88話 第四章 第十七節 指輪
ショウが宿屋を出るとフレンドリーコールで、トモと連絡を取る。
「おい、トモ。どこかで落ち合わないか?」
『はい、はーい。いつものレストランでどう?』
「分かった。じゃあ、いつものレストランでな」
ショウはいつものレストランとトモに伝えた。今日、昼食を取ったところで間違いはない。
「ショウ様? ずいぶん親しいお方なのですか? いつもので分かり合えるなんて」
ユウの目付きに暖かみがなくなる。そんな冷たい視線にショウがブルっとした。
「親しいって言うか、ミサキの同僚だ」
「そうですの? では、行きましょうか」
ユウがルンルンと肩を揺らしながら歩き出す。何やらいいことがあったようだ。
「それで、レストランってのが、あそこのことだ」
いつものレストランと言うのは宿屋から近い。ショウとユウはすでに見えるところにすでに来ていた。そんなレストランをショウが指を差してユウに伝えた。
「あら、ここのことですの?」
ユウがレストランの扉を開け、中に入る。中からは、にぎやかな客の話し声が聞こえてくる。夕食の時間だからであろう。店は満員に近いほど繁盛していた。
「いらっしゃい。こちらへどうぞ」
定員に案内されるままに、ショウとユウが席に着く。トモはまだ到着していない。先程連絡したばかりだ、もうしばらく時間が掛かるだろう。
「ここが、いつものレストランなんですのね? 覚えましたわ」
ユウがいつものレストランを記憶する。次にいつものと言われただけで理解しようと努める。約束の言葉であるように。
「あぁ、ここだぞ。で、何か頼むか?」
「わたくしは、ショウ様と同じものにしますわ」
ユウはいつもそうだ。一緒の物を注文する。料理が運ばれてくる時間も同じであれば、食べ終わる時間も差ほど相違がない。そう言ったところではありがたいのではあるが、好きなものを頼めばいいと思う。それがショウの感想だ。
「じゃあ、コンロを貰って、焼肉にでもするか? でも、ニオイが気になるか?」
「構いませんわ」
ショウは、後から来るトモのことを考えた。後から合流するトモでも食べやすそうな物をチョイスする。そんな、ショウが手を上げウエイターを呼んだ。
「焼肉の盛り合わせみたいなものを三人前で」
「はい、かしこまりました」
ウエイターが銀色のお盆を抱え席を離れていった。
「ユウ? ログ呼んで何か分からないことはあるか?」
「そうですわね」
ユウは顎に人差し指を当て考え始めた。
「その指輪ですが、効果は知ってますの?」
ユウがショウの左手を差し質問した。
「あぁ、これか? ツバサは教えてくれないんだよ」
「そうですの? あまり良い感じしませんわ」
「どういうことだ?」
「たぶん、わたくしへの当て付けで作ったのだと思いますわ。わたくしに何か有る分には構いませんが、他の子に何かあるといけませんし」
「ツバサがそんなことするか?」
「ショウ様? 手を、左手を出してもらえますでしょうか?」
ユウに言われ、ショウが左手を差し出した。ユウの事だから、上手く外してくれるのではと、思ってのことだ。そんなショウの左手をユウが両手でぎゅっと握りしめた。
「何も発動しませんわね」
ユウが不思議そうに首を傾げる。手を包み込まれるショウの心臓の鼓動が早くなる。そんな時だ。
「ショウちん、お待たせーって、お取り込み中だった……かな?」
こんなタイミングにトモが現れた。間が悪いにも程がある。恥ずかしさのあまりショウが慌てて左手を引っ込めた。そして、暫し無言の時間が流れた。