97話 第五章 第七章 トウカの隠し事
メイド控え室の扉が激しく閉じられた。そしてメイド長の声が響く。
「皆さん、もう少し節度を持ってください」
急いで片付けを始めるのはメイド達。当然、トウカも含まれている。決して、トウカがはしたない格好をしていた訳ではない。そして、今日来たばかりのトウカが私物を置いている訳でもない。それでも、皆と協力して片付けを行っている。連帯責任というものだ。そんな慌ただしい中、一人のメイドがトウカに質問した。
「さっき、入口にいた方が新人の執事さん? お嬢様の部屋で会ったんでしょ?」
トウカがお嬢様の部屋に食事を運んだ時の話だ。メイドの界隈でも話題に上がっている。新人の執事が早速おもちゃにされたと言う事実。
「ツバサさんのこと?」
「え! もう、名前まで聞いたの? トウカさん、ずるい!」
「えっと……。名札をたまたま見たのよ」
トウカが苦しい言い訳で逃れようとする。執事に名札などぶら下げていない。名札が付いてるなんて、まるで幼稚園児のようだ。
「トウカさん、何か隠し事しない?」
メイドの一人が、じと目で見つめる。
「な、何もないわ」
トウカがソッポを向いた。目がキョドっているのを誤魔化しきれていない。今のトウカは隠し事だらけ。ツバサのことはもちろん、城に侵入することすら隠し事。思い当たる節が多ければ、挙動不審にもなるだろう。
そして、片付けが一段落すると、再度、扉が開かれた。ツバサの姿が現れるとメイド達の黄色い声が木霊する。まるでアイドルスターが現れたような歓声だ。
そんな中、ツバサが口を開いた。
「トウカさん、帰りますよ」
その言葉を発した途端、メイド達の目がトウカに集まる。
「ちょっと、知り合いなの?」
メイドの一人に突っ込まれた。
「えっと、ちょっと知ってたり、知らなかったり……」
トウカは冷や汗全快だ。誤魔化してやり過ごそうとした作戦は泡と消えた。
「一緒に帰るって、もしかして新人執事さんと付き合ってるとか?」
「まさか! あたし別にいるもん!」
トウカは全力で否定する。否定してしばらくすると顔を赤らめる。
「え? 誰、誰?」
メイド達は興味津々だ。
「言わなきゃ、ダメ?」
「ダメよ」
メイド達が身を乗り出す。
「今度、連れて来るから」
トウカは手を合わせ堪忍ポーズを取り入口のツバサの元に駆け出した。
「ツバサさん、行くわよ」
トウカがツバサの手を取り廊下に駆け出す。
「やっぱり、トウカさん、ずるい」
背後からはメイド達の嫉妬の念が伝わってきた。