86話 第四章 第十五節 白い魔道服
部屋に入ると、ユウとミサキがティーカップ片手に和気あいあいと話しをしている。あの気難しいユウがここまで打ち解けるのは珍しい。
「おう。戻ったぞ」
「ショウ様。お帰りなさい」
「ショウ君、お帰り」
ティーカップを置きながら、ユウとミサキが返事をする。
「ちょっと、あたし達もいるのよ」
「そうですよ。忘れないでくださいっ!」
トウカとツバサは声を掛けられなかったことに不満のようだ。
「一応、服をだな……。買ってきたからな。とりあえず着な」
ショウの表情がやや固くなる。自分で選んだ服がユウに気に入られるかを案じていた。
ショウの腕に掛けられた、包装もされていない白い魔道服がユウの手へと渡った。
「あら、ありがとうございますわ」
ユウが白い魔道服を広げ、自分の体に重ねてみせた。似合うか問うように首を傾ける姿が愛らしい。ショウの心配事など杞憂であった。
「純白なんてウエディングドレスみたいですわ」
「ユウさんっ! 違いますよ! それは白い死に装束ですよっ!」
ユウの発言に被せるかのようにツバサが言い放つ。相変わらずの犬猿の仲。
「死に装束ですの? 召されるのも悪くないですわ。 もちろんショウ様に召されるのですわ」
ユウの方が一枚上手のようだ。
「なぁ、ミサキ? ユウと仲良さそうじゃないか?」
「ユウちゃん? すごくいい子なのよ。ショウ君にはもったいないよ」
「なんだそれ?」
「言葉の通りだけど」
ミサキがいつもの通りの受け答えをする。詳細を説明しない。
「で、ユウ。服、着替えな。いつまでも、メイド服って訳にもいかないだろう?」
「そうです、ユウさん。メイド服じゃなくて、その白い冥土服に着替えてくださいっ!」
ツバサは上手いこと言うのであった。
「もう、雑魚には失礼しちゃいますわ」
「私のこと雑魚って呼ばないでくださいっ!」
これはいつもの展開だ。ショウがため息を付く。
「とりあえず、着替えな」
ショウがユウに着替えるように促した。
「はい、分かりましたわ」
ユウはそう告げると、その場で自分の服に手を掛けた。その場で着替えを始めようとする。
「ユウさんっ! 浴室に行ってくださいっ!」
ツバサが慌ててユウの動きを止めた。そして、見るなと言わんばかりにショウを睨む。
「別に、わたくしは構いませんわ」
「そういうことじゃありません。早く浴室に行ってくださいっ!」
「いやですわ」
ユウが浴室行きを拒否した。ユウは一度拒否すれば、てこでも動かない。
「ショウ先輩も何か言ってくださいっ!」
「あ、あぁ」
突然の振りにショウが生返事をした。何も考えていない時の反応だ。
「あんた、そんなに着替えが見たいの? この変態っ!」
トウカには変態扱いをされる始末。まさか、ショウが選んだ服ひとつで、揉め事に発展するなど誰が予想しただろうか。
「ショウ先輩。浴室に行ってください」
「オ、オレがか?」
ショウが呆れ顔で自分を指差す。ツバサはユウを浴室に連れて行くのを諦めたようだ。だったら、男であるショウを隔離すればいい。なかなかの切れ者だ。
ショウは、ツバサに背中を押され浴室へと追いやられた。そして、扉が開かないようにツバサが扉を押さえた。