71話 第三章 第十三節 回想の終わり
「あのー、ありがとうございました」
ツバサがトレードマークのポニーテールをフワフワさせながらお辞儀をした。
「あぁ、別にいいけど、それより杖を返さないとな。助かった」
ショウが手にする炎の杖をツバサに差し出した。すると、ツバサは後ろで手を組み首を振る。
「その杖、使ってください」
ツバサがにこやかに告げた。
「でもな、貰っちゃうのも悪いしな」
「いえ、私も斧を貰いました。お相子です」
「そういうことなら、ありがたく貰っておくよ」
「大切にしてくださいね」
ツバサも納得したようだ。
「で、ギルドはどうするんだ? このままいても居づらいだろ?」
「そうですね……」
ツバサがそう告げると、フレンドリストを開き始めた。そして、フレンドリストからローラを始めとしたギルドメンバーの名前の消去を始めた。
「もう、吹っ切れたのか?」
ショウは心配そうにツバサに声を掛けた。
「はい、代わりに……」
ツバサは恥ずかしそうに話しを切り出した。
「私を、ギルドに入れてくれませんか?」
「そいつは、無理な話だ」
「ダメなんですか? 私、頑張りますっ!」
「そういうことじゃないんだ。オレ、ギルド入ってないし」
「そうなんですか……」
ツバサは元気無さそうに告げた。
「じゃあ、フレンド登録だけでもお願いします」
「あぁ、分かった」
ショウはフレンドリストを開き、ツバサにフレンド申請を行った。
「これで、いいだろう? フレンド登録上手くいってるか?」
ツバサは自分のフレンドリストをまじまじと見ながら頷いた。
「私のことツバサって呼んでくださいね」
「あぁ、分かった」
「私は、なんて呼んだらいいですか?」
「ん? 好きに呼んでくれ」
ツバサは首を傾げ考え始めた。ショウの呼び方を考えているのだろう。
「ショウ師匠ってどうですか?」
いきなり師匠と呼ばれるのもいかがなものか、ショウ少し恥ずかしく思った。
「オレは、魔道士だ。騎士職に師匠と呼ばれるのもおかしいだろう?」
このゲームの中には師弟関係を結ぶイベントがある、それは同じ職業、または類似する職業での登録だ。
「じゃあ、ショウ先生ってのは、どうですか?」
ショウは先生をイメージした。ショウのイメージした先生は学校の先生でしかなかった。世の中にはいろいろな先生が存在する。政治家、医者、弁護士、作家などなど。その辺りはショウの人生経験の無さを物語っていた。
「先生もおかしいだろう? 教卓なんかに立たないぞ」
「そうですか? じゃあ、ショウ閣下とかですか?」
ますますショウの敬称がおかしくなっていく。もっと身近な敬称をショウは求めていた。
「それもおかしいだろう? もう少しまともなのはないのか?」
「じゃあ、ショウ様?」
日頃ユウにそう呼ばれているのは、別として。それでも敬称は恥ずかしい。ユウには何度言っても変えようとしない。
「様もおかしいぞ」
「じゃあ、先輩にします。ねっ、ショウ先輩っ!」
ツバサの顔が綻んだ。
これ以上、敬称の話しをしたところで、ますます敬称がおかしくなる一方だろう。ショウが妥協をする。
「まぁ、それくらいならいいか」
ショウ自身、学校でそう呼ばれた経験がある。まだ馴染みがある敬称だったので了承した。
「はい。分かりました。ショウ先輩っ!」