【白衣】
次らへんからノートの内容です
「はぁぁぁ…!?!?」
男は激しく足を後ろにさすり、片眉を吊り上げた。
「見た目は確かにメイカ様に若干似ているようにも…いやいや、ともかく! 私は科学者なものでね、実際に確かめないと気が済まない性格なんだ、君を連行する!」
男は私の左腕の関節部を掴んで足を進めようとした。
少し斜めに傾く橙色と茶色のコントラストが、青空を切り裂く。
「ちょ、ちょっと! 聞きたいことがあるんですけど!」
「後で聞くから」
一質問を蹴り飛ばすかのように、男は灰色の石垣と化したいつかの舗装路を駆け始めた。
手を引かれ、風も周囲の奇妙な眼差しも切りながら、街中を突き進む。
かつては私の主な通勤・通学路として役をなしていたコンクリートの道も、今…いや、この現在では、広々とした水のキャンパスが縦に塗られている。
常に動く視線に一瞬かすれた花屋では、悠々と空を舞う蝶が極彩の花束の上で翅を休め始めていた。
私達の進行方向とは垂直に交わる人々の恰好は、男女共に皆あの黒いヤツと似たものであった。
川横を駆けつつ、高速で進む1人ナビゲーションを堪能しているうちに、ふと足元を見るとさっきまであった2人分の影が消えていることに気が付いた。
いつしか街の話し声は聞こえなくなり、仄暗く狭い、電気回路丸出しの裏道を小石を散らしながら進むと、突然男は足を止めた。
「着いた」
男はそう言うと、周りから見れば浮いて見えるほどの輝かしい、高さ3mほどの銀の扉に右手を添えた。
して、右手から緑の閃光が一瞬発せられたかと思えば、既に扉は開放されていた。
男は「来てくれ」とだけ言い残し、パチパチと瞼に残る緑色の残像を鬱陶しく思いながら、真っ暗な扉の先へ足を踏み入れた。
瞬間、顔や足首をアイスクリーム並の冷気が囲い込んだ。