8話 第二章 第二節 PK(プレイヤーキル)開始
サービス停止までの残り時間が三十分ほどになった時、ショウが動き出す。そして、マップ上のプレイヤーを示す青い点が十数個を残し減らなくなった。不思議なことに青い点は動くことなく、そのままになっていた。
ショウが手元のマップの青い点を数える。正確に数えると全部で14。14人のプレイヤーがいることに気が付いた。そして、そのプレイヤー達は一箇所に集まるわけではなくバラバラに存在している。
一箇所に集まっていないことは、ショウにとって都合が良かった。いくらレベルが高いショウでも一対一じゃなければ勝てる可能性が低くなる。そして、ここは天空界。並みのプレイヤーでは来られないエリアだ。強いプレイヤーであるのは明白だ。それでもショウは一対一なら勝てる自信があった。作戦の通りに行けば造作もない。
ショウの作戦はこうだ。敵に気がつかれる前に接近し火炎魔道士奥義を使うと言う事だ。魔法クラス9――グラム―――火炎魔道士唯一の白兵戦魔法。炎のナイフを生み出す魔法だ。
早速ショウはマップを見て、プレイヤーを示す青い点を目指し移動を始めた。すると、路地裏に黒い鎧を纏う人影を発見する。どうやら相手はこちらに気がついていないようだ。そんな姿を横目にショウの心臓の鼓動が早くなる。PKと呼ばれる、非合法的な殺人にワクワク感さえ覚えていた。
ショウが背後から忍び寄る。そしてショウはゼロ距離の位置から呪文を唱える。
第九クラス炎魔法――グラム――
ショウの手元に炎を纏うナイフが現れた。刃渡りは20センチほどでしかないのだが、刀で言う唾、洋刀で言うガード部分が大きいのが印象だ。刃渡りに比率として合わないガード部分。まるでナイフと言うより炎を纏う十字架だ。
「貴様、なんだ? ログアウトを早くし……うわぁー!」
黒い鎧の剣士を炎のナイフで一突きした、ダメージを受けた剣士からはログアウトのエフェクトが発生し剣士は光と共に消え去った。まさにショウの予想通りの展開となった。
まず一人目を成功させると、胸を撫で下ろし一息付いた。PKには自信があったショウではあるが、実際に暗殺するまでは分からない。相手の強さ、炎への対策、様々な要素が加わることで結果など幾通りにも成なり得た。そんな中、ショウは瞬殺という結果が出せたことに安堵したのだった。
そしてショウはおもむろに敵の落とした武器と防具を拾い始める。
ショウの目的は武器や防具の窃盗ではない。あくまで、強制的にログアウトをさせるということ。しかし、落とした武器、防具は拾っておかなければ、誰かに拾われてしまう恐れがある。ゲームが再開されたらアイテムを返却する。それだけのことだ。
地面に広がる雲に包まれた、大剣、鎧、黒色のマントを一つずつ拾っていく。指輪や耳飾、兜は装備していないようだ。ブーツについても鎧との兼用装備のようで落とさなかった。
ショウは拾った大剣のステータスを見て目を見はり驚いた。
剣の攻撃力のステータスが今まで見たどの剣よりも強い。しかしショウが驚いたのは剣の強さとは別のステータスの存在だ。それは、その剣にはレベル1から装備可能と言うステータスが付与されていた。しかも全職業対応の大剣。
――適正レベル、職業別装備――ファイアーウォールの世界では武器や防具にはレベル対応が存在する。また、職業適正にて装備が不可能な装備も存在する。――参考文献『初めてのファイアーウォール中辞典』より――
仮に、この大剣をレベル1から所持していたとすれば、一生武器を変える必要がない。それでは、ゲームの楽しみが減ってしまう。そして、武器は職業別に別れていた。当然ショウは剣を装備したことは無い。魔道士なので剣が装備できなかった。
ショウは、もしやと思い鎧も確認し始める。
鎧も大剣と同様の能力が付与されていた。防御力が高いことはもちろんであったが、それがレベル1からの装備。しかも全職業対応だということだ。
ショウはまるでチートプレイヤーだな、と溜息が出るほどの装備だった。そうショウが思うのも無理は無い、ここまでインチキ臭い装備は見たことが無いからだ。
ここまでくればマントも疑わしい。ショウは黒いマントを手に取った。ショウが黒いマントを確認すると、これも普通の装備ではないようだ。と言うより、マントという装備はこのファイアーウォールの世界には存在しないアイテムであった。装備の枠が存在しない物だからだ。しかし、現にこうしてマントという未知のアイテムを拾ってしまう。
そして、先程倒したキャラが鎧にマントをしていたのを思い出す。重ね着が出来るのではないかとショウが推測した。
重ね着が可能、そんな装備を始めて見るショウはマントのステータスを見た。
『防御力プラス10』大したことが無いレベルであるのをショウは確認した。しかし戦闘において重要なことは、少しでもステータスを上げることにある。たかが10されど10。今回は決してミスが許されない。少しでもステータスを上げるためマントに手を掛ける。
盗品を装備するのは、少しばかり気が引けた。しかし返せば問題ない、とショウは自分に言い聞かせていた。ショウは拾ったマントを肩に掛け装備することにした。しかし、装備をした瞬間に事件が起こった。
『バサッ』
ショウは音がした方向である足元を見ると、先ほどまで自分が着ていた魔道士のローブが落ちているのに気が付いたのだ。そしてショウは下着姿になっていた。
「なんだこれ!?」
思わず声が出てしまった。
現在のショウの姿は、炎の杖に下着とマントという姿になっていた。完全に変質者、まるでバーバリーマン。裸エプロンという単語は聞いたことがあるショウではあったが、裸マントは初めての体験だった。決して裸エプロンをしたことがあるという訳ではない。
ショウは、自分の姿を確認すると、さすがに不味い格好であることを再認識した。
何が不味いかと言うと変質者であることではない、魔道士のローブが外れていること、即ち防御力が皆無であることだった。
ショウは足元の魔道士のローブを拾い、装備をしようする。
「何で弾かれるんだ? 装備ができないっ!」
ショウは驚きのあまり、声が出ていた。
ショウは魔道士のローブが装備できないことに気が付いたのだ。
黒いマントを着けた時に、この現象は発生した。十中八九間違いなく、このマントが影響しているとショウは思った。折角、手に入れたマントではあったが、魔道士のローブの方が断然防御力は高かった。マントを外し、ローブを装備しようとショウは考えた。
「何!? 外れない!?」
悪いことは立て続けに起こった。マントが外れないのだ。まさに泣きっ面に蜂。弱り目に祟り目。ショウは焦りの色を浮かべた。
そして、ショウは第三サーバーでの指輪のやり取りを思い出した。このマントが外れない理由も呪いなんだと理解する。
もう、ショウは諦めるしかなかった。残り時間は少なくなり、タイムリミットは刻一刻と迫っている。下着にマント姿という、変質者を思われる格好でショウは暗殺を続けると決心した。
しかし、服が装備が出来ないからと言って前を隠さない訳にはいかなかった。下着が丸見えになっている。ショウはマントの裾を、身体の前に手で繰り寄せて紐で縛る。さっきの格好よりは、ましになったとショウは頷き納得する。こうなった以上、自分に言い聞かせるしかない。
次のポイントに移動すると同様に魔法で生み出した炎のナイフで斬りつける。
「君がシステム部・・・・・の人か? うわぁー」
槍を携えた黒いマントの男性槍士をショウは瞬殺した。ログアウトのエフェクトと共に槍士の姿は無くなった。ショウは何かを聞かれたが、兎に角時間が無い。
そして、ショウが一点気が付いたことがあった。それはさっきほどの敵と武器にこそ違いはあったが、同じマントをしていたことについてだ。身内の可能性がある。
ショウは先ほどと同様に装備品を拾い、次のポイントに向かった。やはり、その武器防具もチートステータスであった。
この後も、ショウの無双が続く。