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70話 第三章 第十二節 炎の杖

 ショウの装備は低レベルの服に、幸福の杖。武装の面ではかなり不利だ。そして相手は6人。ショウの方が分が悪い。


 しかし、ショウも負ける訳には行かない。デスペナルティーのログアウト。ショウの身体にどのようなことが起こるのか皆目検討も付かない。殺られる訳にはいかない。


「場所が悪い。おい、移動するぞ」


 ショウがツバサの手を取り、走り出す。


「ちょ、ちょっと……」


 手を取られ引っ張られるツバサ。突然の出来事に顔を赤らめる。


「敵が逃げたわ! やっぱり弱いのよ! 追い詰めなさい!」


 ショウの後方からはローラの怒りが込められた悲鳴にも聞こえる声がする。


 そんなローラの声など無視し、ショウは走った。力強く大地を蹴ると一緒に腕にも力が入る。ツバサの手を強く握りながら走った。


 ショウとツバサは森を抜け、ちょっとした広場に出た時にショウは足を止め振り返った。


 第四クラス炎魔法――ファイアーフィールド――


 ショウの先制だ。ショウが――ファイアーフィールド――を唱えた。魔法レベルは4だ。地面を火で覆いつくす魔法だ。これにより敵を近づかせないようにするためだ。接近戦では分が悪い。相手の突進を防ぐのが狙いだ。


「えっと……、レベル40じゃ勝てないと思います!逃げた方が言いと思います……」


 ツバサが申し訳なさそうに告げた。


「オレはレベル40なんかじゃないさ。何とかしてやる」


 見た目はレベル40の魔道服。ツバサが勘違いしても仕方がない。ローラ達も同じように勘違いしている。敵をあざむくにはまずは味方からと言うではないか。


「やっぱり、あの魔道士レベル40程度みたいね。六人がかりなら余裕だわ。ジェイニー、マジックプロテクトを」

「はい、マスター。呪文唱えますよ」


 ジェイニーが――マジックプロテクト――を発動させようと杖を構える。


 第一炎魔法――ファイアーボール――


 ショウが――ファイアーボール――を唱えると火の玉が高速でジェイニーに向かい。ジェイニーが衝撃で吹き飛んだ。マジックプロテクトを封じる一撃。実践経験が物を言う。


 ジェイニーが起き上がると口を開いた。


「あのファイアーボール、威力が高い気がします」

「そんなことないわ。所詮レベル40よ」


 同じ魔法であっても魔力の高い者が使えば威力が上がる。遠回しにそう伝えたかったのだろう。はレベル40ではないのだと。


 第一クラス炎魔法――ファイアーボール――


 ショウが執拗に聖職者クレリックのジェイニーを狙う。またしてもジェイニーが高速で飛んでくる火の玉に吹き飛ばされた。


「ジェイニーの盾になるのよ」


 ローラが隣の剣士に告げると、剣士は盾を構え膝を付くジェイニーの前に立ちふさがった。これでファイアーボールを防ごうと考えているのだろう。


 再度、ジェイニーはマジックプロテクトの唱和に入る。


 第三クラス炎魔法――ファイアーバード――


 ――ファイアーバード――魔法レベルは3、火の鳥を召還し相手にぶつける炎魔法。翼を広げ障害物を避け相手に向かうのが特徴。第七クラス炎魔法フレイムバードの下位互換かいごかんとなる――参考文献『ファイアーウォール戦闘技術の応用と実践』より――


 火の鳥がショウの頭上に現れ剣士を迂回しながらジェイニーに向かった。瞬きをする間もなかった。火の鳥が高速でジェイニーの横っ腹に体当たりをし吹き飛ばした。ショウがまたしてもマジックプロテクトを阻止した。


 今のところ、ショウの優勢だ。燃え盛る地面により敵が近づいてこない。多少実戦なれしているプレイヤーなら火の海を渡り接近戦に持ち込むも手練てだれもいる。しかし、ローラ達はそれほど実戦慣れしていないようだ。マジックプロテクトに頼りきりで、それを封じるだけでショウは良かった。


「みんなジェイニーを囲って、隙間を開けちゃいけないわ」


 ローラの掛け声でジェイニーを囲む様にガードを始めた。それを見たショウはニヤリとした。そして呪文を唱え始めた。


 第五クラス炎魔法――ファイアーストーム――


 ショウは炎の渦を作り出した。魔法クラスで言えば5。範囲魔法だ。


 炎の渦はジェイニーを中心に回りを守るローラの仲間達を全員を襲った。ローラがジェイニーを守ろうと囲んだのが仇となった。


「あいつのレベル40は嘘よ。ホントはレベル50よ」


 ファイアーストームを見せられて、レベルを見誤ったことにローラが気が付いたようだ。しかし、レベル50でもない。


「マスター、マジックプロテクトのレベル上げた方がいいですか? レベル3のマジックプロテクトだとレベル5が防げません」

「そうね、マジックプロテクトのレベル4は必要よ」

「はい、マジックプロテクトのレベルを上げます」


 ジェイニーが魔力と時間がかかったとしても、マジックプロテクトのレベルを上げようと言う。それでなければ魔法を防ぐことができない。ジェイニーのマジックプロテクトに命運がゆだねられたと。


 第四クラス補助魔法――マジックプロテクト――


 やっとジェイニーの魔法が通る。ローラが光の膜に包まれる。マジックプロテクトレベル4。これでファイアーストームを防ぐことが出来る。


「ファイアーウェーブ」


 ショウは魔法レベル6のファイアーウェーブを唱えた。ショウの前には火の津波が現れた。それがローラ達を飲み込んだ。


「何? あいつレベル50じゃないわ! レベル60を超えてるわ!」


 ローラは叫んだ。しかし、その声はジェイニーにしか聞こえない。他の仲間はファイアーウェーブの餌食となり、光と共に消えてしまった。レベル40そこそこのパーティーがクラス5とクラス6の魔法を立て続けに浴びれば、ひとたまりもない。ましてやショウの魔力による詠唱えんしょうだ。火力が違って当然だ。


 ローラとてマジックプロテクトで無効化できた訳ではなかった。軽減できたことで生き残ることが出来た。そして、マジックプロテクトに守られたローラは燃え盛る大地を縦横無尽に歩くことが出来るようになった。


「よくもやってくれたわね。でも、もう、あなたも終わりね。接近戦では勝ち目は無いでしょ?」


 ローラは、同レベルなら白兵戦で勝てると踏んだのであろう。


 第四クラス斥候せっこうスキル――インビジブル――


 ローラは不可視化のスキルを使った。ショウに見えないようにすることで、懐に入り込もうとしているのだろう。


「まずいな。しかし、どうすっかな?」


 ショウは考えていたが、接近戦に持ち込まれると都合がすごく悪い。


「ジェイニー、私のHPが少ないわ。回復してから確実に殺すわ。それとレベル6のマジックプロテクトを、念のためよ」

「マスター。OKよ」


 ジェイニーは回復の呪文を唱え始めた。一時休戦に近い。


「そろそろやめにしないか、そっちはもう二人だけだろ? この子にあやまれば許してやるよ」


 ショウが停戦を申し入れた。このまま倒してしまっては、謝罪は受けられない。もうマスターとしての威厳いげんを奪ったのだから、十分効果は出ただろう。


「マジックプロテクトが決まった瞬間から弱気になるのね? 絶対に許さないから」

「やっぱり、無理か」


 ショウは交渉こうしょう あきらめた。話が通じないほど相手は激昂げきこうしている様子だ。姿は見えないが言葉から感じとれた。戦闘の続行。もうこの際、幸福の杖が焦げても構わないと、唯一不可視化を破る魔法を唱えることを選択する。


 第七クラス炎魔法――フレイムバード――


 ショウはフレイムバードを唱えた。魔法クラス7。幸福の杖の限界を超えている魔法だ。フレイムバードは鋭い聴覚で獲物を探す。透明になろうが敵に向かう優れた魔法だ。


 ショウの頭上にいる炎の鳥が幸福の杖に降り立った。そして杖は燃え始めた。


「もしかして、その杖。攻撃に向かないんですか?」


 ツバサがショウの背後で声を上げた。


「あぁ、杖を忘れてだな。炎の杖を手に入れる予定でいたから、それまでの予定だったんだがな」

「私、その杖持ってますよ」

「まじか」


 ショウが驚く。ショウがほっしていた炎の杖をツバサが持っていると言うのだ。


「悪いが、ちょっと貸してくれないか」

「分かりました」


 そういうとツバサがアイテムボックスから炎の杖を出してショウに差し出した。


「わりーな。助かる」


 ショウは燃え盛る幸福の杖を投げ捨てた。宿り木を失った炎の鳥がショウの頭上を旋回する。そしてツバサから炎の杖を受けとると、鳥は降り立ち羽を広げた。その鳥は次第に肥大化ひだいかを始める。まるで杖から火のエネルギーを吸収しているようだ。


「何だこれ? フレイムバードがでかくなってるな」


 炎の杖は特化の武器だ。それ相応のリターンがあることにショウが気がついた瞬間だった。ショウは炎の杖を見ながら腕を上げ、杖を天高々とかざした。


「行ってこい、フレームバード!」


 杖を振り下ろすと炎の鳥が飛び立った。その時だった、


 第六クラス補助魔法――マジックプロテクト――


 ジェイニーのマジックプロテクトレベル6が先に発動してしまった。それによりレベル7のフレイムーバードの体当たりが軽減されてしまう。


「なんて攻撃力なの。危なかったわ。でも、もうどうしようも無いでしょ? まさかあなたのレベルが70を超えてたなんてね」


 ローラはショウのレベルをことごとく間違えていた。最初は装備を見て40だと言い、そしてレベルの高い魔法を使うたびに相手のレベルを推定していく。骨頂こっちょうとはこのことを言うのだろう。


「ツバサも同罪よ。一緒に死んでね」


またしても、透明化によるローラは足音だけをさせショウに近づいてくる。


しかし、ローラの狙いはショウではなかった。ショウの後方で不可視化を解いたローラはツバサを羽交い絞めにし首元に剣をあてがっていた。


「どう? 形成逆転ね」


 ローラがほくそ笑んだ。


「私は、さっき死んだばかりで経験値を失うこともないです。死んでも特に大丈夫です」


 そうツバサがショウに訴えるのだがショウ自身、目の前で女の子が殺されるのは見るに耐えなかった。


 鋭く睨み付けるショウが杖を構えた。


「あなた、ツバサも一緒に巻き込もうってことなの? 狂ってるわ」


 ローラがショウの威圧を嫌悪けんおし逃れようと思ったのか、ツバサの背を押した。人柱としてツバサを魔法を防ぐ盾に使おうとする。


 そんな行動にショウが不適な笑みを浮かべた。


 第九クラス炎魔法――ファイアーウォール――


 ショウの炎の杖は神々《こうごう》しく光った。そして呪文を唱えるとツバサの周りに炎の壁が現れた。ツバサとローラを分断する壁は熱く巨大だ。


 ツバサを押し出したことでローラは炎の城壁に重なることはなかった。ショウは炎の壁に巻き込んでやろうと考えていたのだが、予想は外れ舌打ちをした。しかし、ツバサを守る城壁を築けただけでも御の字であろう。


 一方、ローラは目前で立ち上る炎の壁に驚き尻餅しりもちを付く。


「もしかして、レベル90を超えてるの!?」


 ローラは驚きの声を上げた。ローラはクラス9の魔法を知っているようだ。しかし、時すでに遅し。ツバサを囲う炎の壁は次第に広がりローラを巻き込んだ。


「きゃっ!」


 ローラは悲鳴と共に姿を消したのであった。


「おい、そこの聖職者。どうする? まだやるか? ちなみに言っておくが、オレのレベルは99だ。40でも70でもないぞ」


「えっ、レベル99!?」


 ジェイニーは勝てなくて当然のような顔をした。ロッドを下ろしたところ見ると戦闘は諦めたようだ。


「オレは、装備品の窃盗には興味はないからな。ギルドメンバーの分を届けてやりな」


 ジェイニーは装備品を拾うとササクサとその場を後にした。


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