95話 第五章 第五節 復習
「もう、何んで私が……」
ツバサがお嬢様の檻から開放された。結果は言うまでもない、散々たるものだった。当然であろう。右も左も分からないツバサにとって、テストなどではない。お嬢様のただの遊び道具の一つに過ぎなかったのだ。
執務室に戻ったツバサはやっと一息つくことが出来た。
「どうでしたか?」
執事長がツバサに声を掛けた。
「どうもこうもないです。散々でした……」
ツバサは受け答えをすると、嫌な記憶を思い出したかのように肩を落とした。
「お嬢様のお遊びですので、気にしないでください」
「そう言われても……」
お遊びだとフォローが入ったが気にしない訳がないだろう。あれほどまで、こてんぱんに伸され、気を落とさない人などいない。
「では、今日の復習だけでもされた方がよろしいでしょう。二度同じことをしなければいいのですから」
「は、はい……」
執事長が言うことは正論だ。同じ失敗をしなければいい。しかし、ツバサにとって、またあの部屋に行くことになると思うと憂鬱だろう。出来れば二度目など存在しないでほしいと思っているかもしれない。しかし、真面目なツバサは復習に入る。今日の出来なかったことの振り返った。お皿の出し方、下げ方。右側からなのか、左側からなのか。右手を使うのか、ご左手を使うのか。手袋はどうするのか。覚えることだらけの内容にツバサの頭からは湯気が噴き出す。ツバサの脳はオーバーヒート手前まで行っている。
「これだけ出来れば上出来でしょう」
執事長がツバサに言う。決して完璧と言う訳ではない。一日そこらで執事が務まるようでは本職の執事に失礼だ。それでもツバサは褒めるに値するくらいになったようだ。
「あ、ありがとうございます」
ツバサは頭を下げ、執事長にお礼を言った。