91話 第五章 第一節 潜入
メイド姿のトウカと執事姿のツバサは無事に内門を潜り、城へと潜入した。神、ミサキの力により作られた偽造名簿。立派な書体で書かれたサインは見る人すべてを驚かせた。
「案外、簡単に入れたわね」
「そうですね」
いとも簡単に城に潜入したトウカとツバサ。偽造書類を見せるだけの簡単なお仕事だった。偽造された書類がまるで、印籠のように効果を発揮したからだ。
「それにしても、どこへ行けばいいの?」
「どこでしょう? よく分からないです」
城の入り口で右往左往する、トウカとツバサ。そんな様子を見た、歳増しのメイド服の女性がトウカとツバサに近づいていく。
「あなた達が、新人ですね。こちらへどうぞ」
「あっ、はい」
二人が返事をする。どうやら、この歳増しメイドが案内してくれるようだ。渡りに船とはこの事だ。
「こちらへ、どうぞ」
そして、二人が案内されたのはロッカールーム。更衣室とは別のようで、男女共用のスペースのようだ。
「あのー、ここは……」
ツバサが歳増メイドに質問した。ただの下駄箱とは違うようだ。そもそも城の中は土足禁止ではない。
「荷物をここで預けてください。防犯上、私物の持ち込みはできません。アイテムボックスごとお願いします」
トウカとツバサは指示された通りにロッカーに荷物を預ける。アイテムボックスごとだ。武器の類いも含めてだ。
そして、ツバサがアイテムボックスを置くと心配そうな表情を浮かべた。
「武器の携帯もダメなんですか?」
「もちろん、ダメです。ここは王のいる城。武器の持ち込みなど許可されていません」
「そうなんですね……」
歳増メイドの説明の通りだ。王の暗殺など企てられないよう、武器の持ち込みは厳しく制限がされている。ここに限ったことではないだろう。
そんな話を聞いたツバサがトウカに耳打ちした。
「私達、城の警護に来たのに、武器がないと不味いですね」
トウカが頷く。そして、トウカが口を開き、歳増メイドに質問する。
「みんな武器が無いのに、敵が攻めて来たら、どうするの?」
「はい、その際はあちらの武器を使用致します」
歳増メイドが指差す先には部屋の装飾使われている、いくつもの武器。壁に掛けられているのは、剣に斧。部屋の角に据えられているのは甲冑に槍。武器にしようと思えばいくらでも手に取れるように飾られていた。
「あちらの武器は部屋の飾りとしてだけではなく、いざという時の武器に使用します」
「でも、敵に取られたら大変ね」
トウカが指摘した。正にその通りだ。
「あちらの武器は適正レベルが40となってます。そんじょそこらの賊には持つことすらできません」
「へぇー、そうなの?」
「はい」
歳増メイドが返事をし、そのまま喋り始めた。
「それと、フレンドリーコールも圏外となります。これも防犯のためですので、ご了承ください」
トウカとツバサはロッカーのカギを抜く。カギと言えるほどの立派なものではない。木片を抜くだけの粗末な物だ。
「そちらは魔法のカギですので、無くさないようご注意ください」
トウカとツバサが木片を不思議そうに眺める。表も裏もただの木片。疑いたくなるのも無理はない。