まず詰ませる。
あけましておめでとうございます。
すっかりギャグの方に大差を付けられましたがめげずに頑張って連載を続けていきます。
エクドイクの奴、名前を堂々と明かしやがった。
エクドイクにも色々思うところもあったのだろう、奴の生き様と思い諦める他ない。
後の作業の手順が一手二手変わる程度だ、大した問題ではない。
それよりも今はエクドイクの様子を見守ることに注視せねば、ラミュグレスカの強さは間違いなく今までの大悪魔とは格が違う。
奴の『嗅ぎ取る鼻』は破壊力といったものではない、俗に言う嗅覚を意味合いとして強化するものだ。
それは即ち商人や盗賊などが持っている専門職としての判断力を持ち合わせていることになる。
危険を察したり、チャンスを見極める能力を高める、これらは第六感に通じるものがある。
そこに強化された大悪魔の身体能力が加われば容易に熟練の強者となりうる。
単純なスペックだけならばデュヴレオリが最強なのだろうが、こと対人戦における能力はラミュグレスカの力が優位性を持っていると見てよい。
実際エクドイクの攻撃は完全に無力化され、その攻撃を数度受けただけで重症となっている。
ここまで差があるのであれば棄権させても良いのだが、エクドイクに渡されていた鎖がポケットで動いている。
鎖が軋む限り俺は戦える、エクドイクはそういっていた。
つまりこれは彼からのメッセージだ、まだ闘争心は消えていない。
まあアレだけラクラをディスりながら啖呵を切ったのだから言うまではないのだが。
「あら、彼の名前はエクドイクと言うのね? 私の『籠絡』の力への対策だったのかしら?」
紫の魔王がこちらに言葉を投げている、これは只の雑談ではない。
超人眼鏡を外すのは成り行きを見守る上で不安だがここは受けるべきだろう。
眼鏡を外し言葉を出す。
「ああ、念の為にな」
「抜け目が無いのね、でもこのまま続けさせて良いのかしら? ラミュグレスカと彼の力の差は歴然、次の攻撃が決まればほぼ間違いなく死ぬわよ?」
「かもな」
「動じないのね? あの男を信じているのかしら?」
「信じてやりたい気持ちは山々なんだがな、単純な能力差だけなら相手が上手だろう」
彼女のこの会話は立場のイニシアチブを取り戻そうとしている行為なのだ、現在彼女はこちらによって揺さぶられている。
その危険性を感じ取り、立て直そうとしている。
だがそうはさせない。
「見捨てると言うの?」
「完全にダメそうなら棄権させるさ、ただ本人がやりたがっている以上はやらせる。それだけだ」
「それで貴方の目論見通りになると?」
「いいや、そもそもこの戦いに勝敗は関係ない。エクドイクが勝とうが負けようが『俺』には誤差にもならない」
「……」
そう、大事なのはラミュグレスカの戦力を測ることだ。
今までの大悪魔との戦力差を考えても奴が紫の魔王に弄られた大悪魔の一柱であることは間違いないだろう。
そしてエクドイクはその能力の高さを十分に引き出し役割を果たせている、他の者達に教えてくれているのだ。
ここから先はエクドイク本人が満足するまで戦わせる場面だ、それが彼の命に関わることでもそれを望むならば与えるべきだ。
いつの間にかエクドイクは鎖を再び展開し始めている。
ならば見守ろう、少なくともこの鎖が軋んでいる間は。
超人眼鏡を再び装着し、静観することにする。
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奴はなんと言ったか、真の『盲ふ眼』だと?
ベグラギュドの『盲ふ眼』の力は知っている、眼の合った対象に幻覚を植え付けることで誤認識を行わせる力だ。
あるものをないものとし、ないものをあるものとして認識させられてしまえばたとえそれが幻覚であれど翻弄されてしまう。
盲目にされてしまう魔眼、殺傷力こそ低いが私の鼻にも匹敵する勝手の良い力だ。
だが今私の両目は潰れている、仮にさらに強力な幻術や効果を得たところで私に影響を及ぼすことはできない。
自らの象徴である鼻に神経を集中する。
この限られた空間内ならば全ての情報が分析できる。
奴は今何もしていない、話しながら鎖を展開しているわけでもない。
変化といえば眼に集まっている魔力がさらに膨大な量になっている。
攻撃系の魔法を放つよりも多い、あれでは眼への負担は尋常ではないだろう。
ハッタリか、それとも真実か。
「関係ないな、私の鼻はこの世に存在するあらゆるものを嗅ぎ分けられる。ならばそれを信じ踏み込むまで」
多少距離を取られている、一足で飛び込むことはできるが最大速度を出す為にはもう一足余分に踏み込んだ方が良いだろう。
まずは第一歩で奴との距離を半分にする。
勢いもついた、次の一足で最大速度からの足刀蹴りで奴にトドメを刺す。
地に足を付ける、しかしその瞬間に何かを踏んだ。
「――ッ!?」
多少バランスを崩しそうになったが支障はない、だがありえないことだ。
鼻ではなく本能が訴える、危険だと。
思わず前ではなく後ろに飛び、再び鼻に神経を集中させる。
――私と奴の間には何も無い、地面も平坦、では何を踏んだ、本能は何を感じ取った。
私の鼻が狂わされたか、そんな筈は無い。
その兆候を逃す鼻ではない、ならば一体……。
片目を修復する、視界が戻る。
得られた視界情報は鼻で感じ取ったものとなんら変わりは無い。
「どうした、攻めて来ないのか」
「何をしたのかは知らんが、罠を張っているな。さてどうしたものか」
踏んだ違和感、それを記憶で再確認。
あの感触は――そう、鎖だ。
私は鎖を踏んだ、だがその鎖は眼には見えず、この鼻ですら嗅げてない。
既に幻術に捕らわれているのか、馬鹿な、どうやって。
よもや触覚に干渉をしたのだろうか、それくらいは考慮すべきだろう。
だがこのまま奴の回復を待つ理由にはならない、微弱だが体への治療行為も平行して行っている素振りがある。
大した問題ではないがせっかく与えた手傷を回復されるのは手間だ、ここは畳み掛けるべきだろう。
全身へ巡らせている魔力をさらに強化、渾身の力を我が身に与える。
仮に幻覚ならば感じる暇も無く突き抜け、鎖の罠が仕掛けられているのならばそれを消し飛ばして奴の場所へ飛べば良い。
この力を与えられてから初めて出す全力の一撃、下手をすればその先の悪魔の壁すら突き破るやもしれんがその時はその時だ。
「小細工ごと貴様の命を砕いてやろう!」
全力ならば一足で足りる、次に地を踏む時は貴様の命が潰えた時だ。
踏み込み、跳ぶ。
その速度は限界まで強化した自分の反応速度ですら満足に対応できない、音など当然の如く置き去りにする。
ただ脚を出すことだけを考え、奴の全てを吹き飛ばして――
全身にこれまでに無い衝撃を受けた。
「ゴハッ!?」
「それは悪手だ、ラミュグレスカ」
発生する爆音、音が追いついた。
体の周囲が破壊される感触が、痛みが脳へと伝わる。
即座に鼻と片目で周囲の状況を確認する。
奴との距離は先ほど踏み込んだ時よりも前の位置、だが届いてはいない。
全身が何かに囚われているかのような感触、しかし眼も鼻も何も情報を与えてくれはしない。
ただ体だけが宙に浮いて止まっている。
脳が素早く結論を導き出す。
「――不可視の鎖、そんな馬鹿な!」
この可能性は考慮していた、何らかの方法で感知できぬ鎖を展開しているだろうと。
しかしこの強度はありえない、鉄を基にした鎖程度で私の全力の突進を抑えられるはずが無い。
だがこの体に纏わり付く感触は、間違いなく鎖のそれだ。
手で見えない鎖を掴む、確かに存在している。
触覚、いや物理的接触でしか探知できない鎖が確かにここに在る。
魔力を腕に込め破壊を試みるがビクともしない、封印系の魔法を使われている痕跡は無い。
只ひたすらに、この鎖が硬いのだ。
「無駄だ、その鎖はそこにあって、そこに無い。無いものは断ち切れない」
「なんだ、なんだこれは!?」
片目で奴を目視する、奴の眼を見てしまうことになるがそんなことは問題ではない。
今はこの謎を解き明かすことを考えなければならない、鼻が何も感知しないのであれば少しでも情報を――
「なんだ、その、眼は」
奴の瞳、それは間違いなくベグラギュドと同じ『盲ふ眼』だった。
しかし、私が驚いたのはそれではない。
その瞳に映る私の姿が異質なのだ、奴の瞳には私が映っている、だがその私は鎖に囚われていた。
奴の眼にだけ映る鎖、そうか、そういうことか。
「察したようだな。お前を捕らえている鎖、それは俺の眼の中だけに存在している。真の『盲ふ眼』とは他者に使うものではない、自らの眼にのみ存在し得ないものを投影しその光景で世界を侵すものだ。自らの想像にて世界を埋め尽くし、自らを盲目にする。これがこの眼の本来の使い方だ」
エクドイク、奴の眼から血が零れ出す。
眼を潰した私と近い状況だが奴のそれは過度な魔力を使用した弊害、眼の血管が耐え切れずに破裂しているのだ。
当然だ、言葉の意味通りならばそれは眼の中を通して世界に物質を生み出している手法、眼の中に鎖が湧き出すそれと同等以上の負荷や痛みが襲っているはずだ。
「そんなことが、それは眼の力では、それは――ッ!?」
突如全身に膨大な魔力干渉が行われる、あらゆる力が尽く奪われている。
これはググゲグデレスタフが捕らわれた時の――
「『鎖縛の六塔』、何度も繰り返し構築した技だ。視界内に対し自分の意思通りに鎖を生み出せるのならばこれらも一つの工程だけで生み出すことができる……これで貴様の防御力も落ちたな」
奴が一本の鎖を取り出す、目視できるということはこれは現実の物だ。
先端には杭が備え付けられており、既に浄化魔法にて強化されているのか白く輝いている。
ありえない、これほどの封印術を一瞬で完成させられるような人間がいるはずが無い。
この私が、『嗅ぎ取る鼻』ラミュグレスカがベグラギュドの残した人間なんぞに遅れを取るはずがない。
「貴様、人間を捨て、悪魔へと成ったか!」
「そんなものに拘りなど無い、俺が拘るのは俺の価値だけだ」
鎖が奔る、杭の先端が真っ直ぐにこちらの顔に向かって――
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勝負は決着した、ラミュグレスカは張り巡らされた鎖を突破しようと強引に突撃し鎖に遮られた。
そして突如現れた『鎖縛の六塔』により完全に抑え込まれ、最後に顔面を――うへぇ。
しかしあの技は発動までに時間が掛かると言っていたが、一瞬で現れたぞアレ。
鎖の編み込みの動きどころかまるで魔法でポンと出したかのように――って鎖が消えた。
「――いったい、何が起きたの?」
紫の魔王は困惑の表情を見せている、見たままの光景なのだろうが……まあ確かに不思議な光景ではあった。
まるでラミュグレスカが鎖を全く認識していないかのような立ち回り――そういうことか。
席を立ちミクスを手招きしてエクドイクの元へ向かう。
勝利してもなおエクドイクはふらふらと鎖に支えられたままで動いていない。
「エクドイク、大丈夫か?」
「……同胞か、ご覧の通り勝ったぞ」
エクドイクの両目から夥しい血が流れている、当人はぐったりしているし軽くホラーだ。
何かしら無茶な力を使ったのだろう。
「エクドイク殿、大丈夫でありますか――ひぃっ!?」
「やっぱ怖いよな。ミクス、エクドイクに治療魔法を頼む。多分こいつもう動けないぞ」
「そんな心配は――いや確かにしばらくは動けんな」
鎖の支えを解いたエクドイクをミクスと共に肩で担ぎ移動する。
「エクドイク、ラミュグレスカがあの鎖を認識しなかったのは新しい技の影響か?」
「鎖だったのですか? 私には何かしらの精神干渉でも行ったかのように見えましたが」
「同胞には見えたのか――そうか、その眼鏡は俺の魔力が込められていたんだったな」
エクドイクは種明かしをする、自分の視界に鎖を投影しそれを現実世界に干渉させたのだと。
うん、それって物理法則全力無視のかなりやばい系だな。
どうやらその鎖が見えていたのはエクドイク本人とその魔力を込められていた超人眼鏡を使用していた『俺』だけだったようだ。
あらゆるものを嗅ぎ取れるラミュグレスカでも人の視界にしか映らない虚像を嗅ぎ分けることはできなかったようだ。
「そんな力を……いくら大悪魔から与えられた眼と言えど常軌を逸脱していますな」
「父にこの眼を与えられた当初からその片鱗はあった、しかし負荷が酷くてな。結局は父の使ってた通りの範囲で使用していた。だがラクラ=サルフに負けてからと言うもの、新たな力を得るために密やかに特訓していたのだが……上手く使えて良かった」
「想像した光景を眼に焼きつけ、それを本物にする力か……それってもう何でもありじゃないのか?」
「そうでもない、より鮮明なイメージができなければ物質化はできん。今の俺には鎖しか出せん」
その鎖の強度は強化された大悪魔に破壊されないのだ、十分と言えば十分だろう。
全員のいる場所に連れて行き、ミクスに治療を開始させる。
「――同胞、俺の勝利は計算の内か?」
「いや、ぶっちゃけ負けること前提だった」
「だろうな、つまり俺はお前の想像を上回って見せたわけだな」
「ああ、やっぱ凄いよお前。本当なんでラクラに負けたんだか」
「それを言ってくれるな」
エクドイクの勝利は嬉しい誤算だ、これで一気に手順を省略できる。
とは言え展開が加速した以上当人の戦闘参加はもう難しいだろう。
「ま、ゆっくり休んでいてくれ。お前の勝利は無駄にはしない」
「人が死んだような言い方だな、だがそうしてくれ。俺の価値を無駄にしてくれるなよ」
紫の魔王の座るテーブルへと戻る。
当人も傍にいるデュヴレオリも動揺の色が見えている。
ラミュグレスカがエクドイクに敗北したことが予想外過ぎたのだろう、『俺』もそう思う。
「さて、これで残る駒は4つだな。どうだ詰んだ気分は」
「詰んだ? まだ勝負は終わっていないわよ?」
「ラミュグレスカと同等なのは『耳』、それ以上にデュヴレオリがいる。だが残りの二体はそこまでじゃないんだろう? つまりその二体を抜けばお前の駒は盤上に現れる、つまりはそういうことだ」
そう、紫の魔王にとっての鉄壁の布陣は『舌』『耳』『鼻』の圧倒的強さを誇る大悪魔三体で最終的な防衛ラインを用意することだ。
しかしその一枚が既に瓦解してしまった。
『右脚』『左脚』の二体さえ倒せば紫の魔王の駒は盤状に出さざるを得なくなる。
「――『右脚』『左脚』がラミュグレスカのように強化されてないと判断しているのは何故かしら?」
「簡単さ。デュヴレオリだけは特別強化されているが他は違う、お前が力を与えている基準は忠誠の度合いじゃない、大悪魔本来の強さによるものだ」
紫の魔王は忠誠度に応じて力を分け与えているように言っていた。
しかしエクドイクや金の魔王から聞いた話を統合すればその限りではない。
明らかに本来のスペックを重視して選別を行っているのだ。
「なあデュヴレオリ、以前ラクラと戦った奴、二戦目の大悪魔の名前ってなんだったっけか?」
「――フォークドゥレクラだ」
「そうそう、お前等大悪魔って名前覚え難いんだよな」
「何が言いたい」
「お前くらいに献身的な大悪魔の名前一人くらいなら覚えられるだろうけどさ、その命を駒のように扱う紫の魔王がしっかりと名前を覚えていられるものかね?」
「主様はいざと言う時『籠絡』の力を使うためにそれぞれから名前を引き出している。名前に対する記憶力が鮮明なのは当然だ」
「いいや、実際紫の魔王はあまり他者の名前には興味ないんだよな。紫の魔王、トルトさんが交渉していたターイズの商人の名前を言えるか?」
「……」
「そうだよな、興味の範疇に無かった相手の名前なんて覚えていないよな」
紫の魔王は普段から他者の名前を言わない、『籠絡』の力を不用意に使わない為でもあるのだろう。
名前とは相手の名前を言って、呼んで覚える物だ。
その工程を省いて名前だけを覚えるのは地味に大変なのだ。
「その中であんなに反抗的だったググゲグデレスタフや裏切ったフェイビュスハス、ハッシャリュクデヒトの名前もはっきりと記憶しているのは凄いよな」
「覚えようと思ったら覚えられるわよ、それくらい」
「お前の話を鵜呑みにするならフォークドゥレクラが二戦目に出てくるのはおかしいんだよな。アイツを観察していたが建前上の忠誠心は後の二体よりも遥かにマシだった。お前は知っていたんだ、『駒の仮面』の強化とフォークドゥレクラの能力の相性が微妙だと言うことをな。だから先に出した」
「それが、どうしたと言うの?」
「デュヴレオリ、お前達大悪魔は呼び出された後にご丁寧に能力を披露して見せたのか? 見せていないだろう?」
「それは――」
「紫の魔王は元から知っていたんだよ、お前達大悪魔の名前を、能力を、強さを。自らの魔界で生まれたユニークの大悪魔だ、後々利用する可能性が高いからとクアマに潜んでいたことからな」
だからこそ今日のような咄嗟の勝負の際にこのような形式を用意できている。
元より強い『舌』『耳』『鼻』の大悪魔をさらに強化して最終戦に備えておいたのだから。
「――そうね、でもそれは『金』から話を聞いていれば察することのできる範囲よね? 自分で見抜いたように見せて私を動揺させようとしているのかしら? それともデュヴレオリの私への忠誠を揺らがすつもり?」
「いやいや、デュヴレオリの忠誠心はお前が復帰する前から持ち続けていたものだってのは知っている。多少お前が慎重になり、大悪魔を信用せずクアマから隠れて様子を窺っていたことを知られていたとしても揺らぐものじゃあない、だよな?」
「無論だ」
「あくまで『右脚』『左脚』がそこまで強化されていないってことを証明しただけに過ぎない。何を興奮しているんだ?」
「興奮なんて――」
「『右脚』『耳』、次はその二枚を当てる」
「――ッ!?」
含みを持たせ雄弁に語り、紫の魔王の苛立ちを煽った所で次の一手を宣言する。
「ちなみに当てられたくないなら使わなきゃ良いぞ。その場合お前の駒を場に出すことになるけどな」
紫の魔王が使える駒は『舌』『耳』『右脚』『左脚』の4つ、この中から三つを選択する必要がある。
こちらの宣言を外すだけならば『右脚』か『耳』のどちらかを使用しなけば良い。
だがそれはできない、宣言された以上、挑発された以上紫の魔王ならば確実にその2つの駒を使用する。
――そこまでは読めている。
「……良いわ、当てられるのなら当ててみなさい」
そして互いに駒を引き出しの中に設置していく。
互いに完了し引き出しを閉める。
浮いてきた駒は――
「最後の砦をもう出したのか、だからどうだって話ではあるけどな」
「そん……な……」
紫の魔王の駒は左からなし、右脚、耳、舌、なし。
こちらは、なし、ウルフェ、ラクラ、なし、『俺』。
ルールによりウルフェとラクラ、『耳』『右脚』のタッグ勝負が決定した。