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まず多彩。

おかげさまで毎日更新で100話達成です。

いやぁ意外と何とかなるものですね。

合間に別の連載も始めてましたし……。

皆さんのブクマや評価、感想などの励ましにより此処まで頑張ってこられました、ありがとうございます。

「勝負を捨てる気――と言うわけではないのよね? いいわ、これは貴方の全てを賭けた戦いなのだから私からは何も言わないわ」


 紫の魔王は勝負の決まった駒を持ち上げる、どれも同じ悪魔の駒に見えたのがよくよく見れば駒の部位に黒い箇所が見られる。

 今手に取った悪魔の駒は角の色が変化している。

 そしてその駒を広場の方へ放り投げた。


「ファフィルムゼクショ、貴方の出番よ?」


 駒を放り投げられた広場に一つの影が現れる。

 そして放られた駒を掴み取り、一体の紳士服を着た人の姿をした大悪魔が姿を現した。


「『焦がす角』ファフィルムゼクショ、ここに」


 人間の姿をしていながら特出すべきは頭から生えた二本の巨大な山羊の様な角。

 ただしその大きさは腕と同じほどの大きさであり、黒く禍々しい。


「降参する際の目安として教えておくけど、この勝負において全員の『駒の仮面』の制約は全て解除しているわ? デュヴレオリはさらに手を加えていて、何体かも少しだけ弄っているわよ?」

「そうか、助かる」


 つまり今から戦う大悪魔は全てが今までよりも高いスペックを誇っている可能性がある。

 話の内容からして数体はさらに高性能と、ラグドー卿以下ではあるだろうがラグドー卿でもなければ苦戦するレベルというわけだ。

 ミクスは既に腕まくりをしながら準備は万端の模様。


「ミクス、確か奴の話は聞いているよな?」

「もちろん、エクド殿から聞いておりますぞ!」

「この戦いは全勝する必要が無い。相手は全部で八つの駒を持っている、五つまで消費させられれば紫の魔王の駒が盤面に出てくるようになる。そこまでいければ戦わなくても勝機はあるんだ」

「そうですな、それでご友人は私にどうしろと?」

「絶対に勝てとは言わない、負けたとしても次に活かせるように立ち回って欲しい」


 勝利の前段階としては五勝すること、これが最低条件だ。

 つまりラグドー卿と同格のデュヴレオリや先に言われた弄られている大悪魔との戦闘も避けられないわけではないと言うことだ。

 『駒の仮面』の強化範囲ならば十分に勝機が見えている。


「むむ、それは分かりますがこれから戦いに向かう者に掛ける言葉ではないですな」

「お前に何かあったらマリトに顔向けできん、後『俺』が辛い」

「それは嬉しい言葉ではありますが……もっとこう――」


 ミクスの両肩に両手を力いっぱい叩きつけながら置く。


「俺の為に勝ってくれ! 行って来い!」

「が、合点承知です!」

 

 ミクスは広場の中央へと向かっていった。

 こちらはテーブルを離れエクドイクの傍に寄る。


「確かあの大悪魔は角から雷撃魔法を高速で打ち出せるんだったな」

「ああ、周囲を一瞬で焦土に変える多重雷撃魔法の使い手だ。しかしさっきの駒の配置は何の真似だ?」

「見てりゃ分かる」

「そうか」


 これで納得してくれるあたりイリアスに比べ気楽で良いよなエクドイクは。

 なんて思っていたらイリアスが凄い目で見ている、近づいたら噛まれそうだ。

 

「そうだ、これを渡しておこう」


 とエクドイクが渡してきたのは眼鏡、眼鏡だと?


「なんだこりゃ」

「お前が以前魔法研究の場で俺に押し付けた奴だろう、最後の調整を俺がすませた」

「ああ、あれか」


 魔法研究の一環で開発していたアーティファクトのようなものだ。

 名前を付けるなら『超人眼鏡』、文字通り魔力を込められた状態の眼鏡を掛けると動体視力が跳ね上がるという物だ。

 ターイズの連中は皆魔力強化によって高い動体視力を持っているのだが、それをどうにか再現できないものかと試行錯誤して作ったのだ。

 原理までは問題なかったのだが微細な調整は戦闘経験のないノラやルコには難しいと言うことで魔力の扱いに長けているエクドイクに投げていたのだ。

 

「試してみていいか?」

「ああ」


 エクドイクが手頃な長さの鎖をその場で円を描くように振り回す。

 鎖が視界で追えなくなったのを確認し目を閉じたまま眼鏡を掛け目を開いてみる。

 するとはっきりと鎖の動きが目で追える、集中しようとすればするほど鎖の動きはゆっくりに感じられ、強く集中すれば鎖の形まではっきり見える。

 これならば掴む事も――あ、ダメだ視力だけ感覚が加速しているものだから体がほとんど動かねぇ。

 口も上手く動かせない、目を閉じると体の動きが従来の感覚に戻るのでそのまま眼鏡を外す。


「これは凄いっちゃ凄いが実戦じゃ使えんな」

「だろうな」

「だが一般人でもお前等の戦いをよく見れそうだ」


 この辺のレベルになると何が起きているのかも分からん、降参の指示を出すのも遅れてしまうだろう。

 ――この場に間に合ったことを感謝するようなことは起きて欲しくはないのだが。


「それでは両者、構えて」


 10mの距離を向かい合い立っている両者の間で開始の合図を執り行うのはデュヴレオリだ。

 ミクスは両手にナイフを装備、対するファフィルムゼクショは両腕をポケットに入れている。

 ふてぶてしい構えだが頭の角から雷撃を放つのであれば手は使わないよな。

 こちらも再び超人眼鏡を装着、開始直前はなるべく集中力を落として動きが見えたら集中しよう。


「勝負――始めっ!」


 開始の合図と共にミクスはナイフを一つ投擲する、同時に背中に手を回しすぐに新しいナイフを装備する。

 投げられた短剣は真っ直ぐファフィルムゼクショの頭部に向かっていく、しかしファフィルムゼクショの黒い角が突如眩く輝いたと思った瞬間、ナイフは弾かれ周囲に落とされた。

 結構集中して見ていたのだが雷撃の様子がほとんど見られなかった、そりゃ動体視力を強化した所で光の速度は見えんよな。

 

「遅すぎて欠伸の出る攻撃だな」

「ふむ、ではこれはどうですかな!」


 今度は二本のナイフを投擲、僅かに時間差がある。

 ファフィルムゼクショは表情一つ変えることなく雷撃で二本のナイフを弾いて見せた。

 だがそこまでを認識した瞬間、ファフィルムゼクショに迫る三本目のナイフが視界に映る。

 一本目のナイフが雷撃で打ち落とされた瞬間に投擲したのだろう、

 雷撃の光により誰もがその瞬間を見逃している、実に巧みな技だ。

 

「無駄なこと――ッ!?」


 一瞬だけ角が光ったと思ったがファフィルムゼクショは咄嗟に腕を出しナイフを腕で受ける。

 ナイフは腕に刺さり、僅かに血が滲み出している。

 防御に使った腕を降ろした先にファフィルムゼクショの怒りの形相が見える。

 何故今奴は雷撃魔法を使わなかったのか。

 

「おや、手を出す礼儀を覚えたようですな?」

「――魔封石か」

「ご明察」


 ファフィルムゼクショは忌々しそうに腕に刺さったナイフを鮮血を散らしながら抜き、投げ捨てる。

 ナイフの刃に返しが付いているせいもあり、抜く際に多少の肉を削ったようだ。

 視界でそのナイフを追うと確かに装飾品の宝石の代わりに魔封石が埋め込まれている。

 あのサイズなら周囲2mまでなら魔法を打ち消せるだろう。

 腕からはポタポタと血が零れている。

 

「痛そうですな?」

「くだらん児戯だ」

「では今度は数を増やして行きましょう!」


 ミクスは両手に三本ずつ、合計六本のナイフを装備し投擲する。

 一体何本持っているんだあいつは。

 再び雷撃を使おうとしたファフィルムゼクショだったがすぐに回避行動に切り替える、一本目のナイフに魔封石を仕込んでいたのだろう。

 『駒の仮面』の強化を受けているだけあってナイフの動きを完全に見切った上で回避する。

 六本全てを回避しきった瞬間、やや速度の速いナイフが一本飛んでくる。

 避けた瞬間の体勢では回避は難しい、そんな一撃だ。

 

「つまらん」


 ファフィルムゼクショは回避できないならばと飛んできたナイフを片手で掴み止めて見せた。


「いえいえ、詰まっていますぞ、たっぷりの魔法が」


 そして掴んだナイフが爆発した。

 あ、あれってメジスの暗部も使っていた奴じゃん。

 得意の雷撃で弾けば良かったのだろうが魔封石のナイフの印象が残っている以上雷撃で叩き落すと言う選択肢が奪われている。

 結果、受け止めてはいけないナイフを受け止めてしまっている。


「児戯だと言った、この程度の魔法で俺を倒せるとでも?」


 煙の中から無傷のファフィルムゼクショが現れる、いや爆発の影響で上半身の服が吹き飛んではいる。

 しかしそれもすぐに修復していく。

 『駒の仮面』が強化するのはあらゆるパラメータ、耐久力も向上していると見て良い。 


「しかしナイフは刺さりましたな、大悪魔本来の姿になれば投擲されたナイフくらい弾けるでしょう?」

「普通の悪魔と違いの出ない姿は嫌いでな、せっかくだからと得た姿を好んで維持させてもらっている」

「それはそれは、私もそちらの姿の方が好ましいですからな」

「それに俺は与えられた力の大半をこちらに回しているのでな」


 ファフィルムゼクショがさらに後方に飛ぶ、そして黒い角が眩く輝き出す。

 周囲に膨大な電気が帯電しているのが素で見える。

 こんな物が発射されたら――と思いミクスを見るが特に問題のないように冷静だ。

 

「そうら、焦げろ」


 両方の角から視界を埋め尽くす程の雷撃が放たれる。

 しかしその雷撃はミクスに届く前に霧散する。


「馬鹿なッ!?」

「失敬、既に私の周囲には魔封石を一定間隔で散りばめていますのでそんな逃げ道を埋め尽くしそうな広範囲の魔法は届きません」


 言われてみると周囲にちらほら魔封石の小さな欠片が放り投げられている。

 先ほどの爆発の際に便乗してばら撒いたということだろうか、常に何かしらしているな。

 と思った瞬間にファフィルムゼクショの肩に一本のナイフが突き刺さった。

 ファフィルムゼクショの雷撃にあわせて一本のナイフを高く投擲していたようだ。

 今まで真っ直ぐに飛んでくるナイフを意識させられていた為、頭上から振って来るナイフへの警戒が緩んでいたのだ。

 大悪魔達の弱点、それは高いスペックを得たことによる危機感の弱さである。

 自分は強者になったという驕りが敵の攻撃に対する集中力を奪っているのだ。

 さらに言えば対人技術が致命的に無い、絶対強者として力を振るっていただけの存在が小技などを覚えるはずも無いのだ。

 

「貴様……」

「そう怒らないで頂けますかな? 冒険者からすれば魔法対策なんてあって当然なのですぞ?」


 冒険者において魔法の価値は高く、取得している者は多い。

 しかし魔法特化の冒険者はまずいない、それは魔封石の存在があるからだ。

 魔物相手ならば気兼ねなく魔法で攻撃できるが同業者や山賊や盗賊などを相手にする可能性がある以上過信できない。

 そしてそれは同時に冒険者達も魔法を扱う相手への対処法を熟知していて然るべきなのだ。


「この程度で俺をどうにかできると思っているのか!?」

「そうそう、ご友人に勘違いされるのは嫌ですから補足をいたしますが、私が好ましいと言ったのはナイフが刺さる体だということに対してですぞ?」


 喋りながらミクスが数歩下がりながら一本のナイフを真上に放る。


「何を言って――」


 ファフィルムゼクショが吐血する。

 いつの間にかファフィルムゼクショの全身に複数のナイフが突き刺さっている。

 ミクスは放ったナイフを特に何事も無くキャッチする。

 

「離れてくれて助かりました、おかげでそのナイフを使えましたからな。それは投擲後一定範囲内にある特定の鉱石を引き寄せる特殊な性質を持った魔力を生み出す魔法を仕込んであります。私のナイフの大半にはその鉱石が先端に使われているのです」


 ファフィルムゼクショに刺さっているのは今までに投げたナイフだ。

 そして最後に肩に刺したナイフに強力な引力を発生させて周囲のナイフを再び突き刺した。

 磁石に近いといえば近いがそれよりも引力が強く、かつ範囲が限定的だ。

 そして引力の特性を持たせた魔力の仕事ならば魔封石を仕込んだナイフすら効果の対象に含められる。

 突き刺さる瞬間には魔法が解除され特性を持った魔力は失われるが引力によって発生した速度は消えない。

 結果全てのナイフが敵に刺さったというわけだ。

 身体能力の高さがあれば回避できたかもしれないのだが、直前に刺さったナイフの影響で真上に投げられたナイフに視線が流れてしまったのだろう。

 今のミクスと奴の距離がその効果範囲の射程と言うことなのだろう、雷撃魔法を放つために取った距離すら利用していることになる。

 ひょっとすれば雷撃魔法を撃たせる為に後方に下がることすら想定の内だったのかもしれない。

 対人に於ける心理戦のレベルが異常なまでに高い、これが賢王マリトと王位を争う直前まで行ったミクスの知略か。

 

「なん……ども、言わせるな! この程度の傷――ぐ、が、あ、がああああ!?」


 ファフィルムゼクショが突如叫び出し、悶え始める。

 全身が痙攣している、これはナイフのダメージによるものではない。


「全部のナイフがそれぞれ異なる性質の特注品ですぞ、魔封石を仕込んだナイフにもそれぞれ異なる毒を塗ってありますからな。最初の毒は効かなかったようですが何本目かの毒は効いたようですな?」


 そういって握っていたナイフに魔法を使用すると、刃先が白く輝いている。

 その特徴を知らない悪魔はいないだろう、メジスの聖職者達が好んで使っている対悪魔に効果的な浄化魔法の光だ。

 

「お察しの通り浄化の魔力を練りこんだ物です、これが刺されば貴方でも大きなダメージが入るでしょうな?」

「ぐ、う、うが……」


 ファフィルムゼクショは歯を食いしばりミクスに向き合う、浄化魔法のナイフの危険性を察知したのだろう。

 大きく投擲のモーションに入るミクス、ファフィルムゼクショは最大限に警戒を見せている。

 得意の雷撃魔法は魔封石のナイフが刺さっているために使えない。

 全力で回避――いや毒で動きが封じられている以上は大きな行動はできない。

 しかし最悪腕で防御すれば対処は十分可能だろう。

 そしてミクスがナイフを投擲、同時にファフィルムゼクショの頭部が後方に吹き飛ばされる。


「――?」


 何が起きたか分からずファフィルムゼクショは地面に倒れる。

 そしてそのまま事切れた。

 頭部には投擲したであろうナイフが深々と突き刺さっていた。


「最後に、私が本気で投げるナイフの速さは欠伸する余裕なんてありません」


 野球に例えるならば今までの投擲全てがスローボールの変化球だったのだろう、そこから繰り出される最大速度の剛速球。

 集中していたのに全く見えませんでした、はい。


ギャグ(肋骨)の方を気に入っている知人から不定期にするくらいなら両方を間隔あけて投稿すれば良いじゃないかと言われました。

一区切りである100話連続投稿も果たしましたのでこれからはこちらの作品は二日に投稿のペースとさせていただきます。


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