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77話 第四章 第六節 ハッタリ

 さあ、戦闘の始まりかと思われた矢先、ショウのフレンドリーコールが鳴り始めた。何とも間が悪い。


『ショウ君? 今、杖持ったでしょ?』


 この声はミサキだ。ショウが炎の杖を取り出した直後に連絡をしてきた。しかも、杖を持ったと指摘してくるくらいだ。ショウの行動などお見通しなのだろう。


「何で分かるんだよ?」

『私は神よ。何でも見えるのよ』


 ミサキの神発言などいつもの事だ。何の説明にもならない。


「ちょっと、取り込み中なんだ。切るぞ」


 ショウにはトウカ救出の任がある。さっさとフレンドリーコールを終わらせるべきだ。


『取り込み中って、もしかしてウイルスに苦戦してるの?』

「ウイルスは倒した。もういない」


 ショウは自分で倒したかのようにミサキに伝えた。ただのホラ吹きだ。


『だったら、どうして杖を持ったのよ?』

「これか? えっと、だな……。」


 杖がバレてしまった以上、ショウは杖を使う許可をミサキにわなければならない。しかし、ミサキはひねくれ者だ。上手い言い訳をしなくては杖の使用許可が降りない、その事にショウは言葉を詰まらせた。


『やましい事でもあるの? 神の目で確認しちゃうよ?』


 確認されたら言い訳も何もない。ショウはありのままを伝える事にした。許可など出ずとも炎の杖を使う気でいた。


「トウカがな。チャラいヤツに絡まれたから救わないといけないんだ。杖使ってもいいか?」 

『トウカちゃんにカッコいいとこ見せるつもりね。だったら許可するよ』


 あっさりと許可が出た。いろいろ考えてバカみたいだとショウは思った。


『なるべくなら、ネゴシエーションで何とかしてみてよ』

「なんだよ? ネゴシエーションって?」

『うーん? 脅しの事よ』


 全然違う。決して脅しではない。交渉だ。


「あぁ、分かった。戦闘無しで終わらせるってことだな」


 一応、意味が伝わってるのがすごい。ミサキと案外良いコンビが組めそうだ。


『正解。じゃあ、頑張ってねー』


 ミサキとのフレンドリーコールが切れた。


「おい、もやし! さっきからブツブツと何話してるんだ!」


 軟派剣士がショウに噛み付く。


「あぁ、待たせたな。オレが何言われようが、見逃してやったんだが、トウカに手を出すのは頂けないな」

「何だ? やるのか? こっちは7人だぞ。しかもレベルは30以上だ。国王軍の上級戦士に匹敵するんだぞ」


 軟派剣士は、自分達のパーティーがいかに強いのかを訴えてきた。確かに今、現在レベル40までしかいない中のレベル30以上は強い部類なのかもしれない。しかし、ショウのレベルは99。相手になるわけがない。


「この杖が何だか分かるか?」


 ショウが炎の杖を天高々とかざしたのだ。燃え盛る炎が眩く光。


「まさか、炎の杖か? レベルは確か40のはずだ……。いや、レプリカに決まってる!」


 青ざめる軟派剣士。都合の良いように解釈を始めるしかない。


「ちなみにそこのトウカの剣を見てみろ。相手にならないぞ」


 軟派剣士がトウカのマントを捲る。チラリと鞘に収まる炎の剣が見える。


「キャっ! エッチっ!」


 トウカが素早くマントを手繰り寄せた。


「まさか、炎の剣か? 昔、居た伝説の女団長も炎の剣だったはずだ……。 確か装備レベルは40のはずだ。いや、こんな子がレベル40のはずがない」


 ますます顔色を悪くする軟派剣士。トウカのレベルが40でないのは正解だ。しかし、ハッタリをかますには丁度いい。ショウはそう思い、畳み掛けた。


「伝説? 伝説何かじゃないさ。そいつはその末裔だ。武器が物語ってるだろ?」


 ショウは伝説など知りもしない。適当に付いた嘘だ。


「いや、こっちはレベル30。7人だ。何とかなるはずだ」


 諦めない軟派剣士にショウがため息を付いた。そして、強く炎の杖を握りしめたのだ。


「トウカ、少し我慢しろよ」

「えっ、何よ?」


 目がキョトンとなっているトウカはショウが何を言っているのかが理解できないようだ。


 第四クラス炎魔法――ファイアーフィールド――


 ショウは魔法を唱えた。魔法クラス4のファイアーフィールドだ。軟派剣士一行、そしてトウカも含めた全員の地面が燃え滾る。本来なら、敵を寄せ付けないように使う魔法なのだが、ショウは範囲を広げて、軟派剣士達の足元も火の海に変えた。


「あちー。本当に団長レベルなのか!?」


 ショウのレベルは40ではない。もっと高位の魔法も使うことができる。しかし、相手のレベルが30。あまりやりすぎては倒してしまう。ショウは敵のレベルにあった魔法を唱えるにとどめた。


「おい、お前、そんなことしていいと思ってるのか!? この子も燃やすなんて、狂ってやがる!」


 一方、トウカはキョトンとしていた。熱くないような反応をする。


「あんた、これ何よ。熱くないじゃない」


 その言葉を聞いた軟派剣士は驚きの顔をした。これだけの火の中、普通に立っているトウカがいる。驚くのも無理は無い。


「トウカ? さっき靴買ってやっただろ? オレと行動するとお前をローストにする可能性があるからな、耐炎のアイテムが役に立つだろう?」

「あたしを、ローストとか、何言ってるのよ。そんなに太って何かいないわよっ!」


 トウカは肉付きがいい。ローストに丁度いいのかもしれない。


 不満を露にしながらではあるが、トウカは火の海を普通に歩き、ショウの元まで戻ってきた。


「あんたどうするのよ?」

「どうするって言われてもな。トドメなんて差すつもりないし」


 軟派剣士は留めと聞いた途端に顔が引きつった。しかし、その後の話の繋がりを聞き、安堵する。


 剣士達は、火渡りをするかのように、火の海の上をジタバタしている。このファイアーフィールドは攻撃力自体は低い。あくまで足止めに使う程度の範囲魔法。剣士達も死亡することは無いだろう。


「じゃあ、トウカ、帰るか?」

「そうね。助かったわ」


 トウカがショウに礼を言った。トウカの顔が少し赤い。顔が赤いのは火の熱のせいなのだろうとショウは思った。

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