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79話 第四章 第八節 飲めないお茶

「ただいまー」


 トウカが部屋に戻ると、ミサキがいた。ミサキはダーツの真っ最中のようだ。仕事をしていたとは思えない光景だ。


「お帰り、トウカちゃん、ご機嫌ね。良いことあったの?」


 ミサキはかく鋭い。ちょっとした顔色を読み取ることが出来るようだ。


「ふふふ、何でもないわ」


 嬉しそうな、トウカがミサキに返事をした。


「おい、ミサキ? なんだよ、そのおもちゃ?」

「これ? ダーツだけど? ショウ君知らないの?」


 ミサキが首を傾げ不思議そうに質問をした。


「バカにするなよ。ダーツくらい知ってるさ。仕事してるんじゃなかったのかよ?」

「今日は休みくらい息抜きさせてよ。これ自腹なのよ」


 ミサキはわざわざダーツを買いに行ったようだ。借りている部屋が魔改造されていきそうだ。


「はい、はい」


 休みだと言われ無理に働けと言えないショウが妥協だきょうする。下手に口を出すと、何倍にもなって帰ってくる可能性すらある。黙っている方が賢明だ。そんなことを思いながらショウが席に付くと、トウカが話かけてきた。


「あんた、お茶入れてあげるわ」


 突然、トウカがお茶を入れる言い始めキッチンに移動した。大雨でも降りそうなくらい不思議なことだ。


「ねぇ? ショウ君? トウカちゃんに何があったの?」

「あぁ、あれか。ムカつく剣士を倒したから機嫌きげんがいいんじゃないのか?」

「倒したって、どういうこと?」


 ショウは先ほど起こった出来事をミサキに説明した。


「ショウ君がモヤシ、モヤシ言われてトウカちゃんは怒ったの?」

「そうじゃないだろう? ちょっかい掛けられたのが気に入らなかったんじゃないのか?」

「そうとは思えないけどね」

「そうか?」

「そうよ。ショウ君ってどうしようもないね」

「なんだよそれ?」

「言葉の通りだけど」


 いつものようにミサキは詳細を語らなかった。


「あんた、お茶が入ったわよ」


 トウカがお茶を運んできた。兎にも角にも上機嫌なのだ。ショウにとってはありがたい。ムスッとしているより何倍も可愛い。


「サンキューな」


ショウが礼を言うと、トウカの持つお盆に乗った湯呑みに手を伸ばしながら口を開いた。


「で、ミサキ? ツバサは戻ってないのか?」


 ショウは、買い物を頼んだツバサが戻ってないのを不思議に思っていた。買い物くらいすぐに終るはずだからだ。


「ショウ君は、ツバサちゃんの方がいいの?」


 ミサキが意味深な発言をした。


「何よっ! あんたっ! あんたのお茶は無いわよ」


 ショウはお盆の湯呑みに手が届きそうであったのだが、トウカにお盆ごと後ろに隠された。ショウには意味が分からない。


「トウカ、どうしたんだ? お茶くれよ」

「あんたのなんて無いわっ! これはミサキさんのなのっ!」


 ミサキの元に湯呑みが二つ並んだ。一つくらい分けてくれてもいいじゃないかとショウは思った。


「トウカちゃん、ありがとう。二杯ももらっちゃった」


 ニヤ付くミサキはショウの方を向いて言ったのだ。


「ミサキ? なんだよその目は?」


 笑みを浮かべるミサキからの返事は無かった。


「戻りましたー」


 そんな時、ツバサが帰ってきた。


「あぁ、お帰り、ツバサ? 遅かったな」

「はい、道具屋さんに行ってきたんですけど、数が足りなかったんです。だからダンジョンで拾ってきました」


 ツバサは始めは道具屋に買いに行ったのだが、数が揃えられなかったようだ。マントの数は予備を含めて十三枚。足りない分をダンジョンでドロップし

たと言う。


「それは助かるな。いくつあっても問題ないし、サンキューな」

「はいー」


 礼を言われたツバサはピョンピョン跳ねて喜んでいた。


「みなさん、ティータイムですか? あれ? ショウ先輩だけお茶が無いですね。私が入れてきますね」

「そりゃ、助かる」


 ショウは、トウカにお茶を取り上げられ飲みそびれていた。飲める一歩手前で取り上げられると、無性に飲みたくなるのが人間のさが


「あんたっ! 私が入れてくるわっ!」

「お前、さっき、無しって言ったじゃないか?」

「気が変わったのよ。あたしのお茶が飲めないって言うの?」

「どうしてそうなるんだ? 飲めないなんて言ってないぞ」

「そう、じゃあ、あたしが入れてくるわ」

「トウカさん、私が入れますから座っててください」

「でも、ツバサさんダンジョンで疲れてるんで、あたしが入れるわ」


 トウカとツバサがお盆を奪い合っている姿を見たショウはため息を付いた。自分のお茶は永遠に来ないことを悟ったからだ。


「で、ミサキ? このあとはどうするんだ?」

「あっ、そうね。楽しんでる場合じゃないよね」

「なんだよ? 楽しむって」

「言葉の通りだけど」

「また、それかよ。よく分からん。で、どうするんだ?」

「さっき、トモが戻ってきたんだけど、やっぱり魔封石が問題になりそうね」

「どんな問題なんだ?」

「トモが調べてきたことだけど、魔封石は一人で買い占めて行ったって言ってたの」

「買占めが問題なのか?」

「普通に考えておかしいでしょ? まず、用途。そこまで大量に必要かしら?」

「まぁ、予備とか必要なのかもな」

「じゃあ、それだけの資金はどうしたのかしら? 普通のキャラからしたらありえないよ」

「確かにそうだな」


 そこへ、ショウの元にお茶が運ばれてきた。永遠に有り付くことの出来ないであろうお茶がショウの元へと運ばれ机に置かれた。しかも、二杯も。


「おっ、おぉ……。サンキューな」


 ショウは戸惑っていた。右脇からはトウカが、左脇からはツバサが湯呑みを同時に置き始めた。


「あんた、お茶よ」

「ショウ先輩、お茶です」


  いきなり二杯の湯呑みがショウの前に並ぶことになった。そして、湯飲みを置いたトウカとツバサが席に着く。

 ショウは、右側の湯呑みに手をかけようとした。すると、ツバサから険しい視線を感じ、すぐにショウは手を引っ込めた。次に左の湯飲みに手を掛けようとした。するとトウカから険しい視線を受け手を引っ込めた。どうすればいいのかショウは分からない。試しに、両手で左右の湯飲みを掴んでみた。すると、トウカもツバサも不機嫌そうではない。しかし、飲めない。ショウがらはため息がこぼれた。


「ミサキ? 魔封石の件はどうするんだ?」

「そうね。まず間違いなく王国が狙われると思っていいよ」

「そういうものか?」

「仮に違ったとしても、王国の警備は必須よ。王国が狙われなければ、ラッキーだったで終れるでしょ?」

「まぁ、そうだな。で、王国の警備をどうやってやるんだ?」

「私の案だけど、トウカちゃんとツバサちゃんに城の警備をしてもらおうと思うのよ」

「城って? 城門の前ってことか?」

「いいえ、城の中よ」

「どうやって入るんだ? 不審者が入ったらそれこそ騒ぎだ」

「いい方法があるよ」


 ミサキのいい方法(・・・・)にいつも悩まされているショウが頭を抱える。どうせ、まともなことではない。そんなことをショウが思っていると、ミサキがおもむろに席を立ちクローゼットの前へと移動した。

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