96話 第五章 第六章 メイド控え室
ツバサが執務室を後にする。長い廊下であっちへ行ったりこっちへ来たり、迷子の様相だ。そんなツバサが向かうところは。
「メイドの控え室はどこだろう?」
どうやらツバサはメイドの控え室を目指しているようだ。
「あらあら、新人の執事さんではありませんか」
声をかけたのは歳増しのメイド長だ。
「あっ、メイド長ですね、先程はどうもありがとうございました」
「あら、私、自己紹介しましたか?」
「いえ、さっきお嬢様の部屋でメイド長と呼ばれてましたから」
ツバサは、まだメイド長とは挨拶を交わしていなかった。しかし、お嬢様の部屋での会話からメイド長という役職を把握したようだ。
「あらあら、よく気が付くようで。挨拶が遅れ失礼いたしました。私がメイド長をしております。お見知りおきを」
「私はツバサです。よろしくお願いします」
ツバサがペコリとお辞儀をした。
「ところで、困りごとで?」
メイド長がツバサに質問した。
「あの、迷子になってしまって……。トウカさん、いえ、その、新人のメイドさんを迎えに行きたいんですが……」
「メイドの控え室ですね。私も行きますので、どうぞご一緒に」
メイド長が歩き出す。その後ろをツバサが追った。しばらく歩くとメイド長の歩みが止まる。
「こちらです」
どうやらこの部屋にトウカがいるようだ。扉の向こうからは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。和気あいあいという雰囲気が扉の奥からにじみ出る。そんな扉をツバサが開けた。
「……」
ツバサが口を開け言葉を無くす。無理もない。そこにはメイド達のあられもない姿の数々が飛び込んできた。
あるものはスカートでパタパタ扇ぎ、あるものは椅子に腰掛けてあぐらをかく。窓際には下着の類いが彩り豊かに掛けられているのもはしたない。女の子であるツバサでも言葉が出ない。普段男が入ることが想定されていないのが丸分かりだ。
一方、メイドの面々も困惑の表情だ。まさか、男性に見られるとは思いもしなかったのだろう。実際は男装してる女の子だ。大したことはないかもしれない。しかし、先程まで新人執事のツバサに取り入ろうと考えていたメイド達、はしたない姿を見せたのは大失態だ。沈黙の時間が流れた。
「しばし、お待ちを」
沈黙を破ったのはメイド長だ。メイド長が部屋に入ると勢いよく扉が閉まった。中からはドタバタと音がする。急いで片付けをしているのだろう。
「……」
ツバサは廊下に一人立たされる。まるで宿題を忘れた小学生のようだ。