78話 第四章 第七節 魔封石
ショウとトウカが森を抜けようとした時だ。聞いた事のある声が頭を突ついた。
「おい、このまま行かすつもりはないからな」
先ほどの軟派剣士一行だ。まだ諦めていなかったようだ。
「お前達じゃ勝てない。諦めるべきだ」
ショウは鋭い目付きをしながら口を開いた。殺気を纏う冷たい眼だ。
「おい、もやし! キサマのレベルは最高位のレベル40、そしてクラス4の魔法が使えることは分かった。手の内を明かすべきじゃなかったな。こっちは対策済みだ。マジックプロテクトのクラス3を掛けてきた」
軟派剣士が自信満々にショウに告げたのだ。手の内を明かすべきではない、と自分自身で言っているのがバカらしい。自信満々からの発言なのであろう。
「不味いな。高位の魔法はミサキに止められてるからな……」
ショウは自分の杖を見ながら呟く。そんな時ミサキの顔が浮かんだと共にネゴシエーションと言うなの助言を思い出した。戦闘を回避するにはネゴシエーションと言う名の脅しを使うべきだと。
「あんたら、この子を敵に回すべきでは無いと思わないか? 伝説の末裔だぞ」
もはや、ショウ自身どんな伝説だったのか忘れている。とりあえず記憶にある伝説と末裔の二文字を入れる事で脅しを掛けた。
「はぁっ? そんなのハッタリだ。あの女帝は生きてるし、十数年前の出来事に過ぎない」
軟派剣士が伝説に付いて指摘してきた。伝説を知らないショウは墓穴を掘った。作戦失敗だ。
ショウが次の作戦を考えているとトウカが話し掛けてきた。
「あんた? 高位の魔法使うと不味いんでしょ?」
「そうだな、どうするかな?」
「あたしに任せて」
トウカが任せてと言ってきた。ショウであれば、軟派剣士一行の殲滅くらい簡単だ。範囲魔法で葬れば良い。しかし、トウカは剣士だ。一度に撃退するのは不可能だろう。
「トウカ? どうするんだ?」
ショウがトウカに質問する。するとトウカは自分のアイテムボックスの中から一つの魔封石を取り出し、握りしめた。
「トウカ? それって、昨日売りに出したやつじゃないのか?」
「そうよ」
「やっぱり盗んだのかよ」
トウカはショウに魔封石を盗んだことに気が付かれてしまった。
「いいじゃない、これで勝てるわ」
ショウがため息を付く。
「おい、何を話してるんだ?」
軟派剣士がショウに話しかけた。しかし、返事をしないショウを見て、軟派剣士達が武器を構え始めた。
「いっけっー」
トウカは掛け声と同時に魔封石を剣士達に投げ付けた。すると魔封石の中からは炎の渦が立ち上がった。それはファイアーストームの入っている魔封石だ。魔法クラスで言えばクラス5。現在、剣士達はマジックプロテクトのクラス3をしているらしい。しかし、クラスが二つも違う以上、マジックプロテクトでは防ぎきれない。
「何!? 常人では辿り着けないクラス5の魔法だと!?」
剣士達は炎に包まれた。マジックプロテクトの完全防御は適わないのであるが、ダメージの軽減はできたようだ。剣士達は死亡することなく、その場で倒れた。
「あんた。やっつけたわよ」
トウカは嬉しそうにショウに言った。剣士達に暴言を浴びせられ、捕まり、相当、不満が溜まっていたようだ。
「あぁ、よかったな。じゃあ、宿屋に戻るか」
「そうね。そうする」
笑顔満点のトウカは宿屋に戻ることに同意した。そんな二人を見つめる影にショウとトウカは気がついていなかった……。