウルフェ、ミクス、そしてラクラの同伴する筈だった四名は馬車での移動を強いられた。
本来ならば全員での行動を行うべきだったのだが事を起こす前にクアマの現状を知っておきたいと言った同胞の言葉に賛同した俺は二人でクアマに先行し情報収集を行う事になった。
なのだが……。
「まさかクアマ本国の手前で降りた街で投獄されるとはな、はっはっはっ」
「笑い事ではないぞ……」
先にクアマの周辺の情報収集を行おうと近況の街へと先に降り立った。
本国での活動はターイズ、メジスの人物であることを証明できる後続のメンバーが揃ってからが良いと機転を利かせたつもりが、不用意に現れた男二人に不信感を持った番兵達に囲まれる結果となったのだ。
ユグラ教に協力を依頼された者だと説明したのだがあの様子では信じて貰えてないだろう。
同胞がエウパロ法王より渡された正式な依頼状も見せたのだが、見事に没収されてしまった。
「なんだあの番兵達は、俺達のことをまるで信じていなかったぞ!?」
「そりゃあ見てくれを考えればなぁ……荒くれ冒険者に魔族風の男がユグラ教トップと繋がりがありますとか言われても信憑性ないしな」
なかなか痛いところを突かれる、同胞の髪や目の色は非常に稀有だ。
少し戦えるものならばその内在する魔力量から危険性はないと確信を持てるのだが半端な連中では危険視してしまう恐れがあることを失念していた。
無論俺の風貌もあまり良い目で見られるものではない。
「いっそあの場で振り切って逃亡すれば良かったものを、何故抵抗するな等と」
「助けに来たのに、助ける相手とやり合ってどうするんだ。仮に相手を傷つけずに逃げられたとしても無実を証明せずに逃げたともなれば心証も悪くなる。どっしりと構えてれば良いのさ」
「それは相手にもよるだろう。このリルベと言う街はクアマ領土内ではあるが統治しているのは貴族だ。その統治の程度は先ほどの番兵達の態度を見れば分かるだろう?」
クアマには現在進行形で蒼の魔王の軍勢が侵攻を行っている。
だと言うのにこの街に滞在している兵力は十全、派兵をほとんど行っていないのだ。
他国の助けを得ている状況でなお、この街の護りしか考慮していない。
それがクアマの判断なのかこのリルベの判断なのかは定かではないが保身に走っているのは明白だ。
「ま、真面目な騎士国家であるターイズと比べりゃ捻くれてる感じはするけどな。貴族の統治する街ならこんなもんだろ」
「……当初の目的が阻害されていると言うのに同胞はえらく落ち着いているな」
「そりゃあ投獄こそされたが別に尋問とかで手酷い目に遭っているわけでもないし荷物で没収されたのもエウパロ法王への手紙と数日分の路銀程度だ。クトウは手元にあるしな」
「元々荷物はラクラ達に預けてきたから当然だろう。その木剣が没収されていないのは鼻で笑われる程粗末な武器だからだ」
木製の剣など子供の鍛錬道具、そんなものを没収する必要などある筈もない。
俺の鎖も没収はされていない、武器となりうるように見える杭は元々鎖を変化させた物だ。
ただの鎖の状態にしていれば特に問題はない。
路銀を没収されたのは逃走時に資金が無ければ遠くに逃げられないだろうとの魂胆か、それとも単純に番兵達の懐へ流れたか。
「牢獄生活も何度か経験してる、大して使われていないようだし綺麗なもんじゃないか。――それにこの状況は望んだ所だしな」
「……イリアスが時折溢していた時の気持ちが少しだけ分かったぞ」
「アイツ、エクドイクにも愚痴ってたのか」
「同胞の行動方針等を確認していた際に色々とな。同胞は肝心なことは説明しないままで行動する癖があるから気を付けろと忠告されたぞ」
「そりゃあ沢山考慮してある計画の中でどれが型にハマるかは実際にやってみなきゃ分かんないんだ。頭の中で考えた計画を全部説明していたらキリがないだろ、その場その場で臨機応変に変えたりする可能性だってあるんだ」
「それは一理あるがな」
「さて、動きがあるまで時間はあるんだ。この後の展開予想をいくつか説明しておく。いざとなったら強行突破での脱出も計画に入っているからその時は頼んだ」
そして同胞は今後起きるとされる展開を説明していく。
説明を受ければなるほどと納得いく内容がほとんど、理にかなっている流れである。
だがその数が実に多い、この展開になる以外の可能性を考慮すれば一体どれ程の想定を考慮しているのだろうか。
「そんな時の事まで……そこまで考慮しておく必要はあるのか?」
「あったりまえだ、臆病者を甘く見るな。今の所可能性が高いのは最初に説明した奴か三番目に説明した展開だな」
「ふむ……しかし今回同胞は随分と頭の回転が速いように見えるのは気のせいか?」
「既にこのクアマに入り浸っていた『紫』から大よその情報を貰っているからな。事前知識が多ければ理解行動をしなくてもある程度は解って行動できるのさ」
同胞の強みと言えば相手を理解した上での立ち回りだ。
完全に型にハマった際の展開のコントロールの精度は身を以て経験している。
起こった出来事が全て掌握されていることの恐怖はそれを知るまで実感がまるで無いと言うことだ。
同胞は一見無害にしか見えないが敵に回せば知らず知らずのうちに相手を追い詰めることができるのだ。
今の俺は同胞が俺を利用できると判断したからこそ生きているようなものだ。
もしもパーシュロと同じように御しにくいと判断されていたならばきっと……。
僅かに過去を思い出して背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。
力量差のある相手と対峙したとしてもこのような感覚には然う然うなるものではない。
最も恐ろしいのは……そう、力のない筈の同胞が力ある者を追い詰められるという点だろう。
同胞のように戦う才能が皆無の存在であっても脅威となりうる、それはこれから出会う全ての相手が脅威になる可能性があると言うことを証明している。
力ある者ならばそれを感じ取れる、だが同胞のような非力な存在から一体どうやって危険を察知できる?
「どうしたエクドイク、何か気になる事でもあるのか?」
「……いや、頭の中で先ほどの情報を繰り返して記憶していた」
「そういう表情には見えなかったが、……そういうことにしておくか」
俺は同胞に一度理解されている、今の考えは見透かされたかもしれない。
あの時、俺を見つめていた目は今でもハッキリと思い出せる。
最初は敵意を込めた不気味な目つきだと思っていた、だがその意味を理解した後はあの目で見られることにはっきりとした恐怖がある。
そうだ、誰もが脅威になるわけではない、日常的にそんな不安を抱き続けるような生き方をしてまともにいられる筈がない。
だが同胞の慎重さは……今は深く考えるべきではない。
「さて、この街の領主さんはどう動くか……できれば罪悪感を持たずに事を運べると良いんだがな」
「……そうだな」
今同胞は味方だ、だが心なしか同胞の見据えている光景には今の俺には予想できない俺が取り得る行動が組み込まれている気がする。
……いや、それを不安に思う必要はない。
既に拾われた命、同胞のために費やされるのであればより価値のある行動を取れば良いだけのことだ。
少なくとも俺が一人で生きていくこと以上の結果を生みだしてくれることは間違いないのだから。