【銀色】
―――突如暗闇を閃光が裂いた。
「うわっ!?」
「この入口は秘密にしといてくれ」
と男は冷静に言う。
暗闇が晴れると、そこには銀色の壁が遠く左右にそそり立っていた。
天井はとても高く、自分から50mはゆとりがあるように見えた。
派手に金色に彩られた螺旋階段が、フロアの中央から上へと伸びていた。
「帰ったか、"ソーヤ"」
と、若い女性の声が階段から聞こえてきた。
「あぁ、うん。ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」
と男は返すと、突然私の右手をぐいっと引っ張って同じ位置へ並ばせた。
なんだ、と女性の声と共に、カツ、カツ、と階段からブーツが見え、だんだんと緋色のマントに身を包んだ姿が現れた。
「…!?」
女性の、口と目だけ露出された黒い仮面が、何か驚いた様子を浮かばせた。
「なぁソーヤ…アタシの見間違えか?」
「ん?」
「ん、じゃなくて。この女、どこで見つけてきたんだ」
女性は溜息まじりに腰に手をあてる。
男は自慢気に
「グレイ交差点の近くだよ? トビを追ってたら柵の近くでぐったりしてるところを偶然見つけたんだ」
と調子高い声で話した。
「ふーん…で、なんで連れてきたんだ」
「いやぁ、この子"アレルガー"かもしれないんだ! ほら、服装とか! なにこのザラッザラした生地!? 明らかに生物由来ではないことは分かるね、うーん」
「アレルガー!? …っていうか、それただのジャージだろう、それがどうか…」
女性が一声入れた。しかし、私はその発言に疑問が生じた。
「え、知ってるんですか…?」
と思わず声が出た。
「あ、いや…べ、勉強をしたんだ、はは…。異世界の住人の衣食住は大体把握している」
女性は少し焦ったような声で、仮面越しの微笑を作った。
「うわ、"シーナ"が笑ったの初めて見た」
と、男は口を半開きにして驚いていた。
「悪いか」
女性は仮面の頬の部分を膨らませた。
「まあまあ…とりあえずは、この子がお世話になることだけを伝えておきたかったんだ。シーナは部屋に戻ってていいからさ」
「ああそう」
女性は踵を返し、階段をゆっくりと上っていった。
少し時間をおいて、頭の隅の問いを引き出す。
「あ、そういえば名前聞いてませんでしたね」
「おっと、それは失礼。私は『ソーヤ・カエルム』だ、ソーヤでいいぞ」
「わかりました、ソーヤさん」
「島随一の貴族に私がタメで、君が敬語というのも少し気にかかるな…いや、そういうのもいいのか?」
彼はどことなく能天気な様子でぶつぶつと独り言を始めた。
私がドス黒い目の隈を前面に出し「疲れてますんで早くどこか休める場所ないですか」アピールを念じると、彼はそそくさとコホンと息を整えた。
「ま、まあいい。とりあえず私の部屋に案内するよ。『アビリティクラス』が分からない限り君専用の部屋を設けることができないんだ」
「アビリティクラス?」
「いわば主能力の属性みたいなものだ。現在確認されてるものでは12種あるが、アレルガーやゴアに関してはまだ不明瞭な点も多くてね…」
ゲームでしか聞いたことのなかった単語が、当たり前のように交差する。
「基本的には部屋は、アビリティクラスで階層や棟を区切るんだ。君の場合はまだ不明だから今から調べなければならない」
「は、はあ…でも、どうやって?」
「その調査担当が私ということだ。ついてきなさい、かわいいかわいい貴族よ! ワッハッハ!」
彼はとてもじゃないがまともだとは思えなかった。いやとてもか。
偉人のような笑い方が下手な彼には、無駄に格好つけることを推奨しなかったが、このままのほうが彼の威厳を傷付けないままでいいかもしれない。
そう思いつつ、私は彼の足をゆっくり追う。
軽い人物紹介
メイカ
アビリティクラス:???
血液型:A
性別:女
年齢:20
身長:163.2cm
転移前は大学生で、東京近郊の安アパート(とはいってもそこそこの家賃だが)で一人暮らしをしていた。性格はオタク気質で、友達は割といた。好きな食べ物はクロワッサン、嫌いな食べ物は特にない。転移後の世界では島随一の貴族の娘だが、5年前に失踪したらしい。
ソーヤ・カエルム
アビリティクラス:???
血液型:A
性別:男
年齢:21
身長:181.1cm
謎の白衣男。テンションの上げ下げが激しく、シーナからはアメリカン気質だという評価を下されている。その割には体格は細めで、綺麗好きのめんどくさがりらしい。好きな食べ物は納豆、嫌いな食べ物はあんこ。
シーナ
アビリティクラス:???
血液型:???
性別:女
年齢:???
身長:???
詳しいことはまだわかっていない。声は若々しく、少しハスキーがかっている。
トビ
アビリティクラス:???
血液型:???
性別:女?
年齢:???
身長:???(150前後)
ゴア襲撃の際、突如現れた小柄な少女?。とても素早い動きでメイカの前から姿を消した。