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7話 第二章 第一節 緊急メンテナンス

 ギラギラと輝く太陽。強い日差しを受けるショウは眩まぶしさに目を細める。周り一面は雲だ。地面が雲でできた世界。ここが天空界。遠くに見えるのは神殿。ギリシャ神話をモチーフにしているかのような上級サーバー。

 ショウはユウと別れた後、第四サーバー天空界へ移動した。第三サーバー火の国のゲートからでも移動ができる。移動の方法は簡単だ。ゲートの門番NPCに行き先を告げる。移動の条件を満たしていればゲートを通過出来るというものだ。今回で言う移動の条件は『神の称号』。

 そしてショウは現在、天空界へ移動してきた。ショウの後ろでは門番であるNPCが律儀に門を閉めた。

 ショウが天空界に来たのはユウとの会話からだった。ユウは今日にも『神の称号』を取るのは確実だ。一緒に行こうと言われた時に、よく知らないとは言いにくい。ショウは天空界の下見としてやって来た。

 久しぶりの天空界を散策しているとショウの元に運営から緊急メッセージが入電された。全てのプレイヤーが対象だろう。

『運営よりお伝えいたします。ファイアーウォールの緊急メンテナンスをいたします。1時間後に回線を遮断しますのでプレイヤーの皆様は速やかにログアウトしていただきますようお願いいたします。また、ログアウト後はサービス開始までログインが出来なくなります。サーバー間の移動に関しましては既に停止しております。御迷惑をおかけいたしますが何卒よろしくお願いいたします。繰り返します――』

 1時間後に回線を切断するとの通知であった。今まででも、サーバーごとにメンテナンスをすることは時折あった。その都度ログアウトの出来ないショウは停止サーバーから逃げていた。今回のように全てのサーバーを止めるなど経験したことがない。

 ショウは全サーバー停止に疑問を思ったが、それより重要なことがあった。ショウはログアウトが出来ない。リアルでの身体は魂が入っていない器でしかないからだ。これで、リアルの世界に戻れるのか、はたまた本当の死が訪れるのか……。考えるだけで身震いが起こる。もし、後者であるのなら……。死の間際と言うものはこういう物なのだろうか。ショウ自身、処刑台に立たされている気分をこんなところで味わうとは思わなかった。

「……守って……」

 女の声がショウの頭の中に響く。ショウが回りを見渡すが近くには人影などはない。ショウの目に映るのは一面雲におおわれる地面だけだった。

「……守って……」

「また君か、君はいったい誰だ?」

 ショウが質問する。どこからともなく聞こえる声に。

「あなたはこの世界を守る最後の砦。……この世界を守って……」

「どういうことだ」

「このままではプレイヤーが出られなくなってしまう……。……この世界を……守って……」

「どうすればいいんだ!」

 ショウに届く声が次第に小さくなっていた。

「ログアウト……。プレ……ヤーキル……」

 雑音が混ざる。声が小さくなる。まるでフェードアウトするようだ。

「おい、お前は誰だ?」

 ショウが問うが返事はない。会話が途切れた。

「ログアウトって言ってたな」

 ショウが呟く。女の声は雑音混じりではあったが確かにログアウトと言っていた。ログアウト。プレイヤー自身が任意で行うログアウトの他には、方法は1つ。PKの被害に遭うこと。デスペナルティーの強制ログアウトことだ。

 そしてショウが結論を出す。それは、皆のログアウトに協力すること。自分自身はログアウト出来ない身なので致し方ない。しかし、他のプレイヤーは違う。ショウの考えていたこととは”PKにより倒されたプレイヤーはデスペナルティーでアイテムを落とし、ログアウトしてしまう”というルールを逆手に取る方法。要するにログアウトしていないプレイヤーをPKにより強制ログアウトさせるというものだ。

 しかし、条件が悪かった。ログアウトさせれる相手は、この第四サーバー、天空界のプレイヤーのみだ。運営からの発表ではサーバー間の移動がすでに制限されていた。出来る範囲、このサーバーの人だけでも救おうとショウは心に決めた。

 そう自分に言い聞かせ、久しぶりのPKに不謹慎極まりないがワクワクする感情が湧き上がってきていた。大規模なPKなど、ツバサの所属していたギルドを壊滅させて以来、行っていない。


 第三クラス探知魔法――ユニットサーチ――


 ショウは魔法を唱えた。


 ――ユニットサーチ――それはマップ内のユニットを光で識別する魔法。青がプレイヤー、緑がNPC、赤がモンスターのように表示される。――参考文献『ファイアーウォール戦闘技術の応用と実践』より――


 ショウがマップで青い点を確認すると、まだかなりの人数がログイン状態であることに気が付いた。そして、少しずつプレイヤーを示す青い点が減っているのも確認できる。

 兎に角運営がログアウトをするよう促すのが原因だろう。通常ならゲームの出来るギリギリまで粘るプレイヤーがいてもおかしくない。今回は早くログアウトすれば追加保証をするとの大盤振る舞いだ。

 ショウは残った青い光を見つめながらもう少し様子を見ることにする。マップ上の青い光が全て消えれば、手を下さなくとも済む。

 しかし、いざと言うときは手を下さなければならない。ショウは絶対に失敗しないPK術を考えるのだった。


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