75話 第四章 第四節 援護
ショウとトウカは町の北側から森へと向かった。そこが今回のモンスターの出現地点だ。
「あんた、今日も剣士するの?」
トウカがショウの鎧姿を見て言った。今日も魔道服ではない。
「何かな、ミサキに魔道士だとバレないように行動しろって言われてるんだ」
「何よ、それ?」
「魔封石の件だよ。今、行方不明になってるだろ? 全てオレが悪いことになってるらしいからな」
「剣士してれば、騙せるってこと?」
「そんなところだな」
「あんた、ホントに悪いヤツね」
トウカは皮肉を込めてショウに言った。
「そんなこと言うと、助けてやらないぞ」
「で、でも……。あんたは助けてくれるもん」
「まぁ、そうだな」
二人がたわいもない話しをしていると、いよいよ討伐モンスターを視界に入れることになった。
今回の討伐対象のモンスターは昨晩のカマキリのモンスターより小さいもの。大型のオークと呼んだらいいだろう。右手には木槌。革の鎧を纏う大男。
すでに戦闘が始まっていた。NPCが交戦していた。
「あんた、加勢に行くわよっ!」
「おい、待て。戦闘中のモンスターの横取りはマナー違反だ」
「そうも言ってられないでしょっ! 相手はウイルスなのよっ!」
ショウは冷静だった。いくら相手がウイルスで、一刻も早く倒す相手だったとしても、マナーは重要だ。あとでトラブルに巻き込まれても面倒だからだ。
「まぁ、危なそうになったらでいいじゃないか。助けを求められたら、協力する。それでいいだろう?」
ショウはモンスターの横取りによる反感を買いたくない。
「でも、あたし達の出番がないわ。折角、雷切を覚えたのにっ!」
ショウは雷切と聞いて、眉をひそめた。
「あんた? どうしたのよ? さっきからおかしいわよ」
トウカはショウの表情が変わったことを心配した。
「いや、なんでもない。トウカ? 剣技は使うな。目立たない方が良い」
ショウは雷切を使わないように、アドバイスをする。
「わかったわ。そうする」
トウカは素直に受け入れた。
「あたし達、何しようね?」
「オレ達か? 雑魚モンスターを近づけないようにするのが、いいんじゃないか?」
ショウは一体一の戦闘をいつも望んでいる。敵に囲まれると厄介だ。今回に関しては敵一体に対して、NPCが多数。この状態を維持したい。
「わかったわ。じゃあ、周りを倒して援護する感じね」
「あぁ、そうだ。本隊の支援って形だな」
ショウは、現在戦っているパーティーを本隊と呼んだ。特に部隊が決まっている訳ではない。しかし、ウイルスと戦っているパーティーを本隊と呼んでもあながち間違いではない。
第三クラス探知魔法――ユニットサーチ――
ショウは魔法を発動した。するとショウのマップにはプレイヤーを示す青い点と、モンスターを表す、赤い点が映し出された。
「あんた、魔法使っちゃって良かったわけ? ばれちゃうわよ」
トウカはショウが魔法を使ったことに心配していたのだ。以前トウカは、剣士なのに魔法が使えると勘違いされ、盗賊に拉致された経験があった。
「あぁ、そうだな。つい癖でな。まぁ、いざとなったら。下級の魔法だ。騎士のフリでもする」
騎士なら剣を携えていても不思議はない。そして下級のレベルの魔法も騎士なら使用することができる。上級の魔法を使えば騎士だと偽装は難しい。しかし、下級の魔法ならばと、ショウは言い訳をした。
「そう? 連れ去られたら、大変だからね」
「連れ去られたのは、お前だろ?」
ショウがトウカに言うと、トウカはムスリとした。
「もう、忘れかけてたのにっ!」
「あぁ、悪かったな。で、トウカ? あっちから敵が近づいてるぞ」
ショウは森の茂みを指差し、トウカに言った。
「じゃあ、倒してくるわっ!」
トウカは敵の元へと走り出した。そして、トウカは敵を視認した。
トウカが対峙した敵は体長1メートルほどの蜂型モンスターだ。
「トウカ? 気を付けろよ」
ショウの声がトウカの後方から届く。
「大丈夫、前に戦ったことあるわ。強く無いわ」
トウカは以前に戦ったことがある弱いモンスターのようだ。トウカは臆すことなく敵へと向かった。
「とぉーりゃー」
トウカは吠えた。そして剣を振った。すると、モンスターは光となって消え失せた。トウカはモンスターに勝った。
「トウカ! 次はそっちだ」
ショウがトウカに指示を出す。次のモンスターの位置を伝えた。
「分かったわ。倒してくるっ!」
ここのエリアに出現するモンスターはトウカのレベルでも十分だ。討伐対象のモンスター、ウイルスだとすればトウカの力では到底及ばないだろう。しかし、運営が用意したモブモンスターならトウカ一人でも倒すことができる。
そして、トウカは蜂型モンスターをまたしても倒した。
「トウカ! 一回、戻れ! 敵の数が多い」
ショウはマップを見ると、トウカの近くに三体のモンスターがいるのを確認した。敵に囲まれると厄介だ。基本は一体一で戦うのが戦術。トウカに引くように指示をした。
「戻ってきたわよ」
トウカは敵を引き連れショウの元に戻ってきた。ショウもいよいよ剣を振るう番だ。ショウは剣を構えた。
「よっと」
ショウは大剣を振るう。敵に斬撃を与えた。トウカのように一生懸命振り抜いている感じはしない。それでも敵は消滅した。ショウとトウカのレベルの違いが見て分かるほどだ。
「おりゃー」
トウカも、敵に切りつけた。蜂型モンスターは消滅した。
「残り、一体よ」
「あぁ、分かってる」
ショウが残りの一体に切りつけ、トウカが引き連れてきたモンスター全てを倒した。
「あっちも、終ったみたいだな」
ショウは、討伐対象のモンスターを見て言った。討伐対象のモンスターは光となり消えた。その場に宝石のような赤い結晶を残してだ。
「あれがコアなのね」
トウカが赤い宝石を指差し言った。
――コア――それは討伐対象を倒した時にドロップするアイテムの一つ。このアイテムを換金所に持ち込むことで討伐が証明される。そして、換金によりお金、又はアイテムを得ることができる。――参考文献『初めてのファイアーウォール中辞典』より
ショウにとっては馴染みのアイテムだった。今まで幾重にも討伐対象を相手にしてきたのだから。
「あぁ、そうだ。トウカは討伐ミッションの対象モンスターを倒したことないのか?」
「うん、昨日が初めてだったわ」
昨日ドロップしたコアはミサキが持つことになった。報告書にもミサキが倒したことになっているからだ。整合性を取るためにも、ショウ達に持たせなかった。
ショウとトウカがそんな話しをしていると、さきほどまでウイルスと戦っていたNPC剣士が近づいて来た。